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29


 夏といえば、夏祭り。せっかくの夏なのだから、開催されるお祭りには参加したい。
 お盆だろうがなんだろうが、祭りは祭り。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は浴衣に着替えて、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)を連れてヴァイシャリーの街へ繰り出した。
「お祭りといったら屋台の食べ物制覇だよね!」
 元気よくセシリアが言って、早速焼きそばの屋台へと走る。そして買わずに戻ってきた。
「買わないんですかぁ?」
「うん。まだまだ祭りは始まったばかりだからね、どこのお店が一番いいかしっかりチェックしなくっちゃ!」
 ぐっ、と拳を握って意気込んでいるあたり、歴戦の勇を思わせた。祭りのプロとでも言うべきか。いや買い食いだけでそれでは大げさだろうか。
 ともあれ食べ物関係の評価は彼女に任せるとして、メイベルは工房に居るであろうリンスへの差し入れを考える。
 花火なんかがいいだろうか。
 大きな打ち上げ花火は遠くからでも眺めることが出来るけれど、みんなで花火を持ってわいわいと楽しむのもまた乙なもの。夏の風物詩である。
「どの花火がいいでしょうかねぇ?」
 呟きながら、店に並んだ花火を見る。
 きっと工房には常連の方も来るだろうし、多めに持っていこうか。
 他にもろうそくやろうそく立て、風情重視でマッチも買おう。バケツは工房にあるだろうし、ないならないで洗面器あたりで代用すればいい。
「メイベル様。スイカを買っていきませんか?」
 との提案は、フィリッパからのものだった。
「これも立派な夏の風物詩、ですよ」
 中玉のスイカを二つ持って見せ、笑顔を浮かべる。
「よく冷やしたスイカをみんなで食べる。楽しいものですよね」
「はわ……想像するだけで、素敵ですぅ。買いましょうっ」
 即断即決。購入して、持って、屋台を巡った。あれやこれやとセシリアが物色している。
 セシリアのやや後では、ステラがきょろきょろとせわしなく視線を動かしながら祭りを見ていた。
「どうですかぁ? お祭りの雰囲気は」
 メイベルが問い掛けると、はにかんだように笑った。
「このお祭りのメインテーマは『お盆』というものだそうですが……面白いものですね」
 感想を述べると、すぐにまた屋台を見たり、参列客を見たり。
「工房に戻ったら、この風景を伝えないとですぅ」
 普段の夏祭りとはちょっと違って不思議な空気で、それがまた楽しかったよ、と。
「メイベルー。差し入れ、こんなもんでいいと思うんだ。そろそろ工房へ行こうよー」
 両手いっぱいに屋台の出し物を持ったセシリアが、笑声で言った。
 綿飴、りんご飴、お好み焼きにたこ焼き。
 おまけで花火と中玉のスイカ。
 これだけあれば、工房に引きこもっていてもお祭り気分を楽しめるだろう。
「はいですぅ。行きましょう〜」
 楽しんでくれるといいな、と考えながら、メイベルは工房へと足を向けた。