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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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「見て分からないのかしら?」
 神皇 魅華星(しんおう・みかほ)は余裕たっぷりな笑顔で『アボミネーション』を発動した。
「この赤銀の女王であるわたくしの言う事が信用できないの?」
 目の前の悪魔の視線が上へ向いてゆくのを感じた。頭につけた『悪魔の角』を見ているのだろう、服装だってシャンバラ色の強いものは避けている。仮の記憶だとしても魔王としての自分の姿に近い服装を選ぶことができたと自負していた。
 どこからどう見ても魔族、当然よ、わたくしは赤銀の女王なのだから。
 魅華星は心の底からそう思っている、微塵も揺れることのない愛で自分を信じ、そして真実の海を生きているのだ。
 そんな彼女の堂々たる振る舞いと、優しい笑顔からの『アボミネーション』が効いたのだろう。職人と思われし悪魔は、彼女を『悪魔』であると認めたばかりか『軍の本部から派遣された実力者』であると大胆な勘違いをしてしまっていた。
「さぁさぁさぁ、こっちです」
 急に遜って彼女を誘導し始めた。魅華星魅華星で自分のオーラがそうさせた位にしか思っていないので、何の躊躇いもなく高飛車な言い種で言葉を渡した。
「どこへ向かっているのです?」
「あ、はい! えぇ……ではまず、イコン工房をご覧頂きまして、あ、いえ先に武器庫の方がよろしいでしょうか」
「…………わたくしがここに来た意味は、わかっていますよね?」
「あ、いえ……」
「わたくしがわざわざここまで出向いた意味を、わかっているのですよね?」
「……………………はい。こちらです」
 これまた勝手に観念していた。そうして男は奥の路地へと進路を変えた。
「実は、出所の不明な魔鎧が発見されてまして」
「聞いてるわ」
 これも嘘。もう見事。
「はい。ですが最近はその数が増えていまして」
 連れて行かれたのは『魔鎧保管庫』だった。職人たちが製作した魔鎧を軍本部に受け渡すまで、ここで保管、管理を行うのだという。
「さぁ、どうぞ」
「あぁ。お待ちになって」
 魅華星は徐に振り返ると、目の前の建物の影を指差して、
「あそこに居る者たちを呼んできて下さい」
 と職人に言いつけた。物陰には樹月 刀真(きづき・とうま)桐生 円(きりゅう・まどか)、それからそれぞれのパートナーたちが身を隠し、様子を窺っていた。
 刀真たちは当然に身構えたが、寄り来た職人は「こちらへどうぞ」と言って彼らを魔鎧保管庫へと促した。
「こちらです」
 職人の案内されるままに彼らも庫内へと足を踏み入れる。
「どう説明したんです? 俺たちの事」
「大したことではありませんわ。『わたくしの下僕たちも同行させる』と言ったまでです」
「下僕って……。まぁ、おかげで潜入できたわけですが」
「感謝なさい。そしてわたくしに跪くと良いわ」
「……跪きませんよ」
 幾つのも部屋を分ける廊下を進んだ先に、重厚な扉が現れた。
 守衛だろうか、そこには一人の悪魔が後ろ手を組んで立っていた。
「お疲れさまです」
「あれ、あんたは軍の―――」
「ここからは我々が案内します。さぁさぁ、みなさん、こちらにどうぞ」
 言葉を遮った? 案内してきた職人を追い返すようにも見えたし、それに、やけに積極的に刀真たちを中へ促しているようにも見えた。
「殺気は感じません」
 アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が小さく言った。魔鎧である彼女も今は人型になり、先頭で『殺気看破』を発動していた。
「あの男からはもちろん、扉の先も、今のところは安全かと」
 守衛の男も、また扉の奥に見える悪魔たちも『職人』と呼ばれる悪魔と同じ服を着ていた。彼らはここで魔鎧の最終調整を行っているのだという。
 扉の奥は一つの広い部屋になっていて、まるで売り物であるかのように多くの魔鎧が棚の上に収められていた。
「ここは調整を終えたばかりの物です。本部へお送りする物は、更に奥の部屋に準備してあります」
「それで、出所が不明な魔鎧というのは?」
「少しお待ち下さい。おい」
「はい」
 男に言われて、職人の一人が奥の部屋とやらに移動していった。その間に男はその魔鎧を発見した時の様子を語りだした。受けているのは桐生 円(きりゅう・まどか)だ。
「確認済みの魔鎧に混ざってました。搬送前に気付いたのは幸いでしたが」
「魔鎧は全て創り手が分かるようになっているのかぃ?」
「通常は分かります。あまりに出来の悪い物は作り直させますから」
「なるほど」
 視線をオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に送る。彼女は首を縦に振った。部屋に入ってからオリヴィアは『嘘感知』を発動している。男の言葉に嘘はないようだ。
「しかもそれが一度ではなく、2度目には『10』近い魔鎧が室内に紛れてまして」
「違うでしょ〜」
 オリヴィアが即座に訂正を求めた。
「正確に」
「はい。…………正確には『18』です」
「…………その数を濁すなら『20』って言うべきなんじゃなぁい?」
「すみません」
 男がオリヴィアに萎縮した時だっただろうか、部屋の入り口の扉が勢いよく蹴破られ、
「貴様等! ここで何をしている!!!」
 槍を構えた軍兵たちが雪崩れ込んできた。
「ミネルバ」
「やったー! 待ってたよー!!」
 のGOサインにミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は跳んで喜んだ。そして、
「よーし、まずはー」
 彼女は『オートガード』と『オートガード』を発動して仲間を守る体勢を取った。戦いたがりの割に、すぐに飛び出さなくなったのは何よりの彼女の成長点だといえよう。
 まぁ最も、直後には弾丸のように飛び出したのだが。
「ほーぉっ!! たあーっ!!!」
 『ギガントガントレット』を装備した巨腕で軍兵の『トライデント』を弾き落としてゆく。
「狭いところでっ! 長いもの振り回しちゃっ!! ダメだよー!!!」
 ミネルバの腕も相当に大きかったが、盾にするには十分だった。銛刃を防ぐ事も、間髪入れずに拳撃に繋げる事も容易にできる。
 防御に回ること、前に出て皆の盾となるように戦うことが今日の役割だったが、結果として前線で敵を薙ぎ倒す事になっていた。
「月夜、今のうちに」
「もうやってる」
 刀真が言った時には漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はメールを打ち始めていた。
「ここまでの事は一通り全て報告しておくわ。ロザリンド牙竜の2人で良いわよね」
「えぇ。十分でしょう」
 ロザリンドマルドゥークの元に、牙竜イナンナの元に居るはずだ。
 集落内の様子やこの保管庫のこと、不審な魔鎧の存在も伝えておこう。もちろん今現在保管庫内で敵兵の襲撃に遭っている事も律儀に伝える事にする。
「律儀にって。自分で言う事です?」
「そういえば先程から、」
 刀真の指摘は無視だった。決して悪気はないのだろうが。
「電波状況が良いわ。きっとすぐに届くと思う」
「電波…………なるほど、カイトの中継器が機能し出したのかもしれませんね」
 刀真も携帯の画面を見れば、アンテナは『2本』立っていた。これなら通話も可能だろう。
「もしもし」
「もしもし」
 月夜アリウムが携帯電話を耳に当てている、これは……顔の見える距離での通話、電話が使えるという確認と主張だろうか。
 というか、何かとっても楽しそうだったっ!!
「遊んでいる場合ではありませんよ」
 噴き口から溢れるように、ミネルバも孤軍激闘しているが、入口扉からは軍兵が乗り込んできていた。
「俺たちも加勢に行くぞ!」
 いったいどこに潜んでいたんだか。扉の先の通路にまで兵の姿が重なり見えていた。


「ジバルラ! あそこ!!」
 水上 光(みなかみ・ひかる)が指差した。前方右の建物に軍兵が次々と駆け込んで行く。
「いったいどこに潜んでいたんだ? あんなにたくさん」
「ちょうど良い! 怪しい気配もあの辺りだ。全員沈めてやるぜ!」
「ダメですよ、ジバルラさん、人を地面に沈めるなんて、それに建物の中はコンクリートでしょうから沈めるにはまずそのコンクリートを砕いて柔らかくして水を敷いてからでないといけません……いえ、それ以前にやっぱり人を沈めるなんてやってはいけないことだと思います」
 モニカ・レントン(もにか・れんとん)、愛を信じ愛のために生きる少女。そんな彼女のツッコミは非常に生真面目で愛に満ちていてそして、長かった。
 駆けながらにそれを聞いていた一行は、あっと言う間に建物の入り口まで辿りついてしまっていた。
「うにゃー! 行っくよー!!」
「ああっ、ちょっと、ビビ! 待って!!」
 ビビ・タムル(びび・たむる)の手を両手で掴んで引き止めて、モニカは静かに『パワーブレス』を唱えた。
「はい、これでハツラツですわ」
「ありがとうモニカ、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
 頭をなでなでしてもらってからモニカは保管庫に飛び込んでいった。すぐ後直後にジバルラも武器を構えて飛び込んでゆく。
「やっぱり多いな」
 狭い通路なのに真っ直ぐに走るのは不可能だった。というか敵兵が待ち受けている以上、避けて通ることなど端から不可能なわけでして。
「ほらほら、こっちだよー?」
 壁を走っては蹴って飛び移る。ビビは身軽な事を上手く利用して悪魔兵の頭上や足下を駆けたり飛んだり。おかげで相手は隙だらけだ。
「光さん、お願いします!」
「はいよっ!!」
 はその隙を『ソニックブレード』で突くだけ、何とも楽な戦いである。急所を外すだけの余裕すらあった。
「おらぁああああ!!!!」
 ジバルラも『メメント銛』で薙ぎ弾きながらに強引に突破して行った。
 そしてそうしてたちが居る部屋への突入を果たしたのである。
「ジバルラ! …………くん」
「付ける気が無ぇなら最初から付けんな」
 にツッコミながらにジバルラは室内を見渡した。
 面倒なことに室内にはまだ5人の敵兵の姿がある、そしてこの部屋に『怪しげな気配』のそれは見あたらない。
「ジバルラ!!! 奥の部屋に変な魔鎧があるって!」
「おう! 清々しい呼び捨てだ!!」
 部屋の奥に扉が一つ、そこは搬送前の魔鎧が保管されている部屋。
「先に行け! ここはボクたちが抑える!」
「お願いします!」
 モニカが彼の背を押した。それは他の面々も同じ。今まさに戦闘の真っ最中という者だっているのだが、きっと彼女たちも同じ気持ちだろう、オリヴィアミネルバも同じ気持ちだろう。
「ジバルラさん、行きましょう」
 ずっと彼の背を守るように潜みながらフォローしていた火村 加夜(ひむら・かや)ジバルラに言った。3発ほど『怯懦のカーマイン』で威嚇射撃をして彼が行く道を開けさせた。これからもこれまでもジバルラの行く手を阻む者は排除する、もちろんトドメは彼にお任せする次第であるようだ。
「これだ……」
 扉を蹴破って部屋へと入った。同じほどの部屋の規模、違うのは搬送用と思われる大きな木箱が幾つも並んで置かれている事だ。そしてその奥の壁の隅に『怪しげな気配』のそれはあった。
「キレイ……」
 加夜が思わずそう漏らした。
 赤みがかった紫銀に輝く魔鎧。加夜ジバルラも言葉を忘れてその輝きを見つめていた。
「魔鎧ねぇ」
「ジバルラさん?」
 歩み寄るなりジバルラは、その魔鎧を手に取って、
「鎧ってのは飾っとくもんじゃ無ぇだろう」
「まさか、着るんですか?!」
「同じ事を言わせんな」
 その鎧を装着した、何の気なしに、ただそれだけだった、はずだった―――
「がぁっ……」
「ジバルラさんっ?!!」
 放電しているかのように、赤紫に輝く光が魔鎧から溢れて弾けた。
「きゃっ!」
「ぐぁっ―――おぉおおおおおおおおおおお!!!!」
 紫銀の魔鎧は一瞬でジバルラの体に装着を果たすと、彼の体を締め千切るように圧迫し始めた。
「ジバルラさん!! ジバルラさん!!!」
「ぅああああああああああああああーーー!!!!」
 赤紫に輝く光が凝縮し、そして一気に爆発した。
「……………………ジバルラ……さん?」
 音が消えた。
 弾けた光が薄れゆく中にひとり、魔鎧を装着したジバルラが立っていた。
「俺は……」
 焦点の定まらない眼球で見つめた手のひら。頭に痛みを覚えたのか、彼はその手を額へと当てた。
 震える手、揺れる体。そして見られた大きな変化は、彼の両の眼が紫銀に染まっている事だった。