天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

よみがえっちゃった!

リアクション公開中!

よみがえっちゃった!

リアクション

 すっかりひと気のなくなった真っ暗な倉庫で。

「いいかげん、起きたらどうなんだい、このヌケ作」
 ボクン、と音がするくらい強くエメリアーヌ・エメラルダ(えめりあーぬ・えめらるだ)は気絶しっぱなしのアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の頭をぶん殴った。

「いたっ! ……つつ…っ。
 あ、あれ? ここは?」
 突然襲った激痛に、目から火花が飛び散る思いで目を覚ましたアルクラントは、きょろきょろと周囲を見渡す。

「あのときのまんま、倉庫だよ、マスター」
 しゃがみ込んだひざでほおづえをついた完全魔動人形 ペトラ(ぱーふぇくとえれめんとらべじゃー・ぺとら)が、にこにこ笑って答えた。
「この子が言うから寝かしといてあげたんだけど、あんた放っといたらあのまま朝までぐーぐー寝てそうだったからね」
「あのまま?」
「あ、やっぱり正気に返っちゃったんだね、マスター」
「正気?」
「残念だなぁ。あのマスターもスッゴクかっこよかったのに」
 ほう…っと思い出しため息をつくペトラに、アルクラントは首をひねる。
 ……そういえば、なんとなく、ものすごく恥ずかしいことを口走っていたような気が…?
 そして徐々によみがえってくる、自分の発したセリフの数々…。
 うわあ。

「はいはい。考えにふけるのはそのくらいにして。そろそろ帰らないとシルフィアが心配して騒ぎ出すよ」
「シルフィア! そうだ、夕飯の用意がまだだったんだった!
 今何時だい? ペトラ」
「8時」
「やばい!」
 あわてて立ち上がり、そこではたと気付いた。

「ええと……きみ、だれ?」

「私かい?」
 にやり。待ってましたとばかりにエメリアーヌは笑みを浮かべる。
「私はエメリアーヌ・エメラルダ。エメリーって呼んでちょうだい。そしてこれが私の本体、素敵八卦」
「魔道書なのか――って、あれ?」
 彼女が手にしている本、何か見覚えがあるような…。

 じーっと凝視するアルクラントが何を考えているかを見透かして、エメリアーヌの笑みはますます広がった。

「まだ思い出せないのかい? これはね――」


「……私の日記帳じゃないか!!!」


 叫び、絶句してしまったアルクラントに「あたり」とエメリアーヌは満足げにうなずいた。

「そうだよ。いやあさっきのあんた、ずい分懐かしかったねえ」
「ま、まままま、まさか…」
「あたりまえだろ。私はあんたの日記帳なんだから。なんなら読誦してあげようか? それとも、あっちの方がいい?」
 ぶるんぶるん首を振るアルクラント。
「へええー。エメリー、マスターのこと知ってるの?」
 ペトラが声に尊敬のキラキラを込めて言う。
「もちろん。あんたの知らないあーんなことやこーんなこともねー。
 教えてほしい?」
「うんっ!」
「うわ! うわわわわわわわっ!!」
 ブラッディ・ブラックが何かの映画か本の影響と思われるならまだしも、過去にぼっちだった自分が日記帳に書き溜めた妄想ファンタジーだと知れた日には、それこそ身の破滅。もう二度と外歩けなくなるかもしれないっ!

「おや? アルク。必死だねえ?」
 ペトラの後ろ、両手の指を組んで必死に無言で訴えているアルクラントを見て、にやりと意地悪く笑う。
「じゃああんたが私にまずするべきこと、分かってるわよね?」
「えっ? ……て?」
「あ、そう。そうくる? べつにいいんだよ? このままよそへ行っても。言っておくけど、私そんなに口固くないからね。どこかで何かの拍子にうっかり――」
 うわわわわわ。
 身の破滅再び。
「あ、あの、エメリー? よかったら、ぜひとも私と契約してくれませんか、なんて。な? ……なっ?」

 ちら、と肩越しにかえりみてくるエメリアーヌに、アルクラントはまさに神に祈るような体勢で懇願したのだった。



*            *            *



「……やっと寝てくれたか…」
 ダブルベッドの上、音無 終(おとなし・しゅう)はそろそろと眠る銀 静(しろがね・しずか)の手から自分の手を引き抜いた。
 彼女を寝かしつけるため、変な体勢で横になっていたため、節々が痛い。

 あのあと本屋につき合わされ、高級レストランに連れ込まれ、ナイトショーに引っ張り込まれ、明け方近くになってようやく戻れた家でもこうして部屋に押しかけられて、添い寝を強要されて…。

 1日じゅう引っ張り回されて肉体的にも疲労したけれど、それより精神的疲労の方がキツかった。

「結局、あれからやつを捜しに行けなかったし」
 静を避けて、あいた空間にごろりと仰向けになって、ぶつぶつ不満をつぶやく。
 もう大分時間が経ってしまった。あちこちでかなりの騒ぎを引き起こしていたことを考えると、常識で考えればまだ街にいる可能性はほぼないに等しいだろう。

「目を覚まして、元に戻ってなかったらどうなるんだ? また今日の二の舞か?」
 冗談じゃない。

 静の様子……自分の考えに凝り固まって、ひとの話を受けつけない。
 あれが、催眠術だとしたら?


「……ただの暗示なら、俺のオルゴールで解けるか」


 起き上がって、棚に置いてあるオルゴールを取る。ネジを巻き、ふたを開いて眠る静に聴かせながら、終は幾度となく語りかけた。
 ゆっくりと、あくまでやさしく。眠りのなかにいる静へと届くように。


 いつしか眠る静の口元には、うれしそうな笑みが浮かんでいた…。



*            *            *



 こうしてハチャメチャな1日は終わりを迎えた。

 そして夜が明けた次の日。

 ツァンダの街のあちこちで、土下座や平謝りするコントラクターやそのパートナーの姿が見られたのは言うまでもない。


担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 またもや公開遅延、しかも過去最大級の締め切り破りをしてしまいました。申し訳ありません。
 今は一刻も早く、これを提出して公開したい気持ちでいっぱいです。

 ご参加いただきました皆さん、ありがとうございました。待たせてしまって本当にすみません。
 不肖の身ではありますが、よろしければまた寺岡のシナリオにご参加いただけたらと、ひたすらそれを願うばかりです…。


10/17 一部文言を修正・訂正させていただきました。