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第8章 キミに食べてもらいたいもの!

「夏の風物詩みたいな食べ物って結構いっぱいあるけど、これからアレナに食べてもらうのは、日本で生まれた由緒ある食べ物だ」
 駅前の歩道を並んで歩きながら、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は楽しそうに話をしていた。
「日本の、お菓子ですか?」
「お菓子、というか、それはかき氷だ! ただしただのかき氷じゃないんだ」
「宇治金時、とかですか? それなら川原パーティの時、ゼスタさんが作ってました」
「いいや、宇治金時じゃなくてな。多分名前聞いてもどんなもんかイメージわかないと思うぜ! なんせ俺がそうだった!」
 楽しそうに語る康之の隣で、アレナはほわっとした笑みを浮かべながら聞いている。
「名前は、なんと『白くま』だ!」
「くまさん……ですか?」
 アレナが首を傾げて考える。
「……どんなかき氷かイメージわかないだろ?」
「ええっと、くまさんの形のトレーの中に、ミルクを入れて凍らせて……あれ? それだと、削ってないから、かき氷じゃないですよね」
 分からないというように、アレナは首を左右に振った。
「うん、一応説明しておくと、白くまってのは日本の鹿児島って場所でできたモンで、シロップの代わりにコンデンスミルクをかけて、その上に刻んだ果実とか小豆餡を乗せてるんだ」
「はい……ちょっと宇治金時に似てます?」
「そうだな! まあ百聞は一見に如かずってことで」
 というわけで、康之は『白くま』が食べられる店へ、アレナの手を引っ張って連れて行く。

 そのお店は、九州料理を取り扱っている店だった。
 早速、康之は2人分の『白くま』を購入して、アレナとテラス席で食べることにした。
 康之は特大サイズ。アレナは小サイズだ。
 白くまの他に、康之はウェハースも購入していた。
「すごい豪華なかき氷、です」
 それが、白くまを見たアレナの最初の感想だった。
「……やっぱりこの冷たくて甘いミルクと果実の味とシャリシャリした食感がたまらねえな!」
 康之はかき氷が届くなり、凄い勢いで食べ始めた。
「そしてあとからくるこの頭がキーンとくる独特の感覚! くぅぅぅ」
 眉間に皺を寄せながらも、楽しそうだった。
「ふう、やっぱこれを感じると夏だなぁって気分にさせられるぜ!」
「ふふ。フルーツとかき氷、美味しいです。シロップは甘くて優しい味です」
 アレナはフルーツと氷を交互に自分の口に運んでいる。
「お、食べ方良く分かってるなー」
 康之は、ウェハースを口に入れた。
「こういう氷菓子っていうのは、食べ続けてると冷たさで味覚が感じられなくなってくるから、合間に別のものを食べることで、舌の感覚を取り戻すんだ」
「はい。氷ばかり食べてると、舌が回らなくなって、お話もしにくくなるんれすよね」
 あっと、アレナは口を押さえた後、『なるんですよね』と言い直した。
「ははっ、そうそう。冷やし過ぎるなよ〜」
 と、康之はウェハースをとって、アレナの口に差し出した。
「はい」
 アレナは差し出されたウェハースをぱくっと食べて、舌の感覚を取り戻していく。
「持ち帰り用のカップもあるから、ここで買って優子さん達に食べてもらうってのもアリだぜ。今日、優子さん達、空京に来てるんだろ?」
 確か公務実践科の講義の日だったなと思い、康之はアレナに尋ねた。
「はい。会えるかどうかわかりませんが……」
「これを理由に、呼んだらどうだ? やっぱり美味しいものは皆にも食べてもらいたいしな!」
「そうですね……。ええっと、溶けちゃうので、冷凍庫に入れておかないと、ですね。だから、部屋に来てもらわないと」
 アレナは少し緊張しているようだった。
 自分から、優子や……優子のもう一人のパートナーであるゼスタを誘う事は、どうやら苦手らしい。
「遠慮することなんてないぞ? 皆で楽しい事をするんだからな! アレナが感じた幸せを、皆にも感じてもらう。つまりアレナが幸せの発信地になるんだ!」
 そんな彼の明るく強い笑顔に。
 アレナは勇気づけられて、首を縦に振った。
「康之さんも一緒だと、もっと嬉しいです。幸せの最初の発信源は、康之さんですから」
 そして、そう言って微笑んだ。