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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「カイ! アタックよ!!」
 朱里の呼びかけに、【荒ぶる力】で力を高めたカイが弾丸のようにゾンビに突進する。
「ワオオォォーーン!!」
 突っ込んだカイがゾンビの土手っ腹に風穴を開ける。
「やったわ! 流石パピーね!!」
「犬の名前間違ってない?」
 衿栖が突っ込むが朱里はスルーしてゾンビに向き直る。
「モンスターはどんなのがいるのかと思ってたら、ゾンビにガーゴイル……なんだぁ雑魚ばっかりじゃん、ちょっとガッカリしたかな〜」
 ゾンビを倒したカイが空をバックジャンプで朱里の足元に戻ってくる。
「気を抜くな! 朱里!! 先ほど私が耳にした噂では、ドラゴンが出るらしい」
「ドラゴンも? ふぅんドラゴンゾンビとかだったら歯応えあるかもね。殺る気でたかも!」
「朱里、カイ! トラップには気を付けましょうね?」
 衿栖が言うと、カイは自信のドヤ顔で告げる。
「大丈夫だ! この階のトラップは殆ど解除した。後は、素人でもわかる程度のものしかない!」
「本当に今回はヤル気ね、カイ」
「当たり前だろう? 家族を探す私の情熱はゾンビ……否、ドラゴンや魔王軍と言えども止めることは出来ないのだ!!」
「カイ。おまえとはいい酒が飲めそうだ」
 カイに声をかけたのは、衿栖と同じく『冒険屋』に所属する柊 真司(ひいらぎ・しんじ)であった。
「真司、キミも家族を探すと?」
「家族ではないが、それに近いのかもな……おっと!」
 黄金の銃、呪魂道を左手に持った真司が接近してきたゾンビに向かって狙い撃つ。ゾンビの頭が吹き飛び、歩みを続ける体が真司の傍に倒れる。

 一方、卑弥呼の酒場では、客席にいた客達が、衿栖から出されたクイズに答えていた。
 急遽、司会をやる事になったのは、レオンから頼まれた衿栖と同じ『冒険屋』であるメティスであった。
「では皆さんのお答えをどうぞー?」
 フリップに『大根』と書いたのは三枚目な感じの男である。
「やっぱり、地下に生えるっていったら大根でしょう?」
「……大根て、一応葉っぱありますよ? 地下って光届かないですけど……」
「ぅあ!!」
 短い悲鳴を上げた男に続いて、UFOの様な形状の黒髪を持った和装のマダムが、メティスに答える。
「はい、一生懸命メモを取られていたそちらの方は、キノコ?」
「ええ、キノコって日陰で、しかも木の根の近くに育つでしょう?」
「なるほど……余程自信があるみたいですね。スーパーみっちゃん人形で勝負ですか」
 各回答者は初めにネコ耳少女の人形を4つ貰って、これの最終的な数で勝敗を決める仕組みである。ノーマルはみっちゃん人形だが、スーパーみっちゃん人形で正解するとみっちゃん人形3つに引き換えられる。『スーパー』の由縁は、スカートから黄金のパンツがパンチラしてる点である。
 皆の回答が出揃ったのを確認するメティス。
「それでは、正解でーす」
 スクリーンが再び中継映像と繋がる。
と、同時に眠そうな小柄の少女の顔がアップになる。
「違うでしょ! 真司!!」
 体内から取り出された流体金属(ナノマシン)で構成された、自在に変形するハイドロランサーでお団子よろしくガーゴイルを串刺しにしていたリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が真司に振り返る。
「私達は探しているのは、このダンジョンの何処かに生えてるって聞いた『まぼろしのキノコ』でしょ!」
「それのせいで、一人迷子になっているんだぞ?」
「だから、キノコと同時進行でヴェルリアを探すって決めたでしょう? あー、鬱陶しいゾンビ達ねぇ……ドラゴニックアームズ!!」
 リーラの身体の一部が魔鎧状態と同じ液体金属に変異し、銀色の龍翼を作り出す。龍翼と同時に両肩から火炎放射機を口に内蔵したドラゴンの首、臀部からドラゴンの尻尾が生えたリーラが、ドラゴンの首からの火炎放射でゾンビ達を一気に焼き尽くす。
「これでこの階はお掃除終了っと!! ……ん? 衿栖どうしたの?」
 気づくと、衿栖がマイクをリーラに向けている。
「あのぅ、ヴェルリアさんの件と言うのは?」
「勝手にダンジョンに先行して迷ったって話よ」
「俺が話す……」
 マイクに向かって答えるリーラをグイッと真司が押しのける。
 その頃、卑弥呼の酒場のメティスは正解を「キノコ」と答え、鉄子がガッツポーズをかました反動でヅラがズレる決定的瞬間等があったものの、大半の視聴者の興味は、『ヴェルリア』の方へと移っていた。
「話の発端は俺達がこのダンジョンに潜る前なんだ……」

「【風の便り】で、このダンジョンの何処かに「まぼろしのキノコ」が生えてるって聞いたのよね」
「それは凄いな。じゃ、俺はここで……」
「でしょ? だから日本酒の一升瓶片手に真司を連れて冒険屋の皆とダンジョン攻略しながらキノコを狩っていくつもりよ……って真司帰るつもり?」
 リーラがダンジョンの入り口で回れ右をした真司の衣服を掴む。
「当たり前だ。リーラに強引に誘われてここまで来たが、108階のダンジョンとかそんな面倒な事に付き合っていられるか。帰りはしないが、悪いがここで待たせて貰う」
「いいのかしら? 聞いた話だとヴェルリアらしき娘が一人でダンジョンに向かったらしいけど?」
「……ヴェルリアらしき娘が一人で先に入っていっただと? 『らしき』ってのはどう考えてもアイツで確定って事だろう!?」
 直ぐ様、真司は【精神感応】てヴェルリアに呼びかけを試みる。
「ヴェルリア、おまえ、何処にいるんだ?」

 リーラの言っていた『まぼろしのキノコ』を求めて一足早く潜入したヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は、薄暗いダンジョンの中を【光術】で小さな光を呼び出して明かり代わりにしながら、モンスターとの接触をできるだけ避けながら進んでいた。
「あ、真司!」
 【精神感応】で呼びかけられたヴェルリアが弾んだ声を出す。
「無事か?」
「私は無事ですよ。今は、ダンジョンの地下……あれ? 何階でしょう、ここは……?」
「地下って事は、やっぱり潜ってるんだな?」
「はい、なんかリーラがダンジョンに生えてるらしい、『まぼろしのキノコ』が食べたいと言ってたので一足先に行ってキノコを探していたんです」
「ダンジョンに居るのがわかっただけでいい。モンスターに襲われない限りはそこを動くな? いいか?」
「え……で、でもまだキノコを見つけてません」
「俺とリーラが直ぐに助けに行く! いいな、動くなよ?」
「は、はい!」

 ヴェルリアとの交信を終えた真司がリーラに向き直る。
「うやら本当にダンジョンに行ったみたいだ……面倒だが仕方ない。一緒にダンジョンを攻略しながらヴェルリアを探す事にしよう」
「来るの? じゃあ張り切ってキノコ狩りに行きましょうか!!」
「ヴェルリアが先だからな? 【精神感応】でヴェルリアとお互いの位置を確認しながら合流を目指そう」
 リーラがが喜ぶ傍で複雑そうな顔を見せる真司であった。

 真司の話を聴き終えた衿栖が、心配そうな顔をする。
「そんな事があったんですね……」
「そして、ついさっき、【精神感応】の応答が無くなったんだ……」
「ま、まさか!?」
「ヴェルリアは極度の方向音痴だから、余計に心配なんだ」
「例えヴェルリアさんが方向音痴でも、ダンジョンの中の構造は簡単ですし、各階段は一箇所しかありませんよ?」
「隣の家に醤油を借りに行くのに、新幹線を利用するのがヴェルリアなんだ」
 衿栖がカメラに向かって呼びかける。
「皆さん! ヴェルリアさんを見つけたら、是非こちらか、卑弥呼の酒場のレオンまでご連絡を!!」

「魔王軍との踏破競争の他にも、より一層急ぐ理由ができたな」
 魔法使用時や感情が昂ぶった際に瞳から紅い魔力が零れ出る為、例え夜でも地下ダンジョンでもサングラスを外さないレン・オズワルド(れん・おずわるど)が一同に呼びかける。
「レン、おまえ何処に行って……何だ、その荷物は?」
 両手に買い物袋をぶら下げた状態のレンがフッと笑う。
「あまり荷物は持ちたくはないのだが、最後は皆で旨い鍋を食うという約束もあるんでな」
 両手に買い物袋、そして背中に青いロングウェーブの少女、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)を背に背負ったレン。その姿はどう見ても買い物帰りの主婦……いや、主夫である。
 買い物袋を地面に一旦置き、ダンジョンに入る前にメティスから貰った幾つかの赤い丸印を付けたダンジョンMAPを開くレン。
「地図?」
 衿栖がレンの手元を覗き込む。
「お買い物マップだ」
「……は?」
「メティスに何か罠の位置を教えてくれたのかと聞いたら、鍋の食材になりそうな野草の群生地だそうだ。その他に何階にワインセラーがあるかとか、ダンジョン内に開かれている露天商からの買い物まで色々とお使いを頼まれたんだ」
「そ、それは大変ですね」
 地図を確認したレンは、再び買い物袋を持つ。
「では、俺はノアと共に先を急ぐことにしよう」
「ヴェルリアも道中で見つけたら……」
 真司の言葉を遮るレン。
「わかっている。ヴェルリアも背負って駆け抜けるだけさ」
「既に、背中は満席だと思いますけど……?」
 衿栖がレンの後ろにぶら下がるノアを見つめる。
「前が空いているさ」
 言い終わらない内にレンは【ゴッドスピード】と【妖精の領土】を生かし、駆け抜けていく。
「ん?」
 サングラス越しに、前から迫ってくるガーゴイル達が見える。
「急いでいるんでな……押し通る!!」
 両手に買い物袋をぶら下げた状態のレンがガーゴイルの中を高速で縦横無尽に駆け抜けていく。繰り出された攻撃も、相手を倒すことよりも攻撃をかわすことに集中しているので、最小限の動きでくぐり抜ける。たまに、唯一自由が利く足で、ガーゴイルを壁蹴りのようにして加速していくレン。
 尚且つ、テレパシーで居酒屋待機組みのメティスに連絡するのも忘れない。
「何!? ゴボウもあるだと……く、確かに鍋に細切りにしたゴボウは欠かせないな! 移動速度に支障が出ない長さのモノを持って帰るさ!!」
 振り落とされないようしっかり張り付いている背中のノアがレンに話しかける。
「今夜の忘新年会! 私もギルドマスターとして非常に楽しみです!」
「ああ、そのために今があるのだ」
「はい、ん!?」
【女王の加護】を持つノアが、「ビビッ」と反応する。
「レンさん、前にトラップです!!」
「了解した!!」
 レンがハードルを飛ぶ要領で不自然に隆起した地面を大きく跳躍して、駆けていく。