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手を繋いで歩こう

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手を繋いで歩こう
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リアクション

「パッフェルさんは、東のロイヤルガードに転属になりましたし、十二星華の1人。ヴァイシャリーにとっても要人です」
 イルマ・レスト(いるま・れすと)が、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)と共に、パッフェルの方へと歩いていく。
 イルマは普段のメイド服ではなく、今日は百合園女学院の制服を着ている。
 スタッフ側ではなく、百合園の生徒としてラズィーヤを誘い、パッフェルの歓迎と、アレナの帰還を祝うために、参加をしていた。
 会場としてここを貸して欲しいとラズィーヤにお願いをしたのも、イルマだった。
「百合園に著名な方が在籍するのは宣伝にもなりますし、喜ばしいことだと思いますわ」
 イルマの言葉に、ラズィーヤは「そうですわね」と、微笑みを浮かべながら頷く。
「あの……ラズィーヤ様」
「なんですか?」
 イルマは足を止めると、ラズィーヤに対して、謙虚に頭を下げた。
「先日は失礼なことを申し上げてしまい、申し訳ありませんでした。戴いた言葉により、迷いがなくなりましたわ。寛大なお言葉を頂き、感謝しております」
「良かったですわ。あなたがここにこうしていて下さることを、頼もしいと感じていますのよ」
 顔を上げるとラズィーヤの美しい笑みがあった。
「ご期待に応えられるよう、精進いたしますわ」
 イルマも同じように笑みを浮かべると、再び歩き出し、ラズィーヤをパッフェルの元に案内する。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
 イルマとラズィーヤが声をかけると、料理を食べながら会話をしていた円とパッフェルが顔を向ける。
「こんにちは」
「……こんにちは」
「飲みものをお注ぎしますわ。オレンジジュースですわね」
 イルマは円とパッフェルのグラスに、オレンジジュースを注いでいく。
 ラズィーヤとは仲良くしておいた方がいいと聞いていたパッフェルだが、特に自分から話すことはなく、ただじっと彼女達を見ていた。
 円もラズィーヤとは仲がいいとは言えないので、直ぐには言葉が出てこない。
「パッフェルさんは、やはり円さんと会うために百合園に来られたのでしょうか?」
「そう……円が通ってるから」
 イルマの問いに、パッフェルはそう答えた。
「とても一途な方ですね」
 イルマは微笑んで、ラズィーヤの方を見る。
「口先だけの愛を語る者が多い中、私も迷うことなくそうあり続けたいと思いますわ」
 イルマがそう言うと、くすりとラズィーヤは笑って、円の方を見た。
「円さんも、頼もしい方ですわ」
 それから、2人を交互に見て。
「今日は皆様とごゆっくり楽しんでいってくださいませ。百合園での学生生活が、お2人にとって素敵なものとなりますように」
 ゆっくりと語りかけた後、軽く礼をしてラズィーヤはイルマと共にテーブルを離れた。

「どうぞ」
 続いて、料理を担当しているセシリア・ライト(せしりあ・らいと)がワゴンを引いて現れ、大皿をテーブルに乗せた。
 ソーセージに、鶏の蒸し焼き。つけわせに、キャベツの酢漬けであるザワークラウト。
 ただ、このテーブルの皿だけ、付け合せのはずのザワークラウトの量が多い。
「ようこそ百合園女学院へ〜。歓迎いたしますぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、パッフェルに手を差し出して、握手を求める。
 円の頷きを確認してから、パッフェルは手をメイベルの方へと向けた。
 メイベルの方から掴んで、2人は握手を交わした。
「敵対していたこともありますけれど、それもエリュシオンの策略によるものですから〜。百合園の皆は、パッフェルさんと仲良くしたいと思っていますぅ」
「……ありがとう」
 小さく答えたパッフェルに、メイベルは微笑みかける。
 そうして、心からの歓迎を顔いっぱいに表す。
「こちらお下げしますわね」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は空いている皿を片付けて、ワゴンに乗せていく。
「新しいお皿、使ってください」
 シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が、小皿をテーブルに並べた。
「パッフェルさんが好きだって聞いたから。味付けの好みも合うといいんだけど」
 セシリアはそう微笑んで、ザワークラウトを小皿に多めに乗せて、パッフェルに差し出した。
「……ありがとう」
 礼を言って、早速パッフェルは食べ始める。
 食べながらこくりと頷き「……美味しい」と言葉を漏らした。
 セシリアは笑顔を浮かべて「まだ沢山あるからね!」と言うと、フィリッパとシャーロットと一緒に次のテーブルへと向かっていく。
 メイベルは先に、アレナのテーブルの方に向かっていた。
「円、パッフェル……はい、コレ」
 続いて、円とパッフェルの前に、給仕をしている漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がジュースの入ったグラスをトンと置いた。
 大きなグラスの中には、甘い桃のジュースが入っている。
 でも、グラスは一つだけ。
 ただし、ストローが2本ついていた。
「ええっと、どうしよう」
 円が戸惑いつつ、パッフェルに目を向ける。
「……これ、どうのむの?」
「えっとね、こうして2人で飲むんだよ」
 周りの目を少し気にして、照れながら円はストローの片方咥えて、ジュースを飲む。
 パッフェルも真似をして――円に顔を近づけてもう片方のストローを咥えた。
 そんな2人の姿を見た後、月夜はもう1人のカップルの元へと向かう。
「静香にロザもコレどうぞ……」
「え……えええええええっ!?」
「あ、あの……私達は、そういうのは……こ、ここでは……はい」
 渡された静香とロザリンドは真っ赤になって動揺した。

「アレナさん、こんにちは〜。お元気になられたようで、良かったですぅ」
 メイベルはグラスを持って、アレナに近づいた。
「神楽崎先輩も、おめでとうございますぅ」
「ん、ありがとう」
 優子がジュース瓶を手に取って、メイベルのグラスに注いだ。
「組織との戦いの際も、アレナを迎えに行った際にも、力を貸してくれたそうだな。感謝している」
「本当に微力でしたが、少しでもお役にたてたのなら嬉しいですぅ」
 メイベルがそう微笑むと、アレナは深く頭を下げる。
「ありがとうございました。私は本当にただ、そういうことのために造られた剣の花嫁ですから。凄いのは、皆さんなんです……ありがとうございます」
「今日は組織の事関係なく、アレナさんの復学のお祝いだからね。畏まらないで楽しんで楽しんで〜」
 ワゴンを引いて現れたセシリアが、空いている皿を下げて、大皿をテーブルへと乗せる。
「特に好き嫌いはないって話だったから、これは僕のお勧め!」
 大皿に乗っていたのは、大きな生クリームたっぷりのケーキだった。
 苺がふんだんに使われており、華やかでとても美味しそうだった。
「こういう機会で皆で食べるケーキは美味しいからね」
「お取りしますわよ」
 フィリッパが、ナイフでそっとケーキをカットしていき、小皿に乗せていく。
「苺1つで生クリームが多い方と、苺2つの方、どちらにします?」
 シャーロットが両手にケーキの乗った皿を持って、アレナに尋ねる。
「ええっと……」
 アレナは優子をちらりと見た後、苺1つの方に手を伸ばして受け取った。
「それじゃ、私はこちらをいただくよ」
 優子が2つの方を受け取り、フォークでケーキを切って食べ始める。
 優子が口に入れたことを確認した後で、アレナもケーキを食べ始めた。
 パシャリ。
 アレナがケーキを口に入れて、嬉しそうな微笑みを浮かべたその瞬間を、フィリッパはデジカメで撮影した。
「優子様や皆様とご一緒の姿も、撮らせてくださいませ」
 言って、フィリッパは少し離れて、皆に囲まれているアレナの姿。
 皆の楽しそうな顔と美味しそうな料理も、写真に収めていく。
「姿を記録するだけでなく、楽しい思い出としてその写真を見て思い出していただければ」
 撮った写真は全て、参加者の皆に配る予定だった。
「飲み物のお代わりありますよ。このケーキには甘いジュースより、お茶が合うかもしれません。如何ですか?」
「では、ストレートティーをいただこうか」
「私も、お願いします」
 優子とアレナがシャーロットにそう答え、シャーロットはワゴンから新しいグラスを取り出すと、ストレートティーを注いで2人に「どうぞ」と、渡していく。
「料理もお茶もとても美味しいよ、ありがとう。こうして皆で過ごせる時間を、これからも大切にしたいものだな」
 優子の言葉に、メイベルとパートナー達は顔を合わせて微笑んで、強く頷いた。