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【2021クリスマス】大切な時間を

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第29章 パジャマパーティ

「寒かったわね〜。暖房つけるわね」
 街で沢山買い物をして、リーア・エルレンは、友人の邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)(壱与)と共に、イルミンスールの外れにある自宅に戻った。
「ではわたくしは、お茶の準備をいたします。台所の場所は以前のままでございますよね?」
「うん」
 壱与は緊張しつつ、キッチンへと向かう。
 リーアの家は、去年訪れた時とさほど変わりはない。
 だけれど、去年は入らなかった部屋。
 そう、お風呂や、寝室にも今日は入る予定だった。
 湯呑と急須を用意して。
 皿にお菓子を沢山乗せて、お盆の上に乗せて。
 壱与は落とさないよう注意をしながら、リビングへと歩く。
「お届け物でーす!」
「はーい」
「わたくしが出ます。最近降る米サギなるものが流行ってるそうですから。用心に越したことはございません!」
 出ようとしたリーアにお盆を預けて、壱与は玄関へと出る。
「こちらの家は女性の一人暮らしではございませんよ」
 そんなことを言いながら、玄関のドアを開けて、配達員の青年の手から配達物を受け取る。
「ん? エリスからでございますね。あ、頼んでいたケーキでございますね」
 それは、パートナーの清良川 エリス(きよらかわ・えりす)が送ってくれた、手作りのケーキだ。
 エリスは配達員に礼を言うと、ケーキを持って居間へと飛び込んだ。
 そして、壱与は持ってきたお泊りセットの中から、パジャマを取り出す。
「これを着るでございますよ」
「うん、パジャマパーティ、するんだよね」
 リーアはくすくす笑いながら、お揃いのパジャマをとってくる。
 それはホワイトデーの福引で、一緒に手に入れたペアパジャマなのだ。

 ケーキとお菓子と飲み物だけを用意した、親友2人きりのクリスマスパーティ。
 お風呂に入って着替えた後、リーアに淹れたての緑茶を勧め。
「火を点けますよ。明かりは不要でございます」
 壱与は白くて太い蝋燭に火を灯すと、その他の明かりを消した。
 ……ちょっと変わった雰囲気のクリスマスパーティだ。
「わたくしの好みに作ってもらったものですから、お口に合うかどうか」
 壱与はケーキを一切れ、リーアの皿に入れる。
「クッキーもございます」
 刺激物が苦手な壱与の注文で作られたケーキは、甘さがかなり控えめだった。
 クッキーは木の実や粟稗の粉で作られており、野性味あふれる、古代風の味だ。
「なんか懐かしい味ねー。健康的というか、お茶より青汁が合いそうというか! あ、買ってきた方は作ってくれた方へのお土産にどうぞ」
 リーアは買ってきたお菓子が入った袋を、エリスとエリスのパートナーへのお土産にと、壱与に渡した。
「壱与へのプレゼントは別に用意してあるのよ」
 リーアが壱与にと用意したのは、フクロウの形をしたマスコット鈴だった。
「福を呼ぶ鈴よー。りんりん可愛らしい音がなるの」
 言って、リーアは突如、壱与の髪にその鈴を結びつけた。
「福鈴でございますか……ん?」
 髪に結び付けられた鈴を見ようと首を振ると、りん、と音が響いた。
「うん、可愛い、可愛い」
 可愛らしい音と壱与の姿に、リーアが満足げに微笑む。
「寝る前には外さないと、寝られないでざいますよー」
 リーアをもっと喜ばせようと、壱与は首をぶんぶん振って、音を鳴らした。
「ふふっ、ね、せっかくだからここに畳と布団を敷いて、休まない? 夜通し話をして、眠くなったら寝るの」
「いいでございますね」
 再び、2人は準備を始めて。
 床に畳を敷いて、布団を敷き。
 いつでも眠ることが出来るようにして。
 それから、同じ格好で。仲良くお菓子とお茶を飲みながら、今日の事や。
 昔話や、最近の若者についてなど、楽しく会話を続けていく。

 結局、話が止まらなくて、2人とも明け方まで眠らなかった。
「こちらを、このように……!」
 リーアが眠った後、壱与はこっそり起きて、リーアに押し付けておいた大きな靴下の中に、プレゼント――翡翠の勾玉を押し込んでいく。
「翡翠はわたくしが治めていた国のとても珍しい特別な石なのでございますよ、それで作った勾玉は滅多な事ではさし上げたりしないのです。ですがリーアには特別に毎年さし上げてもよろしいのでございますよー」
 そう、眠っているリーアにささやいて。
 彼女の隣で横になる。
 寝顔を見て微笑んで。
 それから、同じ夢の世界に旅立っていく……。