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第12章 皆殺し作戦

「よし。まずは一体!!」
 大洞剛太郎(おおほら・ごうたろう)はスナイパーライフルを構えると、迫りくる魔物の軍団に向けて凶弾を放った。
 ドキュゥゥゥゥゥゥン!!
 精確無比の狙いにより、敵の戦闘を走っていたハエ男が胸を撃たれて転がった。
「ぐ、ぐぎゃああああああ」
 泡を吹いて悶絶し、息絶えるハエ男。
「一撃でダウンか。よし、次だ!!」
 狙撃する前に既に成果を確信していた剛太郎は、間を置かず次の敵に銃口を定める。
「おお、剛太郎!! やはりそなたにも侍魂が受け継がれておったか!! わしは嬉しいぞ!! ともにこの鬼ヶ島の鬼どもを残らず退治しようではないか!!」
 大洞藤右衛門(おおほら・とうえもん)は剛太郎の活躍の素晴らしさに感涙にむせびながら、遅いくる魔物を次々に投げ飛ばしていく。
「ええい、どりゃああああ!!」
 藤右衛門の柔術は熟練の冴えをみせつけ、どんな魔物も寄せつけなかった。
 それだけではない。
「切り捨て、御免!!」
 背後から忍び寄るクマ獣人に、藤右衛門の振り向きざまの斬撃が襲いかかる。
 すぱっ
「く、くまあああああ!!」
 クマ獣人は、胸から血を吹いてうめいた。
 藤右衛門は、剣術にも優れていたのだ。
「敵との距離がだいぶ縮んだな。ここからは小銃でいくとしよう!! 超じいちゃん、当たらないようにご注意を!!」
 剛太郎は、大量に押し寄せてくる魔物たちに、小銃を構えて自分から突っ込んでいった。
 だだだだだだだ
 小銃に撃たれて転倒する魔物。
 転倒した魔物の身体につまずいて、さらに他の魔物が崩れていく。
 将棋倒しを起こしながらも、魔物たちはいっせいに押し寄せてきた。
 まるで、津波のようであった。
「ずいぶんかたまっているな。戦術も何もないとみた。それなら、効率性をあげるとしよう!!」
 剛太郎は、魔物の群れにM203グレネードランチャーに装填した40mm擲弾をブチ込んだ。
 ちゅどどどどーん!!
「ぐぎゃああああああ」
 爆発とともに、多数の魔物が炎上する。
 すると。
「死ねえええええ!!!」
 身体が炎に包まれたまま、多数の魔物が剛太郎に特攻してくる。
「ぐ。来るな!! 熱い!!」
 燃え上がる魔物につかみかかられて、剛太郎はひるんだ。
「剛太郎!! 地獄の焔をまとった鬼は危険だぞ!!」
 藤右衛門は、剛太郎にまとわりつこうとする魔物たちを次々に斬って捨てていった。
 斬られた魔物たちは、煙をあげながら倒れる。
「ふん!!」
 その身体を、藤右衛門は思いきり踏みしめた。
 ばりん
 黒焦げになってほぼ炭化していた魔物の身体が、あっという間に砕け散る。
「超じいちゃん。助かったぞ。ありがとう」
 剛太郎は、礼ををいった。
「礼は、鬼どもを全て退治してからじゃ!!」
 藤右衛門は、襲いくるカマキリ怪人に豪快な背負い投げを決めながら、ニヤッと笑ってみせた。
「はっはっは。まだまだ、若いもんには負けんわい!! これからじゃ、これから!! セカンドライフをさらに越えた、サードライフをバトルでハッスルじゃ!!」
 藤右衛門は、いよいよ勢いづいた。
「ありがとう、超じいちゃん。じいちゃんより遥かに若い自分に、ガッツと勇気を与えてくれるなんて!!」
 剛太郎は、傷ついた身体の奥から力をわきたたせて立ち上がると、迫りくるハサミ男の胸に銃剣を突き立てた。
「はっはっは!! その意気、その意気!! 侍魂は地獄も飛び越えるぞい!! ほい、ぴょいぴょいぴょーい!!」
 剛太郎の活躍を賞賛して、藤右衛門の豪快な笑い声が天にとどろいた。

「きたね、魔物ども!! いよいよ、最終決戦だよ!! アイドルヒーローの登場だよ!!」
 迫りくる魔物たちを前に、松本恵(まつもと・めぐむ)は敢然と立ち向かった。
「死ね、小娘が!! 必殺ビーム!!」
 赤い目の怪人が、恵に怒鳴りつけたかと思うと、目からビームを放って攻撃してきた。
 恵が身体がビームに焼かれるかと思えた、その瞬間。
「チェンジ、ブレイズガード!!」
 恵は、変身ブレスレットを振りかざして変身した!!
 ブリガンダインを羽織り、ビームをかわす恵。
 怪人の周囲をすばしこくまわって、かく乱しながらキックとパンチを繰り出す。
 ばきどかっ
「あぎゃっ」
 怪人は顎にパンチをくらって天をあおいだ。
 目から放たれるビームが、大空に向かって吹きあがる。
 くるくるくる、ばたーん
 そのまま、怪人はもんどりうって倒れ、動かなくなった。
「アイドル!! ヒーロー!! エイ、エイ、オー!!」
 恵は、天に向かって拳を突き上げ、絶叫した。
 すると。
「小娘!! いい度胸だ!! その肉を引き裂く、骨をかじってやる!!」
 牙を光らせたサーベルタイガーの群れが、恵に襲いかかってきた。
「ガウ、ガウ!!」
 恵の身体に、いっせいに飛びかかる野獣たち。
 恵は、たくみに攻撃をかわしながら、駆けた。
「バーストダッシュ!! 爆炎波ぁ!!」
 すれ違いざま、サーベルタイガーの身体を剣でなぎ払う恵。
 しゅごああああ
「おわああああ」
 剣に触れられた野獣たちの身体が、たちまち炎に覆われる。
「焼き肉になっちゃいな!! ぺしぺし」
 恵は、のたうちまわるサーベルタイガーの身体をつま先で蹴っ飛ばした。
「さあ、アイドルヒーロー!! ただいま売り出し中!! どんどんやっちゃうよ!! よい子のみんな!! チャンネルは、そのままで!!
 恵は、次の敵に剣を振り降ろしながら、絶叫した。
 その目には、キラキラとしたアイドルの光が宿っていた。

「これだけ敵が多いと、腕が鳴るわね」
 ミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)は、不敵な笑いを浮かべていった。
「ミルゼア様。楽しそうですね」
 リディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)がいった。
「相手は下種どもじゃ。情けは無用。闘志が満たねば、自分がやられることになるぞ。ミルゼアが闘うというなら、某もこの弓と魔法で天誅を下すとするかの」
 ルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)は、迫りくる盗賊の額に弓矢の狙いをつけていった。
 びゅっ
 ぐささっ
 ルクレシアの放った矢が、盗賊の額を貫いた。
「しぎゃああああああ」
 悲鳴をあげて、倒れる盗賊。
「天誅!!」
 ルクレシアは厳かな口調でいった。。
「ルクレシアに全部射抜かれないうちに、やっちゃわないとね」
 ミルゼアが、大剣を構えていった。
 フィジカル・ディザスター。
 闇のように暗い、漆黒の大剣であった。
「ミルゼア様。攻めしか考えないのでしたら、リディルが防御を担当します」
 リディルもまた、大剣を構えていった。
 ディザスター・リカバリー。
 雪のように白い大剣であった。
「任せたわ」
 ミルゼアはニヤリと笑うと、リディルの剣に、自分の剣を十字に重ねてみせた。
 黒と白。
 二つの大剣が、戦場で合わさった。
「シア義姉様。義姉様の守りは、わたくしが担当します」
 巫剣舞狐(みつるぎ・まいこ)が、ルクレシアに寄り添っていった。
 二刀の太刀を構え、決死の覚悟を決める舞狐。
 と。
 敵が、いっきに押し寄せてきた。

「ウッキー!! 死ね、死ね、死んじまえ!! お前らは俺たちの楽園にいらない!! 消え失せろ、地獄へ落ちろー!!」
 盗賊たちは、剣や斧を振りまわして、必死の形相でうちかかってきた。
 みな、ステラレの街の支配に慣れてしまって、せっかく自分たちのものになったのを奪われるのは辛いと感じていたのだ。
「ふ」
 ミルゼアは、失笑を禁じえなかった。
 もとはといえば、盗賊たちが、本来の街の住民を襲って、力ずくで支配した街なのである。
 見当違いの怒りもいいところだった。
「あなたたち、根性が腐りきってるわね。皆殺しにしてあげるから、かかってきなさい」
 ミルゼアは、冷酷に言い放った。
 その蔑んだ目をみたとき、盗賊たちの怒りは最高潮に達した。
「くっそー!! バカにしやがってー!!」
 ミルゼアに、複数が同時に斬りかかっていった。
「はああ」
 漆黒の大剣を振りかざして、ミルゼアは身体をひねった。
 すぱすぱっ
「あ、あああああああああ!!」
 振りまわされた刃に触れた盗賊たちの身体が、輪切りにされていく。
 辛うじて攻撃をかわし、ミルゼアの隙をつこうとした盗賊の腹には、リディルの白の大剣が刺しこまれた。
 ずぶり
「ぐわわっ」
 盗賊たちは、呻いて、倒れた。
「ミルゼア様。本当に、守りを考えてらっしゃらないのですね」
 リディルが、いった。
 もう慣れてはいたつもりだったが。
「そうね。でも、どうにかなるとは思ったわ」
 ミルゼアは、笑っていった。
 血の臭いが、彼女を興奮させていた。

「ほれ、抵抗するでない。もう命運は決しておるのじゃ」
 びゅっ、びゅっ
 ルクレシアの矢が、次々に盗賊たちの身体を射抜いていった。
「ひ、ひええ」
 盗賊たちは、矢の狙いがあまりに正確なのに恐れをなして、逃げ出した。
「ほれ、逃げるでない。何じゃ、せっかく頭を狙っておるのに、わざわざ微妙に外れるような動きをするな。かえって、苦しい思いをするぞ」
 ルクレシアは、背中を向けた敵にも、情け容赦なく矢を放った。
「ぐ、ぐわああ」
 頭を射抜かれた盗賊たちは、一瞬で絶命する。
 慈悲、ではない。
 ルクレシアは、下種な相手と闘うのに無駄に時間をかけるのが、嫌だったのだ。
 盗賊たちがやってきたことを思えば、できる限り速やかにこの世から消し去ることが、正義にかなっていると思えた。
 天誅である。
 ルクレシアにとって、この闘いは、この街を解放するための聖戦であった。
 ルクレシアが、次の矢をつがえようとしたとき。
「オラァァァァ!! この鎧を射抜くことは、そう簡単にはできんぞぉ!!」
 頑丈な鎧や兜に身を固めた一人の盗賊が、ルクレシアに突進してきた。
 かきん、かきん
 なるほど、ルクレシアの矢は、その盗賊の武装を貫くことができない。
「もらったり!!」
 盗賊は、ルクレシアに近づいたところで、豪快な斬撃を放った。
 その瞬間。
「不逞の輩!! 義姉さんには触れさせません!!」
 舞狐が、跳躍した。
 獣のような身のこなしであった。
 舞狐は盗賊の身体に組みつくと、二刀の刃を、兜と鎧の合わせ目に潜り込ませる。
「ぎゃ、ぎゃああああ」
 盗賊は呻いた。
 重武装が災いして、思うように身体を動かすことができない。
 すぱっ
 ついに舞狐は兜をかぶった盗賊の首を斬り飛ばした。
 ぶしゅうううう
 頭部を失った盗賊の胴体の首根から、鮮血が吹きあがる。
 盗賊の生首は、兜をかぶったまま、くるくると宙を舞って、地面を転がった。
「ぐ。ぐぐぐ。このような最期を迎えるとは、口惜しや。悪党にも、無念の想いはあるのだ!!」
 転がった生首の唇からその言葉が漏れた。
 ごぼっ
 その唇からも、血が吹き出る。
 生首は、完全に沈黙した。
「ほう。腕をあげたのう。いまの敵を葬るとは。盗賊ながら、首をはねられた後も言葉を呟くほどの、剛の者であったぞ。おぬしの手柄じゃ、舞狐」
 ルクレシアは、舞狐を賞賛した。
「ありがとうございます」
 舞狐は、礼をいいながらも、その瞳は、次の敵をみすえていた。
「ほう、ほう。げに、まことに勇猛な戦士へと、成長したものじゃ」
 ルクレシアは、舞狐を、頼もしそうにみつめていた。

「ちいっ、クズどもが!! 来るなら、きやがれ!!」
 レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)は、全身の傷から血をしたたらせながら、居並ぶ敵たちに吠え続けた。
「へっへっへ、もうそろそろダウンじゃないのかなあ?」
 盗賊たちは、レグルスに殴られた頬から血を流しながらも、数で攻めることにだけは自信があった。
 広場に殺到する敵の数は非常に多く、闘いの中で疲労の色を濃くしているのは、レグルスだけではなかった。
「うら、死ね!!」
 盗賊の一人が、レグルスの背後から飛びかかっていった。
「ぬ」
 組みつかれて、レグルスは焦ったが、そのまま転がった。
 揉み合いながら、相手の手首をつかんで、その骨をヘシ折る。
 ぐきっ
「あぎゃあああ」
 悲鳴をあげた盗賊を投げ飛ばして、レグルスは起き上がった。
「おりゃああ!!」
 ドスを構えた盗賊たちが、レグルスに突っ込んでいった。
「はあ」
 レグルスは、身をかわし、足をひっかけてその盗賊たちを転ばせる。
「れれ」
 転倒した盗賊たちの顔を、レグルスの蹴りが襲った。
「ムカつくんだよ!」
 拳を放った盗賊の頬が、逆に殴り飛ばされる。
「どうした? まだまだだぞ!!」
 レグルスは、荒い息をつきながら、次の相手を促した。
「げ、げえ」
 盗賊たちは、たじろいだ。
 レグルスは、疲れていても異様に強かった。
「来ないのか!! じゃあ、こっちから行くぞ!!」
 レグルスは、跳躍した。
「闘うんだよ!! 死ぬ気で!! オラァァァァ」
 レグルスのジャンプキックが、盗賊たちに炸裂した。
「あ、あがああああああ」
 キックをモロにくらった盗賊が、数十メートル吹っ飛んで、血を吹いて倒れる。
「オラ、どうした!! まだまだ足りないんだよぉ!!」
 レグルスは吠えた。
 金狼の覚醒であった。