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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

リアクション

 拠点である校舎を壊されてしまった姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、撤退を決めた。あてはないのだが。
 曹操、劉備、孫権に逃げるように伝え、戦ってくれた仲間達にもどこでもいいから逃げ切るようにと先に行かせる。
 和希は殿をつとめる。最初から決めていたことだ。
 そこでふと、戦いが始まる前に助けを求めてきた者のことを思い出した。
「捕まったら何されるかわかんねぇな」
 生徒会の一番の目的は賞金首だが、他の者に手を出さないとは限らない。
 和希は奴隷だったという少女のもとへ走った。
ティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)といったな。逃げるぞ」
「あ……お礼……。親切に、してくれたお礼……。逃げて。私が、引き付けますから……」
 弱々しく言うと、ティアは光条兵器を出現させる。赤黒く光る略式元帥杖だ。
 和希は目を丸くした。
「剣の花嫁だったのか……。でも、ダメだ。俺と行くんだ」
 ティアの腕を引いて立たせた時、彼女の目がある一点を見て恐怖に見開かれた。
 気づいた和希がそちらを見ると、そこにいたのはメニエス・レイン(めにえす・れいん)にいつも護衛として付き従っているミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)だった。
 まだ距離はあるが、二人はじっとティアを見ていた。メニエスの口元には酷薄な笑みが浮かんでいる。
「ここにいたのね。探したわよ」
 ティアの肩が小さく跳ねた。
 和希はティアが誰のもとから逃げてきたかを察して、かばうように立ちふさがった。
「あんまりひでぇことすんなよ」
「それはお優しいことで」
 メニエスの笑みがいっそう深くなった時だ。
 和希の体を何かが貫いた。
 胸から突き出る赤黒く光るもの。鋭い先端。
 さっき見たばかりの光条兵器。
「おまえ……」
「ご、ご、ごめんなさい……ごめんなさい。でも……こうしないと、ご主人様に、お、お仕置きされちゃうから……っ」
 震えながらティアが言った直後、彼女を殴り飛ばした者がいた。
「はい、回収終わりっ。おねーちゃん、もう帰る?」
 離れたところで暴れていたロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)だった。ティアをサンドバッグくらいにしか思っていない彼女は、手っ取り早く殴って気絶させたのだ。
 ティアの意識がなくなったことで、和希を貫いていた杖が消えた。
 とたん、胸から血があふれだし、和希は底知れない寒気を感じながら暗闇に落ちていった。
 ティアを引きずるロザリアスにメニエスがわずかに顔を歪める。
「やり過ぎないようにね。一応あたしの契約者だから」
「はーい」
 万が一死んでしまったり、取り返しのつかない怪我でも負えば、それはメニエスにも返ってくるのだ。
 ロザリアスはもう片方の手に和希を掴むと、引き返すメニエスを追った。
 帰り道、メニエスは分校を徹底的に破壊していった。
 向かってくる者はほとんどいなかった。和希が撤退命令を出していたからだ。

 生徒会側は一気にたたみかけた。
 その中にはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)も加わっていた。
 この時、パラ実生徒会は青木とガイアにはまったくかまわなかった。
 負けた者は不要。
 という意味だ。

卍卍卍


 金剛へ帰還途中、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)から連絡を受けた斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は、その内容に顔をしかめた。
「……なるほど。そんなに甘くはなかったわけだ。今、どこにいる? ……そうか。すぐ行く」
 ルカルカが気づいたゆる族部隊への注意の伝達を妨害したのは邦彦の功績だが、その後の数人の賞金首の通報への報酬はないとのことだった。
 通報により賞金首が捕まった場合にのみ支払う。
 ということだった。
 すでに戦闘が始まっていて、分校に賞金首がいることはわかっていることだったためだ。
 邦彦はすっきりしない気分だったが、ここで文句を言ったところで逆に捕まりかねない。
 彼は少しずつ列の後ろに下がっていき、頃合を見計らってそこから離れ、待っているだろうネルのもとへ向かった。

 一方こちらはドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)
 彼女は列の中心部にいたため、こっそり抜け出す隙を見つけることはできなかった。
 このまま行くしかないと諦めたドルチェは、どこか安全なところにいるだろうアンジェラ・エル・ディアブロ(あんじぇら・えるでぃあぶろ)へメールを送った。
 内容は突撃前に聞いたパラ実生徒会のことだ。
 それを、ミツエに伝えるよう素早く打ち込んで送信した。
 少しして返ってきたメールには、ミツエの三人の英霊は無事に逃げたと書かれてあった。