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年の初めの『……』(カギカッコ)

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年の初めの『……』(カギカッコ)
年の初めの『……』(カギカッコ) 年の初めの『……』(カギカッコ)

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●小曲〜もふもふ

 もふもふしているその子は、白モモンガ。
 ちょっと変わったモモンガで、普通のモモンガでいう茶色い部分が鈍白金色で腹は白、だから遠目にはまるきりの白色に見える。
 特殊なのはその色ばかりではなく、このモモンガが二本の足で立って歩くところだ。それと、人語を話すことができるところ。
 なんだかすごいモモンガだ。そりゃそうだろう。なぜって、モモンガ――ペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)はゆる族だから。
 もふもふのペシェは今、重大な使命を帯びており、大変緊張しているのだった。それはもう、おなかの柔らかい毛が逆立つくらいに。
(「ううっ……ボクの責任重大。結局、山葉校長を説得するのボクですもん」)
 ペシェは、告げなければならないのだ。頭の中で予行演習する。
(「校長! ボクのマスターがローラさんを、ポートシャングリラに連れていきましたー! 可哀想で仕方なくて……代わりにボクがお仕事手伝うから…夕方までには帰るから……お願い」)
 山葉校長は決して怖い人ではない。いや、前に眼鏡かけてたころは別にして、裸眼になってからは結構怖い外見だが、話せば判ってくれる人だと思う。そう信じたい。
(「『なんだとおお!』とか怒ってボクを逆さ吊りにしたり、火あぶりにしたり……しないですよね。しないですよね……」)
 ローラを連れ出す計画があるのだ。ポートシャングリラの初売りに連れていってやりたいと、ペシェのご主人様エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)は考えており、友人と協力してその機会をうかがっているのである。といっても、今日たまたま手伝いにきたサイジャリーがその場で決めたような計画なので、いくらか不安要素があるのは否定できない。
「ワケを話してごめんなさいする……これが簡単そうで難しいです……。大騒ぎにするのが目的じゃないから事後了承取るわけど……」
 計画実行と共に、ローラの手を取って脱走する役、陽動で小さな騒ぎを起こす役、そして、校長に事情を話し内々の許可(表面上は無許可)を取る役が同時に行動を起こす手筈だ。それはいいのだがこの計画、ローラ本人が同意する必要があるし、涼司校長が『なんだとおお!』にならないと希望的な仮定をしているところがとても不安だ。ローラの捜索騒ぎに発展したらどうすればいい?
「誰に何のワケを話すって?」
 ひょ? とペシェが振り返った。
(「こ、心の声を聞かれ……? いや、ひとりごとしちゃってたんですね!」)
 そこにいたのは待ち伏せしていた相手、山葉校長だ。独り言を聞かれた……校長の待ち伏せをしていたが、彼は予想よりずっと早く来てしまったのだ。
「だから、誰に話す?」
 近くで見ると涼司はやはり、結構怖い。なんというか威圧感がある。
「え……あ……山葉校長に…………」
「なるほど。じゃあ話そうな」
 校長はニタリと笑った。ペシェにはそう見えた。
(「さ、逆さ吊り……火あぶり……?」)
 順序は先になってしまうが仕方がない、ペシェは事情を話した。なに、ここで許可が取れれば大丈夫だ。
 読者諸氏よ、意外に思うであろうか。
 ここで頭を下げることになったのは、ペシェではなく涼司だったのだ。
 この話の真相は、何ページか後で。