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黄金色の散歩道

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黄金色の散歩道
黄金色の散歩道 黄金色の散歩道

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いつかキミの故郷を


 イルミンスールの森の散歩道を歩く恋人同士の背を見つめながら、ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)は確信していた。
 これからもずっと二人は仲良くやっていく、と。

 パートナーの風馬 弾(ふうま・だん)がスマートフォンのメールを使ってアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)をデートに誘っている様子をこっそり背後から覗き込んでいたノエルは、デートの前日にアゾートと二人だけで会った。
 ランチに誘ったレストランは外の席もあり、ノエルはやわらかな木漏れ日が射しているテーブルを選んだ。
 料理が来るのを待ちながら、ノエルは用件を切り出す。
「突然ごめんなさいね。あなたにお願いしたいことがあって」
「お願いしたいこと?」
 アゾートの顔に緊張が走る。
 実は弾との付き合いを反対しているのではと思ったからだ。
 ノエルは急に固くなったアゾートに、違いますわと苦笑した。
「アゾートさんには感謝していますのよ。あの弾さんを受け入れてくれたんですもの。私のお願いと言いますのは、これからも弾さんをどうぞよろしくお願いします、ということですわ」
「え、あ……」
 ノエルの微笑みに、アゾートの緊張感はとたんに緩んだ。
「よかった……。ボクのほうこそ、よろしくお願いします」
「ふふふっ。まるで親の心境ですわ」
 料理が運ばれてからは、他愛ない話題へと移った。
 アゾートが研究している賢者の石のことや、ノエルが観察した最近の弾のことなど。
 恋人の日常はやはり気になるのか、アゾートは食べる手を止めて興味津々に聞いていた。
 そして最後には、弾をびっくりさせてやろう、とデート当日にはノエルとアゾートが二人そろって待ち合わせ場所で弾を迎える計画が立てられたのだった。
 そして計画通り、弾は驚いてくれた。
「何でノエルがいるの!?」
 と。
 目を見交わして笑い合うパートナーと恋人を、弾は思い切り不審の目で見ていた。

「弾さん」
 ノエルは足を止めて前を行く弾を呼び止めた。
 振り向いた弾に、ノエルは上品に口元に手を添えて微笑む。
「ちょっとお花を摘みに行ってまいりますわ」
「花……?」
「二人きりになったからといって、アゾートさんのかわいさに酔って獣になったりしてはいけませんわよ。健全な交際を保っていてくださいね」
「なっ……、いきなり何言ってんの!? だいたい花を摘みに行くって、どこに摘みに行くつもり?」
「オホホホ。では、また後で」
 ノエルはひらりと身を翻すと来た道を戻っていった。
 その後ろ姿はたちまち木立の中に消えてしまう。
 呆然と立ち尽くす弾の服の裾をアゾートが軽く引く。
「花を摘みに……ってお手洗いのことだよ」
「……あ、そうだったんだ。じゃあ、またそのうち追いついてくるね。ゆっくり歩いてよう」
 ノエルを気にかけることを言いつつも、弾はやっとアゾートと二人きりになれたことを喜んでいた。
 二人はのんびりと小道を歩いた。
 秋の森はひんやりとしているが、木漏れ日はやさしい。
 常緑樹ばかりだった木々の中に、やがて赤や黄色の落葉樹が混じり始めた。
 森の色はだんだん赤が多くなっていき、続いて黄色が多くなっていった。
「アゾートさんの故郷にも、こういう森はあるの?」
「たくさんあるよ。山も湖も滝も。とても神秘的なんだ。静かで厳かで、心が研ぎ澄まされていく感じ」
「行ってみたいな」
 付き合っているからには、アゾートの両親に挨拶をしなければと弾は考えていた。
 彼がまだ見たことのないスイスの森に思いを馳せた時、金色が降ってきたかと思うような一角に出会った。
 その一か所だけ、葉を黄色く染めた木がかたまっていたのだ。
 二人は思わず立ち止まって、その金色を見つめた。
「綺麗だね。こんなところがあったんだ」
「うん、ボクのお気に入りの場所なんだ。今年も綺麗に色づいてて良かった」
 そういう場所に案内してくれたということは、それだけ弾を想っているということだ。
 自分の気持ちだけが突っ走っているわけではないことが実感できた弾の心に、あたたかい幸福感が満ちていく。
 それを言葉にしてしまうと平凡になってしまいそうで、弾はアゾートの手を握ることで伝えようとした。
 アゾートは弾を見つめて微笑むと、手を握り返す。
 二人は金色の中に踏み込んだ。
 サクサクと歩くたびに耳に心地よい音が聞こえてくる。
 無言で歩き、どちらからともなく歩みを止めて頭上を見上げた。
 陽光が葉を透かし、よりいっそう神々しく見せている。
 不意に弾の胸に、先ほど以上にアゾートの故郷へ行ってみたいという思いが沸きあがった。
「アゾートさんがそう思った時でいいから……僕は、キミの故郷に一緒に行ってみたいよ」
「うん、ぜひ来てほしいな。キミのこと、みんなに紹介したい」
 アゾートも同じように考えてくれていたことを、弾は嬉しく思った。
「きっと、みんなも弾を気に入ってくれるよ」
「アゾートさん……」
 照れたように微笑むアゾートに、弾は引き寄せられていく。
 アゾートは両手で弾の握って寄り添うと、そっと目を閉じた。
 弾はもう片方の手でアゾートをやさしく抱き寄せた。
 今度は、恥ずかしがったりせずにアゾートを見つめて──。


 茂みの隙間に、一対の青い目があり。
 キスを交わす二人をばっちりスマホに収めていた。
(お花摘みと言って二人から離れたかいがありましたわ! やりましたね、弾さん! ……この決定的瞬間は当分の間使えますわ。これをネタにバーゲンの荷物持ちに……!)
 キスの後、初々しく恥じらう弾とアゾートを見ながら、しょうもない策略を巡らせるノエル。
 そして数日後、この策は実行されたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

菊池五郎

▼マスターコメント

■川岸満里亜
シナリオ「黄金色の散歩道」にご参加いただきまして、ありがとうございました!
個人名義最後のシナリオより先のガイド公開でしたが、企画の性質上お時間をいただいてしまい、特にシナリオのみにご参加の方につきましては、大変お待たせいたしました。
イラストシナリオの方も同時の公開となっております。そちらも是非、ご覧くださいませ。

このシナリオが蒼空のフロンティアでの最後のリアクションとなる方もいると思います。
大変お世話になりまして、ありがとうございました。深く感謝しております。
引き続きクリエーター有志のファイナル企画にて、皆様とお会い出来ましたら嬉しいです。
詳しくは、検索や川岸のマスターページ等から、企画用ブログ『空の都の遊園地』へお越しくださいませ。

■九道雷
九道です。
リアクションにイラスト付けて頂ける嬉しさに舞い踊り、自分のNPCがPCさんと一緒にイラスト描いて頂ける嬉しさに舞い踊り、勿論文章のみの参加者さんにも、それぞれのアクションを描写する楽しさにグヘヘ……となっていました。
文章のみ、PCさんのイラスト付、PCさんとNPCのイラスト付、それぞれとっても楽しませて頂きました! 幸せ!
素敵な企画に参加できまして嬉しいです。
参加PCの皆様、本当に有難うございました!

■八子 棗
 こんにちは、八子 棗です。
 この度は、スペシャルシナリオやイラストシナリオにご参加頂きまして、誠にありがとうございました。
 こちらが『蒼空のフロンティア』の一番最後に公開される私の担当させて頂いたシナリオになるかと思います。
 それでは、またどこかでお会いできれば嬉しく思います。

■有沢楓花
 こんにちは、有沢です。
 スペシャルシナリオ、そしてイラストシナリオ。どちらか、また両方のご参加ありがとうございました。
 残り少ない『蒼空のフロンティア』最後まで楽しんでいただければ幸いです。

■夜月天音
 参加者の皆様大変ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
 本シナリオで夜月の『蒼空のフロンティア』での活動は終了となります。
 そのため皆様のアクションを拝見し執筆している時はとても感慨深くなると共に寂しさを感じると同時に初めてで最後のイラストリンクシナリオに参加出来て本当に嬉しかったです。
 皆様のこれからの活躍を願うと共に至らない所が目立ちますがほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

■冷泉みのり
こんにちは、冷泉みのりです。
この度はシナリオに参加していただきありがとうございました!
皆さんの思い出のワンシーンになれたら、この上ない幸せです。
イラスト付きのほうにもご参加の皆さんは、合わせてお楽しみいたたければと思います。