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【2021クリスマス】大切な時間を

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第28章 守ってきたもの

 日中、ヴァイシャリーの街で、一緒に買い物を楽しんだ後。
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、予約していたフェリーへと神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を誘った。
「ん? もしかして貸切?」
 荷物を預けてフェリーに乗り込んだ優子は、他に乗客らしき人がいないことに気付く。
「そうよ。船員はいるけれど、邪魔にはならないはず」
 行きましょうと、亜璃珠は船内へと誘う。

 ヴァイシャリーの運河から、湖へ出て。
 フェリーはゆっくり、街の周囲を回っていく。
 シャンパンで乾杯をして。
 クリスマス料理やケーキを楽しみながら、景色と会話も楽しんでいく。
「なんだかんだで、クリスマスを2人で過ごすことってありませんでしたわね」
「この時期は忙しないからな」
「そうそう」
 亜璃珠は過去のクリスマスを思いだし、思わず深いため息をつく。
「一昨年は分校の運営で忙しかったころだし、去年なんか戦争真っ盛りだったし」
「そうだな」
 と、優子も苦笑した。
「今年も、落ち着いて迎えられたとは言えないけど」
 シャンパンを飲み。息をついて、優子は背もたれに体を預けた。
 外に目を向ければ。
 ちらちらと輝くイルミネーションの光が見える。
 穏やかな目で、ヴァイシャリーを見る優子に。
 亜璃珠はフォークを置いて尋ねてみる……。
「ホントに私でよかった?」
 亜璃珠の言葉に、優子が振り向く。
「いえ、野暮ったいのは分かってるんだけど……だって、久しぶりにまともに過ごせるクリスマスなのよ? アレナも、分校の皆もいたし……ゼスタはまあいいか」
 グラスをとって、シャンパンをわずかに飲み、亜璃珠は言葉を続ける。
「特にアレナはあんなことがあったばかりだし……あまり聞いた事はないけど、家にもあまり顔出せてないんじゃないかしら?」
「アレナとは明日会えると思う。今日は彼女も沢山誘いがあったみたいだから、問題ない。家族とは定期的に連絡をとってるから、こちらも問題はない。ゼスタからはなんかプレゼント届いてたが、まだ開けてない。どうせまた……」
「どうせまた?」
「何でもない」
 優子はまた苦笑した。中身の想像がつくらしい。
「実家からは何か届いたのかしら? 服なんかは娘を案じて、お母さんが送ってくれそうよね」
「母はいない。父は仕事で忙しくしているし、兄2人も既に家を出てるから」
 さらりとそう答えた後で、優子は亜璃珠のグラスに、シャンパンを注いだ。
「キミから誘われなかったら、多分今日は訓練に出ていた。軍用以外のコートを買う時間も割けなかっただろうし、アレナや皆へのプレゼントもまともに選べなかったと思う」
 だから感謝してる。今日は素敵な休日をありがとうと、優子は亜璃珠に微笑んだ。

 料理を食べ終えて一息ついてから。
 2人はオープンデッキへと出て、夜景を楽しむことにした。
「ずっと守ってきたものよ」
 船内から見るよりも、よりヴァイシャリーが美しく見える。
「もう何年も過ごしている街だけれど、こうしてこの時期の夜景を外から見ることはなかったな……」
 優子は手すりを握りながら、静かに夜景を眺めていた。
「……」
 優子の半歩後ろに立っていた亜璃珠は、景色と。景色を見る優子の姿を見ていた。
 ファーのついた黒いレザージャケットに、白いパンツ。厚いブーツ。
 今日の彼女は、バイカーのような格好だった。
 仲間として、友として。
 手を引いたり、肩を貸したりは普通にしてきたけれど。
 純粋に――抱きついたり、スキンシップを試みたら、どんな反応をするんだろう。
 彼女の周りに、そんなことをする女性は、いなかっただろうから。
 亜璃珠は優子の後ろに回り込むと、突然彼女に抱き着いてみた。
 瞬間。優子の身体が緊張し、腕を背の亜璃珠に回し、腰の武器に手を当てる。
「敵襲か?」
 優子の口からでた言葉に、亜璃珠の身体からガクリと力が抜ける。
「優子さん……あなたという人は……」
 違うわよ。と、亜璃珠は優子の両腕をも包むように抱きしめ直し。
「スキンシップよ、スキンシップ」
 彼女の背に頬を当てた。
「こ、こら。背後から襲うな」
 優子はちょっと困惑気味な声でそう言う。
「えー、だって寒いんだもーん」
 亜璃珠は構わず頬をすりすり。
「背中は冷たいだろ。私も暖まれないし」
 優子は亜璃珠を振りほどこうとするが、亜璃珠は優子を離さなかった。
 もう少し、このままでいたくて。
「前に、言ったことがあるけど……亜璃珠も私に甘えてくれていいんだぞ? その方が嬉しいし、スキンシップも歓迎だ。ただ、キミの場合、普通の親子や師弟で交わされるスキンシップ以上のことを求めてきそうで、それは心配なんだけど」
 優子はなんだか混乱気味だった。
「ただ寒い、だけなら」
 優子は強引に亜璃珠の腕を解き、自分の前に引っ張ると前から亜璃珠を覆うように抱きしめた。
「私だって、キミで温まりたい」
 くすぐったくなるような声が亜璃珠の耳に響いた。
 少し、迷ったけれど。
 亜璃珠も優子の身体に手を回して、彼女の温かさを感じた。
「来年もまた、こうやって会えると思う?」
 そう聞きかけて。優子の返事を待たずに亜璃珠は言いなおす。
「……違うか、会いたいな」
 来年だけじゃなく。
 10年後も、20年先でも変わらずに。
「互いに健在で、キミの心が変わらなければ、その気になればいつだって会える」
「それなら、今日のように……多少強引にでも、連れ出さないと、ね」
 身体を離して微笑み合い。
 一緒に、宝石箱のように輝く、ヴァイシャリーの景色を見る。
 こんな時間が、また訪れることを願いながら。