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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

リアクション

 副会長宛にピザが届いた。
 見張りに立っていたパラ実生は生徒会長のおやつだろうと思った。
「お代をまだもらってないんで、入れてもらっていいっスか?」
「部屋はわかるか?」
「大丈夫っス」
「失礼のないようにな」
「はーい。あ、おにーさんも良かったら注文待ってますんで。ナラカ直行でおなじみの宅配ピザ・ラヴピースです」
「ははは、強そうな名前じゃねーか」
 宅配ピザ業者に変装したサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は、すんなり中に入ることができた。
 途中、何人かに何者かと問われたが、そのたびに同じように返し艦内を進んでいく。
 アンジェラからの情報をもとに、ロッカールーム近辺の通路に滑り込むと最初のドアを開け、中に誰もいないことを確認すると素早く入り込んだ。
「ここは、物置きみたいっスね」
 ほとんど使われていないのだろう。埃っぽいにおいが鼻をつく。
 サレンは変装をといて動きやすい格好になると、軽く柔軟体操をした。
「さぁ、やるっスよ〜」

 ドッカーン!

 と、爆発音が響いたのはその少し後だった。

「何だ、今の音は?」
 セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)を連れて艦内警備に当たっていたイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は音のしたほうを振り向いた。
 セルウィーもそちらを見るが、二人の目には特に異変らしいものは映らない。
 さして広くない通路を歩いていたパラ実生も、不審そうな顔で立ち止まっている。
「物置のあるほうだったな」
 鷹山剛次より艦内警備を任されてから、内部の構造把握のために歩いていたイーオンは頭の中に見取り図を描いた。
 セルウィーも頷いている。
 ざわつき始めた周囲に、
「持ち場を離れずにいろ」
 と、言い残しイーオンとセルウィーは音のしたほうへ向かった。
 足早に進みながらイーオンはある予想をしていた。
 乙軍の侵入者ではないか、と。
 イーオン以外にもミツエに見切りをつけて生徒会に与した者がいるが、その者達かあるいは何らかの方法で艦内に入り込んだ何者か、か。
 進むにつれて騒ぎが大きくなっている。
 火は出ていないようだが、もうもうと粉塵が立ち込めていてイーオンは吸い込まないように口元を覆った。
「あっちへ行ったぞ!」
「追いかけろ!」
 パラ実生達の怒鳴り声と指し示す方向を知ると、イーオンは踵を返し走り出した。
 先回りである。
 そうして、あの場の騒ぎなど知らない通路を駆け抜けた先で鉢会ったのは、サレンだった。
 サレンはイーオンが敵か味方か図りかね、戸惑うように身構えた。
 そんな彼女にイーオンはニヤリとして尋ねる。
「収容所か? それとも火薬庫か?」
「……壊せるものなら何でもっス」
「こっちだ。──セルウィー」
「イエス、マイロード」
 全て心得ている、というふうに応じたセルウィーに満足そうに頷くと、イーオンはサレンを火薬庫へ導いた。
 イーオンが見回った限りでは火薬庫近辺の守りは堅かったので、もしかしたらそこの爆破はできないかもしれないが、人を集めることはできるだろう。そうすれば捕虜を助けに来る者の負担が減るはずだ。
 イーオンの後を走りながら、サレンは彼が文化祭で宝くじを売っていた人だったことを思い出していた。

 騒ぎは水橋 エリス(みずばし・えりす)も気がついた。
 敗戦続きのミツエに見切りをつけた、と言って迎えられた金剛で主に侵入者への警戒を行っていたエリス。
「始まりましたね」
 と、口角を上げる。
 エリスの周りをちょこちょこついて歩いていたニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)が、ワクワクと瞳を輝かせる。
 一方、夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)は外で生徒会軍と戦う乙軍の気配にため息をつく。
 それを見たリッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)が、さらにため息をついた。
 リッシュは、エリスに聞こえないように夏候惇に囁く。
「また曹操のこと考えてたのか? 曹操曹操ばっかり言ってないで、たまにはマスターのことも気にかけていかないと、相手されてないとマスター拗ねるぜ?」
 ふと、現実に返ったように顔を上げる夏候惇。
 リッシュは彼女の背をやや強めに叩いた。
 エリスは夏候惇に何も言わないが、そのことに甘えていたことに気づかされた。
 今の主をないがしろにしてはいけない、と夏候惇は気持ちを改めて剣を握り締めエリスのもとへ寄った。
 そんな気持ちの変化を知ってか知らずか、エリスはいつも通りに夏候惇、リッシュ、ニーナを見渡すと、船内の喧騒について指摘しそれに便乗することを告げた。
「何でもいいのです。徹底的に破壊しましょう。もしかしたら人質を取られて動けない皆さんにも変化があるかもしれませんから」
「ぜーんぶ燃やしちゃうよ!」
 飛び跳ねてエンシャントワンドを振り回すニーナ。
 リッシュも薙刀の柄を一撫でして好戦的な笑みをこぼす。
「主の身は私がお守りする」
「元譲さんが守ってくださるなら安心ですね。では、参りましょう」

 その後、四人はサレン、イーオン、セルウィーと会い、情報交換した後にまた別れて艦内で戦いはじめるのだった。