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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter13


「これより、内部に突入する」
 三船 敬一(みふね・けいいち)はパワードスーツ隊カタフラクトで、施設内部にへと足を踏み入れた。
 地上一階。外の様子は作戦開始前からある程度伝わっていたが、ここからは未知だ。敵がどれだけ潜んでいるかは分からない。慎重に進むが、時間が限られているため攻めの姿勢は崩さない。
「こちらの映像はちゃんと送れているか?」
『良好です。後続の者たちとも通信を繋いで、共有します』
 パワードスーツ輸送車で待機中のレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)に確認を取る。耐久力のあるパワードスーツが斥候を務めることになるということで、事前に彼女がカメラを取り付けたのである。
 敬一たちが地上に降下したのは、ジャンヌが着ぐるみたちを磔にした直後であった。輸送機から降下した後は、レギーナの乗る輸送車は対イコン傭兵に守られている。
『カメラのデータと地図を照合します』
 これで、後続組も進みやすくなるはずだ。
(トラップの類は見当たりませんね)
 白河 淋(しらかわ・りん)からのテレパシーを受け取る。テロリストに施設内のセキュリティが掌握されてしまっていると考えると、警報を鳴らされた上で隔壁を下ろされ、追い込まれてしまう可能性がある。
(外にいた連中から考えれば、敵にトラップを仕掛けることができるとは思えん。だが……)
 敬一は奇妙なことに気付いた。
(ここは現役の研究施設だ。なのに、死体が存在しない。テロリストが制圧した時点では間違いなく人がいただろうに)
(どこかに閉じ込められているという可能性は?)
(残念ながらない。連中に、この施設の人間を生かしておく理由がないからな)
 ならば、一体どこに消えてしまったというのだろうか。
(分かれ道だ。地図を見れば、右に行けば地下への階段があるはずだが……何かいる)
 前方にうっすらと見える影は、天井まで届きそうなほどの大きさがある。細長い頭に、触手のような腕。大昔の映画に出てきた地球外生命体にそっくりであった。外にいる着ぐるみと同系統だとすれば、あの姿も当然作りものである。しかし、やけにリアルだ。
(あれを倒さないと下には行けないようですね。狙います)
 淋が対神スナイパーライフルを構え、異星人を狙う。彼女が引き金を引こうとした瞬間、
「上か!」
 コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)が天井から襲いかかってくる刺客を、パイルバンカーシールドで受け流した。
「今度は狼男か……!」
 現れたのは、パワードスーツを装着した敬一たちと同程度の巨体を持った人狼だった。
 コンスタンティヌスがギロチンアームで人狼を狙うが、敵はそのハサミ状の刃を素手で叩き壊した。アームの先端が砕け散る。
「……何という膂力だ」
 それだけではなく、反応速度も異常だ。人狼の姿は、とある映画に出ていたキャラクターを模しているが、それが現実に現れたらこんな感じなのだろう。素手でパワードスーツの装甲にヒビを入れるほどの怪人であるが、これを退けなければならない。
 コンスタンティヌスが盾を構え、パイルバンカーを放った。胴体にそれが突き刺さっても、敵はまったく動じていない。
「……っ!」
 すぐにそれを引き抜き、守りの構えをとる。
(淋、そっちは援護を頼む。今はこいつが優先だ)
 傷口から血を流しながら、人狼が敬一に狙いを定めた。
「慢心するほど強くないんでな。敵であるなら、全身全霊で打倒する」
 淋の対神スナイパーライフルから放たれた弾丸が、人狼を撃ち抜く。だが、敵は悲鳴も上げなければ、止まりもしない。次いで、敬一がギロチンアームを繰り出し、敵の腕を切断した。
 片腕がなくなったことで、人狼がバランスを崩した。そこに、パワードスーツ三機による一斉射撃が繰り出され、人狼の上半身が跡形もなく消しとんだ。残った下半身が、地面に倒れ、急速に中身が腐り落ちていく。
「木端微塵にしないと、完全には倒れないようだな……厄介な相手だ」
 だが、セオリーは分かった。
 遠くに見える異星人型に、三機が一斉に照準を合わせ、引鉄を引く。とにかく、連射だ。相手が原形を留めないくらいまで、ただひたすらに。
 その甲斐もあり、異星人型からは攻撃を食らうことなく、倒すことができた。だが、対神ライフルの残弾はもうない。あとは近接装備だけで迎え撃つしかない。
「……道はできた。下は任せたぞ」
 地上一階の敵の対処をするため、敬一は階段向けて駆けていく鳴神 裁(なるかみ・さい)に、地下の索敵を任せた。

* * *


 異星人型の着ぐるみの残骸を飛び越え、鳴神 裁(なるかみ・さい)はその先にある階段を下りた。
 地下一階、サンプル区画。ここにはこの研究施設で造られた新素材のサンプルが保管されている。決して被害を出してはならない場所だ。
「こちら鳴神 裁。地下一階に到着!」
 後方にいる者たちに連絡を送った。一応パワードスーツを着てBS隊としてここまで来た裁だが、他にスーツを着ている者はいない。スーツの下に魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を纏い、さらに痛覚の減退と自己再生を行うため、物部 九十九(もののべ・つくも)に憑依してもらっている。意識は裁のままで、能力だけ借りている形だ。なお、輸送車両はホバーユニットが付いているのをいいことに、メフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)に水上待機してもらっている。
 もっともパワードスーツという割には装甲がないため、防御力は生身の人間と同じであるが、その代わりに機動力が確保されている。身体強化された状態での限界速度はリニアモーターカー並だが、屋内でそれだけの速度を出すと方向転換が困難であるため、その速度は主に瞬発力で発揮される。敵への急接近・急回避といったものだ。要は、スーツを着ているだけで簡単に「縮地」が行えるのである。無論、超人的肉体がなければその動きだけで、内蔵が潰れるほどの負荷がかかってしまうが。
 その速度を生かして、内部の探索だ。現在はここが最下層だが、この下には閉鎖区画が存在する。そこへ行くための道が、どこかにあるはずだ。
(入口が埋め立てられてるとかだったりしても、そこを見つけて壊せばいいよね)
 そのくらいは許容されるだろう。むしろ、そうしなければ作戦を成功させることができなくなる。
「いよいよ、敵のお出ましだね」
 彼女の前に立ちはだかるのは、黒いヒーロースーツを纏った仮面戦士だ。
「ボクは風、風の動きを捉えきれるかな?」
 敵がこちらに向かって駆け出してくる。
 地下一階の地図を頭の中でイメージし、裁は敵を誘導できる区画を探す。真正面からぶつかり合ったら危険だと判断したからだ。
 途中の通路を左折、だが仮面戦士は彼女との距離を詰めていた。
「行ったと思った? 残念!」
 そのまま先へ進んだと見せかけ、天井にワイヤーを引っかけた上で張り付いたのだ。
 天井を蹴り、格闘新体操用のフープで敵を殴り飛ばす。衝撃が手に伝わってきた瞬間、今度は床を強く蹴り、通路の反対側へと飛ばされていく仮面戦士へと肉薄した。その先は、空き倉庫となっている。思う存分戦っても支障がなさそうな場所だ。
 裁はさらなる追撃を試みるが、今度は彼女の身体が受け流されてしまう。空き倉庫の壁に激突する前に空中で身体を反転、壁蹴りで向かい側の壁まで飛び、敵が室内に入ってきたところでさらに壁蹴り。敵の死角に入り込む。
 壁にぶつかるよりも前に、宙に浮いた状態の敵を蹴りあげようとする。いくら相手が強かろうと、壁や床に激突する前に攻撃してコンボを決めていけば、ダメージを蓄積させることが可能だ。無論、それは彼女の速度があって可能なものである。
「強く、華麗に美しく☆ 格闘新体操の真髄を魅せてあげるよ♪」
 ワイヤークローのワイヤーを新体操のロープに見立て、仮面戦士に向かって振るう。しかし、敵はクロー部分を受け止め、腕力のみで裁を引っ張った。
「なんの、これくらい!」
 壁にぶつかる直前にまた半回転して壁を蹴ればいい。だが、仮面戦士はすれ違う瞬間にもう一方の腕を出し、彼女にアッパーを繰り出してきた。
「ぐ……っ!」
 天井に叩きつけられる、裁。回避が完全には間に合わず、結構な衝撃を食らってしまう。
 地面に落下するも、身体を回転させて着地。速度を殺されたのは痛い。
 すぐに敵に向き直るが、その時にはもう仮面戦士の姿はなく、
「後ろか!」
 背後からのパンチを身体をひねって避けようとする。が、それはフェイントだ。寸止めから蹴りが炸裂する。目では捉えられない速度だ。
 裁の身体が宙に浮いた。仮面戦士は勝利を確信したのか、決めポーズをとっている。が、その瞬間が一番の隙だ。
 ワイヤークローで敵の身体を縛り付け、動きを封じる。そこから痛みをこらえて態勢を変え、天井を蹴った。そこから身体をひねり、回転。ロープで巻きつけた仮面戦士を壁に激突させる。
「まだまだ!」
 一発では足りない。ロープを回す速度を上げ、限界まで上がったところで思いっきり床に叩きつけた。あまりの威力に、仮面戦士の身体は木端微塵になった。
「これで、やっと一人か……」
 少しずつ傷が回復しているとはいえ、今複数で来られたら厳しい。ただ、このフロアの敵を引き付けておかなければ、苦戦は必至だろう。
(この部屋に呼び込んで、各個撃破……それが一番かな)
 索敵と誘導のため、彼女は地下一階の巡回を再開した。