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黄金色の散歩道

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秋のひとときを貴方と


 午前、紅葉色づくヒラニプラ山系の一画。

「……」
「……」
 董 蓮華(ただす・れんげ)金 鋭峰(じん・るいふぉん)のんびりと秋色に染まった山や木々の鑑賞を歩きながら楽しんでいた。
「……今日はお誘いを受けて頂きありがとうございました」
 蓮華は改めて紅葉狩りの誘いを受けてくれた事に礼を言った。
「……あぁ。珍しく急ぎの案件がなかったのでな」
 鋭峰はいつもの淡々とした口調で答えた。口振りはともかく鋭峰も蓮華と同じくこの時間を楽しんでいるのは確かだ。
「……パラミタの危機も去って平穏な日々が戻りこうして深まる秋を感じられる日が訪れ本当に良かったです」
 蓮華は赤や黄や茶に染まる自然を眺めながらあの決戦が終わり平和な日常に戻った事をしみじみと実感していた。秋特有のノスタルジーもあるのかもしれないが。
「……そうだな。あれから何もかもいつもの日常に戻ったな。あれがあったとは思えないほどいつも通り……時間とは総じてそうなのかも知れんが」
 鋭峰もまた秋色の自然を眺めながら決戦後の今日までの日常を振り返っていた。
「そうですね。団長もいつも通りご多忙なご様子ですし……私も訓練と学習に日々を過ごしつつ、趣味の園芸も充実しています」
 蓮華も決戦後の元に戻った日常を振り返った。
 再び
「……」
「……」
 二人は紅葉鑑賞を続けた。
 そんな中
「……(……こうして団長と二人きりで深まる秋の時間を過ごす事が出来るなんて……本当に平和に戻って良かった……)」
 蓮華は紅葉鑑賞をする鋭峰の横顔を盗み見て二人きりで過ごせる時間を迎えられた事、世界が平和になった事に感謝してもしきれないといった感じであった。
 二人はゆるりと紅葉鑑賞をし時間は朝からお昼時へと流れた。

 お昼時。
「団長、昼食にしましょう」
 蓮華はこの瞬間のために丹精込めて手作りした弁当を鋭峰の前に置き、お茶を準備した。
「お口に合えばいいのですが……」
 蓮華はそろりと弁当箱の蓋を開けた。
 鋭峰への愛が詰まった弁当の中身は
「……ほう、野菜中心か。もしや……」
 野菜を使った料理が主で彩りも鮮やかであった。鋭峰は蓮華が園芸をする事から弁当の野菜の出生を察した。
 鋭峰が言葉を継ぐ前に
「はい。家の庭でとれたものばかりです。季節柄も考えてカボチャと豚肉の煮物とか、野菜の吹き寄せとかキノコご飯とか……」
 蓮華は弁当の中でひしめき合う秋の食材を使った料理を次々と紹介し
「……あ、でも流石に豚肉とキノコは買って来ました」
 最後はクスリと可愛らしく笑って結んだ。
「……ふむ、栄養だけでなくどれも美味しそうだな」
 蓮華の説明を聞く鋭峰は蓮華特製の弁当に僅かに口元をゆるめた。
「はい。軍人は体が資本ですから」
 慕う鋭峰が自分に向ける顔に嬉しさで頬を染めながらもにこっと笑い返した。
 早速
「……確かにそうだな。では頂こう」
 鋭峰は食事を始める事に。
「はい」
 蓮華は甲斐甲斐しく小皿におかずをよそって鋭峰に手渡した。
 そして
「……団長、お茶は如何ですか?」
 食べる鋭峰のためにお茶を淹れて勧め
「そうだな、貰おう」
 鋭峰が食事の手を止め受け取ろうとした。
 その時、一陣の涼やかな風が吹き抜け木々や地面の秋の葉を舞い踊らせ
「……綺麗ですね」
「……あぁ」
 蓮華と鋭峰の間を秋を散らしながら走り抜け二人の目を楽しませた。

 風に踊らされながらゆるりと地面に落下する紅葉を見つつ
「……そうです、団長。紅葉を色々拾って後で押し葉の栞にしてお届けしますね」
 蓮華は手を叩き、素敵な名案を閃くなり鋭峰に言った。
「……栞か」
 鋭峰が地面に落下する紅葉をいつもの表情で追いながら聞き返すと
「はい。その、子供っぽいとか笑わないで下さいね……紅葉の赤色はなんだか縁起が良さそうで……団長に幸運をもたらして頂ければと……」
 蓮華は恥ずかしそうに顔を赤くしプレゼントする栞を想像しながら話した。なぜ赤色かというと中国では赤が縁起がいい色のためである。
「……楽しみに待っているとしよう」
 鋭峰は蓮華からお茶を受け取ってから口元にほのかな笑みを浮かべてながら言った。
「はい!」
 蓮華は嬉しさで仕事時よりもずっと元気過ぎる返事を返した。
 そして二人は再びまったりとした昼食の時間を過ごした。

 その最中。
 自分の弁当を食べながら風景を楽しむ鋭峰の横顔を眺めて
「……(団長と一緒に同じ景色を見て季節の移り変わりを見たり、同じ感動を味わったり……本当に幸せです……あぁ、大好きな団長……いつまでもこうしていたい……時間が止まれば……私はこれからも貴方のお傍にいられるよう頑張っていきますね)」
 思いに耽る蓮華の頬はほんのり紅が差し最愛の鋭峰と過ごすこのほっこりとした時間を愛おしく思っていた。

 この後、蓮華と鋭峰はじんわりとかけがえのない二人だけの秋の時間を過ごした。もちろん蓮華は紅葉の栞を作り後ほど団長に贈り喜ばれたという。