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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

リアクション



ヘクススリンガーvsグラップラー


 菊と卑弥呼は再び観客席へと退避していた。
 リングは今、全体が砂埃に覆われていて、中で何が起こっているのかわからない。
 すべては志方 綾乃(しかた・あやの)高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の三人による一斉攻撃のためだ。
 その弾幕とクロスファイアに紛れて氷室 カイ(ひむろ・かい)白麻 戌子(しろま・いぬこ)がグラップラー達へ突撃していったところまでは、かろうじて捉えることができた。

 上と正面からの攻撃に、初手をくじかれたグラップラー側だがくたばったわけではない。
 真っ先に戌子の気配に気づいた四谷 大助(しや・だいすけ)は、そちらへ飛び出しトリガーを引く寸前の手を押さえ込む。
 そして、間近にした戌子へきっぱりと宣言した。
「悪いが今回は俺が勝たせてもらう。お前の教えを受けてた時とは違うんだよ、ワンコ」
「ふふ、キミ相手に戦うのは何年ぶりだろうねー。以前はボクの圧勝だったけど、今回はどうかな?」
 戌子は余裕の笑みを見せると、サッと大助から離れていく。
 逃がすか、と大助は彼女を追った。
 大助に一歩遅れて、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がカイの接近に気づいた。
 カイの魔銃モービッド・エンジェルを跳ね上げるつもりで振った腕だったが、籠手に当たったのは妖刀村雨丸だった。
 目を丸くしたラルクに、カイは銃を上げ、ヘルファイアを撃つ。
「ぐわっ」
 顔を覆いのけぞるラルクにとどめを刺そうとしたが、横合いから凄まじい闘気をぶつけられカイは反射的にそちらに銃を向けた。
 その時にはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の炎を纏った拳が眼前に迫っており、カイは派手に吹っ飛ばされる。
「やりやがったな!」
 風に流された砂埃の向こうから、知恵子が自身に狙いを定めていることに気づいたエヴァルトは、神速を発揮して的から外れた。
「くっ……」
 捉えきれないエヴァルトに、知恵子は苛立ちを見せながらじりじりと移動する。
 空を切る音が聞こえ、とっさに身を伏せた頭上を力の塊のようなものが飛んで行った。
 知恵子の後ろのほうの観客席からマヌケな悲鳴が響く。
 振り向くと、ボロボロになったモヒカンと、たぶんその前から少しボロくなっていたカツアゲされていたと思われる種もみじいさんがいた。
 知恵子はエヴァルトを指差して叫ぶ。
「こいつがあんたを狙ってやったんだよ!」
「何だと!? マジかてめえ! 俺の楽しみを邪魔する気か! そこを動くなァ!」
 知恵子の嘘をあっさり信じたモヒカンが、掴み上げていた種もみじいさんを放り投げてリングに乱入してくる。彼の仲間達も続いた。
 菊が止めに入るが、言うことを聞くような奴らではない。
 エヴァルトは唖然としてしまっていたが、すぐに気を取り直して邪魔者の排除をするしかないと観念した。
 先の試合では仲間から複雑な視線を送られた綾乃とこたつだったが、今度は送る側になった。
 カイや戌子からもじとっとした目を向けられるが、知恵子は逆にこう言った。
「さあ今のうちだよ。モヒカンを盾にして倒すんだ!」
 そして実行するべく突っ込んで行く。
 モヒカンを追い出そうにもすっかり知恵子と共闘姿勢でいるため、ここで彼らに攻撃しては混乱が増すだけだろう。
 それに、もう戦いは始まっている。
「こうなってしまったものは仕方がない。利用させてもらうかねー」
 戌子は腹を括ると飛び出し、モヒカンの陰から大助を狙った。
「ワンコ! お前ってやつは!」
「ははは、よそ見をしている暇はないのだよ」
 素早く移動する戌子を捕まえようとする大助との鬼ごっこが始まった。
 勇んで飛び出した知恵子は、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)と鬼ごっこ状態になっていた。
 向かい来るモヒカンをボコボコと殴り飛ばし、怖い顔をしてダッシュローラーで追いかけられている。
「何だあいつ、すげぇ怖い! ……ちょっとごめんよ」
 知恵子はモヒカンの陰に身を隠すと、そこからダッシュローラーを狙った。
 うまく脚に当たり壊すことができたが、するとリュースは今度はバーストダッシュで追ってくる。
 やばい、と思った時にはリュースは間近に迫っていて、知恵子は盾にしたモヒカン共々等活地獄でリングの外にぶっ飛ばされた。
「戦う術のない者からカツアゲするなど、言語道断です」
「いや、カツアゲってそういうもんだし……イテテッ」
 打ち付けた箇所をさすりながら言い返す知恵子だったが、リュースに睨まれて口を閉じた。
 と、知恵子の傍で伸びているモヒカン達の上に、さらにモヒカンが投げ込まれてくる。
 埃を叩き落すように手を叩き、苦笑するラルクがいた。
「なんつー作戦だよ……」
 その時、上空からひゅるひゅると何かが落下してくる音があった。
 見上げると、六つのミサイルが。
 爆音と爆風にこたつが満足そうな空気を飛ばしていると、背後から強い力で突き飛ばされた。
 エヴァルトのドラゴンアーツの力だ。
 転がされながらも、どうにかしてレーザーガトリングの照準を合わせようとするこたつに、エヴァルトが追い討ちをかける。
「させるか……!」
 それを見たカイが奈落の鉄鎖でエヴァルトを引き寄せた。
 唐突に見えない力に引っ張られたエヴァルトが反射的に踏ん張った時、真っ黒な炎を浴びせられた。
 炎を振り払うように腕を薙いだところに、背後から感じる殺気じみたもの。
 ここか、と思うところを思い切り蹴り付けると、確かに手応えがあった。
 エヴァルトの蹴りに刀を弾き飛ばされたカイだが、すぐに反対の手の銃を向ける。
 が、その頃にはもう、エヴァルトはカイの懐に達していた。
 ドラゴンアーツに強化された突きがカイを襲い、エヴァルトの頬を銃弾が掠める。
 宙に浮いたカイの体は場外に押し出されてしまった。
 こたつの六連ミサイルポッドの爆撃を受けたラルクとリュースはというと、ラルクは綾乃と、リュースはこたつとそれぞれ対峙していた。
 ミルキーウェイで上空にいる綾乃を、プロミネンストリックで追うラルク。
 待っていたように綾乃は奈落の鉄鎖で上がってきたラルクに圧力をかけ、瞬間動きを止めると銃弾を撃ち込む。
 ラルクも考えるより先に残心を発揮して銃撃に耐えた。そして、攻撃がやんだところにドラゴンアーツを叩き込む。
「うっ」
 と、呻いてバランスを崩した綾乃にすかさず接近したラルクは、彼女の手から銃を離そうとするが当然強い抵抗を受ける。
 二人は激しい攻防を繰り返しながら落下していった。
 リングのこたつはそれに気づいていて、綾乃を助けに行きたかったがリュースに邪魔されて思うように動けずにいた。
 その焦りが行動に隙を生んでしまったのか、接近を許してしまった。
 レーザーガトリングを鳳凰の拳で遠くへ飛ばされ、とどめを刺されそうになる。
 しかし、もう一つの銃エルドリッジをすかさず抜くと、加速ブースターで体当たりするようにリュースに突進し、銃口を押し当てた。
 リュースの二度目の鳳凰の拳に、こたつの意識は一瞬飛んだがトリガーを引くことはできた。
 撃たれた衝撃で転がったリュースからすぐに視線を綾乃に移したこたつが見たのは、急接近してくるラルクの背だった。
 彼の上に乗る形になっている綾乃が「そこをどいてください!」と、慌てふためいてこたつに注意を促している。
 あたふたと退避しようとしたが、何故か動けない。
 壮絶な笑みを浮かべたリュースが、がっちりしがみついていた。
「ふあっ!? 放してくださいっ。一緒に潰されますよ!」
「いいえ、潰されるのはあなただけです……オレは直前で逃げますから」
「そんな卑怯なっ。いけません、逃がしませんよ〜っ」
 こたつもまた、リュースにしがみつく。
 これにはリュースも慌ててこたつを引き剥がそうとしたが……ラルクの影は、もうすぐ真上だった。
 どうしようもないままラルクを下敷きに、さらにこたつとリュースを下敷きにしてしまった綾乃は、パートナーの名を叫ぶとラルクから飛び降り、無事かどうか確認しようと覗き込む。
「きゅう……」
 完全にのびているこたつに、綾乃は額を押さえてうつむいた。
 ふと、頭上から影が差す。
 ハッと顔を上げると、ラルクとエヴァルトが綾乃の眼前に拳を突きつけていた。
「あ〜……」
 綾乃はくしゃりと髪を掻くと、降参の意を示した。
 その頃には、乱入したモヒカンも蹴落とされ、その分広くなったリングで戌子と大助はかつての先輩後輩の戦いを繰り広げていた。
 しかし、不意に戌子が戦意を消す。
「どうやらみんなやられてしまったようだ。もう少しキミと遊んでいたかったけど、仕方ないね」
 そう言って、銃をホルダーに戻してしまったので、試合はここまでとなった。


種もみの塔でのいかがわしい対決


 ”パラ実の性典”の御開帳後半となった舞台では、思わぬライバルの登場となっていた。
「フハハハ、不健全スクラップだか何だか知らんが、この俺様に張り合うなど笑止!」
「河馬吸虎様こそ命知らずな……。あなた様のような子供だましの絵本では、この者達を満足させられまいよ」
 女の子の体のヒミツの失礼な発言にも、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)は怯まなかった。
 逆に鼻で笑い、自信満々に言い放つ。
「それこそが貴様が三流たる所以なのだ。真のエロスとは、老若男女選ばず皆に愛されるべきもの、ほぼ男の大人しか寄り付かん貴様とは格が違うというものよ!」
 それに返したのは女の子の体のヒミツではなく、モヒカン達だった。
 そこまで言うならもったいぶってないで早く見せろ、と。
 女の子の体のヒミツも河馬吸虎も、形態としては書物。言い合いを見ていてもおもしろくも何ともない。
「フ……では、勝負といこうか」
 女の子の体のヒミツの言葉に、御開帳後半は異様な盛り上がりをみせた。


 その頃、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)の三人は、目の前の邪魔なモヒカンやその他をちぎっては投げちぎっては投げして、ひたすら御開帳の舞台を目指していた。
 それは、二年に一度のイベントを間近で見たいから……ではなく、舞台で息巻いている河馬吸虎のせいだ。
 クラス対抗トーナメントに興味のあったリカインなのだが、いざ参加申請という段になって河馬吸虎が忽然と消えていることに気づいた。
 けっこうな人込みだから、はぐれてしまったのかと心配して探していると、種もみの塔で”パラ実の性典”の御開帳の件を耳にし、まさかと思ったのだ。
 何かときわどい言動の彼が反応しないわけがない!
 急ぎ種もみの塔へ走り、御開帳の行われるフロアへ飛び込んだのだが……。
 そこは、蟻が入る隙間もないほどモヒカンやらでギュウギュウになっていた。
「カバ! 動くなー!」
 リカインの叫びも届いていないだろう。
「おい、ちょっと待て。少し落ち着けって。ここはツァンダじゃねえし、もともとこういうイベントなんだろ。下手に関わらなくても……ったく、聞いちゃいねぇ」
「キサ……アストライトさんの言うことももっともですがね」
 舌打ちするアストライトを宥めるようにヴィゼントがリカインを見やりながら言う。
「お嬢が言葉で止まってくれるような相手じゃないことは、よくわかっているんじゃないですか?」
「そう、だけどよ……」
 アストライトのジャスティシアとしての意識が、心のままに動くことを止めていた。
 ヴィゼントはそれを見透かしたように、アストライトの背を押した。
「自分達にできるのはフォローだけ。何だかんだ言っても、ここに来てるということはそのつもりのはず。──口を動かす暇があるなら、さっさと行きましょう」
「ああもう、しょうがねえなぁ!」
 アストライトはジャスティシアであることは一時忘れることにして、ラスターブーメランを構えた。
 唸りを上げて投げられたブーメランは、舞台に夢中でまったく無防備なモヒカン達を次々に薙ぎ倒していく。
「道を開けねぇと自慢のモヒカン刈り取るぞ!」
「何だてめぇは! 割り込みか!?」
 上等だ、と血の気の多いモヒカン達が武器を抜く。
(いざとなったら、お嬢だけでも連れて逃げましょう)
 そんなことを考えながらヴィゼントも星輝銃を構えるとライトニングウェポンの力を使い、モヒカン二名をしびれさせた。
 そしてリカインが突撃していった舞台では、河馬吸虎がその未知の世界を開いたところだった。
 彼は、見られることを悦ぶように恍惚した声を張り上げる。
「さあ、有象無象のエロ河童共、自己満足などではない万人のための俺様をとくと見るがよい!」
 石版造りなのにぺらりとページはめくられ、決してコドモが見てはいけないオトナの世界に、モヒカン達の口から歓喜の声が──。
「てめぇ、ナメてんのかー!」
「一部どころか全部モザイクたぁ、どういう了見だ! 男か女かもわかんねえだろうが!」
 凄まじいブーイングに河馬吸虎は慌てて己を確認し、わずかに四隅を残しただけのモザイクページをくしゃりと歪めた。
 こんなことをしてくれる奴で思い浮かぶのはただ一人。
「おのれ、あのエロ気0%め!」
「黙りなさい、変質魔道書!」
 たった今、河馬吸虎が思い浮かべた人物が仁王立ちしていた。
 リカインは河馬吸虎に制裁を加えようとするが、モザイクに不満爆発のモヒカン達がモザイクを剥がそうと後ろから押し寄せてきたため、そうもいかなくなった。
 リカインはモヒカン達の前に両腕を大きく広げて立ちふさがると、空気を震わせるような大声を発した。
「止まりなさい!」
 その気迫にモヒカン達の足は止まってしまう。
 リカインは彼ら一人一人に睨みをきかせるようにゆっくりと視線を巡らせると、言い聞かせるように、脅すように言葉を発した。
「蒼空歌劇団俳優会のリカインと言えばわかるかしら? そこのカバ……いえ、河馬吸虎は私のパートナーなのよ。悪いけど、ここで中身を公開するわけにはいかないの。わかってくれるでしょ」
「あのリカインか……。ククッ、悪いが彼はもう舞台に立ったんだ。”パラ実の性典”と河馬吸虎の二大御開帳! 見逃すわけにはいかねえ!」
 リカインの名は、ここにいるほとんどの者が知っていたが、彼女の頼みよりも彼らは自分の煩悩を優先させた。
 リカインはふと瞼を伏せると、次の瞬間にはがらりと雰囲気を変えた眼差しをモヒカン達に向けた。
「そう、それなら仕方ないわね……あなた達は今後一生、私達の舞台には立ち入り禁止とするわ」
 凄味のきいた目つきに、ウッと怯むモヒカン。
「一生かよ……」
「一生よ。でも、そうね……これを踏めば、今の態度は許してあげてもいいわ」
 リカインが見せたのは河馬吸虎の写真。
 踏み絵をさせようというのだ。
 今ここで一時の享楽に耽るか、今後の娯楽のために諦めるか。
 モヒカン達は頭を抱えた。
 その間にアストライトとヴィゼントが舞台に乗り込み、河馬吸虎をお縄にした。
 さらにこのどさくさに紛れて月来 香(げつらい・かおり)がパートナーの、弁天屋 菊(べんてんや・きく)が自らのセクシー写真を女の子の体のヒミツに貼り付けに来ていた。
「これで美央も性典の一部ですわ」
 赤羽美央の『【水コン色物女性】セクシー票以外は沈め』を眺め、フフフと笑う香。本人の了承を得ているかは謎だ。
 一方、菊のほうは『全身カット(A面)』『全身カット(B面)』の二枚を貼り付けた。
 この二枚は人物線が一致しているので、お互いを貼り付けることができる。うちわのように貼り付ければ、いつでも前面背面楽しめるというつくりだ。
「さて、そろそろ決勝戦の時間だな」
 菊が振り向けば、リカインの前で泣きながら河馬吸虎を踏むモヒカンが見えた。その脇には、いまだ選択に困っている者、離れたところには捕まえられてしまった河馬吸虎を惜しみ、女の子の体のヒミツに全煩悩をぶつけようとする者が、グループになっている。
「盛り上がってるな。がんばりなよ」
「人の欲望とは罪深いものであるな」
「自分で集めておいてよく言うよ」
 菊は女の子の体のヒミツの他人事のような台詞に苦笑して、外へ出て行った。