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第24章 お嬢様らしく

 空京にある、落ち着いた雰囲気の高級料亭。
 ここを予約したのは、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だけれど、今日、一緒にどこかに出かけないかと誘ったのは、白百合団の団長である、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)だった。
「それにしても……リナさんが和服なんて……!」
 鈴子は、リナリエッタの格好にとても驚いていた。
 リナリエッタは派手な化粧や洋服を好み、話し方も乱暴で、百合園の生徒らしからぬ女性だから。
「馬子にも衣装って思ってます? それとも似合いませんかぁ?」
「そうですね。その和服、似合ってはいますわ。ですが、日本古来の着物とはずいぶん違うようですけれど」
 リナリエッタはちょっと派手目な着物を纏っていた。
 日本人とイタリア人のハーフの彼女は身長も高く、体系も着物が似合う体系ではなく……要するに、出るところが出ていて、引っ込むところが引っ込んでいる女性らしい体つきなため、日本古来の和服はあまり似合わないのだ。
「鈴子さん、厳しい……」
 ちょっとしゅんとした様子を見せながら、リナリエッタは座敷の座布団の上に正座……をしようとしたが、どうやって足を折ればいいのかわからず、もつれて手をテーブルについてしまう。
「大丈夫ですか? 少しずつ慣れていきましょうね」
 すぐに鈴子が手を貸してくれて、並んで座布団の上に座った。
 ほっとしたのもつかの間。
 1分もしないうちに、足が痛くなる。
 こんな足を押しつぶした状態で、普通に会話をしたり、食事をしたりできるものなのだろうか。
「本来なら、履物の脱ぎ方、畳の歩き方、座る場所に座り方など、作法があるのですが……」
「えっと、私全然ダメでした?」
「はい」
 鈴子にきっぱりと言われてしまう。
 少し落ち込んだ様子で、そして足の痛みで顔が引きつったりしないよう、努力をしながらリナリエッタは頑張って鈴子に話しかけていく。
「一応姓は日本だけど、今までずうっと外国暮らしで知らないんですよ……」
 正直、日本の作法なんて知ったこっちゃないし、大和撫子ってどんな料理だろう状態だ。
「それは仕方がないことですわ。ですが、作法を調べる手段はいくらでもあります。百合園の図書館でも自分で調べることができますし、私に聞いていただいても構わないのですよ。……といっても、私もさほど詳しいわけではないのですけれど」
「そんなことないですよぉ。鈴子さんは、百合園生の鏡ですから」
「ありがとうございます」
 微笑む鈴子に、リナリエッタはいつものようなにやにやとした笑みを向けて、こう問いかけてみる。
「鈴子さんはお嬢様な私がいいですか? それとも何時もの私?」
「……他の選択肢はないのですか」
「うーん、傷つくなあ」
 リナリエッタはまた少し、落ち込んだ表情を見せる。
「子供の頃のリナさん、とても可愛らしかったようですわね。あの頃、日本できちんと作法を習っていたら、白百合団員として……百合園生の顔として、相応しい女性に育っていたかもしれませんね」
「あ、あ、あの日のアレはなしですから! いや本当マジで忘れてください」
 リナリエッタは先日、鈴子に子供の頃の姿……ゴスロリを纏った可愛らしいお嬢様であった過去の姿を、見られていた。
 リナリエッタの反応に、くすりと鈴子は笑みを浮かべる。
「リナさんは、いつか今の自分のことも恥じることになりそうですね」
「今日は随分……私のことを否定してきますね、鈴子さん」
 とても落ち込んだように、リナリエッタは悲しげな表情を見せる。
「申し訳ありません。ただ……私はとても嬉しいのです。リナさんが私に合わせてくださったこと」
 去年は、リナリエッタは鈴子を自分の趣味に付き合わせようとした。逆ナンとか。
 だけれど、今年は無理をして鈴子に合せようとしている。
 それを変化と感じて、鈴子はとても嬉しかったのだ。
「私好みの方になってくださる必要はありませんけれど、百合園生として、白百合団員として、より一層自分を磨いて下さったら、嬉しいですわ。……大切な友達として、そう思います」
「鈴子さんの気持ち……分かりました。ところで」
 リナリエッタは真剣な顔で鈴子の顔を見た。
「はい」
「……足、崩してもいいでしょうか」
「ええ、構いませんわ。手伝いましょうか……」
 鈴子が手を伸ばして、リナリエッタの足に触れた。
「!!!!」
 途端、しびれた足に痛みが走り、リナリエッタはテーブルに突っ伏して悶えた。
「リナさん、ごめんなさい……ごめんなさい!」
「だ、大丈夫ですよぉ……」
 慣れないことは、するものじゃないようだ。
 この後の懐石料理楽しめるのだろうか……。