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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

 (数日前……)
 ジークフリートによって、集結させられた魔王軍の面々は、魔王ジークフリートから衝撃の発言を聞かされていた。
「ふははははっ、金がないッ! 栄光ある魔王軍の諸君、バイトに励もうじゃないか!」
「……は?」
 一同が集められたのはハンバーガーのファーストフード店。
 オーダー時に、「ポークバーガーと水!」と堂々と1コイン注文をしたジークフリートが席につくと、直ぐ様一同の前に『蒼木屋! 年末ツアーコンダクター募集!』と書かれたチラシを置く。
「アルバイトですか?」
 ルイがジークフリートに尋ねる。
「うむ、金がないからな……ツアコンのバイトで一発稼ぐとしよう」
 ハンバーガーに包みをカサカサと開けて食べるジークフリート。
「久々に魔王さんに会ったら貧乏って。威厳も何も無いですね」
 ポテトを食べながらルビーが朱鷺が呟く。
「違うでしょう、朱鷺。きっとこのダンジョンには金銀財宝がある。だからこそ魔王は我ら軍勢で一気に攻め落とす算段なのでしょう? ね?」
 ルビーに問いかけられたジークフリートは笑って首を横に振る。
「生憎。そういったモノではない。ただ純粋にツアコンをやるのだ!」
「……」
「ジーク、なぜ、ツアコンを?」
 セラが手を挙げる。
「なぜツアコンをやるかって? ダンジョンと聞いて胸が騒がぬ魔王がいるものかっ! この俺、俺達魔王軍が大いに盛り上げてやろうではないか!」
「つまり、アトラクションの一環として参加する、と?」
 朱鷺の問いかけに、ジークフリートが頷く。
「おお!」
 ルイが嘆く。
「ジークさん、、セラがお世話になっている魔王軍の財政が厳しい状況だと私今初めて知りましたよ! 前向きに財政状況を改善しようとするその姿勢! 実に良いです!」
「ふっふっふ、世界を手にするためにはまず資金が必要だ! 経済観念が無い魔王等、いつか部下をリストラせざるを得なくなり、勇者に滅ぼされるからな!」
「薄々気づいてたけど、そこまで財政が厳しいとは思わなんだ。活動資金がないと行動に制限あるもんねー、セラのお小遣いにも影響出るし……」
 セラも参加を表明する。
 この時、朱鷺とルビーがジークフリートのコップの中身が水であると知る横で、ジークフリートの言葉に感激したルイが言う。
「セラがお世話になっているのならば私もお手伝い致しましょう! なぁに大船に乗ったつもりでいて下さいな♪ して、私の役目はなんでしょう?」
「ルイ、感謝しよう。朱鷺達はどうだ?」
 ジークフリートが朱鷺とルビーを見る。
「ルビー、どうします?」
「今回も楽しめそうだから、参戦するわ。と言っても我は朱鷺の邪魔にならない程度に遊ばせて貰うだけなんだけど」
「じゃ、朱鷺達も参加します」
「よし、これで魔王と配下の四天王がダンジョンの最深部で戦う、という図式が出来上がったな!」
「待って、ジーク。参加者達をずーっと地下で待つの?」
「違うな。最初は俺達はただのツアコンのフリをして冒険者たちを最深部まで安全に誘導するのだ。そして、最後に正体を明かし、ラストバトル! というわけだ」
「至れり尽くせりね」
 朱鷺がポツンと呟く。
「じゃ、ルイは一緒に居たら途中で遭難の可能性大だから、配置はゴール手前にしてセラはジークと一緒に行動かな」
 セラの提案をルイがあっさり承諾する。
「ふむ、私は最下層ゴール手前にて準備をしつつ、ジークさん達魔王軍&ツアー参加者を待ち、一緒にラストバトルを盛り上げれば良いのですね、よしきた! しっかりとウォーミングアップしてお待ちしております!」
「朱鷺は記録として撮影をするわ。あとでDVDにして売れば記念品として買うでしょうし。……まぁ、お金はあっても困るもので無し、ヤルからには手は抜きませんよ」
「おお! 良いアイデアだ!!」
「それじゃ、我は護衛と記録が揃ってるからマッパーやります」
「うむ、頼んだぞ! ふはははっ、当日が楽しみだな!!」
 各自の割り振りがすんなり決まったジークフリートは、当日の衣装や装備等を素早く指示すると、上機嫌で夕日の中を自転車で家へと帰っていくのであった。

 話は戦闘中の魔王軍に戻る。
「ぐ……や、やるな! 冒険者ども……俺達をここまで追い詰めるとは……」
 片膝をつくジークフリートにあわせて、ルイや朱鷺も「ハァハァ」と荒い息をつく(フリをする)。
「いよいよ……俺の真なる力『大魔王モード』を見せねばならぬな!」
「何だって!?」
「さぁ、楽しませてくれ……ふはははっ!」
【鬼神力】を使うジークフリート。体が2倍になり頭に2本の角が生える。
「で、デカイ!?」
「この第2形態からは【リジェネレーション】で体力も自動回復していくから気をつけたまえよ……ふはははっ、知っているか? 大魔王の恐怖からは逃げられないのだ!!」
 キリッと真面目な顔で助言を与えるジークフリートにあわせて、魔王軍の面々も第2形態へと移行していく。式神ではなく、本人が参戦する朱鷺と、フラワシとW出演のルビーが【エンドゲーム】で先制攻撃を仕掛けると、セラは召喚獣のウェンディゴ、フェニックス、サンダーバードを追加召喚する。
 ジークフリートは、参加者達を【鬼眼】で睨みつけ威圧すると、「濁流に飲み込まれよ!」の掛け声とともに『水遁の巻物』を使用して鉄砲水を召喚する。
「うわぁぁぁーーー!?」
 参加者達が鉄砲水で押し流される中、
「ハーッハハハハ!! いい波です!! 私と泳ぎませんか?」
 鬼神力を開放したルイがジークフリートの召喚した鉄砲水の上を、その辺りにあった木の板を使い褌鬼によるサーフィン突撃を仕掛ける! もちろん満面の笑顔で!
「おおぉーーとっ、交通事故発生ですねー? お気をつけ下さいねー? ここでターンッ!」
「うぉあああーー!?」
 水の流れの勢いのまま、華麗なサーフインで、水の流れに抵抗する参加者に向かって攻め込んだルイが、次々と跳ね飛ばしていく。
「どうした? それで終わりか、冒険者ども!! ……もっとしっかり攻めてこい! そうだ! フェニックスにつかまって水をかわすのは良いアイデアだぞ!!」
 【歴戦の立ち回り】で参加者を(優しく)ぶっ飛ばしていた朱鷺が、圧倒的な攻撃力を誇る自分達に気付き、ジークフリートに耳打ちする。
「魔王さん、ちょっと力をセーブしないと、本気でこの人達全滅するわよ?」
「ぬ……それは困るな」
 ジークフリートは参加者達に呼びかける。
「ふはははっ、【リジェネレーション】で体力も自動回復していくと言ったが、あれは嘘だ!! そして、俺を倒せば他のヤツらも魔力供給を絶たれて死ぬらしいぞ!!」
 ジークフリートの優しい助言に、最後の力を振り絞った参加者達が、一斉に彼めがけて突撃する。
「ふはははっ!! そこに気付くとは流石だな!! 来てみろ!! 冒険者どもよぉぉーー!!」
……暫し後。
 適度に善戦して力尽きた魔王軍の面々、大魔王モードから元の姿に戻りボロボロの姿で立つジークフリートが笑う。
「み、見事だ。まさか……この、魔王が敗れるとはな……」
 敗北したジークフリートは参加者達へ賛辞を送る。
「良いだろう……おまえ達には、最下層へ行く資格があるようだ……ついてくるがいい……」
「魔王、最下層には何があるんだ?」
「俺も……知らん! ダンジョンが除夜の鐘の代わりなのだから、財宝か絶世の美女がいるかもしれんなっ!」
 ジークフリートが歩き出すと同時に、倒したはずのルイや朱鷺がムクリと起き上がり、参加者達をビビらせたが、ここでは割愛する。
「こ、これは……!?」
 参加者の一人が叫ぶ。
「ふはははっ! 神社だ! ここで初詣と洒落込むのだ!!」
「まだ……年明けてない……」
「……待つのだ!!」