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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)
砂上楼閣 第一部(第1回/全4回) 砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

リアクション

 突然、空港内に鳴り響いた爆発音に脅えた皆川 陽(みなかわ・よう)は、身体を小さくし床に伏せた。
 陽は、外務大臣の警備を務める薔薇学生の一人として精一杯頑張ろうと意気込んで、雪之丞とともに空京入りした。しかし、空港を取り囲む横断幕を見たり、人々の噂話を耳にするうちに不安の方が大きくなってしまったのだ。
 あげく、まさにテロ行為が実行されたとしか思えない爆音である。
「パレスチナとか、テロとか…そんなのテレビの中のものだけだと思っていたのに。怖いのやだようっ」
 恐怖に小さな肩を振るわせ涙を浮かべる陽をパートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が必死で宥める。
「いざというときは僕が絶対に守るからっ。だから陽は心配しなくていいって!」
 元気いっぱいのテディが両手でギュッと抱きしめてくれたけど、陽の不安は拭えない。
「だけど、テディ…」
 僕、もうお家に帰りたいよ。
 そんな泣き言がこぼれそうになったとき、誰かが陽に声をかけてきた。
「どうしました?」
 涙があふれて止まらなかったから、ちゃんと顔は見えなかったけど。その優しげな声から、薔薇学教師高谷 智矢(こうたに・ともや)だと分かった。
「あぁ、先ほどの爆発で驚いてしまったのですね。爆発地点はここから遠いですから、安心してください」
 上質のスーツが汚れることも気にせず、高谷は床に膝をつき陽の顔を覗き込んでくる。
「おにーちゃん、大丈夫?」
 高谷のパートナーである小さな剣の花嫁白河 童子(しらかわ・どうじ)も一緒だ。首を傾げ、陽に笑いかけながら持っていたお菓子を差し出してくる。
「おかし、あげる〜。だから泣かないで」
 まだ5才の子供である童子にこんな風に言われたら、陽だって泣いてはいられない。グイッと勢いよく涙をぬぐうと、童子に笑顔で答えた。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
 本当はまだ怖いけど。小さな子供の前で泣くのは、さすがに恥ずかしいから。
「良かったらお茶を入れましょうか? ハーブティでも飲めば落ちつきますよ」
 気を利かせた高谷が陽を廊下に並んだベンチの一角へと誘う。
「わ〜い、おかし、おかし!」
 童子にとっては、お茶よりも一緒に添えられるはずの甘いお菓子の方が嬉しいようだ。大はしゃぎでベンチに飛びつくと、「はやく、はやく」と手を振っている。
 童子の隣に座った陽とテディに、高谷が差し出したのは、繊細な白いティーカップに入った香り高いハーブティ。まさかこんな場所で本格的なお茶を出してもらえると思ってもいなかった陽は、ちょっと驚いた。
 しかし、高谷はバトラーなのだ。まさに執事の鏡とも言える準備の良さと言えよう。
「少しは落ちつきましたか?」
 童子の無邪気さと、高谷の細やかな気遣いに触れ、陽の心も落ちついてきたようだ。こくりとうなずき、礼を言う。
「ありがとうございます、先生。…あの…でも…」
「どうしました? 何か心配事でもありますか?」
 ティーポットからお茶をつぎ足してやりながら、何か言いたげな陽を高谷は優しく促した。
 陽はカップを口元に運びながらポソリと呟いた。
「…僕たち、学生ですよね?」
「えぇ、そうですよ」
「それなのになんで、こんな怖い所で警備なんかしなくちゃならないんですか? 兵隊さんの仕事じゃないんですか?」
 陽の質問に高谷は言葉を失った。それはほんの一瞬のことだったが。これは教師である?谷にも簡単に答えられる質問ではなかった。しかし、つい最近まで地球で極々平穏な日常を過ごしてきた陽達にとって、重大な問題だろう。
 高谷は、慎重に言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。
「皆川くんは、地球人がパラミタに来るためには、契約を結ばなくてはならないことを知っていますよね?」
「…はい」
「契約者となれる人の大多数が10代の少年少女だということも知っていますか?
 私のような大人の年齢で契約を結べる者は希なんです。結界石というものを使えば、契約者でなくてもパラミタに来ることはできますが、行動範囲が限られてきます。そのためにどうしてもパラミタで自由に動ける契約者達…各学校の学生達の協力が必要となってくるんです。
 それに皆川くんも、ここにいるテディくんと契約を結んでから、不思議な力が使えるようになったでしょう?
 今はまだパラミタに持ち込める武器や道具が限られています。そのためある意味、君たち契約者自身がパラミタで生き抜くための武器であり、人々を守る兵士であると言っても過言ではありません。しかし、テディ君と出会うまで、君は普通の学生だった。いきなり人々を守れ、パラミタのために働け、などと言われて戸惑うのも当然です。
 でも、君は、何かを成し遂げようと思って、このパラミタに来たのではないのですか? ここで投げ出してしまって良いのですか?」
 高谷の言葉が、小さな雨粒となって陽の胸に落ちていく。ぽつり、ぽつり、と。それはいつしか大きな波紋となって陽の心に広がっていく。
「一緒に頑張りましょう、皆川くん。君は一人でここにいるのではないのですよ。テディ君も、私も、薔薇の学舎の友達も、みんな一緒です」