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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第2回/全6回)

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 喫茶店のキッチンでは手伝いに訪れた者達が分校生と一緒に食事の準備やお菓子作りを行っていた。
「お、やってるね」
 材料を持って訪れた和原 樹(なぎはら・いつき)は知り合いの姿に笑みを浮かべた。
「ちーっす」
「俺等も今きたとこ」
 ルリマーレン家の別荘で働いている元不良の中には、この神楽崎分校に通っている者もいる。
 色々あったが、今では不良達と樹は仲の良い友達同然になっていた。
 樹達は彼らとここで待ち合わせて、クッキー作りを行おうと約束していたのだ。
「樹兄さんのお友達? 私とははじめましてね」
 樹の後ろから、小さな少女が顔を出す。
「私はショコラッテ。フォル兄と樹兄さんの娘なの。よろしく」
 その子――ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が可愛らしく頭を下げる。
「娘?」
 リーゼントの少年が訝しげな目を向ける。
「……いや、娘じゃないから。俺産んでないし、産めないし」
「うむ。ショコラッテは我らの娘だ。そして樹は我の伴侶だ」
 樹と同時に言葉を返したのは樹のパートナー、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)だ。
「伴侶って今言うと意味違ってくるだろ! ややこしいから黙ってろあんたはっ」
 樹はフォルクスをぐいぐいと隅へと押しやる。
「…確かに、樹兄さんから産まれてはいないの」
 ショコラッテは寂しそうな目をする。
「ん? ってことは代理出産?」
「そこ、変な勘違いするなよっ。そういうのないから!」
 びしっと樹は代理出産などと言ったリーゼントの少年を指差した。
「……いや、我が産んだ訳でもないぞ。疑惑の目で見るな」
 不良達の訝しげな眼差しを受けて、フォルクスは苦笑いする。自業自得だ。
「相変わらず変な人達」
 くすくす笑いながら現れたのは、ここの農家の四女だ。シアルという名前らしい。母親に似て、気が強そうな少女だった。
「何か必要なものあったら、言ってね。代理母は用意できないけど」
「そ、それは要らないっ」
 樹は大声で言った後、苦笑しながら言葉を続ける。
「必要なものは全部持ってきたから大丈夫。ここは俺達に任せて、シアルさんはご家族とお家で待っててよ」
 そして「ね?」と元不良達に目を向けると、元不良達が首を縦に振る。
「ん。楽しみにしてるね〜。ホールの方も見てこよっと」
 笑顔を残して、シアルはキッチンから消えていく。
「それじゃ、作ろうか。彼女や農家の方々にも喜んでもらえるようにね」
「ういーす」
「ちまちましたモンはちっと苦手だがな〜」
 元不良達が器具を用意していく。
「貯蔵庫にある果物は好きに使っていいそうだが、細かく刻んで生地に混ぜるか、焼く時に乗せれば彩りにもなるだろう」
 言って、フォルクスは果物を元不良達に手渡していく。
「あたしはホワイトシチュー作るね」
 百合園女学院の制服の上に、エプロンをつけた後、遠鳴 真希(とおなり・まき)は材料を取り出していく。
「作りたてのお料理、食べてもらいたいしねっ」
 えへへっと笑って、材料と器具、喉が渇いたときに飲む飲み水を用意して、真希は取り出した材料を包丁で切っていく。
「っと」
 包丁を使っていた真希の肘が、パートナーのユズィリスティラクス・エグザドフォルモラス(ゆずぃりすてぃらくす・えぐざどふぉるもらす)に当たった。
 ユズは覗き込んでいるだけで手伝う気はないようだった。
「もー、手伝わないならあっちで待っててっ。危ないし」
 包丁を離して、真希はユズを客席の方へと押しやった。
「あたしも作るよー!」
 元気いっぱい現れたのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。友人の綾のことも気になってはいたけれど、綾の護衛につく人が多そうであることと、自分が心配ばかりしていたら綾も落ち着かないだろうと思って、ミルディアは自分の得意とすることを行うことにした。
「みるでぃ〜、りょ〜りつくんの〜? つくんの〜?」
 ミルディアが準備を始める様子にイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)は目を輝かせる。
「気合入れて作るよー!」
「んとんと、いしゅたん、てーぶるふいて、まってる〜♪」
 料理の手伝いは出来そうもなかったので、イシュタンは手を伸ばして布巾を取って、ぱたぱたと客席の方に向っていくのだった。

 数時間後、すっかり準備が整った頃に、少し送れて百合園生達を乗せた馬車が到着する。
「うおおおおおおー!」
「ひめー。われらが姫達の到着じゃーーーー!」
 歓声を上げて旗を振る男子生徒の姿に圭一は苦笑しながら、彼等が不用意に近づかないよう目を光らせておく。
「こっちにどうぞ!」
 圭一のパートナーの竹芝 千佳(たけしば・ちか)が、馬車から降りた百合園生達を喫茶店の方へ案内する。
「ホールの方の準備は大体出来てるんだけど、百合園のみんなにも準備あるよね。この喫茶店は準備室ということで、客席は女の人だけで、奥のスタッフルームは付き添いや御者の男の人に使ってもらえるように準備しておいたよ」
「ありがとうございます。キッチンも少しお借りできますか?」
 エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)がパートナーのルミ・クッカ(るみ・くっか)ラビ・ラビ(らび・らび)と共に、大きな袋を抱えて下りてくる。
「うん、使えるよ〜」
「それじゃお借りしますね」
「お世話になります」
 エルシーとルミが軽く頭を下げる。カセットコンロも用意してあるが、最初に配る分はキッチンで温めさせてもらうことにした。

「ごきげんよう団長様ぁ。可愛い妹がいらっしゃるという事で挨拶しにまいりましたわぁ」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、馬車のドアの前で、スカートの端を持ってなれない挨拶をする。
 その馬車には、校長と白百合団団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)、それから彼女のパートナー達が乗っていた。
「……」
 パートナーの南西風 こち(やまじ・こち)も、リナリエッタに合わせて、鈴子にお辞儀をする。
「ごきげんよう」
 執事と一緒に下りてきたミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)、鈴子の後ろに隠れているライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)にもリナリエッタは挨拶をする。
「ごきげんよう、リナリエッタお姉さま」
「ご、ごきげん、よう」
 ミルミは可愛らしく挨拶を返し、ライナは戸惑いながら挨拶の言葉を返してくる。
 2人に微笑んだ後、リナリエッタは鈴子に目を向けた。
「団長様も色々と大変でしょぉ? お昼の間、私暇だから二人と遊びたいなぁって。勿論人のいるところですわぁ」
「それは助かります。でもなんとなくリナリエッタさんにお任せしたら、変なことを教えられそうですわ」
「そんなぁ、団長様は私のことを、誤解してらっしゃいますぅ」
 悲しげな目でリナリエッタが言うと、鈴子は軽く笑みを浮かべた。
「冗談ですわ。ルリマーレン家の執事の方もご一緒ですから、羽目を外すことはないでしょうし。是非一緒に遊んであげてください。とても助かります」
「よろこんでぇ」
「ミルミ達ね、チョコレートのラッピングしたいの!」
「したいの」
 ミルミとライナの言葉にリナリエッタは喫茶店の方を指差した。
「百合園生達はあそこに集まって準備してるのよぅ。一緒に行こうねぇ」
 といって、リナリエッタはミルミの手を引き、ミルミはライナと手を繋いで歩き出す。
「……」
 その後ろから、こちがじっと3人を見つめながらついていく……。

「あまい〜、あまい〜、チョコレート。くだいて、とかして、ハート型」
「あまーい、あまい〜、ちょこれーとぉ、うふはっ」
 嬉しそうな笑い声を上げて、ハーフフェアリーの少女サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)を見上げた。
「みんなに伝えたい〜、想いといっしょにラッピング〜」
「らっぴんぐっ♪」
 歌を歌いながら、ヴァーナーとサリスは、仲良くチョコレートをラッピングしていく。
「みんな〜、よろこんでくれるかな〜♪」
「くれるといいね〜♪」
 ミンストレルの2人の可愛らしい声が喫茶店の中に響き渡っていく。
「あまいあまいチョコレート♪」
「らっぴんぐーっ♪」
 一緒になって歌いだしたのは、ミルミとライナだ。
 4人で顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
「ふくろにならないといいなー。おいしくなかったり、まちがえてるとふくろにされちゃうかもしれないんだって」
 だけれど、ライナはちょっと不安気な顔だった。
「パラ実でフクロと言えば種モミ袋ですわね」
 声をかけてきたのは、ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)だ。
「つまり種モミをお腹いっぱいに詰め込まれるか、もしくは種モミ袋に詰め込まれて攫われると言う事ですわ」
「えーっ」
 眉を寄せて見上げるライナに、ミルミは頷いてみせる。
「パラ実の人は怖いからね! でも、ミルミが見てたけど間違いとかなかったから大丈夫だよ」
「う、うんっ、もしもの時も鈴子お姉ちゃんが助けてくれるよね?」
「もちろん。鈴子ちゃんつぉいからね! 鬼副団長の倍くらい〜! おっと、優子お姉様のこと鬼とか言ったらダメだよ。ミルミが言ったとか言わないでね」
「うんっ」
 ライナは首を大きく縦に振った。
「そ、そろそろ、最後の馬車――校長せんせ達も到着しはる頃どすなぁ」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)はチョコレートを混ぜながらそわそわしている。
 ドアにつけられている鈴の音が響いた途端、エリスはキッチンから飛び出してカウンターへと出た。
「皆、早速準備してるんだ」
 静香と静香の護衛についている者達が喫茶店へと入ってくる。
「こ、ここここ、これ、こここここ、校長せんせの為に気張って作ったんどふえっ」
 舌を噛んで、血を流しながらエリスはチョコレートの入ったボールを静香に勢い良く突き出す。
 ヘラが飛んで、静香の顔を掠めた。
「うわっ、あ、ありがとう」
 静香は驚きの表情を浮かべながらも、エリスに礼を言うのだった。
「あ〜ら、あなたチョコが付いていましてよ」
 すっと近づいたティアが手を伸ばす……と思いきや、静香の頬に口を寄せて、頬についていたチョコレートを舐めた。
「うわっ」
「きゃー」
「あわわわ、し、静香さまになんてことをするんですかっ!」
「抜け駆けは禁止です!」
 静香よりも取り巻いていた百合園生達が目くじらを立てて怒り出す。
「ふふ、貴女もこのチョコと同じ位美味しいのかしら?」
 少女達の反応を心地よく感じながら、ティアはキッチンへと戻っていく。
「な、こ、校長せんせに、な、ななななにしはるんーーーー!!」
 正気に戻ったエリスも抗議の為にティアの後を追っていく。
「だからチョコレートなど作るべきではございません」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は騒がしいパートナー達の様子を尻目に、喫茶店を出てホールに向おうとする者達にお守りを渡していく。
 出かけにチョコレートを試食してみたのだが、強い甘さと刺激は濃い味に慣れていない壹與比売には合わないようで、まだ舌がぴりぴりとしている。なので、パーティにも参加はせず、ここでのんびりしているつもりだった。
「かつていくさばに赴く者達にはこうして吉兆を占い無事の帰還を約束したのでございますよ」
 そう言って、鬼道式の古い占いをして百合園生達を送り出していくのだった。