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なし

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この場所で逢いましょう。

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この場所で逢いましょう。
この場所で逢いましょう。 この場所で逢いましょう。 この場所で逢いましょう。

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74


 葉月 可憐(はづき・かれん)は、いつも甘い匂いがする。
 女の子らしく柔らかで、思わずぎゅっとしたくなるような、そんな香りだ。
 だけど今日は違った。
 いや、違うといっても甘い香りなのは変わらない。ただ、別のものが混じっている気がして、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は鼻をひくつかせた。
「可憐……普段となんだか香りが違う?」
「香り?」
 アリスの問いに、可憐がきょとんと鸚鵡返しに言葉を返す。ややして、「ああ」と頷いた。
「お線香の香りです?」
 右手をちょいと上げた可憐が、浴衣の袖の匂いをと嗅ぐ。
「うん、やっぱりです。ここに来る前に焚いてきたので、その名残ですねきっと」
「へぇ。いい香りだね」
 初めて嗅ぐ匂いだけど、どこかほっとするというか、落ち着くというか、安らげる香りである。
「結構好きかもー」
 擦り寄って、すんすん。くすぐったそうに可憐が笑った。
 そのまま手を握って、夜道を歩く。
「それで? 今日は誰か逢いたい人でもいるの?」
 ナラカで起きた異常気象。
 その結果、ナラカとパラミタを繋ぐ門が開いたらしい。
 一日だけ、死んでしまった人に逢える日。
 だとすれば、可憐にも逢いたい人がいるかもしれないと。
「ふふ、私は特にいませんよ」
 思ったのだけど、軽く笑って言われてしまった。
「いえ、いるのかもしれませんが、今逢いに行くのは不実かと思いまして」
「不実?」
「私がその人たちと逢うのは、私が向こうに往ってからか……または、別のタイミングか。
 とまれ、今でないことだけは確かですね」
 どういう時ならいいのだろう? アリスは首を傾げたが、それはきっと可憐にしかわからないのだろう。
 そっか、と相槌を打って、また一歩足を踏み出す。
「でも、それじゃあ、なんでここに来たの?」
 祭りへ向かうでもなく、広場の中心に、なんて。
「そうですね……強いてあげるなら、お盆本来の意味を、というところかな?」
「本来の意味?」
 今度はアリスが鸚鵡返しに問うた。
「世界の分断を巡る戦争で、私は図らずもアイシャ様に刃を向ける事となりました。ですが、未だに生きています。
 ですがそうでない方も大勢、あの戦争にはいた」
 ぽつり、ぽつり、静かに語る可憐の声が、夜闇に響く。
「生きたくて、遣り遂げたい事があって、でも叶うことなく死んでいった方達。
 私達は決して死にたかったわけではないけれど。私の願いは。その真意は結局アイシャ様に届かなかった」
「…………」
「そして今は弁解の余地なく放校された。……遣り遂げられなかった。生きた死体も同然です」
 何もそこまで言うことはない、と思ったけれど、口を挟んだりはしなかった。
 可憐の、あの時向けていた、抱いていた思いは知っているつもりだから。
「私は袋小路に迷い込んでしまいましたが手mせめて、彼らだけでももう迷わず済むように送ってあげられれば、と。
 未だこの大海を彷徨う魂を導いて送ってあげられればというささやかな願いから……かな?」
 説明、長くなっちゃいました。
 可憐がはにかんで言った。そんなことないよと首を振ってから、
「お盆は、元々海に死んでいった人たちが、こっちの陽気に誘われて戻ってこれるようにっていう願いが込められているんだっけ?」
 確認するように、呟く。
「そうです。だから、こっちに誘われた方達を喜ばせてあげて、楽しませてあげて……それからこちらの門からナラカへと導いてあげられれば、と」
「ああ、だからいつもよりおめかししたり、お線香なんだねー」
 普段よりもお洒落して。
 浴衣を着て、髪を結い上げて。
 それから、死者へとお線香をお供えして。
 アリスの頷きに、ちょっとだけ気合入れました、と可憐が微笑む。
 理由もわかったことだし。
「では……まずは神々に祈りを捧げて、それから歌を歌いましょう」
 奏でる歌は幸せの歌。
 誰もが苦しみや悲しみ、怒りを忘れて、その心のままに躍れるように。
 笑いを。
 心の底から、皆で楽しめるような笑いを。
 もう一度浮かべることが叶うようにと願いを込めて。
 救いを。
 その背負った重荷を全て洗い流せるように。
 楽器を奏で、前奏部分を弾く最中。
「死者は地獄で罪を贖います。
 ならせめて、こちらでもう罪に悩まされる事のないように、願いを込めて……」
 前置きとして祈りを捧げ、透き通るような声を音に乗せた。


 声に呼ばれた人が集まり。
 ひとり、またひとりと踊りだす。
 楽しそうに笑い、また別の誰かは可憐と共に歌い。
 亡くなった人たちへの、供養を。
 あるいは、激励で弔いを。
 そして最後に、祈りを。


 いつかまた逢える日を。


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

初めての200人越えシナリオに、内心でがくがく震えておりました。
ああ、きっと、今までにない文字数になるのだろうな……と。
予想は的中しました。

でもって、これは目次作らないとやばいな……となり。
でも目次作ってもわかりづらそう……と悩んでいたところ、地球に帰らせていただきますっ! 〜3〜の目次ページを見て、
あ、これすっごくわかりやすい……と思い、まねさせていただきました。
見やすくなっていたら幸いです。ます。

それはともかくとして。
今回、たくさんのご参加と素敵な設定を教えていただき、ありがとうございます。
みなさまの裏設定を見るのは、こっそりと秘密を知った子供のような気持ちになりました。
こんな設定があったのか、とか。
ああ、だからこうだったのか、とか。
色々と、楽しませていただきました。
シリアスも恋愛もちょっとコミカルな感じも書けて、個人的に大満足です。おなかいっぱい満腹です。

さて、あとがきも長くなってきたのでそろそろ締めの挨拶を。
毎度私信を下さる方々、常連さん、お久しぶりな方、初めましてな方。
様々な一面を書かせていただきありがとうございます。
それから最後にもう一回。
本当にたくさんのご参加ありがとうございました。

最後まで読んでくださってありがとうございます。