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なし

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よみがえっちゃった!

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よみがえっちゃった!

リアクション

「いたたたた……」

 吹っ飛ばされた先で、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は打った頭をさすりさすり上半身を起こした。
 かぶっていたダンボール箱(大)は爆発の余波で所々が破けたり裂けたりしていて、ほとんど使い物にならなくなっている。

「しまった。これでは任務が果たせない」
 ギリと、奥歯を噛み締める。

 過去を思い出した今、彼は宵一にあって宵一にあらず。正義と平和を愛する元特務部隊少尉、コードネームを「ウォードッグ13」という。
 国際的犯罪者集団として有名な、とあるテロ組織の秘密基地がこの街にあることをつきとめた軍は、ウォードッグ13にこの秘密基地の破壊を命じた。そのテロ組織は世界を破壊する手始めとして、ツァンダの街を狙っていたのだ。最終兵器発動をくい止めるため、彼は人工衛星を落下させようとしていた。



 そしてダンボールをかぶって隠密(?)行動をしていた結果、ついにそのテロ組織のアジトとおぼしき場所が郊外の貸し倉庫にあることをつきとめたものの、壊滅行動に移ろうとした矢先に巻き込まれで吹っ飛ばされたのだった。


(いや、でもまだ使えるかな?)
 これまでにも数々のダンボールをかぶって幾多の戦場をくぐり抜けてきていた。そのなかでもこれはなかなか相性のいいダンボールだっただけに、使えなくなるのはなんだか惜しい。
 転がっていたそれを拾い上げ、思案していたときだった。

 ――ピシッ!


 音というよりも手に伝わってきたダンボールが被弾した衝撃で、彼は自分が狙撃されたことを知った。

「しまった! 見つかったか!!」



「――ちっ。気付かれたであります」

 さっと壁に隠れた標的に、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は舌打ちをする。
 この角度ではこれ以上追うのは無理だ。

「場所を替えるであります、コルセア」
 後ろについていた相棒のコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)に言うと、返事を待たずさっさと動き出す。
 ポニーテールに結った長い黒髪をなびかせ、軍人らしい無駄のない動きできびきびと移動する少女。

 彼女もまた、占い師による術を受けて過去の記憶をよみがえらせた1人である。

(厄介なことになったわね)
 後ろについて移動しながらコルセアは内心頭を抱える。

 幸か不幸か吹雪がよみがえらせた記憶は、実際の彼女の記憶だった。
 かつて地球にいたころ、彼女はとある特殊部隊に所属していた元傭兵だったのだ。
 それは彼女に数々のトラウマをもたらしたが、全ては過去だった。


 しかし現在、術によって彼女は現在進行形で自分を傭兵と思っており、この街にはびこる悪の組織壊滅という任務を受けている、と信じ込んでいる。


 パンドラガンを手に「敵に見つからないように」と影から影へ移動し、警戒するだけなら普段の吹雪とたいして変わらず、まあいいかと思って後ろを歩っていたが、それが裏目に出てしまった。
 まさか銃撃までするとは。

『不審な動きをするダンボールを発見したであります。きっとあれは組織の一員に違いないのであります!』

 あっと思ったときには吹雪は引金を引いていて、コルセアには止める暇もなかった。
 だれを銃撃したかまでは分からない。当たらなかったようなので幸いだった。もし当たっていたらと思うとゾッとする。

「……これ以上放置するわけにもいかないわね」
「コルセア、敵はあの角に隠れているのであります。自分がここから銃撃して足止めをしているうちに、コルセアは背後へ回り込んで――コルセア?」

 直後、うなじに重い痛みを感じて吹雪は「うっ」と詰まった声を上げる。

「ごめんなさいね、吹雪」
 気を失い、その場にくずおれた吹雪に謝罪を口にすると、コルセアは彼女を抱き上げたのだった。




「はあ、はあ、はあ、はあ」
 いつ、どこから来るともしれない銃撃を意識しながら宵一は走っていた。
 最初の銃撃以来、銃弾は飛んでこない。が、それは必ずしも相手が自分を見失ったことにはならない。油断を誘い、また彼を泳がせている可能性もある。

「……敵の本拠地が分かったばかりなんだ。せめてこれを、仲間に伝えてからでないとやられるわけには…」

 使命感にかられた宵一は、いつ撃ち殺されるとも分からないプレッシャーに耐えながら、半壊したダンボールをかぶって移動を続ける。


「ウォードッグ13さん」


「……ん?」
 ふと、かわいらしい声で名前を呼ばれた気がして、ダンボールを少しだけ持ち上げる。
 横手の路地に、毛玉のような手足の生えた新鮮なフルーツ山盛りのカゴが立っていた。

 ……正確にはリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)がカゴを持って立っていたのだが、リイムは身長30センチの花妖精なためフルーツカゴに体の大部分が隠れてしまっているのだ。


「きみは?」
「ウォードッグ13さんの昔からのファンでふ。ずっとあなたの活躍を見ていたんでふ。ここで出会えた記念に、ぜひこれを受け取ってほしいのでふ」
「おお、それはうれしいことを言ってくれるな。
 だが今は作戦行動中。危険だから近寄ってはならない。きみにも危険が及んでしまう」
「分かりましたでふ。じゃあここに置いておきまふから、よかったら食べてほしいのでふ」
 よっこらしょ、とその場にカゴを下ろして、リイムはトコトコと路地奥へ消えて行く。

 宵一はそこに置かれた高級フルーツセットにゴクリとのどを鳴らした。フルーツは大好物だ。おそらくあの少年(?)も、それを知っていて用意してくれたに違いない。

「今は作戦行動中だ……自重しなければ…。ああしかし、おいしそうだ…」
 朝からずーーーーっとダンボールを抱えて隠密行動をしていたため、宵一のハラヘリはピークをとうに超えていた。
 そこに大好物をあんなふうに置かれたら、どうして無視することができようか?



「まったく、リーダーには困ったものでふ」
 思ったとおり、アッサリ罠にかかってハンパない釣り竿の先からぷらーんとぶら下がった宵一に、リイムはやれやれと肩をすくめた。
 そしておもむろに背中めがけて則天去私をぶちかます。

いーーーーーたったった!! ――って、リイム? おまえ俺を殺す気だったのか!?」

「何を言ってるでふか。まだ正気に返ってないでふか?」
「正気?」
「いいからさっさと反動地対空波動砲Δ(デルタ)を買いに行くでふよ。早くしないとお店が閉まってしまうのでふ」
 と、まだピンときていない宵一を引っ張って歩き出す。

「反動地対空波動砲Δ?」
「やっぱりまだ正気に返ってないようでふね…」
 なんならもう一発、と則天去私のかまえをとるリイムに、あわてて宵一は首を振った。
「いやっ! 思い出した!! 反動地対空波動砲Δね! 反動地対空波動砲Δ! さあ買いに行こう!」

 一体どうしてリイムから則天去私をくらうハメになったのだろうか? 内心では「??マーク」を浮かべつつ、宵一はリイムと手をつないで街へやってきた当初の買い物目的――反動地対空波動砲Δを置いてある店を物色するというもの――に戻っていった。



*            *            *



「なぜ……なぜこんなことをするのですか…?」
 彼は必死に震えを押し殺しながら目の前の男に訊いた。

 ここはビルの1階店舗にあるドラッグストア。男は約1時間前、両手剣で武装して入ってきた。
 しかしここはツァンダだ。そういう姿をした人物がうろつくのも日常茶飯事。店員はいつもの笑顔で「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」とにこやかに応じる。
 それが一変したのは、突然男がカウンターを一刀両断してからだった。

「逃げたい者は逃げよ。わしは追ったりはせぬ」

 男はぶっきらぼうにそう告げた。事実、悲鳴をあげながらバイトの女の子たちが店から飛び出していっても、男は追ったりしなかった。
 まっすぐ奥のバックオフィスへ向かい、防犯カメラの見える位置にパイプ椅子を起き、モニターへと見入る。
 そして腕組みをして座ったまま、まるで彫像のように動かなくなってしまった。

「なぜおまえはほかのやつらのように逃げんのだ?」
 問いかけてから数分後。もしかして答える気はないのではないかと結論を出しかけたころに、おもむろに男は答えた。
「わたしは……この店の店長ですから…」
「そうか。しかし、逃げた方がいいぞ。じき、ここは戦場となる」
「え?」
 その言葉に彼は驚き、青ざめた。

「先に逃げた者が通報しているのは間違いない。警察が来れば重畳……だがおそらく警察は来ぬだろう。来るのはわしにかけられた追手ども。――いや、もしかするともうすでにこの建物に侵入を果たしておるかもしれんな」
「ええっ!? い、一体どうして…」

 男は腕組みを解くと指を組み、あごを乗せる。
「わしはな、もう何十年と国家のために尽くして、命がけで戦ってきたのよ。それこそ始まりが何であったか思い出せぬ昔からな。この国の転覆を図り、平和の世を乱そうとする者どもを成敗するためであれば、たとえ手足を失おうと、命を落とそうともかまわぬ覚悟で最前線に立ってきた。なのに…」
 クッと男ののどが動いて、言葉が途切れた。
 ギリギリと奥歯のきしむ音がして、男の血走った目に剣呑とした光が走る。
「……ひっ」
 常軌を逸した人殺しの目だ――おびえる彼を見て己を知ると、男は自重するように目を閉じ、深々と息を吐き出した。

「それがたった1度……殺人の嫌疑をかけられた。むろん、わしがしたのではない。わしははめられたのだ。わしの昇進をねたむやつらにな。昇進などわしはどうでもよかったのだが……その態度がまた、鼻についたのであろう。まあ、これは推測だが。
 わしが許しがたいのは、だれもわしを信じなかったことだ。国のために、正義のために、命を賭して戦い続けたわしを、たった1度の疑いで山葉校長はいともたやすく「学園の裏切り者」と呼び、殺人罪で裁こうとした。――親友ですら」

 そのとき、カサッと天井裏で小さな音がした。本当にしたかどうかも分からない、したとしてもネズミか何かではないかと思うような、かすかな軽い音。
 しかし男は出所を探るように天井の隅を見据えた。

「おまえはもう行け。そしてもしこの事件が明日の新聞沙汰にもならなかったのであれば、おまえの口からこのことを世間に訴えてくれ。わしの名は夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)。この国を守るために戦った戦士であり、決して裏切り者ではなかったということを。
 さあ、行け!!
「ひっ……ひいっ…!」
 甚五郎の剣幕に押されるように、彼は部屋を飛び出した。乱れた足音がだんだん遠ざかり、裏口のドアがばたんと閉まる音がかすかにする。それを、甚五郎は背中で聞いていた。視線は天井の隅に固定されたままだ。
 ほどなく、天上のパネルの一角が落下して、そこから親友ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が飛び下りてきた。

「甚五郎、ずい分と捜しましたよ」
「やはりおぬしが来たか。わしを追い詰められる者など学園でもそうそうおらぬ。そうではないかと思ってはいたが……親友を追手にするなど、大佐の底意地の悪さも――ぬっ?」
 甚五郎の目がブリジットのあとに続いて飛び下りてきた草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)を見た瞬間、驚愕に見開かれた。


「大佐! まさかあなたが現場に出られるとは…!」


「――は? 大佐? って、わらわのことか?」
 言われた羽純の方は、目をぱちくりしてとまどう。
 彼女は単に、買い物の途中で乱心して行方不明になった甚五郎を捜して、ここまでやってきただけである。

「大佐! どうか聞いてください! あれをしたのは自分じゃないんです! 自分は何者かにはめられただけで、気がついたら血のついたナイフを握らされていて…!」
「血? ナイフ? そんな物どこにあった?
 何を言っておるのかさっぱり分からん。そなたはどうだ?」
 訊かれたブリジットも首を振る。
「やれやれ。とにかく帰るぞ。まったく、いらぬ騒ぎを起こしてくれたものだ。外の者たちを説得するのにわらわとブリジットで何十分もかかったんだからな。なんとか納得してくれて、穏便にすますことができたが…」

「……またもみ消そうということですか…」
 甚五郎は苦々しげに唇を噛み締めた。恨みがましい目で羽純を見つめる。

「は? 何を言うか! そなた、強盗犯として放校になってもよいというのか!? 言っておくが、わらわもブリジットもホリイもそんな目にあうのはごめんだぞ!! ――って、そういえばホリイはどこだ?」
 きょろきょろ部屋のなかを見回す。
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は魔鎧で、甚五郎が姿を消したときも一緒にいたはずだった。
 というか、そもそも甚五郎をあの前世か過去をよみがえらせるだとかいううさんくさい占い師に紹介して、面白がってそそのかし、占わせたのもホリイだった。
 そのホリイがいない?

「……まあ、いないならいい。あれについてはあとにしよう。とりあえずここを出――って、うわ!」

 突然甚五郎が剣で襲いかかってきた。
 ブリジットが疾風迅雷で2人の間に割って入り、マスケット・オブ・テンペストでこれを受け止める。
 甚五郎はブリジットの肩越しに羽純を見据え、叫んだ。

「させません! いくら大佐でも、これをなかったことにするのは許さない…! 自分はこのことを通じて、世間に訴えるのです! 事件の再審と、自分のような退役軍人の待遇改善を!!」

「なんだそれは!? 話が全く見えんわ!!
 ……くそ。ブリジット、一刻も早く甚五郎を止めるぞ。破壊が大規模に渡れば気を変えた彼らに通報されてしまうかもしれん!」
「分かりました」

 羽純は稲妻の札を取り出した。雷撃を呼び出して甚五郎に浴びせる。
 ブリジットとつばぜり合いをしていた甚五郎は迫る稲妻を避けて飛び退いた。直後、壁を蹴って再びブリジットへと向かって行く。

「たとえ親友であろうとも、わが道に立ちはだかるというのであれば、わしは斬る!!」
 許せ、ブリジット!!


「うおおおおーーっ!!」


 猛声を上げて接近した彼に、ブリジットは冷静にしびれ粉を吹きかけた。
「……あ…?」
 クラっときた次の瞬間にはもう昏倒している。

 机や椅子を巻き込んでどんがらがっしゃんと派手に転がり床で伸びた甚五郎に、羽純ははーっと息を吐き出した。


「まったく、あの占い師とやらもとんだ騒ぎを引き起こしてくれる」
「一応学園に通報しておきますか?」
「そうだな。そうしておいてくれ」
「了解です」
 携帯で山葉との会話を終えたブリジットとともに甚五郎の腕を取って肩へと回す。

「くそ。重い。何を食っていたらこんなでかくなれるんだ。
 この借りは高くつくぞ。目を覚ましたら覚えておれよ、甚五郎…」

 ぶつぶつ文句を言いながらも、羽純は甚五郎を家へ連れ帰る。



 一方、みんなから忘れられたホリイ・パワーズは。


「みんな〜〜〜〜〜〜どこにいるですか〜〜〜〜〜? 甚五郎〜〜〜〜〜?
 っていうか、ここどこ〜〜〜〜〜?」


 迷子になっていた。