天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

リアクション公開中!

【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

リアクション


♯5


 アナザー・マレーナと共にいた怪物や、エリシアも奮闘し次々と怪物達を打ち倒していく。その場面だけ切り取れば、その差は圧倒的だ。だが、その勢いと同等か、あるいは上回る勢いで増援が集まってきている。
 その戦いの様子を観察する影があった。
 車体側面には、吹き荒む嵐の中、白虎を引き連れた不良ネコが龍と戦う姿が描かれている出魂斗羅は、イギリスの町並みではかなり浮いていたが、怪物達はトラックに描かれた絵や装飾にはあまり感心を持たないようで、姿さえ現してなければすぐ横を素通りしていった。すぐ近くで、アナザー・マレーナを取り囲んでいたのも大きかっただろう。
「やっぱりアレ、マレーナだよな?」
 車内、国頭 武尊(くにがみ・たける)猫井 又吉(ねこい・またきち)は頭を近づけて相談していた。
「だよな、他人の空似じゃねーよな、やっぱ」
「夜露死苦荘の管理人でパラ実校長も兼務してる筈のマレーナがなんでこんな所に居て、しかも襲われてるんだ?」
「知るかよ。なんか化け物も増えてるし、どーすんだよ」
 このまま車の中に隠れていれば、連絡の取れなくなった味方と合流できるんじゃね。と当初は考えていたのだが、怪物を引き連れたマレーナらしき人物と、それに助成している何人かの契約者の姿は、どうも単なる事故か何かで味方と連絡が取れなくなったのとは違うらしいと想像するに難くない。
 そろそろ決断の時、である。
「何がどうなってるのかさっぱり分からねーが、パラ実的にはマレーナを助けねーとだな」
 腹をくくりさえすれば、あとはやるだけだ。
 出魂斗羅のエンジンに火を入れ、トラックが走り出す。
 多少無茶な運転で、建物の外壁を削りながら怪物達の集まる真ん中へと飛び出した。不運な怪物は、突然の乱入者のバンパーに弾かれていく。
 戦闘中の彼らの眼前で急停車すると、即座に助手席から武尊が飛び出した。
「おい、君はマレーナだろ。なんでこんな所に君が居るのか知らないがこの状況をどうにかしたいと思うならトラックに乗れ。君は助手席、残りはコンテナの中だ」
 返事は無い。中心のアナザー・マレーナとお付の怪物は、呆然と出魂斗羅の派手な絵に目を奪われている。
「だぁもうっ! 考えてんじゃねぇ! さっさと乗れ!」
 もう一回活を入れると、皆やっと動き出した。一方の怪物も、突然の乱入者に殺到する。
「こっちがトラックだからって舐めんじゃねーぞ」
 トラックに搭載されたガトリングガンと冷凍ビームが近づく怪物を追い払う。ガトリングはアリやらカマキリの外骨格を抉りとる。冷凍ビームは、ガトリングの弾すら弾く甲虫の身動きを封じる。
 弾幕の隙間を縫って近づく相手には、又吉が窓から身を乗り出して秘密兵器の触手でバラバラに引き裂く。
 そうこうしているうちに、助手席のドアが閉じられ、アナザー・マレーナが乗り込んだ。
「いらっしゃい、俺様の運転は荒いから、シートベルトはしっかり締めな」
 やはりよく知るマレーナに似ている。そう考えながら、今度はトラックの荷台に飛び乗って、ドワーフの火炎放射器で怪物を散らしている武尊にテレパシーを飛ばす。
(乗ったぜ)
(こっちも全員乗ったぜ)
 又吉はすぐさまアクセルを踏み込んだ。タイヤが地面を掴むまでの間、床を削る耳障りな音が鳴り響き、次いで急発進する。
 車が走り出すと同時に、武尊は荷台からジャンプ。だが、地面には着地しない。非物質化していたポータラカUFOを物質化し、飛び乗ったのだ。
 走り出した出魂斗羅には既に怪物が何体も張り付いている。
「気持ち悪りぃんだよ!」
 UFOのロングハンドで取り付くインセクトマンを払い落とす。
 インセクトマンはそれでもトラックに追いすがるが、開いたままのコンテナの扉から、アイアンハンターがマシンガンで迎撃している。とはいえ、流石に火力不足で倒すには至っていないが、足を止めるには十分のようだ。
 トラックの前方に回りこんでくるインセクトマンもいるが、
「不運と踊りてー奴は前に出ろ。派手に踊らせてやるぜ!!」
 又吉の荒々しい運転によって、弾かれたり巻き込まれたりしていた。進路妨害も、しばらく進むと出てこなくなる。
「ふぅ、一旦は振り切ったな。で、どこまで逃げれば安全なんだ?」
 助手席のアナザー・マレーナは、少し考えたあと、
「この近くに、もしもの時のための隠れ家があります」
「この近くって、集まってたのを突破しただけで、まだ怪物どもはうじゃうじゃいるんだぜ?」
 比較的低い上空を飛ぶUFOからでも、街中にどれだけ怪物がうろついているかは見てとれる。
「協力、感謝します。皆さんは安全なところまで退避してください。ですが、私達はここから逃げるわけにはいかないのです」
 その言葉には、強い決意が見てとれた。
「全く、タダ働きはカンベンだぜ。それによ、安全なところってどこだってんだ」
「とりあえず、事情と状況を話してくれ。君はオレ達の知り合いにすごくよく似てる。できる事なら、協力するつもりだ」

 一方、既に扉は閉められているコンテナの中。
 このトラックはどこに向かっているのか、そもそも今はどんな状況なのか、今なお判断できないし、立場も事情も違う人が寄り集まっているので空気も重い。
 たぶんここは自分達の知るイギリスではなく、アナザーなのだろう。経験から、リカインもエリシアもそう考えていたが、それを口に出すような雰囲気ではなかった。国連軍では自分達の済む世界をアナザーと形だけでも呼称していたが、この場に居る二体の怪物達がそう認識しているかはわからない。
 それにしても、とエリシアは想う。
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は今頃何をしているのだろうか。地球とシャンバラだけでもその距離は遠いが、ましてアナザーともなればそれはもうどれぐらい離れているのか想像もつかない。
 たぶんきっと、また今回も、自分が直接口にしないとこんな事件に巻き込まれた事に気付いてもいないに違いない。
 行き先もわからず、がたがたと揺れるトラックがどこにたどり着くのか、運転席の会話の聞こえないコンテナの彼らは知る由もなかった。