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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

リアクション


Boys & Girls【4】


「あー、なんか暴れたから疲れた。森ガールとJJ見つかるまで、マニキュアでも塗ってよっかなー」
 ひと仕事終えたアゲハはうーんと背伸び。
 とその時、視界の端になにやら人影が見えた。橋の向こう対岸に、見慣れぬおっさんが立ってこっちを見てる。
 裸の上にコートを羽織ると言う暑いのか寒いのか謎の、アゲハ的にありえねーファッションのおっさんだった。
「なんだ、アイツ?」
 なんだか向こうもこっちを奇妙なものを見るように見ているが、それは確実に彼女の髪型の所為だろう。
 おっさんはスタスタと橋を渡り、彼女の前に来て言った。
「……誰だおめえ」
「ハァ? このあたしに誰とか、知らねーのかよ……つか、オメーこそ誰だよ、おっさん」
「おいクソ盛り。聞いてんのは俺だ。答えねえならどけ。それか死ね」
「あぁ!? なんだコイツ?」とアゲハは眉を寄せる。
「……どうやら、ここまで女こじらせると、会話もできねえみてえだな」
「つかさー、さっきからマジ暑いんですけど。おっさん、近所の人でしょ。どっかに自販機とかコンビニない?」
「あぁ? 知るかボケ! つうか俺は近所の人じゃねえ! 空賊だ! このへん住んでそうなのはどっちかっつうとおめえだろ」
「超ウソだし。うちの近所のおっさんも夏はそーやって腹だしてその辺うろついてるし。ぜってー近所だから」
 ちょっと小馬鹿にして笑う。
「おめえヨサーク空賊団を知らねえのか、あ!? 俺はその頭領だぞ!」
「知らねーし。つか、空賊とか言ってマジなにそれ。フリーターかなんか?」
「空賊は空賊だ! 空飛んでんだ! なんならその前に農家だってやってんだ。手に職持ってんだ! フリーターはおめえだろ? いや、むしろニートだろ」
「あたしのことはどーでもいいんだよ。つか、おっさん農家かよ」
 アゲハはまじまじとおっさんを上から下まで見つめ……、指を差してゲラゲラ笑いはじめた。
「マジウケる。てか、農業とかありえなくね? 朝とか超だりぃし!」
「……あ?」
 おっさんの眉がぴく、と動いた。
 何か嫌なことでも思い出したのだろうか。その表情に不愉快そうな色が見え隠れし始めた。
「おい、いい加減にしねえと耕すぞ……!」
「耕す!」言葉尻を捕まえ、ヒーヒー笑う。「ちょっと農民用語マジ勘弁! マジ勘弁!」
「おめえこそ汚ねえ渋谷語使ってんじゃねえ! さっさと渋谷帰って、道玄坂あたりで飲み屋の男にしつこく絡まれてろ!」
「かっぺのくせに渋谷とか言ってら。どうせ渋谷行ったことないくせに」
「あ? 渋谷くらい行ったことあるっつうんだよ! おめえみてえな髪した女がうじゃうじゃ歩いてたぞ。代表しておめえに言うが、その髪を爆発させてんの、一切似合わねえし気持ちわりいからな」
「あ?」
 その言葉にへらへら笑っていたアゲハの表情が凍り付く。
「あたしの髪がザザエさんみてぇつった今?」
「耳クソ溜まりすぎてて聞き違いしたかクソ盛り。誰がそんな危ねえ単語出したよ」
 ちなみに『ザザエさん』とは空京で放映されてるザザムシが主人公の国民的アニメのことであるからして。
「オメーほど溜まってねぇよ、農民。あたしの頭をバカにしやがって……、オメーみてーなドイモにゃ最先端はマジ理解できねーんだよ。クソみたいな色のコート着やがって、どこの女にもだっせーって相手にされねーんだろ、おっさん!」
「勝手に決めつけてんじゃ……!」
 そこまで言いかけて、おっさんは口を閉ざした。
 どうせまた嫌なことでも思い出したのだろう。落ち着きがなくなり、語調を荒げて罵詈雑言を吐き出した。
「うっせえクソ盛り! 短足! 色黒! ゴリラ!」
「……んだと、この小作人! クソイモ! アラフォー! ペド野郎!」
「メガネ! ギャル好き! 変態!」
「痩せ身! タイツァー! 変態!」
 大自然も台無しの低レベルな罵声合戦……そして、イライラが最高潮に到達、二人は鼻を鳴らしそっぽを向いた。
「二度とあたしの前に顔見せんな、小作人! センター街で見かけたら、マジフルボッコにしてやっかんね!」
「おめえこそ、俺らの畑に入ってくんな汚ギャル! その髪を脱穀されたくなかったらな!」
 最後の瞬間まで火花を散らせた二人は、やがてゆっくり踵を返し、それぞれ来たほうに橋を戻る。
 こうして、シボラでの奇妙な二人の奇妙な邂逅は終わりを告げた。