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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

リアクション

   九

 高天原 咲耶とアルテミス・カリストは、「風靡」を奪おうと砦を襲い、明倫館に捕らわれた。しかし、直後の取り調べで、彼女たちがオーソンと無関係であることが判明し、長々とした説教の後、敷地内から出ないことを条件に、他校生用の宿泊施設に移動となった。
 木製ではあるが建物は立派だし、食事もきちんと出る。飲み物はお茶がメインだが、希望すればジュースも買ってきてもらえる。
 実に至れり尽くせりで、咲耶とアルテミスはすっかり馴染んでいた。
「……ハッ! こんなことをしてる場合じゃありませんっ! すぐに警備体制を強化してもらわないと! きっと兄さんのことですから、『フハハハ! 捕らえられた黒装束たちを解放し、我らオリュンポスの戦闘員に改造してくれるわ!』とか言いながら、ここを襲撃してくるに違いありませんっ!」
 さすが妹。咲耶はハデスの思考を読んでいた。
 その時、表で爆発音がした。慌てて外を覗くと、ハデスの発明品が、当のハデスを吹き飛ばしたところだった。
「あ、あれは『血の殺戮者』! ああ、兄さん、また重大なミスを……」
 何だか泣きたくなってくる。
「行きます!」
 アルテミスが窓から飛び出す。咲耶は、建物にいる関係者に逃げるよう忠告し、自身もアルテミスを追った。
「まずいです、無差別殺戮モードで起動しています。ここは、このオリュンポスの騎士アルテミスに任せて、お姉ちゃんも避難をしてください!」
「そうもいきません。兄さんの尻拭いを」と、そこで咲耶は顔を赤らめた。「ええと、つまり、ミスを何とかするのも妹の役目!」
「分かりました……でも、危険だから下がっていてくださいね!」
 アルテミスは地面を蹴った。と、「血の殺戮者」が目の前に移動する。
「え!?」
 慌てて方向を変えると、更についてくる。――いや、「血の殺戮者」の方が若干速いようだ。
「読まれている!?」
「兄さん、私たちのデータをインプットしたんですね……」
 咲耶は本当に泣きそうだ。
 捕えられたとき、武器は全て取り上げられた。だからアルテミスも咲耶も、素手だ。その分、間合いを詰めなければならず、それは「血の殺戮者」にとっても、絶好の距離だった。
 その時、【咆哮】が「血の殺戮者」を襲った。声におののくようなことはなかったが、振動により、動きが一瞬、止まった。
「今です!」
 すかさず、咲耶が手を振り下ろす。【天のいかづち】が「血の殺戮者」を貫いた。
「レーダー機能停止……トラブル発生……シャットダウンシマス……」
 煙を出しながら「血の殺戮者」は冷静に報告し、静かになった。
「大丈夫!?」
「レゾナント・アームズ」を着用したリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、髪についた葉を払いのけながら森の方からやってくる。
「何だか凄い騒ぎが聞こえたものだから……」
「ありがとうございます。お陰様で、助かりました」
 咲耶は深々と頭を下げた。アルテミスも、「命の恩人です」と手を握る。
「それにしても、このロボットはオーソンの……?」
「……いえ、それは」
 正直に話すべきか、咲耶は迷った。が、ハデスがそこにいる以上、いずれは知られることだ。意を決して「実は」と口を開いた瞬間、逆にリカインから制された。
「……探していた相手が来たみたい」
 森の中から、リカインを追うようにして現れたのは、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)。共に剣の花嫁だ。
「ちょっと、離れていてね」
 リカインが、咲耶たちに注意するなり、アストライトがブレードトンファーで襲い掛かった。リカインは「七神官の盾」で、それを受け止める。
「相変わらず、ね……!」
 衝撃に顔をしかめながら、リカインはアストライトを睨んだ。元々、リカインの命を狙うなど日常茶飯事であったが、今はそこに一切の感情が見られない。
 一方のソルファインは、争い事を全く好まぬ性格――光条兵器を使えぬほどだった――をしていた。リプレスの力を以てしても、その部分だけはどうにもならなかったらしく、二人はオーソンともユリンとも別行動を命じられた。
 即ち、捕らわれた黒装束及び剣の花嫁、機晶姫のデータ回収である。
 だが、そこまでは誰も知らない話だ。
 ソルファインが周囲を見回し、校舎へ向かおうとする。明倫館の生徒や関係者が大勢いることを、咲耶もアルテミスも知っていた。
「行かせるわけにはいきません!」
 アルテミスが立ちはだかると、ソルファインはぎゅっと抱きついて来た。
「え?」
 抱きついたまま、手の力を緩めず、そのまま進もうとする。咲耶はそれを止めようと、アルテミスを後ろから支えた。進行は止まったが、ソルファインは歩みを止めず、アルテミスと咲耶の足元に土が溜まっていく。
 アストライトはひたすらブレードトンファーで殴り掛かる。このままでは埒が明かない。
 リカインは大きく息を吸い込んでから、歌を唄い始めた。激しい、戦いの歌だ。「レゾナント・アームズ」から力が溢れ出し、「七神官の盾」でアストライトを押し返す。
 アストライトは盾に足をかけ、後方へ飛んだ。すかさずリカインは【咆哮】をぶつけ、着地しそびれたアストライトの顔を「怪力の籠手」で殴りつけた。
 アストライトがぐったりとなったのを見届けると、今度はソルファインの襟首を掴み、同じように殴り飛ばす。
「……ゴメン」
 およそ歌姫とも思えぬ戦い方だが、兎にも角にもパートナーたちを止められて良かった、とリカインは息をついた。
「また助けて頂いて……」
「このご恩は……」
「お互い様よ。足止めしてくれたお蔭で、何とか出来たんだから」
 リカインは笑いながら、咲耶とアルテミスを起き上がらせた。


 アストラトとソルファインは、そのまま明倫館で預かることになった。
 咲耶とアルテミスは放免されたが、ハデスは捕えられ、説教されるらしい。「兄さんにはいい薬です」と、咲耶はにべもない。
 だがこの騒ぎの最中、黒装束に混ざって捕えられていた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)と共に逃げ出していた。
「少しは役立つ情報が手に入りましたか?」
「オーソンとグランツ教の繋がりがの。――それとカタルがどこを通るかも」