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帝国の新帝 蝕む者と救う者

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帝国の新帝 蝕む者と救う者

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エピローグ



「……どうやら、決着はついたみたいだな」
「ふむ、少々間に合わなかったか」

 崩壊していくアールキングの根を見やり、呼雪が目を細めると、ハデスは残念そうに呟いた。ナッシングを吸収し続けるオルクスが、アールキングに影響を与えられるかどうかの確認をしておきたかったようだ。
「あれは召喚された一部に過ぎないですからね」
 接触できたところで、目的は達せたかどうか判りませんよ、と宥めるように言う十六凪に、ハデスは肩を竦めた。
「まあ良い、次の策を練るまでだ」
「さすが、懲りないな」
 ぼそりとセリスが呟くのを背に、踵を返すハデス達について、オルクスもまた踵を返そうとしたが、そんな背中にリリが「待て」と声をかけた。
「一つ質問に答え給え」
 その声にオルクスは足を止め、振り返って言葉を待とうとしている様子だったが、呼び止めた当の本人がうまく言葉がまとまらないで躊躇っている内に、ララが割り込んで口を開いた。
「君が、主に叛いて求めた可能性は……実を結んだのかい?」
 その問いに、オルクスは緩く首を振った。
「……まだ……足り、ない」
 呟くように言い「それに」と、不意にその視線がリリ達をじっと見やった。
「……可能性、は……我……に、では……ない」
 意味深にそう言うと、ララがその意味を問うより早く、既に遠ざかってしまっていたハデス達を追ったのか、いつものようにすうっと、空気に溶けるように消えていってしまったのだった。
「……私は彼に何を問えばよかったのだろうな?」
 それを見送って、リリは目線をその先へ向けたまま、天音に問いかけた。それには「さあ……」と曖昧に言って、首を振ると静かに笑いかけた。
「……次に会う時までに、考えておくといいんじゃないかな?」
 そう、必ず”次”がある。
 天音は、ナッシングの消えた向こうをじっと眺めたのだった。
 



 一方、選帝の間を後に、ユグドラシルから帰還したセルウス達を、仲間達が歓声を持って迎えた。
 怪我人は直ぐに治療が行われ、イコンの整備や各方面への連絡、報告などで忙しない中、未憂と終夏は何とも言えない顔でユグドラシルを見上げた。その視線の先には、無残に樹皮を引き裂かれ、大きく傷口が開いているユグドラシルの姿がある。アールキングの一部が消えても、傷が塞がるわけではない。キリアナも無念そうにそれを見やっていたが、その肩をアーグラが軽く叩いた。
「不安はわかるが、今は喜んでおけ。我らがユグドラシルは、この程度でどうにかなる柔な世界樹ではない」
「そうそう、それに今回は、収穫も大きいしねぇ」
 氏無が言うのに、キリアナは、一掴みの灰を掴む、手の平を見やった。
 アールキングは核を失った途端、ぼろりと崩れ落ちて灰と消えてしまったという。勿論それで本体が消えてしまったわけではないが、収穫はある。果敢に戦った者達のデータや、そのものの組織を確保するのに成功しているのだ。アールキングに対抗する大きな足がかりを手にしたと言っていい。
 頷いたキリアナは、ぐっと手の平を握り締めた。
 その時だ。

「……何をしている。私は引き渡せと言っているのだが」

 冷たい声に、キリアナが振り返ると、セルウス達の前に先々代帝であるルドミラが立っていた。
 凱旋を祝福しているにしては、ルドミラも、何故かその前に立ちはだかるような格好のセルウスも、その表情は剣呑だ。
「その子供は罪人だ。直ぐにでもジェルジンスクに送る必要がある」
「だって、まだ目が覚めて無いし……」
 どうやら、荒野の王の処遇について、両者の意見が食い違っているようだ。
「このまま連れてっちゃったら、死んじゃうかもしれない……!」
 だからせめて治療が済むまで、と食い下がるセルウスに、ルドミラは冷たく首を振った。
「構うまい。いずれにしても、死罪となる身だ。帝国を脅かした罪は重い」
 その言葉に、反射的に反論しかけたティーとアキラを、鉄心が抑えた。相手は帝国の新旧皇帝だ。口調などはともあれ、一国の頭同士、迂闊に口を挟んで良い相手ではない。そんな彼らの無言の思いを背中に受け止めながら、セルウスは負けじとルドミラに向き合った。
「もしそうでも……やっぱり、駄目だよ」
 上手く言葉が見つからないのか、唸るように声を漏らして眉を寄せ、しどろもどろながらセルウスは続ける。
「ヴァジラは……ちゃんと、判るよ。だから、死んじゃって終わりになんて、しちゃ駄目だ」
 生かして欲しい、と訴えるセルウスに、ルドミラは探るように真っ直ぐその目を見下ろした。
「それは皇帝としての判断か」
 強い視線が穿つように見るのに、セルウスは怯まず真っ直ぐに見返すと、こくんっと力強くなずいた。その迷いの無い態度に、ルドミラは僅かに目を細めた。
「成る程……そなたの持つ“資質”は、その少年が必要だと言っているのだな」
 確かめるような言葉に、セルウスが再び頷くと、ルドミラは軽く膝を折ってその頭を深々と下げた。

「ならば従おう……セルウス、陛下」

 一瞬、戸惑ったように目を泳がせたセルウスだったが、ドミトリエやキリアナ、そして多くの仲間達の目線を受けて、またひとつ、新しい覚悟と共に、力強く頷いて見せたのだった。




END


担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加くださいました皆様、大変お疲れ様でした
相変わらず、当初の想定を大きく覆していただきました今回のシナリオ、如何でしたでしょうか?
熱い全力アクションを多数頂きまして、執筆中滾りっぱなしでした
なんと言いますか、皆さまに勝てる気がいたしません

尚、今回のシナリオの大まかな結果は以下の通りとなっております

・アールキング(の一部)討伐成功
・ユグドラシル損傷の拡大無し
・ブリアレオス沈黙
・ヴァジラ生存
・アールキング関連の残骸、痕跡等の入手成功

一部判定の厳しくなった部分等あったりと、何のかんのと継続している話である都合上
難しい点が払拭できなかった部分もありますが
各方面で尽力くださいました皆様、ありがごうございました
特に荒野の王周りについては、いろいろな方の想いや
こちらも思いも寄らない手段を尽くしていただきまして
当初濃厚であった死亡や消滅のルートを覆し、生存と言う結果に至りました

これでようやく、一区切り、といったところではありますが
勿論、終わり、ではありません

新たな皇帝を戴いた帝国のこの後、そしてパラミタのこの先の物語にも
是非お付き合いいただけましたら幸いでございます