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ジューンブライダル2021。

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ジューンブライダル2021。
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リアクション



1


 特に、目的なんかなかった。
 買い物というわけでもなく、どこかに行くあてがあるでもなく。
 ただふらふらと、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は街を歩く。
 その最中、気付いた。
 ――なぁんか今日は町が賑やかだなぁ。
 ――それに、新婚さんばっかり。なんかあったんか?
 あちらこちらで聞こえる祝福の声。お祝いの言葉。楽しそうな、幸せそうな笑顔の人たち。その輪の中心に居るのは、綺麗に着飾った華やかな新郎新婦。
 一組だけなら、結婚式かぁおめでたいねぇと流し見て終わったのだろうけれど、それが二組三組と続くとつい首を傾げてしまう。
「……今日ってなんかあったっけ?」
 独り言じみたアキラの呟きに、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が「どうかしたのか?」と問いかけてきた。
「いや、なんかやけにあちこちで結婚式やってるな〜って思ってさ」
「お? 本当じゃな」
 何事じゃ? とルシェイメアも街を見渡す。
 そんな二人の様子を見て、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が小さく微笑んだ。
「ジューンブライドキャンペーンですよ、アキラさん」
「ジューンブライド?」
 鸚鵡返しに言葉を口にすると、セレスティアがはい、と頷く。
「結婚願望のある人たちを応援しようと、結婚関連の施設や企業の方たちがキャンペーンをやっているんです」
「へー、そーなのか〜」
「そういえば最近ずっとテレビで宣伝しておったな。言われて思い出したぞ」
「テレビで?」
「気付いておらなんだか」
「いや、……やってたよーな、やってなかったよーな?」
 あまり関心がなかったので記憶に留めていなかった。
 まあみんな幸せそうだしいいんじゃないのとまた歩き出して、ふっと疑問が頭を過ぎる。
「……なんで六月に結婚するといいの?」
「六月は英語で『June』と言うじゃろ?」
「うん」
「その『June』は結婚生活を守護する神の名、『Juno』からとられたものだからじゃ」
「つまり、六月に結婚した花嫁はジュノに守られて幸せになれる、ということですね」
 簡潔なルシェイメアの答えをセレスティアが補足した。アキラは頷く。
「へー、そーなのか〜。ゲン担ぎみたいなもんなのかなぁ」
 昔からいいことにあやかりたいのはどこでも同じ、ということか。
「なんかさぁ、サンタの末裔とかバレンタインの英霊やらが居るんだからさ。その、結婚生活を守護する神様とかも探せば出てくるんじゃね?」
「まあ、居てもおかしくはなかろうな」
「というか、居たら素敵ですよね」
 にこにことセレスティアが微笑んだ。本当に素敵だろうか。アキラは想像する。
「バーゲンセールみたいだなぁ」
「バーゲン?」
「幸せになりたい花嫁さんで押し寄せてさぁ、神様のところ。大変だなぁ〜」
「もう。夢がないですね」
 ぷぅ、と頬を膨らませ、セレスティアが数歩先を行く。ルシェイメアもセレスティアの隣に並んだ。
 二人の後ろを追いかけながら、
「てかさ」
 アキラは声をかける。
「結婚とかってしてみたいと思う?」
「いや別に?」
「私も特には……」
 ほとんど間を置かずに答えた二人に思わず目を丸くした。
「え、そーなの?」
「ワシくらいの歳になると、もう……な」
「五千二歳」
「言うな」
「でも確かに。セレスティアは?」
「私は、剣の花嫁ですので。剣を捧げた人とずっと共に在り続けます」
 ですので今すぐしたいとは、とやんわり笑う。
「まあ、結婚も契約も誓いの儀、であることには変わらんからの。今がそれに近いじゃろ」
 ルシェイメアの言葉に、立ち止まって考えた。
「……ってことは、すでにウチらは結婚してるよーなもんってことか?」
「ある意味そうじゃろうな。ワシらはすでに家族のようなものであろうよ」
「ええ、そうですね」
「そっかーそんなもんか〜」
 しかしそれで良いのだろうか。年頃……なのかはさておいて、女の子だというに。
 ――ま、嫌じゃないから一緒に居るんだろうけどさ〜。
「それに」
 ふっと、ルシェイメアの視線がアキラに向いた。
 どこか温かく、柔らかな眼。
「貴様を放っておくと何をしでかすかわからんからの。ワシらでしっかりと見張っておかなければ」
「えー」
 どゆ意味、と抗議の声を上げる。セレスティアも否定はしない。
「いやいやほんと、どーゆー意味だ〜」
「自分で考えろ、良い頭の体操になるじゃろ」
「えー。セレスティア教えて〜」
「ふふ。答えが出たら、教えてくださいね。答え合わせしますから」
 結婚式とは関係の無い三人は、いつもと同じ道を皆で一緒に歩いていく。


*...***...*


 ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)は、これまでで既に二回結婚式を挙げている。
 なので、ジューンブライドキャンペーンのことを知った時も小さく笑い、
「俺たちはもう二回もしき上げちゃってるし、関係ないよなー」
 素通りしようとしていた。
 けれど、セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)が立ち止まったのでルナティエールも足を止めた。
「どした?」
 セディの顔を覗き込むようにして見ると、彼の瞳が真っ直ぐルナティエールを捉える。どき、とした。言葉を待つ。
「ルナ。もう一度式を挙げないか?」
「……三度目になるぞ?」
「ああ。一度目は正式な式の前、二人きりで挙げたいわば模擬結婚式。二度目の挙式は正規のものであったとはいえ、家柄だの立場だのの都合で仕事のようなものだっただろう?」
「や、そりゃ体面だって気にしなきゃなんないしさ。しょうがないじゃん」
 それにそうなることを予測して模擬結婚式を挙げたのだ。あれはあれで良い思い出になったとルナティエールは思っている。
「でも……」
 まともな、普通の挙式とは違っていた。
「模擬結婚式も、私が引っ張っていったようなものだった。だから今度は正式なものかつ、お前の望む式を挙げてやりたい」
「俺のやりたい式って……」
 セディの言葉を受け、ルナティエールは考える。
 けれど思い浮かばなかった。そもそも、自分が結婚すると思っていなかったルナティエールに夢見る結婚式なんてなく。
「なら、白無垢着たい。仏式で挙げたい」
「仏教式か」
「うん。前二回の式がドレスだったからってのもあるけど……俺の母さんが日仏ハーフでさ。仏教徒だったのな。で、母さんがもし生きてたら……仏式でさせたかったんじゃないかなって」
 母がいつも拝んでいた本尊は大切に持ってきているし。
 広い仏間があれば、仏壇に本尊を安置することもできる。
 ――そうすれば母さん、俺の晴れ姿見れるよな?
「粋な案だな。では参ろうか」
「うんっ」
 頷いたセディと手を繋ぎ、ルナティエールはキャンペーン会場へと足を踏み入れた。


 結婚式の進行は、ルナティエールの母が入っていた宗派のものに則って進めることにした。
 仏間の両側にエリュト・ハルニッシュ(えりゅと・はるにっしゅ)をはじめとした身内や友人が並び、中央を新郎新婦が進む。
 仏壇の前に座ったら、参列した全員でお経をあげてから三々九度。
 その後もう一度お経をあげて、新郎新婦が退場していく。
「ほらキルシェ、パパかっこいいぞー。ママもすっげぇ綺麗だぞー☆」
 エリュトが楽しそうな声を上げた。その笑みを向けているのはルナティエールとセディの間に生まれた子・キルシェだ。
 きゃっきゃと楽しそうに手を伸ばすキルシェを抱き上げ、少しでも両親に近づけようとするエリュトに微笑みかけ、退場。
「……ふう」
 退場してすぐ、ルナティエールは安堵の息を吐く。
「かなり略式だったけど……結構形になったな」
 小さい頃に見たきりだったからうろ覚えだったが、なんとかなった。
「あいつのおかげもある、かな?」
 あいつというのは、今回の式の進行役を買って出てくれた悪友のことである。普段やんちゃな彼ではあるが、同じ宗派の仏教徒。ルナティエールが忘れていたところを補ってくれたり、進行役をそつなく執り行ってくれた。
「あとは素敵な新婦様や、集まってくれたみんなのおかげ。いい式だったーっ」
「そう一気に脱力するな。まだ終わったわけではあるまい?」
「そりゃそうだけど。形式ばったのは今までで終わり。この後はまったりと過ごすんだ。だからセディも少し肩の力抜いていいんだぜ?」
「ふむ。なら……」
 セディの手がルナティエールに伸びた。そっと頬に触れる。
「綺麗だ、我が姫。世界中の誰よりも愛している」
「なっ、」
 にをいきなり、と言いたかったが言葉が続かなかった。突然の睦言に頬が熱くなるのを感じる。
「力を抜けと言われたのでな」
「それでどうして甘いセリフなんだよ……」
 嬉しいけれど、恥ずかしい。いや、けれど、嬉しい。
「いつもの自分らしく、といったところか。
 さあ、主役がいつまでも退場しているわけにもいくまい?」
「……ん」
 差し伸べられた手を取って指を絡ませ、二人は再び仏間に入る。


*...***...*


 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が付き合い始めたのは、二月十四日のことである。
「って考えると、電撃結婚だよねぇ」
 ウエディングドレスを纏ったレティシアは、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に笑いかけた。ミスティは、ドレス姿のレティシアを見てもなおドッキリか何かなのではないかと思っているようで探るようにレティシアを見つめてくる。
「……本当に、晴れ舞台なんですね」
「本当ですよぅ。これでもミスティが見えないところでいろいろ頑張ったしねぇ」
 お互いの親族への報告に始まり、国元の国王への挨拶まで行ったのだ。特に王への挨拶は色々と気を遣った。国でお披露目しろと言われたときはどう断ったものかと頭を悩ませたりもして。
 両親から言われた外交パーティ程度には出席すると決めたけれど、その手続きやら衣装やらととにかく忙しかったのだ。
「これでドッキリだとしたら、相当手の込んだ悪戯ですねぇ」
「まぁ、本当であれば喜ばしいことですし。ドッキリでも二人の友人として助力します」
「だからドッキリじゃないって」
 苦笑しつつ一回転。ドレスに不備がないことをミスティに確認してもらうと同時に部屋の扉がノックされた。
「レティ、準備できた?」
「はい、大丈夫ですよぅ。今行きますねぇ」
 弾んだ声で返事をし、扉を開ける。新郎衣装に身を包んだリアトリスに華やかな笑みを向け、手を伸ばした。そのまま腕を組む。
「そろそろ時間だ。行こう」
 背中に装備した宮廷飛行翼を使い、二人は空に浮かんだ。


 佐野 和輝(さの・かずき)は、レティシアともリアトリスとも仲が良い。
 なので結婚式の招待状が届いたのは必然だし、また祝いたいと思う気持ちも自然に浮かんできたので。
「……窮屈だ……」
 と思っても、着慣れない服をぴしっと着こなし、友人らに恥ずかしくない格好で式場に向かうくらいのことはする。
 お洒落すると言ったスノー・クライム(すのー・くらいむ)アニス・パラス(あにす・ぱらす)を待つ間、ネクタイに何度か手を伸ばす。どうにもこれ、落ち着かないなと微調整を繰り返していたら、
「お待たせ、和輝」
 スノーの声が聞こえた。閉ざされていたドアが開く。
「ごめんね和輝、お待たせ〜」
 次いで、アニスの声。
 和輝の前に現れた二人の格好は、いつもと違ってお洒落なドレス姿。花嫁の立場を奪わない程度に華やかで、艶やかな格好。けれど和輝の目と心を奪うには十分すぎた。気に入らなかったネクタイの位置も頭から吹っ飛ぶ。
「どうしたの?」
 何も言わない和輝を心配したのか、アニスが覗き込んでくる。慌てて視線を逸らした。スノーが笑った気配がする。
「べ、別に意識しているわけじゃないからな!」
「何も言ってないわよ」
「ぐ……」
「??」
 だってしょうがないじゃないか。いつも見慣れた姿と違って、大人っぽくて、別人みたいで。
「綺麗だよ、うん。惚れ惚れするよ」
 意識していることにこれ以上気付かれたくなくて色々まくし立てた結果、
「…………」
「…………」
 アニスの顔も、スノーの顔も真っ赤になった。
 今自分が何を言ったか思い返して、
「あ……」
 和輝の顔も赤くなる。
 墓穴を掘った?
 いいや、気のせいだ。
「し、式場へ向かうぞ! 遅刻してしまう!」
 誤魔化すように声を上げて、式場へと向かった。


 レティシアとリアトリスの前を先導するようにして飛んでいたミスティが友人席へと降り立った。続いてレティシアとリアトリスがヴァージンロードに降り立つ。
 牧師役のスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)をはじめとした友人らが見守る中、二人はゆっくりと歩く。
 数歩後、スプリングロンドの前に着くと、彼が口を開いた。
「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
 誓いの言葉に、
「誓います」
 リアトリスが答える。
「誓います」
 レティシアも頷くと、
「指輪の交換と誓いのキスを二人に多くの幸があらんことを!」
 スプリングロンドが声を高く張った。エミィーリア・シュトラウス(えみぃーりあ・しゅとらうす)が二人の傍に立つ。エミィーリアが差し出したペリドットの結婚指輪をリアトリスが受け取り、レティシアの手を恭しく取った。薬指に指輪を嵌める。
 そっと見つめ合い、数秒。引き寄せられるように顔を近付け、誓いのキスを交わす。わっ、と友人席から祝福の声が上がった。
 さて、キスが終わればブーケトスである。レティシアは悪戯っぽく笑ってからブーケを投げた。空を舞った花が、途中で消える。
「あれぇ? ブーケ、どこにいってしまったんですかぁ?
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の間延びした声に、悪戯成功、とレティシアがまた笑う。
「どうしたの、レティ?」
「なんでもないですよぅ、リアちゃん」
「でもブーケは?」
「ふふふ。ある程度時間が経っても見つからなければどこからともなく現れますってぇ」
 ブーケは、トラッパーで隠してしまった。探し出してもらうのもまた宝探しのようで面白いし、見つからなければそれもそれでサプライズになる。
「こういうところにもお遊び要素を入れてみないと。人生何事も楽しんだ者勝ちですしねぇ♪」
「レティらしい」
「そうですかねぇ?」
「うん。そういうところとか、全部好き」
「そうやってリアちゃんが全て受け入れてくれるから、あちきはあちきらしくいられますねぇ」


 寄り添い幸せそうに笑う二人を見て和輝は微笑む。
「綺麗だな」
 笑顔が。二人の纏う雰囲気が。それから純粋に、二人が。
「うん……レティお姉ちゃんも、リアお兄ちゃんもとっても綺麗」
 和輝の声に、アニスがほうっと感嘆の息を吐く。羨望や憧れに似た目で、レティシアのドレス姿を見ていた。
 ――いつか遠くない未来、アニスも誰かと結婚するんだろうなぁ……。
 そう考えると、心のうちに小さなとげが刺さった。独占欲だとすぐに気付いて頭を振った。感情を打ち消す。
 アニスに感じているのはただの家族愛だ。それ以上じゃない。
 ――……だよな?
 確認するように自問する。答えはすぐに返ってこなかった。が、食事に夢中になっているアニスを見て、間違いないと頷く。
「家族愛だな、うん」
「ふえ?」
 なんのこと? とアニスが見つめてきたけれど受け流し。
「やっほー。来てくれたんだねぇ」
「ありがとうございます」
 主役であるレティシアとリアトリスが近付いてきたので笑顔を向けた。
「おめでとう、二人とも。末永く幸せに」
 かけた祝いの言葉に、アニスとスノーが驚いた顔を向けてくるので、
「……俺だって、こういう場では外見にあった祝いの言葉だって言うさ」
 ややふてくされ気味に言っておく。
「とても綺麗だったわ。いえ、現在進行形で綺麗よ」
 スノーが微笑むと、レティシアが嬉しそうに笑った。
「あっ。そうだよね、二人にお祝いの言葉、言わなくっちゃね!」
 思い出したようにアニスが手を打ち、
「結婚おめでとう! 子供はいつできるの?」
 爆弾発言、投下。
 レティシアとリアトリスが顔を見合わせ、どう答えたものかと時を止め。
「何を言うのよ、何を」
 スノーがアニスの頬をむにっとつまんだ。何、何、とアニスは目を丸くしている。
「まあ、お約束だよな」
 和輝はそう呟いて、レティシアとリアトリスにすまんと小さく頭を下げた。


「改めまして。お二人とも、結婚おめでとうございますぅ」
 ルーシェリアは、レティシアとリアトリスに微笑みかけた。
「ありがとうねぇ。ところで……」
 レティシアが式場を見回しながらルーシェリアを見る。
「ブーケ、まだ見つかってないんだねぇ。なら、そろそろ頃合かしらねぇ?」
 何のことだろう、と疑問に首をかしげたところで、
 ポンッ。
 と弾けるような音がして、ルーシェリアの胸元にブーケが現れた。
「ええっ?」
 驚いた? と無邪気に笑うレティシアに、思わず吹き出した。驚いたのもあるけれど。
「らしいですぅ」
「だよね。レティらしいよね」
「リアトリスさんもそう思いますかぁ?」
 なんて、リアトリスと認識の共有をしたりして。
「ブーケ、受け取っちゃいましたぁ。お相手がいるわけじゃないですけれど……少しでも幸せにあやかりたいものですぅ」
 それからいとしむように花を抱いて、ルーシェリアは呟くのだった。


 無意識のうちに流れた涙を、エミィーリアが拭ってくれた。
「吠えていたわよ」
「そうか……」
 スプリングロンドは、遠くで笑うリアトリスに視線を合わせる。
「晴れ舞台よ?」
「ああ」
「貴方の気持ち、わかるけれど」
 だってワタシ、義理とはいえ母だもの。そう、エミィーリアは微笑む。どこか寂しそうに。悲しそうに。
 幸せそうで嬉しい。
 だけど、少し悲しい。
「お祝いしなくちゃね」
「晴れ舞台だからな」
 祝うべき席だから。
 そう思っても、リアトリスに気付かれないよう隠すのだ。
 彼に向けるは祝いの言葉だけ。祝福の言葉だけ。
 末永く幸せに。
 どうかどうか幸せに。