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リアクション
第9章 それがあったらうれしい
空京の商店街にある、チョコレートの専門店にリン・リーファ(りん・りーふぁ)は、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)と共に訪れていた。
「ふっふっふっふふ」
「なんだ、不気味な笑み浮かべて」
「ここのチョコレートすっごく美味しいんだよ。今日はぜすたんの奢りで食べ放題だから楽しみなの」
メニューに載っているのも、チョコレート関係のスイーツばかり。
リンはページをめくって、オレンジショコラのシェイクを1つ頼んだ。
「……それだけ?」
「とりあえず、これだけ」
にこにこ、楽しそうにリンは笑っている。
「それじゃ、俺はバナナショコラで」
ゼスタもリンに合せて、シェイク一つだけ選んだ。
「遠慮しなくていいんだぞ。この店ごと買い取るとかじゃなければ」
「遠慮してないよ〜。お腹いっぱい食べるつもり」
春に、美味しいスイーツをご馳走するとゼスタはリンに約束をしていた。
その約束を持ち出して、リンはゼスタを誘ったのだけれど……。
「お待たせしました」
注文したシェイクの他に、トレーにはケーキが載っていた。
「ん? まだケーキは、頼んでないけど」
「これはプレゼントなんだよ!」
不思議そうな顔のゼスタに、リンはじゃーんとポイントカードを見せる。
「はい。会員様へのサービスでございます」
ウエイターはそう言って、ケーキをテーブルに置くと「ごゆっくりどうぞ」と頭を下げて去っていった。
「サービスか〜。ホールのケーキとは気前いいな。2人で食べるには贅沢すぎる」
「バースデーケーキにも出来たんだけど、ぜすたんの誕生日、まだ先だからねー。『なんでもない日おめでとう』だね」
「ま、ポイント貯まっておめでとうってことで。切らせてもらうぜ、お嬢さん」
ゼスタがケーキナイフを手に取って、半分に切り、更に半分に切って、4分の1をリンの皿にとった。
自分には最初から2切れだ。
「ぜすたんは『不思議の国のアリス』のティーパーティーは知ってる?」
「不思議の国のアリスは知ってるが、詳しい話の内容は知らねーな」
「ふふっ、帽子屋と三月ウサギ」
リンはゼスタを見ながら意味ありげに笑っていたが、ゼスタには良く分からなかったようだ。
シェイクの他に、紅茶も頼んで。
ゆっくりケーキを楽しみながら、他愛無い日常の話をしていく。
「おやつとかお茶の時間って食事とは違って、絶対に必要ってものでもないよね。でもそれがあったらあたしはうれしい」
「まあ、俺ら吸血鬼にとっては、食べること自体が、絶対に必要なものじゃねーんだけどな。けど、甘い物食いたいし」
うん、と頷いて。
ティーカップをことんとおいてリンは微笑む。
「それと同じ風にあたしが居ることが、あなたにとっての生きる楽しみだったり、長い人生のいろどりのひとつになればいいなって思うよ」
リンのその言葉には、ゼスタはすぐに反応を返さなかった。
「……お前はホント、理解しにくいことを言うよな」
「ん? むずかしい言葉使ってないと思うけど」
「いや、そうじゃなくて」
苦笑しながらゼスタは紅茶に砂糖を入れて、かき混ぜながら考える。
「俺はさ、明日いなくなるかもしれないぜ?」
「ん?」
スプーンを置き、また少し間を開けた後で、ゼスタは言う。
「うちの一族は、短命なんだ」
「……吸血鬼、なのに?」
リンを見ずに、ゼスタは自嘲的な笑みを浮かべた。
「寿命で死ぬんじゃない。突然行方不明なって戻ってこなかったり、未知の病に倒れたり、事故死したり。
物心がついてから今日までの間に、母親は何度も変わってるし、ガキの頃に親しかった奴らは全ていなくなっている。長く生きているのは親父ぐらいで、後は入れ替わり、使い捨て。そんなカンジ」
ゼスタは呟きのように続ける。
「幸い俺は早い時期に地球に留学させてもらえたし、その後神楽崎と契約して、力も手に入れ、より表の世界で動けるようになったから」
「ぜすたんは、水仙のあの子と生きるんでしょ?」
「ああ、そうだ。俺は血の定めから逃れて、生きるんだ。今のシャンバラで生きる奴らも……お前のことも、好きだから」
ちらりとリンを見て、ゼスタは軽く笑みを見せた。
生きる為に、アレナを欲している――。
そんな彼の暗くて、必死な想いがリンに伝わってきた。
血に縛られて死にたいあの子。
血に縛られず生きたいあなた。
流れる血から開放されるには『死』以外ないのだろうか。
「今日食べて美味しかったものや、食べれなくて残念だったものは、総長さんとあの子と食べるお土産にしたらいいよ」
飲食後。会計に向かいながらリンは言う。
「あ、でも他の女の子とお茶して買ったとか野暮なこと言っちゃダメだよー」
「なんでだよ。リンと選んだって言うに決まってるだろ」
そしてゼスタは土産用に、プチケーキの詰め合わせを2つ購入した。
ひとつは、優子とアレナ用。
もう一つは……。
「未憂チャン達の分。ちゃんと超素敵なゼスタ先生からのプレゼントって言えよ?」
悪戯気な明るい笑みを浮かべて、リンに渡したのだった。
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