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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 
「なんていうか……めげないタイプね」
 李 梅琳(り・めいりん)はデートに誘ってきた橘 カオル(たちばな・かおる)に苦笑混じりに言った。
 お正月の時にはわりと冷たい態度だった気もするのだが、カオルはめげずに梅琳をバレンタインデートに誘ったのだ。
「だってせっかく初デートできるって機会だし! 見逃す手はないよなー」
 明るく笑うカオルに、梅琳はふっと表情を緩めた。
「それで、どこに行くの?」
「あ、その前に」
 カオルは梅琳にチョコを差し出した。
 小ぶりの入れ物に入ったちょっと高めのいいチョコだ。
「逆チョコってやつだな」
 差し出されたチョコを梅琳は意外と素直に受け取った。
「せっかくだからもらっておくわね」
「うん、せっかくだからもらっておいて」
 カオルは梅琳に合わせてそう答え、ショッピングのために駅前から街へ移動した。

「私服も可愛いじゃん。教導団の外で会うのもいいもんだよなー」
 自分自身もカジュアルにきめたカオルが笑うと、梅琳は肩を竦めた。
「そうはいっても私服を着る機会ってあんまりないのよね。最近は忙しくなってきたし」
「そうなのかー。着る機会がないなら、作ってあげるよ。また、ホワイトデーに出かけるのでも、花見に行くのでも、海に行くのでも!」
「……元気ね」 
「だってせっかく可愛いし」
「可愛いとかそんなタイプじゃないと思うけど?」
 梅琳の問いかけを、カオルは全面否定した。
「そんなことないって。強い女好きだぜ。守ってやりたいって思うし。それに、ロング髪っていいよな。かわいいよなー」
 流れるような梅琳の髪にカオルが触れると、梅琳は少し照れて一歩引いた。
「勝手に触らないの」
「えー」
 一応口先では不満を漏らしてみたものの、女の子の嫌がることをする気はないので、カオルはあっさりと手を離した。
「さて、そろそろ昼だし何か食べようか。梅琳は何がいい? 中華?」
「中華はいつもそうだから飽きたわ」
「それじゃイタリアンにしようか」
 カオルはそう決め、一緒に店に入った。

「へえ、梅琳の趣味ってクロスワードパズルなんだ」
 食事を食べ終え、お茶を飲みながら、カオルは目を丸くした。
「好きな食べ物がシュウマイだったり……梅琳、割と地味?」
「派手なタイプな覚えもないわね。休日はエレーネに付き合って片づけしてたりだし」 
「じゃあ、割と引きこもりなんだなあ。よし、それじゃ今日は夜まで遊ぼうぜ」
「夜までってどこに行くのよ」
「今日はバレンタインだから、公園がライトアップしてるんだよ。行こうぜ」
 カオルはレジでお金を払い、梅琳の手を引いて、公園に向かった。

 公園に着くと、二人はひとしきり歩き、ライトアップを見て回った。
「結構、面白いものね」
 ライトアップやイルミネーションを見て、梅琳が楽しんでくれたことに、カオルは喜んだが、同時に緊張していた。
 帰り際に、梅琳におやすみのキスをしようと思っていたからだ。
 だが、別れ際に、さよならとありがとうを言って、唇を近づけようとすると……それが何かによって阻まれた。
「ふが、うが?(なに、これ?)」
「チョコよ。渡すタイミングを逸してたの」
 梅琳はカオルにチョコを用意していたのだ。
 空京のデパートで売っていたパッケージの可愛いチョコだ。
「ありがとう! ところで……」
「なに?」
「キスしちゃダメ?」
 カオルの強引な態度に、梅琳は少し悩み……。
「額ならね」
 と答えた。
「了解」
 カオルは笑顔を浮かべ、梅琳の額にキスし、ぎゅっと抱きしめた。
「おやすみ」
 最後に耳元でそう囁き、カオルは梅琳から手を離して、彼女が帰る姿を見送ったのだった。