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本日、春のヒラニプラにて、

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本日、春のヒラニプラにて、

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VI 午後2
 
 
 午後一番で、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)のパートナー、未来人の三船 甲斐(みふね・かい)は、長曽禰の元を訪れた。
「おう、来たな」
と、待っていた様子の長曽禰に、
「へ?」
と目を丸くする。

 自主研究が行き詰った甲斐は、研究室で悲鳴を上げていた。
「あああああ! 行き詰った! 完っ全に行き詰った!」
 もう少しで煮詰まるところまで来てたと思っていた時期が俺様にもありました……
「おおう」
 助手のポータラカ人、エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)がおろおろと規格書類を検算する。
「何処で計算を間違えたのかな。
 やっぱウォートスライダーじゃ出力不足は補えなかったかな?
 インターフェースのオーグメンテッド・ヒューマンが相性悪かったかなあ。それともそれとも」
「イコン設計なのに一人乗りというのが致命的なのではないのか」
 研究仲間のマホロバ人、佐倉 薫(さくら・かおる)の静かな突っ込みに、
「おおう!」
と甲斐は叫ぶ。
「しかし装備型イコンなんだから、普通一人乗りだろ!」
 そもそも次世代パワードスーツ開発、というところから発展した研究なのだから。
 頭を抱える甲斐の様子を見て、これは近い内に長曽禰中佐に泣き付くことになるのではないか、と、薫は事前に根回ししてアポを取っておいたのだ。
 案の定、ドンピシャの時間に、甲斐は
「そういえば、おやっさん今日非番だったな。
 少しアドバイスを貰いに行ってみるか」
と思いつく。
 アドバイスを貰うというよりは、暗に早く次世代パワードスーツの開発始めてくれ、と催促をしに行くのだ。
 イコンは第三世代まで開発されているというのに、パワードスーツはそれに比べて遅れている、と思う。
 思い余って、「ならば自分が!」と始めた研究がこれだった。

 薫は、科学的アプローチをかける甲斐に、魔術的アプローチをかける役割で、甲斐と長曽禰の会話には入っていけなかったが、内容自体は興味深く聞く。
「成程、装備型イコンか」
「SSサイズだと絶対出力が足りないと思うんです。
 Sサイズくらいで造りたいと思うんですけど」
「帯に短し襷に流し、というところだな。Sサイズだと、丁度いい出力にならんだろ」
「そうなんですよ〜〜」
「魔術的な技術で補うことは不可能でしょうか?」
 薫の言葉に、長曽禰はうーん、と唸る。
「勿論考えないわけじゃないが……」
「長曽禰中佐でも流石に、魔術方面の技術に関しては専門外ですか。
 こっちは秘術科の担当かのぉ?」
「あとは、イコン設計にすると、一人乗りではどうしても出力が上がらないんです」
「しかし装備型とはいえ『イコン』となると、俺の専門から外れるな。基本設計が違う」
 長曽禰の専門は、あくまでパワードスーツだ。
 イコンに関しても勿論ある程度以上は学んでいるが、専門職には及ばない。
「確かに、イコンの技術をもっとパワードスーツに応用できれば、随分進化するだろうとは思うが」
「次世代パワードスーツの開発は、まだ始まらないんですか?」
「研究は続いてる。
 ただ、アクリト教授から回答待ちの部分もあって……実用化については、もう少し先だと考えてる。
 そうもたもたしてられる状況でもないがな」
 と、アドバイスを貰うというよりは、技術者同士の雑談のようなものが主で、約束していた時間はあっという間に過ぎてしまった。
 この後も約束があるという長曽禰に、甲斐達は礼を言って退出する。



 その後十分もしない内に、長曽禰を訪ねたのは、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)だった。
「おう、来たな。じゃ、行こうか」
「よろしくお願いします」

 アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインは現在、教導団で身柄預かりとなっている。
 監禁されてはいないが、完全に自由というわけでもない。
 訪れた長曽禰とアリーセを、彼は快く迎えた。
「どうぞ。よく来てくれました」
 特に長曽禰の来訪を喜んでいるようだ、とアリーセは思う。
 色々複雑な感情はあったようだが、結局抱いているのは彼への好意なのだろう。
「それで、私に話とは?」
 こちらの生徒さんが差し入れしてくれたものですが、と淹れた紅茶でもてなしながら、アルベリッヒに訊ねられ、アリーセははっと彼を見た。
 全く面識が無いわけではないが知り合いというわけでもない。
 それで、紹介を長曽禰に頼んだのだ。
 勿論、長曽禰にも同じ頼みがあり、それは既に伝えてある。
「色々と、事情がありまして。これは私の内面的なものなのですが。
 それで、私のパートナーの機晶姫の、ボディを造りたいと考えています」
 アリーセの言葉に、アルベリッヒはふむとひとつ頷いて、先を促した。
「勿論、できるところは可能な限り自分で行うつもりですが、戦闘能力も有する機晶姫の体を一から造るというのは、畑違いなので、人型機械に造詣の深いお二人に協力していただけたらと、お願いに来ました」
「……成程」
 アルベリッヒは、ちらりと長曽禰を見る。彼は涼しい顔をして笑っていた。
「全て任せるということでも、一から十まで横にいて見ていて欲しいということでもありません。
 問題が起きた時に、そのアドバイザーとなっていただけたらと」
「お話は解りました」
 アルベリッヒは微笑んだ。
「まず言っておきますと、それは、我々にとっても畑違いですね」
 柔らかい口調だが、きっぱりと言ったアルベリッヒに、アリーセは言葉を詰まらせた。
「しかし面白そうです」
「え……」
「何かありましたら、いつでも声を掛けて下さい。可能な限りの協力をお約束しましょう」
「と、いう訳だ。いつでも言ってきな」
と、長曽禰も笑った。
 アルベリッヒの答えに倣うよ、と彼は言っていたのだ。
「何だ、解っていましたか」
 そのやりとりも察したのだろう、アルベリッヒが肩を竦める。
「ありがとうございます」
 アリーセは頭を下げた。

「ところでそっちの研究はどうなんだ」
 と、雑談が始まった長曽禰とアルベリッヒの様子を見て、アリーセは訊ねた。
「昔の中佐は、どんな感じだったんですか?
 やはり、がさつなところで苦労した話なんてあるんでしょうかね」
「それはもう。
 普通の話と女性絡みの話、どちらが聞きたいですか」
「では、女性絡みの方で」
「おいおいおい」
 本人を前にして、暴露大会が始まる。
「そうですね。
 例えばデートの日に、うっかり待ち合わせ時間に目覚ましをセットしていたことがありましたよ。
 あとは、誕生日を間違えて一週間前に贈り物をした後、肝心の当日にはすっかり忘れ果てて、その日の終わりに『今日は何の日でしょう』なんて連絡が来て振られていましたね」
「こらこらこら」
「先日のホワイトデーでもやらかしたそうじゃないですか」
「ああ、それは私も聞いています。笑わせて貰いました」
 アリーセは頷いた。
 衛生科に、携帯食を自主開発する同好会があり、そこで作られたビスケットを試食した長曽禰が、丁度時期だったこともあり、大量に貰って義理チョコをくれた生徒達に配ろうとしたのだった。
 同好会の生徒達はさすがに気を遣い、人数を聞いて、ラッピングしてやったのだ。
 たまたま最初に受け取った生徒が、「中佐の手作り!?」と勘違いして一騒ぎ起きたのである。
「いや、だって美味かったんだよ、珍しく」
 がりがりと長曽禰は頭を掻く。
 ふと、時計を見て、「お、そろそろ時間だな」と呟いた。
「夕飯に誘われてるんだが、どうだ? 二人も一緒に」
「………………」
 アルベリッヒは、首を傾げた。
「相手は、女性ですか?」
「うん? ああ、そうだな」
 途端にアルベリッヒとアリーセは、呆れた目を長曽禰に向ける。
「遠慮します。ごゆっくり」
「うん? そうか」
 何か変だなと首を傾げながら頷く長曽禰に、アルベリッヒとアリーセは顔を見合わせて、軽く溜め息を吐いたのだった。


◇ ◇ ◇


「ニキータ姐さんの代わりにデートするネ!」
 約束していたニキータ・エリザロフの代わりに、パートナーのタマーラヒラニプラ商店街の精 ニプラ(ひらにぷらしょうてんがいのせい・にぷら)が、ヨシュアをエスコートしてヒラニプラの商店街を案内した。
「この子はタマーラで、あたしはニプラなのアルよ。
 この商店街の地祇だから、色々楽しいところを案内するネ!」
 無口なタマーラの代わりに、ニプラが倍喋る。
「よろしくね」
 両手で二人と手を繋いで歩くヨシュアは、まるで保父である。
 一通り観光して、ニキータが予約していたランチを食べた。
「そういえば、ヨシュア兄さんはパートナー探してるあるか? 理想とかあるアル?」
「うーん」
 ヨシュアは首を捻る。
「君は、どうしてエリザロフさんと契約したの?」
 訊ねられて、ニプラはうーんと首を捻った。
「何かが囁いたアル。宇宙意思が、契約しろって言ったアルよ」
 そう、とヨシュアは微笑む。
「うん、誰かと出会えた時、そういう、ピンと来るものがあるんじゃないかな、って思ってたんだけど。
 なかなか無いものだよね」
 肩を竦めて、ヨシュアは笑う。
「僕のような平凡な人間でも、誰かと助け合えることができたらいいなって、それが理想かな」
 でも何かそれって、結婚相手探してるみたいだよね、と、ヨシュアは苦笑した。

 ランチが済むと、タマーラがヨシュアの手を引っ張った。
「……叶大尉や……羅儀さんも……会えるの楽しみにしてたから……見学」
「そうアル。演習は、午後過ぎには終わるアルよ。行ってみるアル」
「邪魔にならないかな」
「大丈夫アル!」
 請け負って、三人は、演習場に向かう。