蒼空学園

リアクション

第２章　結成！　花壇防衛班（花壇）
「しっかし二人とも、よく飽きないよなぁ」
　その日も黒脛巾にゃん丸（くろはばき・にゃんまる）は花壇で春川雛子と井上陸斗の花植え作業を眺めていた。
「にゃん丸さんこそ、いつも見ていて飽きないんですか？」
「いや、こうみえても俺【のぞき部】部員だから部活動を……」
「へぇ、【のぞき部】なんだ」
　やはり様子を見に来ていたアリア・セレスティ（ありあ・せれすてぃ）は、にゃん丸の言葉に視線を険しくした。先日【のぞき部】騒動で酷い目に遭ったのは記憶に新しい。
　そんなアリアの様子、
「でも、そんなに堂々と見ていて覗きも何もないと思いますけど」
「気になるなら、手伝えよな」
　それから二人にクスクスと笑まれ、降参するように立ち上がるにゃん丸。
「はいはい」
　けれど、そこで異変が起こった。
　雛子と陸斗の背後、青い空の映る空間をこじ開けるように一瞬だけ出来た、ホンの僅かな隙間。
　その深遠の暗黒より出でたる、黒き光。
　飛び散る黒き光を追うように現れ出た白き少女。
　そして、屹立する巨大な水の蛇。
「よし分かった、行って来る！　ヒナは安全な場所にいろよ！」
　駆け出す陸斗とにゃん丸は瞬間、視線を合わせた。どちらからともなく頷き合い。陸斗は憂いがなくなった様に今度こそ真っ直ぐ、駆けて行く。
「待って陸斗君！私も援護に……えっ……プールなの？」
　プールは件の酷い目に遭った場所である。躊躇し足を止めたアリアの耳に、パムの悲痛な声が届く。
（「パムの言う通りかも知れない……あの時のワームみたいに、ここも嫌な気配がする……」）
　理由は分からない。だが、魔法剣士としての直感が、ここが必ずしも安全ではないと告げていた。だから、踏みとどまる。
（「そう……誰かを護る為に剣を振るう者として、戦う力のない人をここに置いてはいけない」）
「にゃん丸さん、は……？」
「ローグの俺が行っても精々プールの水を抜くぐらいだからねぇ」
　同じく留まるにゃん丸が肩をすくめてみせると、雛子の顔に安堵が浮かんだ。
「抜けた頃にはけりがついてるよ。ダガーじゃ水蛇は切れないし罠も意味がない。魔法で氷漬けにするか火炎で吹き飛ばすか……それに」
　対照的に、言葉を飲み込むにゃん丸。白き少女と雛子とのやり取りが意味する可能性。
（「厄災の一部って……水の蛇は囮じゃないのか？　俺が封印を解く立場なら人知れずやりたい、陽動の影で。ならば本当に危険なのはこっちでは？」）
　しかし、そんな懸念は心の中だけに止める。
「俺も結界のために花を植えるのを手伝おうかねぇ」
　挑むように花壇を見据え、不敵に笑った。
「さぁて、人の思いがこちらの武器ならば友人を集めるか！」
「【花壇防衛班】ってとこね」
　一つウインクしてから、アリアは表情を引き締めた。
「雛子ちゃん、パムの言う通り、ここは少し危険かも。止めはしないけど、十分に気を付けてね？」
「安心して下さい、雛子さん」
　そこに声を掛けたのは、十倉朱華（とくら・はねず）のパートナーであるウィスタリア・メドウ（うぃすたりあ・めどう）だった。
「雛子さんや陸斗くんの健気な行動を邪魔するなどと、不届き千万です。守護天使の名に懸けて、花壇も雛子さん達もお守り致します」
　元々、雛子達の活動に感銘を受けていたウィスタリアである。
　普段は物腰柔らかなウィスタリアも、事この件に関してはヒートアップ気味だ。
「まぁ、せっかく皆で守った花壇だもん。力にならない訳ないよね」
　そんなウィスタリアに苦笑をもらしつつも、朱華もまた同じ心意気だった。
「何が怒っても僕達が守るから。安心して、花を植えてね」
「……はい」
　「ありがとうございます」と「よろしくお願いします」と口にする代わりに、雛子は朱華やアリアに深く頭を下げた。
　一人でもやるつもりだった。
　だけどやっぱり、一人では怖かったのだ。
　だから嬉しくて。口を開いたら泣いてしまいそうだったから。

「あれ？　今のって……」
　陸斗とすれ違った羽入勇（はにゅう・いさみ）は、その行く先を何気なく追って。
　キラリン！
　瞳を光らせた。
「何あれ！　すっごいスペクタクル！　これは良い写真が撮れるチャンスかも！？」
　ターゲットロックオン！、瞳をキラッキラさせる勇に慌てたのはパートナーのラルフ・アンガー（らるふ・あんがー）だった。
　何せ勇、一つの事に集中すると周りが見えなくなる性質なのだ。故に自分が気をつけ守らねば、と常々固く心に誓っているラルフである。
「勇、確かにあれも気になりますが、例の花壇も気になりませんか？　先ほど何やら奇妙な光が見えましたし」
　だから、提案したのは勇の安全の為が大部分、言葉通りがちょびっと、だった。
「……うん、確かに。雛子ちゃんに伝えたい事もあるしね」
　そんなラルフの心中に気づかぬまま、勇は提案を受け入れたのだった。
　そして。
「やっぱり！　あの時の花の向こうに見えた白い少女は幻じゃなかったんだ！」
　花壇で白い少女を目にした勇は歓声を上げた。以前、ファインダー越しに見た少女の事が、勇はずっと気になっていたのだ。
「ここが自慢の花壇……になる予定地、って透けてる女の子！？」
　友人である御厨縁（みくりや・えにし）とサラス・エクス・マシーナ（さらす・えくす　ましーな）を案内していた支倉遥（はせくら・はるか）は、勇の隣の少女を見て思わず声を上げた。
「しかも可愛い！」
「む、確かに可愛いな」
『えっあっ……ありがとう……ございます……』
　遥とベアトリクス・シュヴァルツバルト（べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると）に褒められた少女は、恥ずかしそうに少しだけ口元を緩めた。
「とはいえ、その蔓が無粋であるが」
　ベアトリクスはそこで、気になっていた事を質してみた。
「ツァンダの昔話に登場する巫女と何か関わりがあるのか？」
　ベアトリクスが尋ねたのはやはり、大学部でパラミタの民俗学を専攻しているから。
『はい。……私の事……だと思います……』
　何故か申し訳なさそうに言う少女、反対にベアトリクスは瞳を輝かせた。
「それは素晴らしい！　昔話の住人と接する機会を得られるとは」
『……すみません……そんな大層なものでは……』
　つい興奮を抑えきれないベアトリクスは、遥から目配せされクールダウンした。
「話したくないなら無理に話さなくてもいいです」
　藤枝輝樹（ふじえだ・てるき）もまた、色々と尋ねたい事はあった。
　昔話や封印の事など。
　だが、無理強いをするつもりはないし、何より……少女が『声』を搾り出す事も辛そうだと気づいたから。
「もし話しても良いと思う時がきたら、聞かせて下さいね」
「すまない。私も待とう」
　輝樹とベアトリクスに、少女はホッとしたように首肯した。
「……」
　頃合を見計らい、輝樹のパートナーである泊美沙（とまり・みさ）が勇に目配せし。
「……そうそう、皆の写真撮らせて欲しいの」
　気づいた勇は、殊更明るく雛子達に声を掛けた。
　ＯＫをもらってから、早速カメラを構える勇。
「その写真を公開すれば、もっと沢山の人達が協力してくれるでしょうね」
　勇が撮る写真の力を信じて疑わないラルフに、勇はちょっとだけ照れたように頬を染めた。
「ここは危険かもしれません」
「じゃが、おぬしは留まるのじゃろう？」
　縁に問われ、遥は押し黙った。
「何、わらわとて力なき者の役に立ちたい気持ちは同じじゃ……力になろうぞ」
「とか言って。縁は遥にいいとこ見せたいだけだろ」
「なっ何を言っておるのじゃ」
　からかうサラスに慌てる縁、そんな友人達を遥は微笑ましく見つめ。
「でも、くれぐれも無茶だけはしないでくれ。彼女が昔話の体現だとしたら、災厄がどんなものなのか……何が起こるか分からないのだろからな」
　ベアトリクスは自らも口元をほころばせながら、そう警告したのだった。

「何やこの先に、えっらい寂れた場所があるんやて」
「ヘ……ヘビ！？　しかもあんな大きい……！」
　桜井雪華（さくらい・せつか）の袖を引くヘルゲイト・ダストライフ（へるげいと・だすとらいふ）、けれど自分の想像に浸る雪華は気づかない。
「【ピンク・ナース】のネタ合わせにぴったりやで。んで、ガッツンガッツン笑いが取れるようになるんやな」
　うっしゃっしゃ、な雪華に、ヘルゲイトは一つ溜め息。
「……ってなんか人おるし！」
　その雪華もたどり着いた先、集まっている勇達を認め、「はぁっ？！」と目を見開いた。
「しかもあれ……ちょ、カメラカメ……携帯でええわ、何あれホンマもんの幽霊！？」
　早速写メる雪華だったが、そこに少女の姿は無く。遥達より事情を聞くべく特攻した。
「ほぉ〜……ほなしっかり花植えて、ここを安全かつ静かな場所にして貰わんとうちらネタ合わせに困るわけやな……」
　よっしゃ、と俄然やる気になる雪華。
「ふぅ〜ん、そういう事ならバッチリ協力しちゃうよ……ねっ？」
「ええ」
　それは、新川涼（しんかわ・りょう）とユア・トリーティア（ゆあ・とりーてぃあ）も同じ。
「前から興味はあったし、雛子ちゃんや学園のピンチなら手伝わないと！」
　そう、元々この花壇に興味を示していたユアに請われ、涼は此処に来たのだ。更に現在の事情を知らされては、この元気なパートナーが黙って見過ごすわけはないのだ。
「自分は不器用ですから……その代わり、ユアや皆は守ります」
「……うん、信じてる」
「牛乳大好き、鈴虫　翔子、只今参上ー、なんちてなんちて」
　鈴虫翔子（すずむし・しょうこ）は、八神ミコト（やがみ・みこと）に視線で咎められ、ちょっとだけ表情を改めた。
「と、ふざけてる場合じゃないや。よくわかんないんだけどさ、ボクも協力しちゃうよ！」
「しゃぁない、ウチも一肌脱いだるわ……言うてもセミヌードまでやで〜」
　襟元をはだけさせた雪華に、ベアトリクスは咄嗟に遥、ユアは涼の目を塞いだのだった。

「と、その前に」
「……どうぞ」
　瀬島壮太（せじま・そうた）とミミ・マリー（みみ・まりー）は、涼やユア達にマスクを手渡した。それは頼み込み、購買部で譲って貰ったものだ。
「命を削るくらいヤバいもんなら、何かで防衛しとかないとまずいだろ」
「カチュアも手伝ってやれ。……足りないようなら、ハンカチを少し湿らせて、簡易マスクにするよう、勧めてやれば良い」
「え？　あれ？　珍しくやる気ね」
　いつも「面倒や厄介事は苦手」とぐーたらしている緋山政敏（ひやま・まさとし）に、カチェア・ニムロッド（かちぇあ・にむろっど）は目を丸くした。
「うん。少し見直しましたよ」
「ありがとう」
　壮太からマスクを受け取った白波理沙（しらなみ・りさ）は、片方をチェルシー・ニール（ちぇるしー・にーる）へと渡した。
「雛子ちゃん一人じゃなくて、こんなにたくさん……皆でやればきっと成功するよね」
「植物は言葉が分かると昔聞いた事がありますわ。植える時に話しかければ見渡す限り全面に素晴らしいお花畑が広がってますわよ☆」
　うっとりと青い瞳を細めるチェルシーに、理沙は思わず突っ込む。
「いや、流石にそんなに広くはないわよ、この花壇」
「うふふ〜、折角ですから綺麗に咲いてくださいね〜☆　」
　既に理沙の突っ込みが耳に入っていないようで、花の苗に語りかけているチェルシー。
「うん、でもそうだよね。皆が願えばそれはきっと現実になるわよねっ！」
　理沙は気合を入れるように大きく頷くと、花の苗を手に取った。
「先ずは水はけを良くしなければならないよな」
　永夷零（ながい・ぜろ）はパートナーのルナ・テュリン（るな・てゅりん）と共に、早速作業に入っていた。
　スコップ片手に花壇の周り、ぐるっと囲むように側溝を作り始めた。
「えっさ、ほいさ」
　もしまた大雨がふっても、花壇が無事なように。
「それに、掘り起こした土は花壇に利用できるしな」
「は〜い、手伝うのです」
「いや、今回は男手の必要な土仕事だし、ルナはスコップ持たなくていいぞ」
「スコップは持たなくていいのですか？　それならば、花壇に土を運びますね」
「おぉぅ、それも力仕事だし」
「なら……ほら政敏、出番よ」
「俺たちは周辺の警戒をだな……」
　幼い外見のルナに見上げられ、言葉に詰まる政敏。
「てか、あの頭についてるウサ耳は一体……？」
「髪ですか？皆さんに褒めて頂き感謝感激です♪」
「いや、褒めて……っつーか」
「まぁ、あまり気にしないでやってくれ」
　ルナの髪の横、うさ耳が何だか楽しそうにぴょこぴょこ揺れている。
「花を植えようとする人達を戦いに巻き込まないこと、これが一番大切な事です」
　本郷翔（ほんごう・かける）はソール・アンヴィル（そーる・あんう゛ぃる）を伴い、やはり花壇周辺を回っていた。
　有刺鉄線を用いたバリケードや落とし穴、奇襲防止の為の落とし穴等を設置しながら。
「実際に戦うことも大事ですけど、こうやって目に見える防衛体制を築くことで、花を植える人達に安心してもらう事が出来ると思うのです」
　そうしたらより、花を植える作業に集中してもらえるはずだ。
「かわいこちゃん達を危険にさらすわけにはいかないからな」
　そして守ったらその後は……ニヤリ、笑むソールに気づき、終わったら即刻連れて帰らなくては、思う翔だった。

「雛子、あたくしも、封印を補強するための花植えを手伝って差し上げてもよろしくってよ？」
「お嬢様、さすがにそういう言い方はどうかと思いますが」
　高飛車に申し出た飛鳥井蘭（あすかい・らん）は、クロード・ディーヴァー（くろーど・でぃーう゛ぁー）に生真面目に注意され、ちょっと頬に朱を上らせた。
　さすがはパートナー。
　雛子や白き少女を案じている事を素直に表せない……そんな自分が見透かされているから。
「ですが、お嬢様の心根には賛成です。早速お手伝い致しましょう」
「クロっ！　あなたはみなさんに何か飲み物と軽い食べ物を用意しなさい！」
　花壇に足を向けたクロードを止める蘭。びしっ、と人差し指を突きつけ、言い放った。
「い〜いっ？　あなたが、のしのし花壇を歩き回ったら花壇がめちゃくちゃになりますわ」
　確かに、ドラゴニュートであるクロードは身体も大きい。
　ただ、几帳面で冷静であるクロードがそんな迂闊な事はしないと、誰よりも分かっているのが蘭のはずだった。
「……分かりました。では何か、ご用意致しますね」
　クロードの言葉に、蘭は内心の安堵を顔には出さぬようそっぽ向いた。
「（クロ、あなたがもし……もし瘴気で倒れたら、これから誰が家事をするのよ……それに、あたくしまた一人ぼっちになっちゃうじゃない……）」
　そんな蘭を見つめるクロードの瞳は、優しく穏やかな光を宿していた。
「ツァンダに伝わる昔話には、財宝の隠し場所への暗号が隠されている……はずだ！」
　ゲー・オルコット（げー・おるこっと）はそんなマイ解釈でもって、花植えに勤しんでいた。
「この作業こそ、財宝への道！」
「そうかしらねぇ」
　パートナーの藤波竜乃（ふじなみ・たつの）は、ゲーの予想……というより寧ろ願望☆……をちっとも信じてはいなかった。
　というより、花植えには興味はなかった。
　それでも、理由はどうあれ、時々足元をフラつかせながら必死に花を植えるゲーや、純粋に一生懸命頑張っている真人や雛子達を見ていると、ただ見ている事も出来なかった。
「ヒマしてるのもアレだしぃ？　ちょっとくらい手伝ってあげても良いかも〜？」
「真人！　男なんだから手伝いなさいよ」
「はいはい」
　苦笑を浮かべる御凪真人（みなぎ・まこと）に、セルファ・オルドリン（せるふぁ・おるどりん）は思わずムッとした。
「そりゃ私の方が向いてるのかもしれないけど、女の子だけに力仕事やらせるってどういう事なわけ？」
「セルファ、君は自分の得意分野だと本当に強気ですね」
　しみじみ言われ、更に何か言ってやろうとしたセルファはふと、口を噤んだ。
　いつもの口調、いつもの真人……だけどその顔色が少し、悪い気がして。
「どうしました？　俺は平気ですよ」
「……分かってるわよ」
　そう、此処は瘴気の漏れ出している場所なのだ。その事に唐突に思い至り、セルファは真人に押し付けようとしていた腐葉土を抱え直した。
「セルファ？」
「ほら、ちゃっちゃと苗を植えちゃいなさいよ。何を用意してきたの？」
「これは向日葵、こっちはラベンダーです。夏ですし、なるべく生命力の強い花の苗を、と思いまして……ちなみにラベンダーの花言葉は、清潔・期待、あなたを待つ、です」
「へぇ〜、真人のくせに花のことわかるんだ」
「真人のくせに、は酷いですよ」
　実際、読書家の真人は色んな事に詳しい。
　そんな風に軽口を叩き合うのは何故なのか、互いに分かっていた。
　今はまだ微かに感じる程度だが、呼吸が苦しい。
　これが瘴気の影響だというのなら、これを続けれはどうなるのか……推測するのは簡単だった。
「何事も諦めない。それが前へと進む秘訣ですよ」
「そうね。絶対、こんなことじゃ負けないよ」
　だが、ここで引くつもりは真人にもセルファにも全く、無かった。
「瘴気ってどうやって防げばいいんだ？　実体でも持ってくっればやりやすいってのに。とりあえず、体張ってでも止めるしかないか！」
　そんな真人達を少しでも楽にしたいと、風森巽（かぜもり・たつみ）はティア・ユースティ（てぃあ・ゆーすてぃ）に手を差し出した。
「物は試しだ。ティア！　光条兵器を！」
「うんっ！」
　目を閉じ、瘴気の流れを感じ取り、得物を振るう。
　振るわれた光の軌跡が、瘴気を切り裂く。
　だがしかし。
「ダメっ、払っても払っても直ぐに湧いてくるよ」
「結局、元を断たなくちゃダメって事か」
　それでも、自分が光条兵器を振るう事で、真人達がさらされる瘴気が少しでも減るならば。
「花を植え終わるまで何回だって、振るってやる」
　巽は邪魔をせぬよう気をつけながら、瘴気を斬り続ける。
『……』
　そんな真人や巽達を見つめ、申し訳なさそうに俯く少女。
「そんな顔をしないで下さい。皆、好きでやっている事です……勿論、俺もね」
「……大丈夫、護るから」
　樹月刀真（きづき・とうま）はその様子に堪らず、声を掛けた。パートナーである漆髪月夜（うるしがみ・つくよ）もまた、言葉を添える。
「必ず貴女とこの花壇を護りますよ。何ならこの剣に誓いましょうか？」
「それ、似合ってない」
　ちょっとむくれながら突っ込む月夜は、念のため咎めた。
「刀真、雛子達も守る」
　刀真の目に、少女しか映ってないのでは、と懸念して。
「ゴメンゴメン、君達も必ず護ります」
　刀真は直ぐに雛子達に告げたけれど。
　少女に対して特別に思い入れている……それが月夜には分かった。
『どうして……そこまで……』
「君が一人で頑張っているから、かな」
　刀真は孤独が嫌いだった。
　誰かが独りで苦しんでいるなら、少女が独りで苦しんでいるのならば。
　手を差し伸べずには、いられなかった。
「水の蛇を倒さないと、御凪や飛鳥井の頑張りも無駄になってしまうんだな？」
　刀真の言葉に顔を伏せた少女に、當間光（とうま・ひかる）確認するように問うた。
『はい……申し訳……』
「で、核は水の蛇の中にあるんだな？」
『……あっはい……おそらくは……』
「分かった。あっちは井上や俺達で何とかするから……頼むから、そんな顔しないでくれ」
　自分を責めている。全てを一人で抱え込んでいる少女を、光もまた放っておけなかった。
　それはパートナーであるミリア・ローウェル（みりあ・ろーうぇる）も同じ。
　光の傍らで、大きく頷いている。
「今の時代、此処には好き好んで力になろうとする、頼りになるお人好しが数多くいるんだ。厄介事を独りで抱え込んだりせず、気楽に助力を求めて良いんだ」
　だから光は言い置き、駆け出した。少女の憂いを、懸念を、軽くする為。
「光、くれぐれも私のいない所で無茶しないで下さいね」
「……まぁ努力はするさ」
　花壇を後に、プールと校舎、二人は別々の方向へと駆けたのだった。