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うそつきはどろぼうのはじまり。

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うそつきはどろぼうのはじまり。
うそつきはどろぼうのはじまり。 うそつきはどろぼうのはじまり。

リアクション



20


 四月の頭ともなれば、桜も綺麗に咲き誇る。
 今日、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)と一緒に花見をする予定だ。当のヒラニィは寝坊して、待ち合わせ時間に遅刻しているけれど。
(その分準備に充てられるからいっか)
 用意してきたカセットコンロに鍋を置き、ヒラニィがここに到着する時間を計算して火をつける。鍋の中身は鳥つくね鍋だ。
 準備をしながら、今日ヒラニィはどんな嘘をつくだろうと想像を巡らせる。エイプリルフールという恰好のイベントを前に、何もしてこないとは思えなかった。
(絶対変な嘘とか考えてくるよね……)
 嘘が苦手な博季の思考では、どんな、と具体的なものは浮かばなかったけれど。
 身構えておくに越したことはないだろう。動じない、大きな男だというところを見せてやるのだ。
「おーい」
 やや遠くで、ヒラニィの声がした。顔を上げると、ゆっくりとしたペースでこちらに向かって歩いてくる彼女が見える。軽く上げられた手に手を振って返し、鍋の様子を見ながら迎えた。
「遅くなって悪かったな」
「ううん、大丈夫。それに待ってる間に支度できたからね。ほらほらお鍋、食べ頃目前だよ。お酒の準備もできてるんだ」
 ささどうぞ、と杯を手渡し、酒を注ぐ。
「ほほう。抜かりないな。まあわしくらいになると何も言わなくても知れ渡っているよなぁ」
 献身的な博季へと、ヒラニィが得意げに笑う。なんのことだろう? 博季が首を傾げると、ヒラニィはない胸を張って笑った。
「そう、四月一日はわしの誕生日! さあ、祝え敬え奉れ!」
「姉さんにしてはわかりやすい嘘つくなあ。さすがの僕でも騙されないよ?」
「え? いや嘘じゃねぇっての。本当じゃよこれ。マジマジ」
 その声音や態度が、嘘とは思えないほどリアルだったので。
「……え、今日なの?」
 博季は思わず聞き返す。これが嘘ならすっかり騙されたことになるのだが、生憎と。
「今日じゃよ」
 本当のことらしかった。
「僕としたことが姉さんの誕生日を知らなかったなんて……」
「ん? あれ? この花見兼酒盛りって、さらに兼わしの誕生祝、とかつくアレじゃないのか?」
「普通に花見酒のつもりだったよ……」
 だから、用意した酒や料理が特別豪華だということはないし。
 プレゼントだって用意していないし。
(ほんと、僕としたことが)
 思わず項垂れてしまうほどショックだった。
「ま、まあまあ。別にわし、誕生日祝われなくても平気じゃし。ほらもう何千年って生きてるからマジ。飽きたし誕生日とか」
 しかも変な気を遣われた。申し訳なく思い小さくなると、「ほら飲め、飲んで忘れろ」とグラスに酒を注がれそうになった。気持ちは嬉しいが、グラスの口を手で覆って飲まない意を示す。
「なんじゃ。飲まんのか」
「僕、今日運転するから」
「お主のぉ……こういう日は飲める状態で来るのが礼儀じゃろ」
「だって、姉さん送っていかなきゃって思ったから」
 花を見て楽しんで、会話が弾めばすぐに暗くなるだろう。そうなったらせっかくだからと夜桜鑑賞をして……とならば帰りは必然、遅くなる。夜道、女性の一人歩きは危ないだろう。
「んな気ぃ遣われるより一緒に飲むほうがわしは楽しいんじゃが」
 だけど、そう言うヒラニィの気持ちもわかった。博季は素直に頷く。
「次からはもうちょっと考えてくるね」
「うむ」
「だから今日はジュースで許して」
「仕方ないのぉ」
「あと誕生日、」
「それはもういいっつの。ほらグラスを出せ、注いでやる」
「はーい」
 オレンジジュースと酒で、乾杯。


「桜、満開だねぇ」
 出来上がった鍋からヒラニィの分をよそいながら、博季は呟く。
 丁度頭上で咲いた桜が、そよ風で花を揺らした。花びらが舞い、具を盛り付けようとした鍋の中心に、乗った。
「風流だね」
「そうじゃな。たまにはいい、こういうのも」
 ほら、とヒラニィが杯を見せる。杯の中身、揺れる酒の水面にも花びら。
「わ、すごい。受け止めたの?」
「いや、勝手に入ってきた」
「なんか桜の祝福って感じだね」
「お主相変わらずクサいこと言うのぉ」
「ひどいよ姉さん!?」
「でもまぁ、いい気分になるのは本当のことじゃな」
 満更ではない、といった風にヒラニィが笑い、酒を呷った。そうだねぇ、とのんびり頷きながら、博季は鍋の具を器によそった。ヒラニィへと向け、微笑む。
「お酒ばっかりじゃなくお鍋もどうぞ。熱いから気をつけて召し上がれ」
「うむ」
 器を受け取ったヒラニィが、黙々と食べる。
「どう? 美味しい?」
 問いにも答えず、一言も喋らないまま器の中身を空にした。
「美味い。おかわり」
 いい食べっぷりに嬉しくなった。おかわりをよそって、また手渡す。
「デザートも準備してきたから楽しみにしててね」
 クーラーボックスの中、保冷剤を詰めて入れてきたのは柚子のシャーベットだ。
 これならきっと酒にも合うだろうし、口の中がさっぱりして気分も良くなるだろう。
「お鍋だけでおなかを満たさないように」
「デザートなんて別腹じゃし」
「ならいいけど」


 鍋の中身が空になり。
 ちびちびと飲んでいた酒も、だいぶ少なくなった頃。
「姉さん」
 博季がぽそり、ヒラニィへと話しかけた。
「なんじゃ」
 桜へと向けていた視線を博季に移す。博季は少しばかり真面目な顔で姿勢をただし、息を吸った。
「これからもずっとずっと、僕の『姉さん』でいてね」
「…………」
 無言のまま見つめると、「なーんちゃって」と博季は笑う。
「冗談冗談。今日エイプリルフールでしょ?」
「ああ」
「どんな嘘つこうか考えてたけど、思いつかなかったから。こんな嘘になっちゃった」
「嘘じゃな」
「うん、だから嘘だって」
「それが、嘘じゃ」
 本当は、嘘なんかじゃないだろう。
 心からそう思っていることなんて、博季の願っていることなんて、ヒラニィにはお見通しなのだ。
「無理矢理冗談にして取り繕うな。バレバレじゃ」
「や、やだなぁ。そんなことないってば」
 恥ずかしそうに俯いて、もじもじしているくせに。
 嘘の内容もついた理由もわかりやすいが、何よりその態度が一番わかりやすい。
「安心しろ。そうそう変わることなどない」
 もしあったとしたら、それは、博季にもヒラニィにとっても、何か大きな転機の時なのだ。
「……うん。
 来年も一緒に、お花見しようね」


担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです、あるいは初めまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 皆様はエイプリルフールをどんな風に過ごされましたでしょうか。
 キャラたちのように、面白おかしく楽しめましたか?
 灰島は、驚くほど嘘が下手なのでろくな日になりませんでした。
 来年こそは、と思いますがきっと梅雨頃にはそんな決意忘れてます。だめじゃん。

 それはさておき、リアクション。
 様々な嘘と、真実と。
 混ざり合ってぐるぐるしていて、書いていてとても楽しかったです。
 その楽しさが、少しでもみなさまと共有できますように。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。