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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

リアクション

 各エリアは背の高い木で仕切られているが、西洋諸国をモデルとした物が多い中で、独特の雰囲気を放つ日本のエリア。空京を開発しただけあり、最近では近代的な成長を見せるが、その地に伝わる古来からの雰囲気を大切にしたそのエリアは、入ってすぐに異世界へ来たかのように他とは異なる顔を見せていた。石畳の上に敷かれた赤い毛氈は新郎新婦の待機室へと繋がっており、綾耶も準備を整えているようだ。
 そんな中、ドレスやタキシードを試着し終わった毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)は、どこか今から結婚式の見られるエリアは無い物かと歩きながら話していた。
「それにしても、どうして私までタキシードを……」
 手元にある、2枚の記念写真。1つは大佐がタキシードでプリムローズがドレスなのだが、もう1つは大佐がドレスでプリムローズがタキシード。どうして女の自分がこんな格好をと拗ねていると、大佐は笑って写真をしまう。
「我も似合わぬタキシードを着たではないか。平等でいいではないか」
 結婚式を見に行くのならと、ゲスト用のシンプルなドレスを借りてみたけれど、このエリアに来るならば着て来た服のままが良かったかもしれないなと思いつつ、空いている参列席に腰掛けた。向かいには高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が仲良く話している姿があって、同年代の人も見に来ているのに、どうして席は空いているのだろうかと大佐はぐるりとまわりを見渡す。
(……別に、見学者がいないわけでもなし。この席に何かあるのだろうか?)
 本来は新郎新婦のあとに親族が入場するので空いていて良いのだが、このエリアは模擬だと告知されていたので、座ってはいけないわけでもないだろう。不思議そうに眺めていると、プリムローズの機嫌が悪くなった。
「大佐っ! またハーレムに加える女の子を捜しているんですか?」
「しまったな、ついでにそれも確認すれば良かったか」
 そんな気はまったく無かったけれど、考えてみれば着飾った女の子が多いのだから素材が良い人もいるだろう。プリムローズが拗ねるのをからかいつつ、大佐は人間観察をしながら式が始まるのを待つのだった。
 そうして、衝立の向こうで綿帽子を被り最後の調整をしてもらっている綾耶の準備が終わるのを、某はそわそわと待っていた。自分は黒い羽織袴とシンプルな物だが、着物を初めて着る綾耶は何枚も重ね着をしたりきつく締められたりといったことに慣れていないだろうから心配でもあり、そして模擬とは言え人前で式をすることに緊張もあり……そうこうしているうちに、綾耶の準備が終わったようだ。
 白無垢を着た綾耶は見慣れた黒髪もすっぽりと綿帽子の中に纏められていて、気恥ずかしそうに俯く視線はいつにも増して純粋な女の子に見える。
「あの……いかがですか? 手伝って頂いたのですが、初めて着たので着こなしている自信はなくて」
 何の言葉もかけてもらえないことに堪えかねて綾耶が尋ねれば、某にとっては彼女の瞳がまるで今から告白されるのではないかというくらいに切なく、そしてどこかキラキラと輝いているように見えて、思わず目を逸らす。もし彼女に声をかけてもらえなければ、時間が止まったかのようにずっっと見惚れてしまっていただろう。
「あ、あぁ。よく似合ってるぞ……普通に」
 式が終われば白無垢から色打掛に着替えるのだろうし、毎回見惚れていれば頼りない印象を与えてしまうかもしれない。なにより、どんな間抜け面で見ていたのかと思うと恥ずかしくて、思わず見惚れていたなんて事は悟られないようにと番傘を取りに行って興味のないフリをしてみる。しかし、出入り口の思わぬ段差に足を取られて慌てる様に、綾耶は素っ気ない物言いは照れ隠しだったのかと安心する。
 そうして、日本庭園に番傘を相合傘のようにさした新郎新婦が登場する。待機室から神殿まで続く赤い繊毛の絨毯の上を歩幅を合わせて歩く。けれど、歩きづらいからかペースが普段より遅い綾耶を心配して横目で見れば、先程までみせてくれていた笑顔はなく、緊張してしまっているようだ。
「……そんなに緊張するなよ。ほら」
 本当は自分も緊張している。もしかしたらそれは手の熱さで伝わってしまうかもしれないけれど、番傘を持ち替えて綾耶の手を握る。すると、しだいに強張っていた手もゆるゆると握り返してくれるから、小さく聞こえたお礼の言葉が強がりじゃないことがわかり、某も落ち着いた気持ちで式に臨むのだった。
「……アメリアは、どっちが好き?」
 庭園に立てられた木造の神殿の中、明るく照らされながらも厳粛に進んで行く式は西洋式と甲乙付けがたい物で、ついアメリアならドレスと着物のどちらが似合うだろうかと考えてしまう。
「私は……決められない、かな」
 気になるものはあるけれど、それを着たいとせがんでいるようにも感じるので、アメリアは誓詞奏上をたどたどしくもこなしていく2人を見守りながら、あえてぼかすように答える。すると、テーブルの下で隠れるように芳樹が手を握ってくるので、アメリアは驚いて彼を見た。
「じゃあ、これが終わったら着てみる? アメリアの似合う物を着せてあげたいんだ……僕の、近くで」
 どういう意図があってのことなのかは、聞き返さなくたってわかる。今までのんびりと距離を詰めてきた2人だけれど、どちらからともなく踏み出してみたいと思ってた。
 それでも、今はお祝いの席にいるのだから何も答えられない。アメリアは少しはにかんで、また主役の2人に視線を戻した。けれど、机の下ではずっと手を握り合ったまま――で、過ごせると思ったのだが。
「それでは列席者の皆様、親族固めの盃をお願い致します」
 本来は新郎新婦の結婚により新しく親族となる絆を深めるために盃を酌み交わすのだが、今回は模擬ということで列席者にその役目が回ってきた。だからあまり人が近寄らなかったのかと大佐は盃を眺めるが、どうやら模擬であることに加えモデルが未成年なので御神酒ではなく水がふるまわれているようだ。
 そうして6人は盃を酌み交わす。学校がバラバラなので、次に会える機会などわからないけれど、そのときも隣には変わらず大切な人がいてくれればいいなとお互いの絆が深くなるように願うのだった。
 そうして順調に式は終わり、あとは退場して披露宴と気軽な場に変わる。そんな油断からか、綾耶はうっかり足をくじいてしまったようだ。
「だ、大丈夫か!? ……じっとしてろよ」
 急に歩き方の変わった彼女の異変にいち早く気付き、某は軽々と持ち上げる。白無垢を着ている彼女は横抱きの所謂お姫様だっこをすることでしか運べず、ただでさえモデルだったということで注目を集める自分がそんな格好になっているということが恥ずかしかった。
「すみません、傘をお借りできますか?」
 近くにいたスタッフに、周りの視線が気になる綾耶を隠してもらい、これならばと安堵の息を吐く。しかし、端から見ればそんな風に寄り添う2人は口づけしているようにしか見えず、それに気付いてしまった綾耶は嬉しいながらも早く下ろして欲しいと切実に願うのだった。