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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション

 ダリルはゼロ距離で猛攻を仕掛けていた。エネルギー弾も真空波も使わせない距離。タケシはスウェーとバリアを用いて防御に徹するしかない。
 じりじりと後方へ押しやられるタケシの左右で怒りの煙火が吹き上がる。まるで誘導灯のように。
(これは…)
 ダリルの動きに違和感を感じたのは梅琳だった。
 おかしい、これは彼らの戦闘スタイルではない。ダリルが前衛に出るなど…。
 さっと周囲を見渡す。ルカルカの姿がない。彼女はどこへ行った?
 これが作戦であるなら、何を意図しているのか? ダリルたちは敵を誘導しようとしているようだが、どこへ?
 ダリルとタケシの直線上に地下施設へ通じる棟の入り口があると分かった瞬間、梅琳はひらめきのように理解した。
 ちらちらとタイミングをうかがっている様子の淵の手にしている機晶爆弾が、その確信をさらに強める。
「――なんてことを!」
 さっと血の気を失った次の瞬間、彼女のなかで全身が震えるほどの怒りが燃え上がった。
「今すぐやめなさい、ダリル・ガイザック!!」
 怒声とともにダリルのすぐ足元に威嚇の銃弾を放つ。走り寄り、驚きに動きを止めた彼を銃底で殴り飛ばした。
 吹っ飛んで、どっと地に倒れたダリルの上に仁王立ちする。
「李大尉」
「あなたは自分たちが何をしようとしているか、本当に分かっているの!?」
「李大尉、われわれは――」
「地下にはまだ負傷した団員が大勢いるのよ! 彼らを救おうとしている者たちも!」
 そして梅琳は棟の入り口をキッとにらんだ。
「そこにいるのは分かっているわ! 出てきなさい! ルカルカ・ルー中尉!!」
 激怒する梅琳の命令に従って、ルカルカは光学迷彩を解いた。
 思ったとおり、棟のなかから出てくる。大方エレベーターのドア付近に潜んでいたのだろう。敵を押し込み、機晶爆弾を放り込み、ドアを――。
 梅琳は頭を振った。想像したくもない。
「李大尉。これは大事の前の小事です。何を犠牲にしようとも、国を守るべき教導から国家の脅威を放つ事は絶対にあっては――」
「上に立つ中尉たる者が大勢の団員を犠牲にしようなどと、そんな考えでどうするの!!」
 一喝する、梅琳の上に影が落ちた。
「危ない、李大尉!」
 鋭い声がしたと思った瞬間、何かが梅琳に体当たりをかける。横倒しになった先で梅琳は、自分がいた場所に振り下ろされたバスタードソードを見た。地に食い込み、破壊する力を秘めた攻撃。まともに受けていたら今ごろ頭から真っ二つだったろう。
「大丈夫ですか? おけがは? 李大尉」
「え? ええ、ないわ。ありがとう」
 ぞっとする震えを抑え、ふりあおぐ。そこにいたのはシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)だった。
「大尉、お腹立ちはごもっともですが、今は場も時も適切ではないかと」
「ええ……そうね。で、あの、ちょっと」
「ん? どうかなさいましたか? もしやどこか痛めたとか?」
 無邪気さを装って、ぐっと顔を近づけるシャウラに。
「いいかげん、上からどけと言いたいんですよ、李大尉は」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)が代わりに答えた。彼は今、少年を2人に近付けないようにパイロキネシスを用いて炎の壁を作り出している。
「ちぇッ。ちょっとぐらいいいだろ?
 いやぁ大尉、遠くから見てもきれいな人だと思っていましたが、こうして間近で見ると本当におきれいですねー」
 にっこにっこ笑顔でそう口にしつつもあっさり身を引きはがしたシャウラは、次に彼女を助け起こす。
 その礼儀正しい手にも表情にもいやらしさはかけらも存在しなくて、梅琳は怒るに怒れず苦笑するしかなかった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「はいはい、そのくらいにして。さもないと、あとで婚約者殿に殺されますよ」
 彼女の怒りを中和するための、ただの冗談、たわいのない言葉遊びと知っているユーシスはくつくつと肩を震わせて笑う。
 ユーシスの目が炎の壁からそれた一瞬。まるで見計らったように炎の壁をバリアで突破し、少年が飛び込んできた。
「おっと」
 ユーシス目がけて振り下ろされた剣を、シャウラの刀が斬り上げてはじく。
「んじゃー殺されないようちょっくらがんばりましょーかねー」
 態度は適当に見えても、その動きは決して適当ではない。ぎゃりっと鋼同士がかみ合う音が、そのまま数度続いた。
 シャウラの用いる長巻は遠心力を用いて敵を振り斬ることに主眼を置いて鍛えられた武器である。扱うには相当の技量を必要とする大太刀だが、シャウラはそれをまるでただの刀であるかのようにやすやすと操っていた。
 手首の返し、ひねり、足運びすらあまりにも自然で、相手のどんな攻撃に対しても変幻自在なその動きは彼の容姿と相まって、美しい舞をさしているようにさえ見える。
「あちらはシャウラに任せておけば大丈夫です。少しお休みください」
「いいえ。それより報告をしなさい。たしかあなたたちは下へ救助に下りると言っていたわね?」
「はい」
 ユーシスは手早く今見てきた地下施設の現状説明をした。と正気に返った白花、それにシャインたち医療者によってかなりの重傷者たちが命の危機を脱していること、ローザマリアが修理して再起動してくれたスプリンクラーによって火災がほぼ鎮火されていること、などだ。
「ザイン・シム大尉以下司令部の者たちも司令室で倒れているところを発見、救助されています」
「それはよかったわ」
「ですが、彼らを地上へ運び出すのはまだ待った方がよろしいかと」
 理由は、周囲を見ればあきらかだった。地上へ運び出した負傷者たちが暴れているのだ。今は正気をとり戻しているように見える彼らも、地上へ出ればまた同じようにおかしくなってしまうのは十分予想がついた。
「そうね」
 ふう、と息をついたとき。
 2人は、自分たちを囲うように集まった研究員たちに同時に気付いた。
「大尉、危険です。お下がりください」
 二重螺旋ドリルを手に、シャウラとの間へ押しやるようにしてユーシスが背後にかばい立つ。
 先からのやりとりで梅琳こそ敵指揮官と知れたに違いない。戦闘で指揮官を狙うは当然。相当数を減らしていたが、それでも10人はいた。
 銃口が梅琳を捉える。この距離では蜂の巣だ。
「クレアさま、あれを!」
「ちッ…!」
 ルカルカやローザマリアたちが救助に向かっていたが、同じようにドルグワントの少年も向かっている。間に合うか五分五分。
 一瞬でそれと判断したクレアが、タケシを銃撃した。
(敵とて条件は同じ。指揮官の危機となれば必ずそちらを守ることを優先するはずだ)
 クレアの意図に気付いた鉄心クローラキルラスたちも銃撃に加わる。銃を持たない者は、己の最大の攻撃魔法で。
 タケシの張るバリアを突き崩そうとする一極集中、一斉砲火。これだけの銃弾、魔法を浴びせれば、必ずやあのバリアは破砕するに違いない。でなくとも、危機を感じたタケシが少年や研究員たちを呼び戻せば――。
 それをやめさせたのは、上空から飛来したミサイルによる爆撃だった。
「皆さま、そこまでにいたしやがれでございます!」
 いつからそこにいたのか。リリカル魔法少女コスチュームをまとったツインテールの少女が空中で踏ん張っていた。その服装、可憐な容姿とは裏腹に、ぶっそうな六連ミサイルポッドを担いでいる。
「あーーーーーーーーーっ!!」
 ポッドの向こう側にジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の横顔を見て、新谷 衛(しんたに・まもる)は驚声を上げた。
「い、いっちー、あれっ……あれっ!」指差す手がぶるぶる震えている。「あいつ、ちっとも携帯に出やしねーと思ったら!」
 樹は答えず、難しい顔をしてジーナを見上げていた。
「ルドラさま、アストーさま、おひさしゅうございます。いつの日か、きっとお呼びいただけると信じておりました」
 スカートの裾をつまみ、足を引いて、ジーナはかわいらしく礼をとる。
「堅忍不抜の思いでこの機械の体にひそんでいた数千年……長うございました。しかしそれも、こうしてこの時を迎えてみれば一瞬のこと。
 ワタクシの力がお入りようとあらば、いかようにもお使いくださいませ」
「いや、いっちー、あれ絶対ジナじゃねえ! ジナにあんな難しい言葉、使えるわけねーって! ありゃジナの格好をしたニセもんだ!」
 ツンツン上着の裾を引っ張ってわめく衛。ますます眉根の縦じわを深める樹。
 騒々しいその声を耳にして、ジーナの目が彼らの方を向いた。不愉快そうなその表情を見るからに、衛の発言をしっかり理解しているようである。
「ルドラさま、ここはワタクシめにおまかせください。あのような不敬のやからなぞ、このワタクシめで十分でございます。どうぞ一刻も早くアストーさまをダフマへお連れ帰りくださいませ」
 全弾撃ち終えたミサイルポッドをポイ捨てし、クレセントアックスをくるくるとバトンのように回転させる。
「そこの馬のしっぽのチンチクリン。申し訳ございませんがワタクシは戦闘用に調節されておりますからして、向かってくるのであればそれなりの御覚悟をいたしやがれでございます!」
「だれがチンチクリンだ、だれがッ!! てめーの方がチビじゃねー――って、うわっっ!」
 喜々として振られた先からほとばしる雷電。シューティングスター☆彡が次々と衛を襲った。
「ひとが話してるときは攻撃すんじゃねえっ!! 悪の組織でもそのへんのマナーはわきまえてやがるぞ!!」
「ワタクシは悪ではございませんので。知らないのでございますっ」ふと、何か思いついたように口元をとがらせる。「ということは、あなたさまが悪ということでよろしいでございますわね。悪、滅ぶべし! なのでございます!」
「なんだそりゃー!?
 ちっくしょー! あの変なくっちゃべり方! ってことはあれ、やっぱりジナかよ!」
 衛は降り注ぐ雷電を避けて走りながら、ときおりバイタルオーラをぶつけて相殺する。そのこぶしが、急降下してくるジーナを向いた。――だが、撃てない。
「こんなぬるい攻撃では、ワタクシにかすり傷ひとつ負わせることもできやがりませんですわよ!」
 威嚇のバイタルオーラをバリアではじき、ジーナは哄笑した。
 一歩の差で、振り切られたクレセントアックスが衛ののどをかすめていった。
「マジかよ…」
 動かなかったら首を落とされていた――その事実に、衛は愕然となる。
 今、この瞬間まで、これは何かの間違い、気の迷いだと思っていたのだが、それがただの希望的観測、自分1人の思い込みにすぎなかったと知って、衛は激しく落ち込んだ。
「こ……んのバカ女!! 血迷いやがってっ!!」
 うがーっと声を上げ、神速で一気に間合いを詰めるや鳳凰の拳を繰り出す。連続する2回の打撃。ジーナはにやりと笑ってクレセントアックスの柄で難なく受け止める。
 お返しと、ファイアストームの炎が衛を襲った。
「魔鎧!」
 横っ飛びに距離をとったものの、かすめた腕が火傷で赤黒くなる。
「フフッ。この程度でござりやがりますか?」
 したり顔で笑うジーナ。すっかり目が据わっている。
「……くっそ、腹減って力出ねぇ」
 腕をかばいながら、それでも衛はかまえをとる。
「ジナ! 今夜のメニューは炒飯と餃子、炒飯はネギ増し増しな!!」
「炒飯? 食事は洋食と決まっております!」
 激しい音をたて、ぶつかり合う2人。がつんがつんと硬質の音が響き渡るなか、炎と雷光が乱れ飛ぶ。
 そこに、樹月 刀真(きづき・とうま)が走り込んだ。