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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 25−12

「うわー、キラキラして綺麗だねー!」
 リンネ博季も、シャンバラ宮殿の展望レストランでディナーを楽しんだ帰り、デスティニーランドでの今年最後のクリスマスパレードに目を輝かせていた。昨日、ワインを飲みすぎて眠ってしまったリンネだったが、二日酔いになることもなく今日は空京でたっぷりとクリスマスの雰囲気を味わった。
 博季は、コートを着て首に白いマフラーを巻いていた。今日の朝、クリスマスプレゼントにと、今日の朝リンネがプレゼントしてくれた手編みのマフラーだ。イブを過ぎてしまったのは、最後の仕上げがまだ終わっていなかったかららしい。大好きな人からのプレゼント。所々目が粗い部分もあるけれど、その程度のことは気にならない。
「見ているだけで華やかな気持ちになりますね」
 眩い光を放つパレードは、観に来た皆を楽しませようという趣向に溢れていた。こうして眺めているだけで、充実した気分になれる。
「今年は一緒に編み物したり、一緒にイルミネーション飾り付けたり一緒にお料理したり……。色んな事が出来たね。……来年もまた、思い出に残るような素敵な事、一緒にやっていきましょうね」
 光に当てられたリンネの横顔を見ながら、博季は2022年を振り返る。その心はどこまでも穏やかで、来年もきっと、素敵な年になると信じられた。彼女が傍にいる限り、希望が消えることはないのだろう。
「うん、よろしくね! 博季くん!」
 そしてリンネは、博季と軽くキスをした。パレードに夢中で、皆、気が付かない。でも、いつもより早目に離れて手を繋ぐ。
 続きは家で……と、2人はまた歩き出した。

              ◇◇◇◇◇◇

「……………………」
 待ち合わせ場所に訪れたセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)を前に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はすっかり言葉を失っていた。クリスマス最後の夜は、愛するセイニィと過ごしたい。
 そう思ってデートに誘ったのだが――
「……な、何よ、変な顔して」
「いや、一段と可愛らしい姿でお姫様かと思った……」
 セイニィはふわふわ感のある白のスカートに、胸の下辺りまでの丈の短い同色のコート、アーモンド色のインナーを着て、少し踵の高い薄桃色のショートブーツという姿だった。
全体的に白い衣装を纏った彼女は、夜の中で淡い光を放つ、月のようだ。
「は!? な、なに言ってんの!?」
 自分でも意識していたのか、どこか恥ずかしそうにしていたセイニィは何かが爆発したように顔を赤らめた。
「こ、これは……ただの私服だし。今日のために買っておいた、とかじゃないんだからね!」
「ああ、もちろん分かってるさ」
 取り繕おうとして、物凄く正直に全てを話すセイニィに笑顔を向ける。慌てる彼女を見ているうちに心が少し落ち着いてきて、最初に抱いた感動に近い驚きは、純粋な愛しさに変わっている。
「ミニスカートもよく似合うけど、女の子らしい格好をしたセイニィも最高だ。……もっとも、俺はどんな格好をしていてもセイニィを可愛いと思うんだけどな」
「なっ……ど、どこからそんな恥ずかしい台詞が出てくるのよ!」
「本心だから、何も考えなくても出てくるさ」
「う…………」
 提げているハンドバッグの持ち手を両手で掴み、セイニィは赤くなった顔のまま、上目遣いで牙竜を見上げた。反論する言葉を失ったようだ。
「も、もう……パレード見るんでしょ! 始まっちゃうわよ!」

「綺麗だけど、こうしてじっくり見ると結構面白いのね」
 色とりどりの光が、パレードの進行と共に虹色に移り変わっていく。煌びやかな光を乗せての華やかな演出は、日の落ちた空の下で、訪れた人々の新たな思い出となっていく。
 先頭の、メインキャラクター達が馬車のようなものに乗って登場するところから、電飾で溢れたツリーやユニークな汽車、緑色に光るドラゴンが最後に通り過ぎていくまで。
 全てを観終わってパレードを見送り、近くで観ていた人々もそれぞれに場所を移していく中、牙竜もセイニィに声を掛ける。
「セイニィ、最後に夜景を見ないか?」
「夜景? ……うん、いいわよ」
「そうか、じゃあ……」
 頷くセイニィをひょい、とお姫様抱っこして空飛ぶ魔法↑↑で浮き上がる。
「ちょ、ちょっと!? 何……」
「夜景は高い所から見ないとな」
 腕の中で暴れるセイニィをまあまあと宥めながら、デスティニーランドのシンボルである城の最上部に連れて行く。水色屋根に彼女を立たせると、牙竜はライトアップされた遊園地を見渡した。
「ほら、ここならよく見えるぜ」
「…………もう、強引なんだから……」
 セイニィは彼に不服そうな目を向けてから屋根に座り、眼下に広がる夜景を眺める。先程、彼女達の前を通り過ぎたパレードがまだ別の通りを回っていて、照明を灯したアトラクションの間を進んでいく。
「…………」
 悔しいけれど確かに良い眺めで、何も言えないままに彼女は夜景に見入った。
「ガキの頃は、高い所に1人でいることが多かったな……寂しさが妙に紛れる気がしてな」
 クリスマスソングが下から聞こえてくる中、同じ方向を見ていた牙竜が静かな声で話し始めた。何かを思い出したのか、どこか懐かしむような響きがある。
「その頃はどこに登っても下ばかり見てたんだが……ある時、11月頃だったかな? 上も見たら、すごい流星群を見たんだ」
 視界いっぱいに広がる夜空を流れた、沢山の星。それを追いかけて見えたのは、空の果てに見える地上の夜景だった。
 その流れ星が、しし座流星群だと知ったのはまた、暫く後のことだ。
「寂しさが吹き飛んで行くくらい綺麗な景色に感動したな……そしたらさ、『夜空と夜景の……地平線の先に何があるんだろう?』と思うようになった」
 パラミタ大陸を目指した動機も、きっとそこにあるのだろう。
「…………」
 セイニィは話を聞きながら、以前に2人で迷子探しをした事を思い出した。高い所が好きなその少年が“寂しい”というサインを出しているのだと話す牙竜に、昔は高い所が好きだったのかと言ってすぐに打ち消して。
 彼はただ思い出を語っているだけのつもりのようだったが、それは奇しくも、その時の答えになっていた。
「おかげで、この3年間でいろんな出会いがあったし、得たものも失ったものも……いろいろあった。掛けがえのない出会いも……セイニィ、君だ……」
「……!」
 不意に正面から見詰められ、セイニィは慌てて目を逸らした。直球で届いてくる気持ちに、顔が熱くなる。だが、牙竜は彼女の動揺に気付かないようにもう一度夜景に目を戻した
「だから今は、こういう所に立つと、この見つめている先に何があるのだろう? どんな出会いがあるのだろう? と思えるんだ」
 そして、立ち上がって真っ直ぐに地平線を指して陽気に宣言する。
「それに、ヒーローは高い所で威風堂々とだしな!」
 その途端に斜面に足を滑らせて落ちかけた。慌ててバランスを取って事無きを得て、それを見ていたセイニィは呆れたように小さく笑った。
「……もう、バカ」
「じゃあ、そろそろ帰るか。送っていくぜ」
 どこかに待機させていたのか、牙竜はワイルドペガサスを呼び寄せた。セイニィがその背に乗るのを手伝うと、彼女の前に乗ってペガサスを駆る。
 25日のデスティニーランドも、閉園までもう少しだ。

              ◇◇◇◇◇◇

「わぁ、さすがクリスマスのデスティニーランド。イルミネーションがとても綺麗です」
 家族3人で観覧車に乗って、遠く離れていく地上を、その夜景を眺めてミリィは嬉しそうに言う。
「ええ、本当に綺麗ですね」
「先程のパレードも素敵でしたわ〜。来て良かったですね〜」
 涼介ミリアも、窓の外を見て目を細める。仲睦まじく同じ座席から夜景を楽しむ両親の向かいで、ミリィは景色を一望しながら今日1日の出来事思い出す。メリーゴーランドの後にはミラーハウスとジェットコースターに乗って、夜のパレードを見物して。そのどれもが、楽しかった。
(レストランでのディナーも美味しかったなぁ)
 勿論、両親の作った料理が一番だけれど。
(今度はお父様、お母様だけじゃなくみんなと一緒にここに来たいなぁ)
 ミリィはこの時代に来てから知り合った友人達の顔を思い浮かべる。
 夜空に花火が上がったのは、その時だった。

              ◇◇◇◇◇◇

「花火か。そろそろ閉演の時間かな……」
 その頃、観覧車に乗っていた唯識とカールハインツは、締めくくりのように上がった冬の花火を、ちょうど天辺のあたりから眺めていた。遊園地の夜景は花火が散った後も変わらずにあり、それを言葉少なに2人で眺める。
 カールハインツは、普段と変わらない仏頂面に近い顔で、夜景を見下ろしていた。何を考えているのかは分からないが、昼間の様子から、そうつまらなくもなさそうだったなと思う。基本的にあまり笑わない彼だが、この1日でまた、違う表情が見られた気がする。
「今日は楽しかったな……」
 1日を振り返り、唯識は呟く。
「来年のクリスマスの頃はパラミタはどうなっているかな……そして僕たちは」
 賑やかだった遊園地が終わり行く、静かな空気につられたのだろうか。彼は自然とそう口にしていた。向かいで足を組んでいたカールハインツが、それを聞いてこちらに顔を向ける。彼と目が合い、唯識は続ける。結果は分からないが、答えは1つだ。
「ただ、どんなことがあっても、薔薇の学舍のみんなで力を合わせて乗り越えよう」
 決意も新たに、笑ってみせる。すると、カールハインツの顔にも笑みが浮かんだ。
「……ああ、そうだな」