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第16章 解放

 ステラレの街を解放する闘いは終わった。
 最終的に街はあらかた焼き尽くされてしまったが、盗賊たちはボスを倒されて四散し、街にすみついていた魔物たちも、炎を恐れて出ていった。
 気象コントロールセンターの異常が修復されたことにより、街を外界から隔絶していた異常気象もおさまり、再び、人やものの行き来が始まることが予想された。
 行政機構も、治安のための警官の配備などを行い、今後は復興に努めていくと予想された。
 住民の多くは盗賊や魔物に惨殺されていたが、多数の犠牲を払いながらも、何とか解放は実現したのである。
 街を解放した生徒たちは、犠牲者の鎮魂のため、ささやかな儀式をとり行うこととした。

「散っていった無辜の民のために!! この舞を奉納いたします!!」
 鎮魂式で、街の中心の広場にあるステージにあがったティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は、神楽舞を舞ってみせた。
 生徒たちは、犠牲者の冥福を祈って、それぞれが黙祷を捧げた。
「闘いには勝った。だが、本当の闘いはこれからだ。この街を復興するための、長い時間をかけた闘いが始まるんだ」
 ティアの舞を厳粛な面持ちで眺めながら、風森巽(かぜもり・たつみ)は呟いた。
 巽をかばって倒れた、指輪の魔法使い。
 その犠牲のことを思うと、巽は胸が痛んだ。
 解放のための闘いに参加した生徒たちの大半は、儀式の後に街を離れる意向だった。
 傷ついた住民たちの治療のために残る生徒もいるようだったが、盗賊や魔物との激戦を勝ち抜いた生徒たちは、次の闘いの場を求めているようにもみえた。
 巽もまた、街を離れる意向だったが、実際、そうした方がいいとも感じていたのである。
 なぜか。
 これまでの闘いの中で、巽は、多数の悪の組織につけ狙われるようになってしまった。
 解放された後もこの街にとどまれば、そのせいでかえって、災いを呼ぶことにもなりかねない。
 そして、実はそのことは、闘いに明け暮れる他の生徒たちについても同様なのだ。
 血で血を洗う闘いに熟練した戦士たちは、闘いの場に身を置いていた方がいい。
 平和な世界に彼らのような戦士がいると、どこかに狂いが生じてくるのである。
「みなさん、安らかにお眠り下さい。そして、国家神さま、彼らに天国への導きを」
 ティアは、空の彼方で自分の舞をみつめているであろう、多数の魂、そして、至高の存在に祈りを捧げながら、おごそかに舞を舞った。
 街への救援を訴えるため、決死の覚悟で街を出て荒野を旅した少年が聞いたという、国家神の声。
 その声が、解放のきっかけとなった。
 街では、今後、国家神を祀る簡易な神殿を建設し、人々の心のよすがとする方針だという。
 殺されてしまった町長の後継を決めるための選挙も、行われる予定だと聞いていた。
 神。
 国家神。
 そのようなものは、本当にいるのだろうかと、巽は思った。
 熱心に祈りを捧げるティアには悪いが、巽としては、目にみえないものをどこまで信じるべきか、疑念がつきまとうのだ。
 このとき、巽は、光に包まれて消えていったあの「指輪の魔法使い」の正体について、特に詮索することもできずにいた。
 神とは。
 その答えを知っているものは、ほかにいた。

「パンツァー様。この街の解放に参加するという御使命は、果たさせて頂きましたもん☆」
 騎沙良詩穂(きさら・しほ)は、解放後の焦土と化した街を歩きながら、自分がその巫女を務めるその謎の英霊に、報告の祈りを捧げていた。
 パンツァーによれば、この街の解放は、国家神の意向によるところが大きかったという。
 詩穂としては、人々の希望の源泉である愛欲を司るパンツァーもまた、国家神とともにこの街に祀られるべきであると考えていたが、それが実現するかどうかはさだかではない。
 街には、裸同然で座り込んでいる子供たちの姿が目立った。
 行政機構の意向としては、まず、遅延している子供たちの義務教育についても、早急に手を打たねばならないとされた。
 だが、先立つものがなければ、教育にしても何にしても、復興は立ち行かないのだ。
「パンツァー様。もうひとつの使命も、果たさせて頂きますもん☆」
 詩穂は、謎めいた笑みを浮かべながら、街を歩いていった。
 その絶対領域が、陽光を反射してキラリと光っていた。

「わぁ!? ゆ、雪だぁ!!」
 ステラレの街の子供たちは、驚きの叫び声をあげた。
 先ほどまで快晴だった天気が急に暗雲に包まれたかと思うと、猛吹雪が巻き起こってきたのである。
 視界が白一色に塗りつぶされた子供たちは一瞬、この街を悩ませた異常気象が復活したのかと、疑った。
 そして。
「はーい、よい子のみんな、こんにちは、じゃけーん」
 真っ白なヒゲを生やしたサンタさんが、子供たちの前に姿をみせたのである!!
「サ、サンタさん!? 嘘!? 盗賊じゃないよね? 魔物じゃないよね?」
 子供たちは、夢ではないかと疑い、目をこすったりした。
「本物のサンタじゃけん! プレゼントばあげるよっしゃい。これで一生懸命勉強しておくれやす」
 サンタさんは、よくわからない言葉遣いをしながら、子供たちにランドセルや筆箱を配ってまわった。
「あ、ありがとう、サンタさん!!」
 子供たちは、喜んで礼を述べた。
 サンタは、ニッコリ笑って、うなずいた。
 吹雪はいよいよ激しくなり、サンタの姿も、その吹雪のただ中に消えていった。
 そして。
 気がつくと、空は、再び快晴となっていた。
 先ほどまで吹き荒れていたはずの吹雪などは、痕跡さえ見当たらなかった。
「い、いまの、何だったんだろう?」
 子供たちは首をかしげながらも、自分たちの前にランドセルや筆箱が確かに置いてあるのをみて、夢ではなかったのだと信じた。

「これでよし。サンタの正体は知られてはいけんじゃけんのう」
 清風青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は、物陰から子供たちの様子をうかがいながら、ほくそ笑んでいた。
 氷雪の術による演出に続いて、サンタの格好で登場したのが青白磁である。
 緊張してしまって言葉遣いが変になったが、何とかやりきったと自負する青白磁であった。
 今後も、街の復興のため、子供たちにランドセルなどを配ろうと決意する青白磁。
 贈り物はやはりサンタが、とは、顔は怖いのに、なかなか粋なはからいではないか。
 青白磁のように良心ある生徒たちの手で、復興は、確実に援助されていったのである。

「お父様。街は解放されました。お父様を殺した、あのいまいましいボスも死にました。ですが、私は」
 サヤカは、焦土と化しながらも、復興の光に包まれつつある街の様子をみつめながら、茫然としていた。
 ボスにあえて身を捧げる自分の作戦は、住民が一斉に虐殺されるのを防ぎ、また、解放の闘いに盗賊が対応するのを遅れさせるなど、いろいろ功を奏したように思った。
 だが、そのために、自分自身はこれ以上ないほど汚され、ボロボロにされてしまっていたのである。
 ボスの前に愛想笑いを浮かべて媚びへつらい、恥ずかしい姿をみせて下品な喜びを煽っていたときの心境は、これ以上ないほど辛く、屈辱的なものだった。
 ボスと濃厚な交渉を重ねたことで、心身ともに、深い傷がついてしまっていた。
 もう、盗賊が街を占拠する前の自分には戻れないのだと、サヤカは思った。
「サヤカ様。元気を出して欲しいですわ」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は、そんなサヤカに優しく話しかけた。
「ありがとう。ですが、もう、私の役割は終わったと感じています。このまま、誰にも気づかれないうちに、消えていってしまいたいです」
 サヤカは、沈んだ口調でいった。
 ボスの女となっていたことは、住民たちに知られている。
 これ以上、この街にとどまることもできないようにサヤカは感じていた。
「街の人たちは、みな、あなたが街のために身体を張ったことを感謝していますわ。今後の街に、あなたも、必要な人間なのですわ。役割は、終わっていませんわ。今後は、復興のために、尽くすべきですわ」
 セルフィーナは、サヤカをなだめ、癒しのオーラで包もうとした。
 セルフィーナからみれば、サヤカが経験したことなど、たいしたことではないのだった。
 要するに、サヤカも、女性の武器を駆使して闘っていたのだ。
 闘い方が少し違っただけで、みんなと同じである。
 汚れた、と考えるべきでもない。
 もしそうなら、盗賊や魔物を闘いで殺した生徒たちも、これ以上ないほど汚れていることになってしまう。
 だが、サヤカの心の闇は、晴れなかった。
 ボスがいなくなったことで、それまで心の奥に封印してきた想いが、いっきに噴出しているようでもあった。
 セルフィーナは、どうすればサヤカを癒せるかと、考えあぐねた。
 そのとき。

「元気を出すもん☆ 汚れたと感じるなら、祈りを捧げるんだもん☆」
 詩穂が、サヤカの前に現れて、いった。
「祈りを?」
 サヤカは、不思議そうに詩穂をみつめた。
 詩穂は、ニッコリ笑ってうなずいた。
「サヤカの活躍は、パンツァー様が高く評価しているんだもん☆ ボスのような悪人でさえももてなして喜ばせることができた、その心意気は、人々に夢と希望を与えるうえでも原動力となりうるんだもん☆ さあ、自分を浄めるため、祈りを捧げるんだもん!!」
 詩穂は、サヤカを力強く促した。
 自分を浄めるため、祈る。
 サヤカは、その考えにひかれるものを感じた。
 詩穂がいうように、国家神、そして、パンツァーという存在に向かって祈りを捧げるサヤカ。
 自分は、汚れてしまったということ。
 だが街には、復興して欲しいということ。
 それらの想いは、サヤカは全て吐き出し、祈りを捧げた。
 すると。
 サヤカは、心の中が、不思議な光に満たされるように感じた。
 あたたかな、どこまでも明るい光だった。
 国家神?
 いや。
 直接的にはパンツァーが、祈りに応えたのだと感じた。
 もちろん、国家神もサヤカの活躍を承認したのだろう。
 実際、サヤカの救済はパンツァーの役割とみなされたのである。
 もちろん、そんな高次元でのやり取りを、サヤカは知るよしもない。
 確かに、自分が浄化され、また、積極的な気持ちが湧いてくるように、サヤカは感じた。
「すごいもん☆ サヤカは、パンツァーの巫女になる素質があるもん!!」
 詩穂は、驚きに目を見開いた。
 詩穂には、確かに、祈るサヤカの身体が光に包まれるのがみえたのである。
 よくみれば、サヤカの肌は白く、透き通るようで、その全身は異様になまめかしく、周囲をひきつけずにはいられない官能的な美を放っていた。
 ボスと関係を持ったことが、サヤカを、肉体的にはより美しく、磨きがかかる結果をもたらしたのだと思われた。
「詩穂さん。わかりました。私は、私なりに復興のために努力しようと思います。次の町長に立候補してもいいですし、でなければ、別のやり方を考えます。たとえ汚れてしまったのだとしても、やらなければいけないことがあるのだと、感じました。今後は私も、パンツァー様をお祀りしていこうと思います」
 サヤカの言葉に、詩穂はうなずいた。
 いつか、サヤカも、心の傷がだいぶ癒えたところで、素敵な男性に巡りあうだろうと、詩穂は確信したのだった。

「サヤカさん。こちらへ」
 ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)は、みんなの前に姿を現したサヤカを、街の中心の広場へと導いていった。
 ティアの神楽舞は終わり、いま、広場では、城紅月(じょう・こうげつ)が癒しの歌を歌うところだった。
「この歌……。聞いてて、気持ちが穏やかになりますね」
 サヤカは、うっとりして、紅月の歌に聞き惚れた。
「サヤカさん。心身につけられた傷は、そう簡単には消えません。でも、他の人たちも、同じなんです。傷を持った者同士、この街で力を合わせて、みんなで生きていきましょう」
 ルゥはいった。
「そうですね。ひどい目にあったのは、私だけではなかったですね。仲間がいる。そう思えるなんて、幸せなことかもしれませんね」
 幸せ。
 サヤカは、その言葉が自分の口から出たのが意外だった。
 これも、紅月の歌の効果であろうか?
「さあ、手をとって。みんなで歩みましょう」
 ルゥは、サヤカに手を差し出した。
 その手を、サヤカは握った。
 あたたかい手だった。
 ぬくもり。
 人と人とのつながりを確かに感じながら、サヤカは、失われたものの再興に努めなければいけないと思った。
「るーるる、るるっるー」
 紅月の歌が、澄んだ青空に、どこまでも響きわたっていた。

「街は解放されたか」
 ステラレの街を、丘の上から見下ろす影があった。
 その影は、指にはめた色とりどりの指輪をいじってみせる。
「まことに、素晴らしいことだ。人々の願いや想いは、確かに届いていた。かりそめのこの姿には後継者もできたことだし、また、いつか、別の姿で会うこともあるだろう。それでは、みんな、闘いを通じて生まれ変わり、ハッピーバースデー、だ!!
 そういうと、指輪の魔法使いは、天に向かって、跳躍した。
 その身体は、光に包まれ、どこかに消えていってしまった。
 誰もが知ることもない、丘の上の出来事であった。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 今回は全員に称号をつけるというのがいろいろ冒険でした。
 一応イコンにも称号をつけてみました。
 期待に添えるような称号を与えられたかどうか不安ですが、みなさんには、今後も理想の称号ゲットを目指して努力していって欲しいと思います。

 本文の文章が長くなってしまいましたが、実はまた私は活動休止期間に入りますので、今回は特にスペシャルな内容にしたいと思ってがんばりました。
 5月ごろ復活できたらいいなと思ってますが、いろいろヤバいので、もしかしたら、作風から重要な要素が抜けるかもしれません。
 暴力的なのではなく、純愛などの路線でやっていけたらと思っています。

 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。