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【2021修学旅行】血の修学旅行

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第2章 ラゾーンのラ王たち

「さあ、腹もふくらんだところで、本格的にラゾーンに向かって出発するぞ。南、今回は邪魔するなよ」
 国頭武尊(くにがみ・たける)は、村を出たあたりから急にうきうきとして、ジャングルの中を率先して進みだしていた。
「ぎょぎょ!? 愚かな奴だ。今回の俺は、ただパンツを発掘することだけが目的なのではない、究極的には、シボラの古代のパンツの謎を解き明かすことこそが重要なのだ。おまえとは目のつけどころが違うんだよ」
 南鮪(みなみ・まぐろ)は、ぎょろっと国頭を睨みつけると、フンと嘲笑ってみせた。
「そうか。だが、俺はとにかく、レアなパンツをゲットするつもりだ。もし利害関係が衝突したなら、容赦しないぞ」
 国頭もまた、南にガンを飛ばしていった。
「ふっ。まあ、対立するような事態でなければ、パンツ四天王同士、仲良くしようではないか。で、ラゾーンはどっちの方角だ?」
 南の問いに、国頭は立ち止まって、顔をしかめた。
「む。エミリーが村に残ってしまったので、方角の検討がつかなくなったな。かくなるうえは、オレのトレジャーセンスで」
 国頭がそういったとき。
「おや? みなさんには、聞こえないんですかねぇ? ほら、向こうの方から、パンツの声が聞こえてきますよぉ」
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が、目を閉じて、耳をすませる仕草をしてみせながら、国頭たちにいった。
「パンツの声だと? そのようにパンツを擬人化してとらえたことはないが」
 国頭は戸惑って、いった。
「そうですかぁ。いやいや、擬人化ではなくて、本当に声が聞こえるんですって。日頃から暇さえあればパンツと正面から向き合い、語らい、心と心を通わせているお兄さんのこの耳には、パンツの声というものが聞こえるんですよぉ。ほら! こっちの方角です。みなさん、お兄さんについてきて下さい。パンツの声に導かれ、パンツを求めて! どんな障害もはねのけて、ひたすら邁進あるのみですよぉ」
 そういって、クドは、目を閉じたまま歩き始めた。
「オレはパンツを物としてとらえすぎているのか? だが、オレにとってパンツはあくまでパンツだ。匂いは発しても、声など発するものではないぜ! だが、まあいい。あっちにあるというなら、ついていこう」
 国頭はブツブツいいながら、クドの後についていった。
「ふはは。俺と同じく、高尚なパンツ趣味を持っている男だな。どれ、ひとつ、この男を信じて、古代の神秘を探求する道案内をしてもらうとしよう」
 南もまた、友好的な笑いを浮かべながら、クドについていく。
「みなさーん! 道案内はガイドである私がしますわ。といっても、私も、ラゾーンの方角がわからなくなってしまいましたわ。とりあえず、ついていきましょう」
 崩城亜璃珠(くずしろ・ありす)は、自分の導きを離れて勝手に動き始めた生徒たちの様子に戸惑いながらも、クドがいう「パンツの声」には何らかの力があるように感じていた。
 シボラ。
 古代、この地でいったい何があったのだろう?
 なぜ、パンツが信仰され、パンツァーという謎の神が信奉されたのか?
 全ては謎だった。
 多くの生徒が、何もわからないままジャングルの中を進んでいた。
 やがて。
「おっ、川があるぞ。腐った丸太でできた橋のようなものがあるが、ここを渡っていくしかないようだな」
 国頭は、行く手に現れたやや幅の広い川の流れを目にして舌打ちした。
 クドは、パンツの声に導かれるまま、目を閉じた状態で、その橋の上を進んで、向こう岸に渡っていった。
 他の生徒たちは、慌ててクドの後を追って、橋を渡ろうとする。
 そのとき。
 グラグラグラ
 バシャーン!!
 腐りきった橋の丸太の一部がボロボロに崩れ落ち、何人かの生徒が川に落下してしまった!!
「ウ、ウワー! ツメタイ!! ミンナ、キヲツケル!! カワ、フカイ!! ナガレ、ハヤイ!!」
 川に落ちてしまった風森巽(かぜもり・たつみ)が、カタコトの言葉で叫び声をあげる。
 村を出てからついにゲゲの腕輪を身につけた風森だったが、腕輪の不思議な効果で話し方が変わってしまったのだ。
「風森、大丈夫か!! この手につかまれ!!」
 白砂司(しらすな・つかさ)が、川の流れに抗う風森を助けようと、崩れかかっている橋の上から手を差し伸べる。
「流れがだいぶ速いですね。気をつけないと川下に流されますよ」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)も、白砂の側で、風森を心配していた。
 そして、そのとき!!
「グガアアアアア!! 貴様ら、よくぞ俺の聖域にやってきたな!! 食ってやるから喜べよ!!」
 すさまじい叫び声とともに、川の中から巨大な影が身を起こした。
 その姿をみたとき、白砂はくわっと目を見開いていた。
「お、お前は! バカな! 許されない存在だ!!」
 怒りのあまり、白砂は風森に差し伸べていた手を引っ込めて、その影に向き直った。
 その影は、まさに巨大なワニであったが、ワニであってワニではない、恐るべきワニ獣人だったのである。
「ワニではなく、さらに、獣人でさえない!! 獣人のようで獣人じゃない、ほ乳類でない輩め!!」
 白砂は、自ら川の流れに飛び込み、ワニ獣人に獰猛につかみかかっていった。
 ジャタの森で獣人たちと一緒に暮らしていた白砂は、毛のない獣人の存在が信じられず、冒涜的な存在であるとさえ感じたのである。
 このような獣人もどきの存在など、断じて認めたくはなかった。
 たとえ、ここが古代の神秘が息づくシボラであっても、である。
「返事は許さん、まずは話を聞け! 獣人の素晴らしさは、あのモフモフでフカフカとした、野性味あふれる美しい毛並みにあるのだ! お前のようなのは論外だ! 俺が捕まえて、モフモフについて説教してやる!!」
 白砂は、ワニ獣人の身体を力いっぱい締めつけようとした。
「司くん! 暴走してくれましたね。ですが、私も同感です!!」
 サクラコもまた、叫び声とともに獣化して川に飛び込むと、ワニ獣人に立ち向かっていった。
 だが。
「グハハハハハハ!! 俺は、邪神の力によって生み出された、シボラにだけ存在する獣人だ!! 貴様らのようなぬるい奴らに負けはせん!!」
 ワニ獣人は洪笑して、水の中で身体を勢いよくひねらせた。
「う、うわー!!」
 ワニ獣人の身体を思わず離してしまった白砂に、ワニの巨大な尻尾の一撃が襲いかかる。
 ひるんだ白砂に、ワニ獣人は巨大な顎をバックリと開けて噛みつこうとした。
「危ない!!」
 サクラコが、白砂をかばってワニ獣人につかみかかり、その巨大な顎を両手で上下から締めつけて、無理やり口を閉じさせた。
 そして。
「ウ、ウワアアアアアー!!!」
 ワニ獣人が身をひねらせたときに起きたすさまじい水流のうねりに身を飲み込まれて、風森は悲鳴をあげながら川下に流されていったのである。
「か、風森さん!! みなさん、風森さんを助けに行かなければいけないですわ」
 亜璃珠は驚いて、あっという間にみえなくなっていく風森を追おうとしたが、エリカに制止された。
「崩城さん。川の流れが速すぎます!! いま追っていたら、私たちも迷ってしまいますし、それに、いまは白砂さんたちを助けないと!!」
 そういうエリカにしたところで、どうやってワニ獣人に対抗すべきかという策はなかった。
 そのとき。
「ハーイ! ジャングルで川遊びですか、ケッコーな青春グラフィティですね! アッハー、発掘前のウォーミングアップといきましょう!!」
 恐ろしく場違いに感じられるハイテンションな口調でまくしたてながら、ルイ・フリード(るい・ふりーど)がニカッと笑って川に飛び込んできた。
 10代のころをジャングルで過ごしたルイにとっては、川でワニと戯れるなどは日常茶飯事だったのだ。
「うん、何だ?」
 ワニ獣人に押し倒されて川の底に沈められようとしていた白砂は、必死にもがく中でルイの乱入に気づいて、顔を上げた。
「オー、ワニ、クロコダイル、ダンディー!!」
 ルイは笑いながら、ワニ獣人の巨体に組みついて、恐るべき力で抱えあげた。
「よし! ここから俺たちの逆転だ! やっぱり正統派の獣人が最後には勝つんだ!!」
 窮地を脱した白砂が立ち上がって、ずぶ濡れの両肩をふるわせ、ハアハアと息を吐く。
「私も、シボラの獣人になんか負けませんよ!!」
 サクラコは跳躍すると、ルイに抱え上げられたワニ獣人の巨体にパンチを叩き込んだ。
「グワッハッハッハ!! どんなに殴ろうと、この俺のウロコに覆われた身体にはそう簡単に傷などつかんのだ!! ムダムダムダムダー!!!」
 ルイにハグされた状態で、ワニ獣人はたかだかと嘲笑った。
「マイ・フレンド!! 大自然に帰しましょう!!  また会える日を、楽しみにしてマース!! ナショナル・ジオグラフィック、ホー!!」
 ルイはワニ獣人を力いっぱい下流に向けて放り投げると、激しい川の流れに飲み込まれてゆくその身体に手を振った。
「司くん。ここの獣人は許せませんね。ほかにもああいうのがいるんでしょうか?」
 サクラコは、白砂とともに岸にあがりながらいった。
「ああ。モフモフのない獣人は許せない。みつけ次第叩きのめしてやる!! それはそうと、風森が流されてしまったな」
 白砂は、旅の仲間を気遣った。
「ハッハー!! それならノー・プロブレム。彼は死にません。この先のラゾーンか、さらにその先できっと会えるでしょう!! マイ・フレンズ!! 再会を確約してゴー・アヘッド!!
 ルイが、ニッコリ笑っていった。

「ウッ! ココハ……?」
 風森は、川の流れの音を耳にしながら、目を覚ました。
チューン。気がついたか。ずぶ濡れだったから、服、乾かしてるぞ」
 全身に毛をモフモフと生やした獣人がいった。
「オマエハ? ムッ? ワレハ、ダレダ? ナゼ、ココニイル? オモイダセナイ!!」
 下着一枚の状態で寝そべっていた川原から身を起こした風森は、記憶をなくしていることに気づいて、戸惑った。
 相変わらず、ゲゲの腕輪の謎めいた効果のおかげで、カタコトの言葉しか話せない。
「記憶喪失か? あんたは、川を流されてきたんだ。ワニ獣人に襲われてな」
 風森を助けた獣人はいった。
「ワニ? オマエハ?」
「おいらは、イタチ獣人。他の獣人と同じく、このシボラのジャングルに住んでいるのさ」
 風森の問いに、イタチ獣人は答えた。
「ソウカ。オマエ、ワレ、タスケタ。ダカラ、ワレ、オマエ、トモダチ
 そういって、風森は、両の掌を広げて親指同士をくっつけるようにする、不思議な仕草をしてみせた。
 どうしてそんな仕草をするのか自分でもわからなかったが、自然とそうなったのだ。
 ふと、笛の音のような不思議な効果音がどこかから流れたようにも思ったが、気のせいかもしれない。
「友達? へっ、よせやい。ちょっとお節介したまでよ。さあ、服を着たら、あんたの仲間を探しに行こうか。チューン
 イタチ獣人は照れくさそうに笑って、風森を促した。

「よーし!! ラゾーンに着いたぞー!!」
 犬養進一(いぬかい・しんいち)は、ついにたどり着いた、ジャングルの中の開けた一画を前にして、そう叫ばずにはいられなかった。
 鬱蒼としたジャングルのただ中で、その一画だけが樹木に覆われておらず、陽の光にさらされていた。
 草が一本もみあたらないそこの地面は少し掘り返されていて、スコップがいくつか、乱暴に投げ出されていた。
 一画の隅には、真新しい木製の立て札が立てられていて、マジックで「ラゾーン」と書かれている。
「何だ、ここは。本当に古代からの聖域であるのか? 何者かが最近慌ただしくつくりだした場所のように思えるが? まるで、ここでパンツを発掘して下さいと誘導されているようであるぞ」
 興奮している犬養の側で、トゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)がぽかんと口を開けて、いった。
 トゥトゥには、そこが「聖域」だとはどうしても思われなかった。
 だが、犬養は、そんな疑念など微塵も持たず、こここそ全裸でなければ入れない究極の聖域だと、興奮に鼻息を荒くしている。
 他の生徒たちにしても、同様だった。
「わー、ねーさま。みて、みて!! ここがラゾーンだよ!! 古代のパンツが眠っている場所だもん!! すごい!! 本当にあったんだね!!」
 久世沙幸(くぜ・さゆき)は、両手を振り回して大はしゃぎしながら、ラゾーンの周縁を走りまわった。
「ふふふ。ついにここまできてしまいましたわ。さあ、沙幸さん、さっそくいきますわ」
 藍玉美海(あいだま・みうみ)は怪しい笑いを浮かべて沙幸の手を引くと、他の生徒たちが続々と入場している、即席でつくられた簡易脱衣所へと誘った。
 その脱衣所は、魯粛子敬(ろしゅく・しけい)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)によってつくられ、運営されているものだったのである。
「ねーさま。なに? なに? 何をするの?」
 沙幸は目をぱちくりさせながら、美海の後について脱衣所へと入り込んでゆく。
「さあ、トゥトゥ。俺たちも行くぞ」
 犬養もまた、トゥトゥの手を引いて脱衣所へ進んでゆく。
「な、何を!? 余はいい。余はいいといっておるだろうが」
 トゥトゥは慌てて逆らおうとするが、犬養は情け容赦なくその身体を抱え込んで、脱衣所へ放り込んでゆく。
「ね、ねーさま。な、何でみんな、服を脱ぎ出しているの? あっ、作業服に着替えるっていうことなの?」
 女子の脱衣所に入った沙幸は、周囲の生徒が次々に服を脱ぎ捨て始めるのに驚いて、尋ねた。
「くす。違いますわ。ラゾーンには、全裸でなければ入れないのですわ。さあ、沙幸さんも、さっさと脱いで欲しいですわ」
 美海は、手を口に当てて微笑みながらいった。
「えっ、全裸で!? そんなの聞いてないもん!!」
 沙幸はあまりのことに目を丸くしたが、自分から脱がないと美海に脱がされそうな気がして、観念して服のボタンに手をかけた。
「はあ。ねーさま。あまりこっちをみないで欲しいもん」
 沙幸は美海に背を向けて、はらりはらりと服を脱ぎ落とし始めた。
「ふむ。なるほど。全裸でなくては入れない空間とは。面白い。俺の肉体美を天下に知らしめるチャンスだ」
 犬養もまた、男子の脱衣所で周囲の生徒たちが次々に露にする筋肉質の体躯を目にして悦に入りながら、ニヤニヤと笑って自らの衣に手をかけていた。
「な、何で余まで全裸になる必要がある!? 普段からこのとおり半裸の姿であるぞ。このままで入れないこともなかろう? 古代のフンドシが欲しいのであれば、余のものをくれてやってもいいのだぞ、シンイチ」
 トゥトゥは、犬養がいそいそと脱ぎ始める姿を目を丸くしてみながら、必死に抗議した。
「何を往生際の悪いことを。普段から半裸なら、全裸になるのもたいして変わらんだろう。お子様のモノなど隠すに値しない。堂々とさらせばいいだろうが!」
 犬養は鼻を鳴らして、突っ立ったままのトゥトゥの腰布に手をかけると、いっきに引きずりおろした。
「や、やめろ。わからぬのか。半裸と全裸では天と地ほどの差があるのだー!!」
 トゥトゥの叫びも虚しく、腰布は犬養の手に奪いとられてしまった。
「さあ、出るぞ!!」
 一糸まとわぬ姿になった犬養は、トゥトゥの肩をポンと叩いて、ラゾーンにつながる出口へと促した。

「さあ、着いたわね。それじゃ、イケメンの下着を探すわよ」
 雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、全裸にワイシャツをまとった、「裸ワイシャツ」の姿でラゾーンに踏み入った。
 既に、他の生徒たちも生まれたままの姿でラゾーンに踏み入り、スコップで発掘を始めている。
「へえ。やはり、裸ワイシャツでも入れるものなのですね」
 自身は何も身につけていないベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)がいった。
「当り前よ。これは女神の聖なる衣装なの。ある意味、全裸よりも神聖な姿なのよ。ラゾーンが受け入れないはずないわ。それより、あなたこそ、何を煙幕張っているのかしら?」
 リナリエッタは笑ってそういうと、ベファーナの全身にまとわりついているモヤモヤに視線を向けて尋ねた。
「ああ、これですか。炎術と氷術を交互に使って霧を発生させているんです」
 ベファーナは、笑っていった。
 ベファーナのつくりだした霧は、その身体の詳細を包み隠し、衣服と変わらないはたらきを示している。
「そういうことじゃないわよ。何でボカすのかしら?」
 リナリエッタの追求に、ベファーナは肩をすくめた。
「まあ、一応男性の麗人キャラですから、イメージを保つためには仕方ないんですよ」
 そんなリナリエッタたちの脇をすり抜けて、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が堂々と身体をさらしながらラゾーンの土を踏みしめていった。
「さーて、この身体をみせつけながら、パンツを発掘しようかしら。あら? セレアナ、脱がなきゃダメじゃないの」
 自分と一緒に脱衣所を出てきたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が何も脱いでいないのに気づいて、セレンフィリティは口をとがらせていった。
「そ、それが、ちょ、ちょっと、トイレに行きたくなったので、それからにするわね」
 ガタガタ震えながらそういってその場を退出しようとするセレアナの肩を、セレンフィリティはとらえた。
「ダメ。トイレなら、全裸でもできるわよね? 人間は生まれたときはみんな裸なんだから、恥ずかしがる必要はないわ。そんな邪魔な布切れ、とっちゃいなさい」
 そういって、セレンフィリティはセレアナのレオタードに手をかけた。
「あ、あっ、いや、やめて、あっ」
 セレアナの抗いも虚しく、セレンフィリティは器用な手つきであれよあれよという間にセレアナのレオタードを剥ぎ取ってしまう。
「きゃ、きゃあっ!!」
 露になった肩をふるわせて、セレアナはしゃがみこんで、敏感な素肌が視線に侵されるのを防ごうとする。
「だーかーら、恥ずかしがらなくていいの! ほら、みんな脱いでるんだから」
 セレンフィリティはセレアナの両の脇の下に手を入れて無理やりたたせると、バンザイをさせてその身体を大公開させながら、ラゾーンの奥へと進んでいった。
 生徒たちはみな、思わず発掘の手を止めて、セレンフィリティたちの美しいナイスバディに見入ってしまっていた。

「うーむ。思った以上に、全裸になってしまう人が多いですね。ほとんどでしょうか。仕方ありません。郷に入っては郷に従えで、自分も獣化して全裸ということで入ってしまいましょう。まあ、もともとそういう役割が自分には与えられていたように思いますし」
 そういって、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は猛々しい野牛の姿へと獣化すると、鼻息を荒くさせながらラゾーンの中に入っていった。
「けっ、何がラゾーンだ笑わせんじゃねーよ!!」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)も、ブツブツいいながらラゾーンに踏み入る。
「フハハハハハハ、ただ全裸になってパンツを発掘することだけしか考えていないとは、笑止千万!」
 禁書写本河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)もまた、嘲笑を浮かべながらラゾーンに侵入する。
 アストライトと河馬吸虎。
 この2人は、最初から何かしら不穏な空気を漂わせながらラゾーンに現れていた。
 明らかに、発掘が目的ではないようである。
 そして、獣化したヴィゼントは、この2人の動きを警戒していようにもみえた。
「お前ら、聞け! いいか、俺はな、お前らがパンツパンツと浮かれているときに、服どころか血肉まできれいさっぱり剥いじまうような化け物と日々やりあってんだぜ?」
 そういうと、アストライトは、自分の話を聞いている人がほとんどいないことにも構わず、大きな水晶ドクロを取り出してみせた。
「これは、その化け物、裸SKULLの仕業で人間がこんな姿にされちまったものだ。どうだい、恐ろしいだろう? えっ? 裸SKULLなんて知らない? まあ、知らないのも無理はねぇ。いまはこうして力を封印してあるからな!」
 そういって、アストライトはジェヴォーダンのラクーンのマスクを掲げてみせた。
「俺はこのマスクを奪って奴の力を抑えたんだ。だが、それが限界だった。いま、奴は、力を取り戻そうと俺のことをつけ狙ってやがる。一介の人間のフリをして、だ。その人間の名は、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。ここにもきてるだろうから、本当に度胸があるってんなら奴を倒してみせるんだな。おっと、このマスクを狙うのは真の生命知らずだぜ。もしものことがあったら、本当に首持ってかれちまうかもなぁ」
 アストライトが得意げな口調で、そこまで話したとき。
「そうね。首を持っていこうかしら」
 リカインの声を耳にして、アストライトは思わず振り返っていた。
「な!? もうきたのか。こ、ここはラゾーンだぞ。脱がないのか?」
「なーに、バカなこといってんのよ。何がラゾーンだと嘲笑っていたお調子者が!!」
 リカインが近づくと、アストライトはたじたじになって後ずさる。
「オー! これが裸SKULLですか? ワオ! キュートですね。イッツ・ショータイム!! 成敗しまSHOWか?」
 アストライトの話を信じたルイ・フリード(るい・ふりーど)が、腕の力こぶをモリッと盛り上がらせて微笑みながら、リカインに爽やか一本勝負を仕掛けようとする。
 そのとき。
「ちょっと待ったぁ!! 面白そうだな。俺が裸SKULLの相手をするぜ!!」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)がルイの肩をがしっとつかんでとどまらせると、ルイより先にリカインに向かっていこうとした。
「ラルクさんですか? オー、あなたの肉体美、素晴らしいですね!! ホレボレしますよ。ハグチュー!!
 ルイは、ラルクに邪魔されても怒る様子はみせず、爽やかに微笑むと、ルイにまさるとも劣らぬ、全身筋肉の塊といえるラルクの剛の体躯を、激しく抱きしめようとした。
「お、おっと、そういう展開は、いまはとりあえずいいぜ!! まずは裸SKULLと勝負だ!!」
 ラルクはルイのハグの強さに驚きながらも、その身体を押しのけてリカインに殴りかかろうとした。
 そこに。
「危険ですわ。このキャプテン・フォークナーが魔物を退治しますから、ラルクさんたちにはさがって欲しいですわね」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が、ラルクの前に立ちふさがっていった。
「うん? お前まで裸に?」
 ラルクは目を丸くした。
「おかしいかしら。裸は、男より女の方がやっぱり美しいと思いますわ。さあ、この姿で、男よりも男らしいところをみせてあげますわ!」
 セシルは、意気揚々といった。
「もう! なーに、ホラ吹きのいったこと信じてんのよ。誰が妖怪ですって? 裸SKULL? 何よそれ、アライグマじゃないの? 私の超感覚はアライグマというよりタヌキなの!!」
 リカインは頬を膨らませてプンプンしながら、アストライトの首根をつかんで、引き上げた。
「お、おわー!! 何をするか!! 裸SKULL!! このマスクはお前には決して……」
「だーかーら、何でそのマスクで私の力が封印されちゃうのよ!!」
 リカインは、アストライトからジェヴォーダンのラクーンのマスクを奪い取ると、懐にしまいこんだ。
「ああ!! みたか、お前ら!! 俺の話をホラだとかいいながら、このマスクを奪うこの執念!! こいつはやっぱり裸SKULLなんだあ!!」
 絶叫するアストライトの顎に、リカインの拳が炸裂した。
 ボゴーン
「あ、あがああああ!!」
 血を吹きながら、天高く吹っ飛ばされるアストライト。
「もう! このマスクを奪ったのは、2度とこういうことに使われないようにするためよ。もとはといえば、このマスクは」
 怒りがおさまらず、ブツブツもらすリカインに、セシルが立ち向かっていった。
「あなたは本当に、危険な妖怪ではないの? でも、確かにマスクを奪ったわ。やっぱりシメた方がいいんじゃないかしら?」
 セシルは、リカインの攻撃を警戒しながらにじりよっていく。
 そこに。
「ホーップ、ステーップ、ランランラン!! セシルさん、それは違いますよー」
 異様なテンションでスキップしながら藤原優梨子(ふじわら・ゆりこ)が現れると、リカインをかぶようにセシルに向き直った。
「お嬢、ここには俺たちの求めるお宝はなさそうだぜ? ちょっと寄り道かい?」
 優梨子の後から現れた宙波蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が、ラゾーンの人々を珍しいものでもみるような目でみながら、当惑がちにいった。
「藤原さん! こんなところにも出てくるなんて。いえ、こんなところだからこそ、かしら」
 リカインは、優梨子をみて顔が明るくなった。
「あなた、違うって、どういうこと?」
 セシルは、優梨子を睨んだ。
「そのマスクは、もともとは私がプレゼントしたものです。何を隠そう、私は干し首研究家ですから! 裸SKULLの正体については口をつぐみますが、少なくとも、リカインさんは邪悪な存在ではありませんよ。けど、彼女の超感覚は、アライグマに似ていますね」
 そういって、優梨子はホホホと笑った。
「だから、アライグマではないわ。私の超感覚は、タヌキですよ、タヌキ!! ぽんぽこぽん!!」
 リカインは、無理におどけて、タヌキの仕草をしてみせた。
 ここまでやらなければ、アライグマのイメージを払拭できそうにはなかった。
 優梨子は何もいわず、やはりホホホと笑っている。
 今日はいつもよりテンションが高いようだ。
 シボラに眠る古代の神秘が、優梨子を興奮させているのだろうか?
「そう。まあ、リカインさんより、あなたのような存在の方が遥かに邪悪そうですものね。マスクをプレゼントしたというあなたの話を信じるわ。けど、リカインさんは、確かにアライグマに似てるわね」
 セシルは、何となく納得した。
「だーかーら、アライグマじゃないって!!」
 リカインがムキになったとき。
「フハハハハハ、ノーパンか否かだと? パンチラかモロだと? 笑止!! 神の造りし肉体という美の前に人の作りしモノなど文字通り飾りに過ぎぬわ!!」
 退場したアストライトに代わって、今度は河馬吸虎が異常なテンションになってきた。
 リカインはため息をついて、河馬吸虎に向かっていく。
「だがしかし! 飾りなくして人は満足に生きていけぬこともまた真理。 すなわち!」
 河馬吸虎は声を張りあげた。
「重要なのは! ここぞという場面で全てをさらけ出せることにほかならんのだ! 真の裸族でもない奴がノーパンだけ謳うなど反吐が出る! パンツパンツ言ってるのはマネキンでも眺めていろ! 愛するべきはヒトでありパーツではない! 服を着ているならばまるごと愛せ、そして等しく生まれたままの姿を愛せ!」
 河馬吸虎は特に、熱心にスコップを使って発掘野郎と化している国頭武尊(くにがみ・たける)に向けて語っているようだった。
「うん? 今日はオレがよく批判される日だな。パンツはしょせん飾りのモノだって? はっ、だからどうしたってんだ。マネキンでも眺めてろって、生身の人間がつけてるんだから価値があるっていうのに。まあ、無視してひたすら発掘だ!!」
 国頭はちらっと河馬吸虎をみただけで、発掘に専念している。
 そして。
「おいおい、裸王のオレをさしおいて、ずいぶん偉そうに語っているじゃねえか? 生意気いってねえで自分も全裸になって生のカラダで勝負してみろよ!!」
 天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)もまた、河馬吸虎の話にムッとしたのか、全裸の胸を堂々とさらして、仁王立ちで腕組みをして河馬吸虎を睨みつけていた。
「パンツの外面にこだわることしか知らないひよっこどもにパンツ発掘など百年早い!! 俺様が残らずアシッドミストで昇華させてくれよう!! 覚悟するがよい!!」
 河馬吸虎の講演はなおも白熱し、ついに天誅を決すると周囲の生徒たちに術を仕掛けるべく両手を広げだした。
「もう、空気読まないで自分の世界に入ることしか知らないんだから!!」
 リカインは慌てて駆け出すと、河馬吸虎の顔面に力強いパンチを叩き込もうとした。
 そのとき。
 ピカッ!
 天から、神の怒りとも受け取れる雷の一撃がほとばしったかと思うと、河馬吸虎の全身を焼き打ちにしていた!!
「あ、あぎゃああああ。ぶすぶす」
 真っ黒こげになった河馬吸虎はうめいて、倒れてしまった。
「まったく、黙ってみていれば、ろくなことをしませんね。歴史遺産破壊だけはやめて欲しいんですけどね」
 野牛の姿のまま、ヴィゼントは自身が放ったライトニングウェポンで河馬吸虎が黒こげになったことを確認すると、再び鼻息を鳴らして、ラゾーンの土を踏みしめて走っていった。
「ヴィゼント。いざというときのためにきてもらっていて助かったわ。さあ、これで! 発掘を続けようかしら。みなさんも。藤原さん、ありがとう」
 リカインは、ホッと息をついて、周囲の生徒に声をかけた。
「ホホホ。礼には及びません。それでは、私たちは、お宝と干し首を探して、遺跡の方に行くとします。もしかして、風が向いたら、またお会いするかもしれませんね。それでは。ホーップ、ステーップ!!」
 優梨子はうなずくと、再びステップを踏みながらラゾーンから去っていった。
「よし、今度こそお宝だ!!」
 宙波も、慌ててその後を追う。
「おう。面白ぇ。オレも遺跡に行ってみるぜ!! もちろん全裸でなぁ!! 誰か文句あるか? ハーッハッハッハッハッハ!!」
 鬼羅もまた、豪快な笑い声をあげると、優梨子たちが向かったのと同じ方角に駆けていった。