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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第三章 科学者と蒼き空を喰らうモノ 5

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! 契約者の諸君! 無駄な抵抗はやめて、我らがオリュンポスの支配下におかれるがいい!」
 小型飛空艇の上で仁王立ちし、バタバタと白衣をはためかせるドクター・ハデスは言った。
「パラミタごと地球を消し飛ばすほどの威力を持った機晶兵器、無転砲か……。ククク……。この機晶兵器を手に入れれば、我ら秘密結社オリュンポスの世界征服は実現したも同然だな!」
「その通りです、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士! まさに、実現したも同然です!」
 ハデスの隣にいるヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は、よくわかってもいないくせにハデスを褒め称えた。
 そのことにはまったく気づかず、ハデスは「フハハハハハ!」とさらに高笑いをあげた。
 すると、そこに飛行生物たちと戦っていた契約者の声がかかった。
「こら、そこのトンデモ科学者!」
 バードマンアヴァターラ・ウィングの翼を背中に装着した葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、いかにも厄介なやつを目の前にしたように言った。
「そんなところでなにをしてるでありますか!」
「なにをしているもなにも、先ほど言った通りだ! 無転砲を手に入れるため、邪魔な飛空艇は邪魔者たちごと撃墜する!」
「そんなことしたら、浮遊島に入ることすらできねぇでありますよ!」
 吹雪が言うが、ハデスはまったくこれっぽっちも聞く耳を持っていなかった。
「でええぇぇい、うるさいわぁ! ヘスティア! ペルセポネ! 新兵器の実戦投入を行う! 準備せよ!」
「か、かしこまりました、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士!」
 ヘスティアが答えて、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)は無言でうなずいた。
「ククク……人造人間ヘスティア、改造人間ペルセポネ! この二体は機晶合体し、合体機晶姫オリュンピアとなるのだ! さあ、重爆撃型の殲滅力を見せてやるがいい!」
 合体パーツγを装備したヘスティアは、ペルセポネの武器へと変形した。
 背中に背負ったウェポンコンテナから、機晶魔銃と18連ミサイルユニットがせり出し、空になったコンテナ部分にヘスティアがちょこんと座っていた。ペルセポネの背面にがっちゃんっ、と、接続されて、合体完了。合体というにはおそまつな、なんとも微妙な感じだった。
「火器管制、オールグリーンです」
 体育座りのヘスティアが、ミサイルや銃器の照準を合わせながら言う。
 ペルセポネは加速ブースターで一気に距離を詰め、吹雪へと攻撃を仕掛けてきた。
「まずいであります!」
 その攻撃をとっさに避けて、吹雪はイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)を呼んだ。小型飛空艇ヘリファルテに乗った、どう見てもタコの怪物にしか見えないポータラカ人が援護に駆けつける。吹雪はイングラハムと作戦を立てて、ヘリファルテの船頭に自爆用の爆弾を大量に取りつけた。
「一撃で終わらせるであります」
 イングラハムの飛空艇の後ろで、吹雪が照準を合わせる。
「見せてやろう! 我の覚悟を!」
 タイミングを見計らって、吹雪はイングラハムの小型飛空艇を発射させた。二つの機晶アクセラレーターで爆発的に上昇したエネルギーが、飛空艇のスピードを格段に飛躍させる。ぐんぐん距離を伸ばした飛空艇が、ドクター・ハデスの小型飛空艇へと真っ正面から突っ込んでいった。
「どわあああああぁぁぁ! 退避! 退避だああぁ!」
 ハデスの悲鳴が尾をひきながら、爆発した小型飛空艇が落下していく。
「ハデス博士! いま行きます!」
 ヘスティアが言って、ペルセポネはハデスを救出しに小型飛空艇へと飛んでいった。
 びしっ、と、吹雪は落ちゆく小型飛空艇へ向けて敬礼した。
「逝ったか、蛸……。その勇気、忘れはしないであります」
 いや、まあ……きっと死んではいないだろうけど。
 吹雪はイングラハムの死を無駄にはしないと誓って、他の飛行生物たちの迎撃へと戻っていった。

「ぐぐぐ……む、無念。無念だ……。このドクター・ハデスが、よもやこんなところでやられるとは……」
 飛行するペルセポネに抱えられながら、ハデスは悔しそうにつぶやいた。
 するとそこにやって来たのは、渉のパートナーの悠乃だった。最初こそ、「むっ、追撃か!」と警戒していたハデスだったが、悠乃が親身になってハデスの怪我などを心配したため、その勢いも削がれてしまった。悠乃から、浮遊島のバリアと飛空艇との関係を伝えられて、ハデスは驚愕した。
「なんと……! そんな秘密が隠されていたとは……! この俺としたことが……不覚! 情報量が足りなかったか!」
「ですから、いまはハデスさんにも協力してもらいたいんです。どちらにしても、浮遊島に入るためには飛空艇が必要なんですから」
「むむ……た、確かに」
 ハデスは臆せずに伝えられる悠乃の言葉に、深くうなった。
「どうしますか? ハデス博士」
 ヘスティアがお伺いを立てる。ハデスはすこし考えて、うなずいた。
「わかった。いまはそちらの言う通り、協力しよう」
 それからハデスは、気持ちを切り替えて立ちあがった。
「フハハハハ! 運が良かったな、契約者パートナーの小娘! この俺、ドクター・ハデスが味方についたからには、そこらの飛行生物なぞ恐るるに足らんぞ! 大船に乗ったつもりでいるがいい! フハハハハハハハハ!」
「はい! ありがとうございます!」
 普通ならじゃっかん、引き気味になるはずだが、悠乃は素直に喜んだ。
 これも、悠乃がいつまでも純粋無垢な心を忘れないでいるからこそだった。