リアクション
第6章 雨は降る降る人馬はぬれる
「何とか、状況的にはうまくいっております」
志賀はやや上機嫌で戻ってきた。
「志賀君、うれしそうね」
怪訝な顔で和泉は出迎えた。いつも笑っているような感じの志賀であるが、今日は本当に機嫌がいいらしい。
「まあ、戦車も航空部隊も揃いましたし、規模こそ小さいですが曲がりなり?にも電撃戦が出来るようになりましたから」
まず、航空部隊が敵の後方に爆撃を加え指揮系統を混乱させ、砲兵部隊が支援射撃を行い、戦車を中心に敵陣を突破、騎兵がラインを形成して突破口を押し広げ、装甲車両に乗った機械化歩兵部隊が敵をずたずたにし、最後に歩兵部隊がばらばらになった敵をしらみつぶしに仕留めていく。近代的な機甲戦術が実施できる態勢がほぼ整ったからだ。
「我々としては、ワイフェン族を国境ラインから追い出すことが出来ればラク族は概ね同盟に同意すると思います。そうなればこの地に確固たる基盤が出来ることになります。従って我々はそれを目指すというのが変わらぬ方針となりますが……」
「何か問題があるの?」
「直接的には対ワイフェン軍の軍事的なもの以外はありませんが、ここに来て周辺状況がいささかきな臭くなってきています。例の女王候補擁立以来急速に六首長家、および各学校の関係に変化が見られますから」
「直接に対決しているのは教導団と波羅蜜多実業だけだけど」
「水面下はかなりきな臭いですね……。ここに来てどうやら派閥抗争的になってきました」
それを聞いて和泉は実に嫌そうな顔をした。
「まあ、人が二人いればもう派閥は出来ますから」
「それはそうだけど」
「大きく二つ、蒼空学園(ツァンダ)・百合園(ヴァイシャリー)と教導団(ヒラニプラ)・イルミンスール(ザンスカール)、あとその他として薔薇学(タシガン)とパラ実(キマク)となりますが、ちょっと妙な展開でして……未確認情報ですが、百合園の生徒がパラ実の分校を造るらしいです」
「何それ……それはつまり……」
「はい、間接的にではありますが百合園がパラ実を支援していると言うことになります」
「それが事実なら教導団に対して敵対意志がある、と言うことになるのではなくて?」
教導団とパラ実は敵対関係にある。パラ実の味方なら教導団の敵と言うことになる。
「もちろんです。これについては本校、第1師団とも連携をとって動かねばなりませんがこのパラ実分校、これを百合園が野放しにしていると言うのであれば百合園は教導団に敵対意志MAXと言うことになります。現状でパラ実と仲良くなると言うことは教導団に砂掛けていることになるのは馬鹿でも解ることですから」
「そうなると、位置的に問題ね」
第3師団は教導団で一番ヴァイシャリーに近い位置にいる。
「警戒は怠らないようにします。ワイフェン族との戦いの最中に横から攻められでもしたら大変ですから」
「ますます、ラク族との同盟を急ぎたい所ね」
「それだけではありません。ヴァイシャリーはミルザム・ツァンダ嬢の女王候補宣言にあれほど渋っていたのに、いざ女王器探索となると真っ先に蒼空学園(ツァンダ)にすり寄る様な行動を取っています。……いささか不可解といいましょうか」
「そうね。ミルザム嬢が女王になればヴァイシャリーのラズィーヤ嬢は一貴族にしかならなくなる。権威、影響力共に激減する。ヴァイシャリーとしては面白くないはずだわ」
いままで女王の血を引くと言われるラズィーヤを擁し、一番の名門を誇っていたのがヴァイシャリーである。ミルザムが女王になればその拠って立つところががらがらと崩れてしまう。
「考えられる事は二つ。一つは百合園(ヴァイシャリー)上層部が政治的な判断がまるで出来ない政治音痴である場合。」
「もう一つは?」
「その逆で思いっきり腹黒い場合です。ある意味腹の底で悪いこと考えている場合、蒼空学園に積極的に協力する理由があります」
「どういう事なのかしら?私、正直イリーガル(非合法活動)は苦手なのよね」
「いえ、簡単です。百合園がクイーン・ヴァンガードに協力して女王器探索などに力を貸す、と言うことです。百合園独自に探索部隊も出すかもしれません。そして……見つけた女王器を隠してしまう」
「?」
「あるいはすでに一つ持っているのかもしれません。公にしていないだけで。ミルザム嬢が元々一個持っていたそうですからラズィーヤ嬢がシャンバラ女王の血を引いているのなら、すでに一個持っていてもおかしくありません。そしてクイーン・ヴァンガードが努力して女王器を残り一個残して集める……。正にそのとき、クイーン・ヴァンガードと百合園生徒が護衛しているにも関わらずミルザム嬢が『何者か』に暗殺されてしまう……」
「!!」
「まあ、『状況から言って鏖殺寺院の仕業』でしょう。シャンバラ全土が悲しみにくれますね……。そして故人の遺志を無駄に出来ないとばかりにラズィーヤ嬢が『やむを得ず』女王候補を受け継ぐ事を宣言する。後は簡単、その直後にあらあらこれはびっくり!女王器最後の一個が発見されました。まさしくこれこそラズィーヤ嬢が女王たる証!ラズィーヤ嬢は女王の血をもっとも濃く受け継ぐお方。反対する者も競合する候補もなく、ラズィーヤ嬢が女王に即位する……」
「いくら何でも……それは」
すると志賀はひょいっと肩をすくめた。
「冗談です……。というか現状でヴァイシャリーにもっとも都合のいい展開を述べただけです。……女王候補に名乗りを上げると言うことは鏖殺寺院の暗殺標的になると追うことです。ならば鏖殺寺院のテロを避けつつ女王器を集めて即位する一番都合のいい展開、それを想定しただけです」
「ラズィーヤ嬢がそう言うことをするとは思えないけど」
「ええ、全く同感です。ですから、『ヴァイシャリーに一番都合のいい展開』と言ったじゃないですか。ラズィーヤ嬢は普通のお姫様かもしれません。……しかし周りはどうでしょうか?まあ、いずれにせよ、可能性の一つでしかありません。第一そう都合良くは行きませんよ……。それよりも大きな問題は、女王候補がより嫡流のラズィーヤ嬢ではなく、傍流のミルザム嬢である、と言うことです」
「どういうこと?」
「つまり、シャンバラ女王の血を引いてさえいれば女王器を集めることで女王になれる、と言うことです。女王の血筋はラズィーヤ嬢とミルザム嬢だけとは限りませんよ?パラ実(キマク)はミルザム嬢を女王候補と認めていません……。彼らが、別の女王候補を立てたら?」
そこで和泉は志賀が言いたい本当の事が解った。女王がすんなりミルザムに決定するかどうかは解らない、むしろ各勢力の思惑で女王候補が乱立し、混乱する可能性が決して低くないのだということだ。
「正直、ラズィーヤ嬢はどのような考えなのかは解りません。今の所、享楽的なお姫様、という感じのようですが、あるいはそう見せかけているだけでものすごいマキャベリスト(権謀家)かもしれません。あるいはひょっとして真に女王にふさわしい素質を秘めているのかもしれません」
「今の所は解らないわね」
「ただ、一つ言えることは、女王候補宣言でミルザム嬢はノーブレス・オブリッジ(高貴なる者の義務)を示しました。鏖殺寺院の暗殺に狙われることを覚悟の上でシャンバラ王国復活へ向けて尽力する。これは大きいでしょう。これに対してヴァイシャリー家は暗殺を恐れてラズィーヤ嬢を女王候補にしませんでした。これは痛いはずです。貴族が貴族たるゆえんは義務を果たすが故です。ラズィーヤ嬢の権威は大分色あせたと言わざるを得ないでしょう。いずれにせよ、我々はワイフェン族との戦いで手一杯ですが、周辺の状況には注意が必要のようです」
「で、肝心の次の作戦。第二段階の件だけど」
「はい、概ねまとまっています」
そう言って志賀は周辺の略図を示した。
「この前、お話ししたとおり作戦の狙いは敵の集積所です。これを叩いて敵を撤退に追い込むことが狙いです。今回の作戦の結果、敵はかなり航空部隊に脅威を抱いたはずです。そして前線ではかなりの損害を出している……」
それぞれの情報をつきあわせて概ね判断したところに拠ると、敵の総戦力は始めは約三万、このうち、二千から三千が集積所の護衛に当たったと考えられている。残りは約二万七千程度、A遊撃隊は敵を約五千、B遊撃隊も五千ほど引きつけたらしい。そのため、こちらの主力九千弱に対し、敵は一万七千程度ぎりぎり二倍未満の比率で戦うこととなった。そのため後退戦での防御は成功したと言える。今回、敵に与えた損害は約四千程度と推定される。こちらは千弱だ。
「次回は時間勝負になりますが、戦車も装甲車も一度戦ったので本格的に活用したいと考えます」
そう言って志賀が示した策はやや変わった物である。
・師団を大きく機動打撃戦力と火力支援戦力に分ける。
・機動打撃戦力は戦車、AFV、トラックを最大限活用し、機動歩兵連隊の半数を乗せる。これに第1、第2騎兵大隊を加えて編成。
・火力支援部隊は敵に向かって右から機動歩兵連隊残余、第3歩兵連隊、第4歩兵連隊、と並べる。但し、敵に対して平行ではなく、右翼機動歩兵連隊を前に、左翼の第4歩兵連隊を後ろに配置し全体として斜めになるように布陣する。強襲偵察大隊は予備兵力として火消しに用いる。
・機動打撃部隊は一番左に配置して敵を迎え撃つ。
第1段階:敵が攻めてくるのを火力支援部隊で受けとめる。布陣が斜めになっているので敵右翼(こちらから見て左翼)が長く伸びて突出する形になる。
第2段階:機動打撃部隊が回り込んで側面から斬り込み、電撃的に敵を攪乱する。
第3段階:機動打撃部隊が敵を突っ切ったら第1騎兵大隊のみ離脱、長駆150高地向こうの森林地帯へ向かい小隊に分かれて集積所の位置を掴む。
その間、機動打撃部隊は再度斬り込みを行い、これを繰り返す、必要に応じて降車戦闘もありうる。火力支援部隊は敵を食い止める。
第4段階:第1騎兵大隊が集積所を発見したら信号弾を打ち上げ、その位置を知らせる。信号弾が打ち上がったら第1騎兵大隊は一度森の外に出て集結、その間に航空部隊は敵集積所を空爆する!
第5段階:第1騎兵部隊は再び集積所に突入、物資を焼き払う。
第6段階:集積所をやられ、敵が浮き足だったところで反撃する。
「……志賀君は敵を森林地帯におびき寄せるつもりだった訳ね?」
「敵にとっては空爆を避けうる唯一の場所ですから。逆にいえばこちらは森林地帯に絞って捜索すればよい訳です。敵は森林の中だと視界が通らないので空爆からは安全だと思っているでしょう。そこに敵戦力を突破して捜索部隊を送り出せれば状況はがらりと変わります。航空部隊から森の中を確認できないと言うことは、森の中からも航空部隊を確認できないと言うことです。平地ならば護衛部隊の射撃で間違いなく航空部隊に大損害が出ます。しかし、森の中で敵の位置さえ確認できれば……」
志賀は顔を上げた。
「こちらが一方的に空爆できます」
「解ったわ。それで行きましょう。でも正面は厳しいわね」
「はい、特に圧力がかかるのは機動歩兵部隊残余、それと敵を突っ切る機動打撃部隊。これらには集積所を焼き払うまで持ちこたえてもらわねばなりません」
歩兵部隊はどれだけ耐えられるか、そして機動打撃部隊は徹底して敵を切り裂いて、敵が統制された攻撃をできない様にしなければならない。ここにすべてがかかっている。
「正に正念場と言えるでしょう。ある意味、決戦の地はここ……」
そう言って、略図の今布陣しているタバル砦前面の坂を指し示した。
「……タバル坂です」
ゆるくて地獄で食道楽なシナリオ「着ぐるみ大戦争」密かに反撃準備中です。
正月をはさみ大分遅れました。申し訳ありません。次回からはもう少し速くして挽回したいと思います。
まず通達
ジャンヌ・ド・ヴァロア
以上一名、重傷に付き、本国送還です。以後「着ぐるみ大戦争」に参加できません。
今回の総評
何というか、『変形』するって言う人、多いね。戦闘バイクに変形したり、戦闘機に変形したり、戦車に変形したり、変形しても質量は変わらないから装甲はぺらぺらだよ。
自由設定を見ていて思いますが、『自由説定』と言う物を勘違いしているんじゃないかと思う人が見受けられますね。『自由説定』はキャラクターの個性付けのためにあるわけですが、自分一人だけ都合良く武器を持ち込んだりする言い訳に使用している人がいますが、これって意味ないですよ。伺いますが仮に「核兵器を所有している」という自由設定を書いた人がいるとして核兵器ちゅど〜ん!敵全滅、ハイ勝ちました!……これって面白いですか?
変形することそのものはかまわないけどね。自由設定にそう言った都合のいい設定を作り、それに頼り切ったアクション、というのは意味ないですよ。書くのはかまわないですが、採用されるかどうかは厳しく判定されます。
そのほか光条兵器もそうですが、どこが光条兵器だ?っていうのが多いですね。大型ガトリング砲型光条兵器、ロケットランチャー型光条兵器(ネーベルヴァルファー)とか。ネーベルヴァルファー?どうやって持ちあるいているんでしょうね?要するに強力な武器を使いたいだけなんですよね。それじゃ没ですよ。
ハーレックさん、「機晶姫の重装備は使用可能ですか?」との質問ですが上記に準じます。使用は可能です。但し、アクションの内容によって変わります。それに頼っているだけのアクションなら没です。上手く使って話が面白くなるなら採用です。ただ、あれこれ取り付けると重たくなって動けなくなります。敵にAMRみたいな武器が出て来たらアウトなので重さを考えて装備はチョイスしてね。
後、申し訳ないが前回回答漏れの質問。
「アサルトカービンが購買に売っていない」……。アサルトカービンは原則、技能です。で、第3師団では歩兵は男性はアサルトライフル、女性はアサルトカービンが支給されます。これは官給品なので売れません。なので売ってもいません。
なお、アサルトカービン技能は『着ぐるみ』では射撃の他に銃剣つけて白兵戦にも使える結構美味しい技能です。
さて、訓練中の航空部隊。読んでて思ったけど、何か問題をよく読んでいないという感じ。前回も言いましたが航空部隊に関してはあまり難しい機動とかはしないつもりです。やれないことはないけれど、本気で空戦書いたら大半がついてこれなくなります。なのでちょっと捻っているだけでそれほど難しいことはしない予定です。
むしろ、プレイヤーの皆さんの方がわざわざ難しく考えている感じです。第三回のリアクションで角田が何て言っているか良く読み返してください。それと今回のアクションも良く読んで、それで皆さんで話し合ってみてください。なお、一ノ瀬さん、いいところをついています。ロープやパラシュートをつけるのはかまいません。むしろこの試験はパズルだと思ってください。
次回はいよいよ、作戦の第二段階です。上手く行けばかなりの打撃を与えることが出来るでしょう。
ではまた次回。