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【4】2021年、男尻神輿バトル開催!……2


 スタートラインに各チームが整列する。
 周りを囲む見物人たちのざわめきも、ピンと張りつめた戦いの気配を前に、彼方へ遠ざかっていく。
 JJも王も手に汗を握り、スタートの合図にゴクリ息を飲む。
 運営のひとりがライン脇に立ち、空に向かって拳銃を向ける……そして!
 パァーーーッン!
『さぁ各神輿一斉にスタート! 真っ先に飛び出したのは……おおっ梨ガリくんだぁーっ!!』
 銃声と同時に樹月 刀真(きづき・とうま)は誰よりも早く動いた。
 後部を支える彼は足下へ煉獄斬、爆風を背にスタートダッシュ……更には爆煙でライバルに目くらましもかける。
 最高のスタートを切った彼らだったが、しかしすぐさまスタートラインに戻されることになる。
『え、あ……すみません! 今の銃声は間違いです! スタートラインに戻ってください!』
『あの女……、やるじゃねぇか』
 ニヤリとする王。
 誤報の犯人はヒーロードッグのアイリス・レイ(あいりす・れい)だ。
 ハンドガンの空砲でフライングを誘発……そして狙いどおりにライバルチームは足並みが崩れた。
 勝負の女神は非情である。まだ態勢を立て直せないチームが多数だと言うのに、容赦なくスタートの合図が鳴った。
「いっくぞおおおおおおおっ!!」
 猛烈な勢いでスタートしたのは当然ヒーロードッグ。
 前に立つ那由他 行人(なゆた・ゆきと)がコースをとり、後ろの永井 託(ながい・たく)が押し上げる。
「よし、このまま先行逃げ切りで行こう」
 あたふたする後続に更に駄目押しの光術で視界を潰す。
 そしてその隙に持参したエステ用ローションを大量に地面にバラまく。ニコニコしながらも非情な託である。
 あっと言う間に通りをすっ飛ばすヒーロードッグ……それを追うのは再びの梨ガリくん!
「ふっふっふ……、いきなりでめんごだけど、ここで全員潰すっ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は神輿によじ上り、マイマイクのスイッチオン。
「秋葉原四十八星華リーダー『騎沙良詩穂』のゲリラライブ、開催させて頂きまーす♪」。

 梨ガリくんの歌 作詞:トーマ

 梨ガリくーん 梨ガリくん☆
 丸い体の梨ガリくん
 転ぶと自分で起きられないから
 独りで外へ出られないから淋しいの

 梨ガリくーん 梨ガリくん♪
 いつも食べてるショウガはね……
 別に美味いと思っていないの
 そんなキャラだから食べているだけよ

 梨ガリくーん 梨ガリくん☆
 暑い季節の人気者
 ガ〇ガ〇君の梨味に似たその名前
 お陰でいつもガッカリされちゃう

 梨ガリくーん 梨ガリくん♪
 一夏の笑いを生む為に生まれた貴方はね
 きっと来年はいないよね☆

 梨ガリくんの着ぐるみを着た漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と一緒にレッツダンシング!
 詩穂の名声に押し寄せるファン達が壁となり、ライバルチームは思うように進めない。
 人数と神輿の大きさから、もっとも小回りの利かないのは冒険屋チーム。
 内部統制を担当する帝王ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)はとにかく落ち着くように呼びかける。
「皆、落ち着け、帝王がついてる! 掌に『帝』と書いて落ち着くんだっ!!」
「そりゃ『人』だろ! あんたが一番混乱しとるわ!」
「ぬぅ……、と、とにかく敵の攻撃に備えろ。迎撃班がライバル側に、支援班が外側になるよう神輿を旋回だ」
 それから離脱を始める梨ガリくんを一瞥し、自身のファンを呼び寄せる。
 集まった帝王のファン達は詩穂ファンの外側を囲むように壁を作り、梨ガリくんの進路も塞ぐ。
「よし、今のうちになんとか脱出を……」
「させないよっ!」
 詩穂は歌に咆哮を交じえ、機晶シンセサイザーと機晶テルミンでこちらの力を削ごうとする。
 揺れる冒険屋の神輿を前に、大剣士フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)は右往左往。
「だ、大丈夫ですか! 今、お手伝いを……む、と、届かないっ!?」
 担ぎ手が長身揃いのためか、女性にしては長身に入るフィアナも手が届かず、ぴょんぴょん。
 爪先立ちならなんとかいけそうな気もするが……、ちょっとそれは担いでるとは言えないだろう。
「がんばれ、フィアナ! がんばれ、フィアナ!」
 彼女の契約者の相田 なぶら(あいだ・なぶら)は見物人に混ざって声を上げている。
 冒険屋のメンバーではないので外から応援、勿論嬉しくもあるが、名指しで応援されるのはすこし恥ずかしい。
「ありがとうございます、なぷら……」
 フィアナは頬を染め神輿から離れた。
 担ぎ手として自分が出来ることはない。ならば……ライバルへの妨害で活躍すればいい話だ。
 飛翔し人波から脱する……と神輿の上で土下座する天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)が目に入った。
「……何をなさってるんです?」
「懇願であり感謝であり魂の発露だ!」
 土下座の姿勢のまま言う。
今、ここにいる担ぎ手や観光客……いや、この空京センター街で祭りを楽しむ人々の心を……そうつまり! この祭りを体現しているのだ!! この神輿と一体となっている間はずっと土下座! どこからどう見ても土下座! 圧倒的土下座! それは動かざること土下山(どげざん)の如く! 何が起きようと神輿とオレは一つなり!
「何を言ってるのかわかりませんけど……ちょっと力を貸して下さい!」
 フィアナは大剣代わりに鬼羅を持ち上げると、梨ガリくんに向かって飛び上がる。
「はっ! オレを武器としようってのか。いいぜ、存分に暴れなっ! 謝罪はオレがあとでしといてやる!
 一気に間合いを詰め、詩穂の持つ楽器を鬼羅のひと薙ぎで吹き飛ばす。
 そのまま仕留めようと迫る……がその前にセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が立ちはだかる。
「そう好き勝手暴れさせはしませんわ」
「むっ……!」
 彼女は神輿の防御担当、護国の聖域や対電フィールドで守りを固め、ラスターエスクードで攻撃を弾く。
 大盾をボッコボコに殴りつけるが突破は厳しい。ボッコボコになるのはむしろ鬼羅のほうである。
「ここまでのようだな。我輩からのプレゼントである、受け取りたまえ」
 更なる梨ガリくんメンバー、丸城戸 佐渡(まるきど・さど)がパチンコで強化矢を向ける。
 必殺のポイズンアローがフィアナを指向……だがその時、明後日の方向から飛来した電撃が佐渡を吹き飛ばした。
「ぎゃああああっ!!」
「乳神サマの御前だ、そこをどけっ。揺れるおっぱいをその目に焼き付けつつひざまづくがいい」
 おっぱいイズジャスティスのバルシャモ・ヘックリンガー(ばるしゃも・へっくりんがー)だ。
 小競り合いの隙を突き、ファン包囲網を突破。
 神輿に乗せた豊緑 遥(ほうえん・はるか)のおっぱいをぷるんぷるん揺らしながらストリートを駆け抜ける。
 傍を並走するのは、遥のペットたち。
 身動きが取れず、ぷるぷるさせることしか出来ない彼女に代わって、周囲を警戒している。
「は、恥ずかしいよぉ……」
「さぁ! 見物人の中でオレと志を共にする者は一緒に叫ぼう! この激しく揺れる乳にむかって!」
 清青の竜眼をカッと見開く。
そーれっ! おっぱい! おっぱい!
おっぱい! おっぱい!
 バルシャモと共に声を張り上げる空京の皆様。空京の民度が20下がった。
 それに続く、タシガン馬術部、流れ☆首、かよわい乙女。小回りの利く順にファンの波を脱出していく。


 【このエリアでの中間順位】
 【1】ヒーロードッグ
 【2】おっぱいイズジャスティス
 【3】タシガン馬術部
 【4】流れ☆首
 【5】かよわい乙女
 【6】梨ガリくん
 【7】冒険屋