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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション



【心を込めて】


 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は遅まきながら気づいた。
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が世間の常識・感覚からズレているのは、自分達がその様に扱っていなかったせいではないか、と。
 自分の危惧が的中しているかもしれないことに戦慄を覚え、矯正するなら早いほうがいいと即断し、ゴルガイスは人伝いに聞いたプレゼント作りのイベントに参加する為、今日この日、当人であるグラキエスと彼と常に行動を共にしているベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)の二人を人形工房に連れ込んだ。
 人形工房という普段見慣れない建物に入ったことで、道具や素材、作りかけの人形等様々な物に興味を惹かれているグラキエスとは違い、ベルテハイトは少しばかり不機嫌だった。
「何が気に入らないというのか」
 先日それこそグラキエスへのクリスマスプレゼント選びを中断させられたベルテハイトは、自分のその品物選びを指摘された事に「何故だ」とゴルガイスに繰り返す。
「気に入る気に入らないではなく、もっと一般的なものを、と思うのだ」
「そう言うが服と装飾品は普通だろう?」
「その、普通、が、一般的、とは程遠いのだ」
 力説するゴルガイスと、受けるベルテハイト。
 保護者的立場の者と、兄弟的立場の者。
「幸い此処にはその、一般的、な物が揃っている。子供らしいプレゼントはどのような物か、グラキエスに見せてやらねば。
 ベルテハイト、お前も『一般的』とはどんな物か見て学べ」
「拘るな」
「当たり前だと、あえて言わせてもらおう」
 世間との認識がズレ過ぎるのは当人にとって一番良くないとゴルガイスは心配と不安を抱いている。幸い見本が沢山あって眼力を鍛えるには充分と言えた。
 子供達に贈る品物の監修をするという名目は実にゴルガイスの意に叶っていた。見て触って選んでの工程を経て、『世間一般』がどういうものなのか、勉強するのに願ってもない機会である。
 グラキエスは勿論、自分達もその目を養わなければならないと奮起するゴルガイスは次々と運ばれてくるプレゼント達に満足気に何度も頷く。
「いいか。こういうのをだ、な……て、おい」
 両手を組んで頷く姿勢のまま、つい、声が漏れた。
「ん。ああ」
 キリハが並べていくプレゼントに、監修作業を任せられてまじまじとそれらを眺め、鑑定人よろしく楽しんでいるグラキエスに、まあこうして目を輝かせるパートナーを見られるのも一興かと軽く握った拳を口元に当てるベルテハイトに、観るものが違うとゴルガイスは嘆いた。
「真剣に頼む」
「私は(グラキエスの為ならば)いつも真剣だ」
 応酬を重ねる二人に会話が弾んでいているなと考えながらグラキエスは、プレゼントの一個を指さす。
「監修とは少し違うが鑑定は得意だ。遺跡の発掘品や掘り出し物と同じように見なくてもいいとは言うが、これは中々いいと思う。どうだろう?」
 変か?
 問われて、グラキエスのパートナー二人は同時に彼の方に顔を向け、
「いいと思う」
「いいと思う」
ハモるように答えた。
 ただ、矯正目的のゴルガイスは続けた。
「確かにそれはいいと思う。だが、実用性よりも見た目も大事だ。子供は機能より見かけを重視しやすい。遊び方を自分で発掘するから、それは二の次でも構わないだろう」
「つまり子供が喜びそうなものか……難しいな」
 けど、とグラキエス。
「見ていると何となく楽しい。そういった物を選べばいいのだろう?」
 聞かれて、そう直感してくれるなら矯正の余地大有りだとゴルガイスは内心ぐっと拳を握りしめた。
「さぁ、ベルテハイトもグラキエスを見習うのだ」
 子供のように監修を続ける姿が愛おしくもしこの中でグラキエスが欲しいと言えばそれを今年のプレゼントの一つに加えようと考えていたベルテハイトに、目的はそれじゃないとゴルガイスは二度目の嘆きを口にした。
 何だかんだ言っても美的感覚は一級品なのだ。視野を広くする意味でも、彼にとって損は無いはずなのだから、共に勉強してほしい。
 奇抜なものや本格的なものもあるが基本的にファンシーな人形やぬいぐるみが所狭しと並べられる机の前に長身の男性が三人、気づけば作品に対する本格的な議論に突入し、それが中々に盛り上がるので不思議な雰囲気を醸し出していた。
 余談ではあるが、一般的を教える事を目標に掲げているゴルガイスだが、彼はまだ、本人が喜ぶからと専門家でなければ読めない古文書、文献、遺物をプレゼントし、グラキエスの価値観を養い、また、一般的とはズレていることを全くと言っていいほど気づいていない。


*...***...*


 トントンと、用意した六十四卦の符の束を机の上で軽く叩き、端を揃えた。
 断りを入れて少しだけ広めに作業スペースを借りる東 朱鷺(あずま・とき)は隅に置いた六十四卦の符の束から数枚を手に取り、机の上に広げ符の長い辺同士の端と端を貼り合わせる。
 ある程度の長さに貼り終えると、それは一旦横に置いて、最初の作業に戻り、同じ物を一つ二つと符が無くなるまで増やしていく。それが終わったら今度は細長くなった符の元は短い辺同士を貼り付け合わせ、一枚の大きな紙にしていく。
 六十四卦の符、ざっと十セット分を使い切って出来た巨大な一枚の紙になったそれを丁寧に広げ、用意してきた型紙を乗せる。ガイドに沿って印を付けたりと、作業の手は休めない。
 下手なりに切っては縫い付け、切っては縫い付けを繰り返す。
 ただひたすらに繰り返す。

 えっさほらさっさ。
     感謝を込めて。
 すらこらさっさ。
     願いを込めて。
 ほんじゃまか。
     安全を込めて。
 ぬいこらさっさ。
     思惑も込めて。

 上手にできました〜♪

 一心不乱に作るのは六十四卦の符を裏地として貼り付けた学ラン。
 渡してあげたい相手は光臣 翔一郎。
 一枚一枚に感謝と思惑を込めた朱鷺手作りの一品。
 下準備は入念にしたし、細部の細部まで最大限の配慮を散りばめた。
 知識欲に駆られる朱鷺に、いつも実験に付き合ってくれる相手に贈るクリスマスプレゼント。
 着心地はちょっとごわごわするかもしれないが、発揮される効果は絶大だと信じている。
 これでもっとたくさんの実験ができるという思惑たっぷりだが、だからこそ、相手の安全と無事と、更なる協力を願う、渾身の一点ものだ。
 朱鷺納得の作品だ。学ランを見下ろし朱鷺は満足感に両腕を組んだ。
 改心の出来栄えに、自然と頷きを繰り返す。
 よし、次はラッピングだ。