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第6章 救助隊

「これはひどいですね。すぐに救助しなきゃいけないです!!」
 ドール・ユリュリュズから眼下の街の惨状を分析していた高峰結和(たかみね・ゆうわ)は、その凄惨な有様に息が詰まる想いだった。
 飛空艇を街の外に置いて街に入ると、結和はただちに行動を開始した。
 住民たちに呼びかけると、すぐに、建物のひとつを借りることができた。
 その建物に、結和は簡易病院を開設した。
「さあ、ここで治療をしますよー」
 白衣に身を包んだ結和は、腕まくりして気合を入れた。
 だが。
 しーん。
 病院のベッドには、いまだ患者がいなかった。
「よ、よし、そ、それじゃ、びょびょ病院の中では何もできないぼ、僕がぁ!!」
 エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)は、そういうと、だだっと階段を駆け降りて、外に飛び出した。
 ケガをして動けない人、病気で死にかかっている人をみかけると、ただちに小型飛空艇に収容して、結和のもとへ運んでゆく。
 マスクをして街中を駆けまわるエメリヤンをみかけた盗賊たちは、彼を捕らえようとしたが、無口であるがゆえに気配も薄く、風のように立ち回るその姿に翻弄されるばかりだった。
「み、みなさん、す、すすすすぐに、治療を」
 エメリヤンの活躍で、結和の病院のベッドはたちまち埋まっていった。
「さあ、腕が鳴りますねー。治療が済んだ方も、すぐには動かないで、しばらく休んで下さいねー」
 結和は、マイペースながらも的確な治療で次々に患者をさばいていった。
「はあ。でも、さすがに多すぎますかねー」
 治しても治しても運ばれてくる患者の数に、結和が辟易したとき。

「もしもし。この病院で、僕も治療をさせてもらっていいですか?」
 杉田玄白(すぎた・げんぱく)が、結和の病院に顔を出していった。
「えっ? もちろん、いいですよ。ちょうど困っていたところだったのでー」
 結和は、ニッコリと笑みをみせていった。
「それでは、僕も患者を集めてきますので」
 そういって、玄白は、自ら小型飛空艇を使って、街中の患者を収容してまわった。
 収容した患者を結和の病院に寝かせてもらって、後は玄白が自ら治療するつもりだった。
 こうして、結和の病院はますます多くの患者を迎えることになる。
 だが。
「へっへっへー、おっさん、なに、オレらの縄張りで、勝手なことをやってんだよ?」
 患者を運ぼうと街を歩く玄白に、盗賊が絡んできた。
 エメリヤンのようにひそかに動くこともできない玄白は、盗賊にたやすく介入されてしまったのだ。
 そのとき。
「なに、絡んでるのよ!! もともとはあなたたちが住民を傷つけたんじゃない!!」
 怒りに燃える月摘怜奈(るとう・れな)が、玄白に因縁をつける盗賊たちに銃口を突きつけた。
「ああ? うっせーよ、ひっこんで……」
 どきゅーん!!
 怜奈を追い払おうとした盗賊に、情け容赦なく銃弾が発射された。
「お、おわああああああああ」
 弾丸に身体をかすられた盗賊は、あまりのことに悲鳴をあげ、よろめいた。
 その身体を怜奈は引きつかんで、思いきり投げ飛ばす。
 ぐわしゃーん
「あがあああ」
 脳天を地面に叩きつけられた盗賊は、悶絶して、倒れた。
「怜奈。無茶はしないように」
 玄白は、諌めるようにいった。
「わかってるわ。患者の後のことはお願いするわね」
 怜奈は、うなずいていった。

「さて。どうやらここが唯一の病院のようですね」
 レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)もまた、結和の病院に足を運んできた。
「あなたは?」
 結和は、不思議そうにレオンをみつめて尋ねた。
「私も外科医として患者のために働きたいのですが」
 レオンは答えていった。
「わー。助かりますー」
 結和は、喜んで承諾した。
「おお、うまくいったようだな。それでは、俺もここで治療の仕事をしよう」
 シャルル・クルアーン(しゃるる・くるあーん)もまた、レオンとともに、簡易病院で働くことにした。
「ちょうど、一つの建物がまるごと病院として使われているようで、助かりました。しかし、いいんでしょうか? この建物は、高峰さんも住民に借りたもののようですが」
 レオンは、白衣に身を包みながら、結和を指していった。
「大丈夫だ。この建物の所有者は、他にも治療に使いたい者があれば自由に使ってもらって構わないと、高峰に話しているそうだからな」
「ああ、そうでしたか。それなら、問題ありませんね」
 シャルルの言葉に、レオンは安堵した。
 実をいうと、シャルルが事前に手をまわして、高峰が建物を借りるより前に、所有者に話を通しておいたのだ。
 救助を希望する者たちが来れば、相手を限定せず建物を貸してくれるようにと。
 だから、高峰もすぐに建物の提供を受けることができたのである。
 このことは、シャルルしか知らないことだった。
「よし、それじゃ俺も、獣医でもやってみようかぁ!!」
 五十嵐虎徹(いがらし・こてつ)も、腕まくりをして、レオンたちとともに病院で働く覚悟を決めた。

「みんな、街の中で治療を行う場をみつけられたようだね。それでは」
 城紅月(じょう・こうげつ)は、頃合いをみはからって、誘導を始めた。
「みなさん、診療所が開設されています。ケガをした人、病気の方で、自分で移動できる方は、受診して下さい。身動きができない方は、他の方に運んでもらって下さい。みなさん、ご協力をお願いします」
 紅月の呼びかけにより、多くの人々がレオンたちのいる病院へ向かい、また、運ばれていった。
 全ての準備は万端だった。
 医療船に改造したテマノス・コンコルディアを街の中に入れることはできなかったものの、街の外に置いて、内部の資材や食料を治療などのために使うことができる。
 唯一足りないのは、この壮大な計画を実現させる人手だった。
 そのとき。
「あの。私たちにも手伝わせて」
 ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)が進み出ていった。
「えっ、いいのかい? 嬉しいな」
 紅月は、願っていた展開に内心こおどりした。
「病院の中はだいぶ充実してきたけど、患者を誘導する態勢がまだ十分じゃないんだ。そこを担当してもらえると助かるんだけど」
 紅月の要請に、ルゥはうなずいた。
「そのことなんだけど、身体に傷を負った人だけじゃダメだと思うの。この街には、心に傷を負って、ストレスでおかしくなってしまっている人もたくさんいるわ。特に、恐ろしいことをされた女の人たちが、深刻な状態にあるわ。そういう人たちも治療したり、癒したりしなきゃいけないと思うの」
 ルゥの言葉に、紅月は深く同感した。
「そうだな。病院には、精神科や心療内科のようなものも必要だろう。そういう人たちにも、呼びかけないとな。じゃあ、そのことをお願いしようか」
「やってみるわ。私が、みんなを連れてくる」
 ルゥはうなずいた。
「私も、ルゥさんを手伝います」
 メルティナ・バーンブレス(めるてぃな・ばーんぶれす)がいった。
 ルゥとメルティナは、二人で協力して、心に傷を負った住民たちに声をかけ、ともに団結して絆をつくるべく、紅月のところに集まるよう呼びかけていった。
 そして。
 紅月たちの活動は、後に、街にとって重要なある女性を癒すことになるのである。