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海の都で逢いましょう

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●海の大蛇〜epilogue

 大きな水柱だったので、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)のいる海域からでもそれは存分に見ることができた。
「っと……派手にやったみたいだなー」
 絶景かな絶景かなと笑う彼は、ただ一人海産物を収穫しに沖に出ているのだった。
 船は借りた。
 服は白の六尺褌一枚だ。眼に眩しいくらい白い。
 手には銛、とりたてて特徴もない一般的な銛だった。
 潔いほどにシンプルである。
 その状態で彼は、ゆらゆら揺れる船上で準備体操を開始する。分厚い胸板が上下した。小山のように盛り上がった肩が湯気を上げる。屈伸するたび太い両脚がギシギシと、その内側の筋肉までしなる感じが心地良い。銛はバランス棒がわりに握ったままだ。
 そうやって数分後。
「うし、準備運動もできたしとっとと素潜りすっかなー」
 雲海従術を使うまでもないようだ。空は澄み切った晴天である。
 その青い空を吸い込むように、大きく深呼吸してラルクは海に飛び込んだ。大きな音は立てず滑り込むように、海に飲まれるようにして姿を消す。
 かくて何度か、潜っては獲物を獲り、船に上がって成果を確認してはまた潜るという動作を彼は繰り返した。
 またたくまに小半時が過ぎた。呼吸に関してはウォータブリージングリングがあるので問題はない。
 問題があるとすれば、それは、ラルクが熱くなるほどの『大物』にまだ出逢えていないことだけだった。
 しかしそれはすぐに解消する。
(「大物見つけたぜ! ぜってぇ逃がさねぇ!」)
 舌なめずりするような表情がラルクに浮かんだ。メカジキ、それも規格外に大きなメカジキの姿を彼は認めたのだ。突然変異種だろうか、冗談もほどほどにしてほしいほどの大きさがある。
 興奮に顔を上気させ、弾丸のように泳いでこれを追う。
 ところが敵もさるもの、彼に気づくと猛然と逃げ出したのである。
 負けるか。
 これがラルクの闘争本能に火をつけた。水中ながら火事でも起こりそうなくらいカッカと燃える。
 両腕が痛もうと両脚が悲鳴を上げようとラルクは泳いだ。泳ぐためだけに生まれたかのように泳ぎ続けた。いつの間にか褌が外れてしまってどこかに漂っていったが気にしない。いや、気にしている暇がない。
 メカジキと人と、あるいは二匹の魚としての逃走劇は続いた。
 だが、
(「やった!」)
 陸上なら小躍りしたかもしれない。ラルクの投じた銛がメカジキの胴に突き立ったのである。
(「本気でやらせてもらうぜ!」)
 ハンティングに情けは禁物、ラルクは握りしめた拳で七曜拳、殴って殴って殴って、殴って殴って殴って殴りつづけて、ついにこの規格外の大メカジキを倒したのだった。
 これを苦労して船まで運び、一息して彼は惚れ惚れと釣果をを眺めた。
 よくやったと自分を褒めたいか?
 まだまだ……と自分を叱咤したいか?
 いずれでもない。ラルクは結果にはこだわらない。むしろこの豊潤な成功は、彼の本能的な欲望を高めただけだった。
「うおおお!!! 気合い入れてガンガン獲ってやるぜええええ!!」
 それは食欲。
 パーティにはもちろん大方の魚を提供するつもりだが、残りは自宅で、ちびりちびり飲みながら楽しみたい……などと考えているといてもたってもいられなくなってきた。
 このモヤモヤは、もっと漁をして解消するしかないだろう。
「この筋肉が! 疲労で動かなくなるまで俺は獲るのをやめないぜえ!」
 ラルクは再度、海に我が身を滑り込ませた。