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リアクション
『手記』の魔法攻撃の範囲から外れると、当然そこにはスパルトイの大群が待ち構えている。
足を止めたアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が大剣を抜いた。
「敵を倒して倒して倒しまくる試練……そう簡単には通してくれないっスね。ここは誰が一番多く倒したか勝負っスよ! ……冗談っス」
勢いづけて言い放った直後にキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)にジロリと見られて肩を竦めるアレックス。
突進しがちな彼は、よく突っ走っては途中で息切れし仲間に助けてもらっていることを、この頃自覚し始めたところだ。
「今回は少しでも長く戦えるよう工夫するっスよ」
それでいい、と頷くキュー。
「我も明日風もいることを忘れるな」
「わかったっス。明日風さん、よろし──何やってるっスか!」
「スパルトイの一本釣りぃ〜! そして即冷凍! 新鮮な状態で出荷できるよぅ」
アレックスとキューをよそに、またたび 明日風(またたび・あすか)は釣竿でスパルトイを釣り上げていた。引っ掛かるなり仕掛けたグレイシャルハザードで、釣り上げられたスパルトイはカチンコチンになっている。
「とにかく、やるっス!」
決してヤケクソになったわけではないが、アレックスは八つ当たり気味に手近なスパルトイへチェインスマイトを叩き込んだ。
三人が危なっかしく協力しあいながら戦っている間、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)も遊んでいたわけではない。
斬りかかって来たスパルトイを叩きのめし、身動きとれないように押さえつけて問いかけた。
「覚えていたらでいいんだけど、ここで試練を受けた龍騎士の中で特に目立ってたとか、変わった理由で龍騎士を目指していた人がいたら教えてもらえないかしら?」
『……』
しかし、スパルトイから返事はない。
思い返してみれば、第一の試練のスパルトイもマニュアル通りのようなことしか言わなかった。
「スパルトイと言ってもエキーオンとは違うのかしら……」
押さえつけたスパルトイは抜け出そうとカタカタと骨を鳴らす。
リカインはそれを倒すと次のスパルトイを捕まえて同じ質問をする。
何回かそれを繰り返した後、ようやく答えてくれる者がいた。
『龍騎士ハ……目覚メル者デアリ……目指スモノデハナイ……』
聞き取りにくい発音だったが、確かにそう言った。
また、格別な強さの持ち主としてアイリスは圧倒的だった、とも告げた。
ふと見ると、アレックス達は押され気味だった。
キューが氷術で作り出した氷の壁でスパルトイを阻み、その陰からアレックスがコピスで斬り伏せるなどして善戦はしているようだが、このままでは数に押し切られてしまいそうだ。
「へこたれるにはまだ早いわよ! それともあなた達はこんなところでもう満足なの?」
「みくびらないでほしいっス! まだまだいけるっスよ!」
真っ先に返してきたのはアレックス。
リカインの声に、下がりそうになっていた足を前に踏み出す。
「あっしとしても、こんな薄暗いところでくたばるなんてゴメンだねぇ……またたビーム!」
カッと明日風の両目が光り、一直線に放たれたビームがスパルトイを貫く。
キューはアレックスに何やら耳打ちすると、立て続けに氷術を唱え、スパルトイを囲むように氷の壁を作った。
その壁の一つを突き破ったアレックスが、閉じ込められたスパルトイ達を則天去私で一気に沈めていく。
「やればできるじゃない。その勢いで押し切るわよ!」
リカインは満足そうに微笑むとさらに三人を励まし、進め、と通路の先を指した。
一方こちらウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)もアレックス同様両手で扱う武器で突き進んでいた。
恐ろしく重い斧がアナイアレーションの威力も乗せて空を薙ぐと、範囲内にいたスパルトイが上下真っ二つにされていく。
ほとんど防御を無視した動きは無謀に見えたが、後ろに『旅人の書』 シルスール(たびびとのしょ・しるすーる)がいるからこその手段であった。
彼女は、ある時はウィングの進む先にいるスパルトイにアシッドミストを放ち剣を錆だらけにし、ある時は横合いから斬り込んできたスパルトイに氷の礫をぶつけ、またある時はその豪快な斧の一振りを掻い潜ってきたスパルトイにより負った傷を素早く癒した。
そんな中、ウィングの高笑いが剣戟の中に響く。
「はーっはっはっは! この私を止められるかな? いや、止められやしませんよ!」
絶好調なウィングなのに、何故か少し離れたくなるシルスール。
しかし、彼の気持ちもわからないわけではない。
この試練の間に入った時、ウィングは表リラードと少しばかり話しをした。
「まったく……せっかくの修学旅行なのに殺伐としたものですねぇ。ねぇ、リラードさん、あなたが二人になっただけで世界崩壊とか、世界をなめてるの? どうなんです?」
「別になめてなんかいないリラ。……そんなに凄まれても困るリラ」
ウィングから発している何かしらの圧力を感じたのか、じりじりと後退する表リラード。
「まぁ、そのおかげで珍しい試練を受けられるのですけどね……。ですが、後でじっくりお話ししたいところですねぇ、じっくりと」
「健闘を祈るリラ」
言い残し、表リラードは学生達の中に逃げていった。
試練場全体をゆっくり見学することもできず、ひたすら骸骨を相手にしなければならないとなれば、誰だって憂鬱になるだろう。
だから八つ当たり気味なウィングの攻撃方法にも何も言わなかった。
「ボク、がんばるよ……!」
再び上がった高笑いを聞きながら、シルスールは自らを励ました。
ウィングが強いのはわかっているが、敵の多さに少しばかり危機感も抱いていた。
けれど万が一ということもある。
その時、いつもみたいにウィングに甘えていてはいけない。
シルスールはグッと気合を入れた。
「気分が悪い……ここに来れば治ると思ったのに」
グッと奥歯を噛み締めたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、八つ当たりもこめてブリザードでスパルトイ達を凍らせた。
どうしてこんなにも気分が悪くなってしまったのか、彼にはよくわからない。
いつ頃からおかしくなったかはかわるのだが……。
とにかく、このもやもやした重いものを消したくて、それなら何も考えず戦いに没頭すればいいのではと考えた。
数千体のスパルトイ相手に休みなく戦い続ければ、雑念に囚われている暇もないだろうと。
もとの自分に戻れるなら、指先さえ動かせなくなるまで戦うのも厭わない、と思っていたというのに。
「よくなるどころか、ますます嫌な感じになってきた。何でだ?」
瞬きほどの瞬間に脳裏に見えたのは、倒れた自分に背を向け一度も振り返ることなく去っていく二人の後ろ姿。
実際の記憶だったか、それとも苦しい心が作り出した幻だったか。
「いい加減に、消えてくれ」
強く願い、グラキエスはサンダーバードを召喚した。
全身から放電する巨大な鳥がどこからともなく飛来し、ひしめくスバルトイ達の頭上に雷の槍を降らせる。
そうしてスバルトイの群を掻き乱した後、天の炎で一気に焼き尽くした。
思い通りに敵を一掃できても、いっこうに思い通りにならない自身の心に、グラキエスの苛立ちは募る一方だった。
彼が心のバランスを崩す原因となった一人のゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は、第一試練と第二試練を繋ぐ扉のあたりで落ち着かない様子でウロウロしていた。
そんな彼にエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は苦笑する。
「少し落ち着いたらどうです? グラキエス様なら大丈夫ですよ」
「大丈夫なものか。あの顔色を見ただろう? あんな状態で一人で行くなど……ましてや、それを止めた我の言葉に逆らうなど……いったいどうしたというのだ」
「成長なさったのでしょう」
「成長だと?」
ゴルガイスは考えた。
精神的に発達したために自立心が芽生え、今まで保護者として接してきた自分に反発するようになったのかと。
けれど、何かが引っ掛かる。
それもあるかもしれないが、それだけではないような気がしてならない。
肝心の部分がわからないことへの苛立ちを抑えるように、ゴルガイスは天井を見上げてゆっくりと息を吐き出した。
エルデネストは余裕の表情で優雅な笑みを口元に浮かべる。
「何かあれば私が行きますよ」
それからどれくらい経っただろうか。
戦闘の最終ラインがだいぶ奥に進んだところで、エルデネストはグラキエスへテレパシーを飛ばした。
『グラキエス様、そちらはどうですか? 手が必要でしたら、私がすぐにでも参りますよ』
しかし、グラキエスからの返事はない。
彼の心の状態などお見通しのエルデネストは、ゴルガイスに気づかれないようにうっすらと笑み、再度呼びかける。
『私なら、貴方をその苦しみから助けて差し上げます』
そう簡単に望む返事は来ないだろうとエルデネストは思っている。
これはすべてこの先のための行為だ。
グラキエスが自身こそを一番の頼りとするための。
狡猾な悪魔の狙いを、義理堅く情に厚いドラゴニュートは気づいているのかいないのか──。
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