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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

リアクション

 フォーメーション・愛の成否を見守るミツエの耳に、孫権の素っ頓狂な声が響いた。
「ミツエ! これ、これ見ろよ!」
「ちょっ、何なの?」
 目の前にケータイを突き出す孫権の手を、ミツエはうっとうしそうに押しのけながら、画面をちらりと見た。
 そこに映っていたのは、まさに今のこの戦いで。
 ミツエは表情を険しくさせて孫権の手からケータイをむしり取った。
 乙軍+黄巾賊が生徒会軍に攻撃を仕掛けている様子、かなり遠くから撮ったと思われる乙軍側の他校生参戦者。問題はその画像のタイトルと投稿文だった。
 タイトルは『テロリスト横山ミツエと仲間達がパラ実生徒会を襲撃』。
「横山ミツエがパラ実生徒会を襲撃するというテロ行為を行っている。その中には他校生も混じっているようだ……何なのこれは! いったい誰が?」
 ここからやや離れたところで、葛葉 明(くずのは・めい)が前回曹操が来なかったせいで生徒会の襲撃により怪我をしたことを恨んで流した記事なのだが、ミツエが知る由もなかった。
 ミツエと生徒会の戦いのことは他校の校長方も知っているが、今まで一切の干渉はなかったし、彼らも自校の問題で手一杯でそれどころではなかった。
 しかし、こんなふうに書かれてはいつ動き出すか知れない。
 憤るミツエを落ち着かせるように、ひながそっと抱き寄せた。
「大丈夫ですよミツエさん。少なくとも私はどこよりもミツエ軍に助力する気です。なので、今後も傍に置いてくださいね」
「ひな……」
 ひなは蒼空学園の生徒だ。
 他、イリーナはシャンバラ教導団の団員だし、捕虜の中にも他校生はいる。
 と、そこにアンジェラ・エル・ディアブロ(あんじぇら・えるでぃあぶろ)のケータイにドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)からの連絡が入った。
「捕虜の一人が人質に取られたらしいわ」
 静かに告げられた内容に、ミツエ達に戦慄が走った。
「脱獄防止か」
 孫権が唸る。
 これで、ただで捕まっているわけがない彼らの内側からの混乱は期待できなくなってしまった。
 レロシャンのフォーメーション・愛にミツエ自身も加わるべきかと思った時、
「それを利用してやろうではないか」
 と、二メートルの巨体を揺らしてドラゴニュートが加わってきた。ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)だ。
「生徒会は卑怯にも守るべき生徒を盾にしている、とな。ちょうどガートルードらが仲間集めに行っている。説得の材料にしてやろう」
 ガイウスはケータイを手に取ると、このことをガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)に知らせた。

 シャンバラ大荒野のとある村を訪れていたガートルードのもとにその知らせが届くと、村長と話し合い中の週刊少年漫画誌 友情努力勝利の書(しゅうかんしょうねんまんがし・ゆうじょうどりょくしょうりのしょ)、通称WJのもとへ赴き内容を告げた。
「……なあ、その越後屋の奴に何を言われたか知らないけど、生徒会の奴らは庇護するべき生徒を人質にするような横暴な奴らなんだよ。生徒会に逆らわないなら安全を約束するって態度を示されても、そこに自由はない。それでもいいのか?」
「……っ」
 村長の脳裏にサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)の紳士な態度と鋭い瞳がよみがえった。
 深い闇を感じさせる彼と、目の前の真っ直ぐな心を示す彼と、どちらを選べばいいのか。
 反生徒会勢に加わればいつか生徒会から報復を受けるだろう。だがそれは、WJの言うとおり永遠の隷属を意味している。
 悩む村長の前に、ガートルードと入れ替わりにやって来たシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が言った。
「村の存亡に関わることじゃけぇ、ゆっくり考え。だがのぅ、パラ実のあるべき姿についても村人皆で話し合ってくれんかのぅ。キマク家が勝手に支配している現状についてな……」
 シルヴェスターはWJを促し、話し合いの部屋から出て行った。
 外で待っていたガートルードは、WJの様子からこの村の結論は保留になったことを知った。
「オラの説明が悪いから……」
「そうではありませんよ。これを御覧なさい。バーンハートから追加で送られてきた記事です。もしかしたら、村長はこれをご存知だったのかもしれませんね」
 それは、ミツエをテロリストに仕立て上げた例の記事だった。
 シルヴェスターが腕組みして小さく唸った。
「わしと親分もまだ賞金が懸けられとるはずじゃ。これまで通り交渉はWJに任せて、わしらは目立たぬようにせんとな。なぁに、味方になってくれた村もあるんじゃ、悲観的になったら負けじゃあ」
 元気付けるように背を叩かれたWJは、それもそうだと気持ちを切り替えた。
 ふと、ガートルードは乙軍から出発する前に面談したガイア残虐憲兵青木のことを思い出した。
「二人はどんな結論を出したでしょうか……」


 起きて動けるくらいには回復したガイアは、まだ戦いに出ることはできないが村人の手伝いはしていた。
 そして思い出したようにケータイを手にすると、ガートルードへとメールを送る。
『俺の気持ちはもう生徒会から離れている。だが、今の体では貴様らの足手まといになろう。しばらくは村のために働こうと思う。青木はあの後生徒会軍へすっ飛んでいったぜ。奴らに無視されたのがそうとう気に入らないようだったが……あいつはまともじゃねぇ。トチ狂った行動に出なけりゃいいがな』
 メッセージを送信し、ケータイを閉じる。
 そして戦闘音の響いてくる方角へ目を向けた。
 その頃、ミツエのもとにドルチェから新たな情報が入ってきていた。
 人質に取られたのはギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)だということだ。
 孫権は彼女を知っていた。
 すると、そこに取り乱した感じでホワイト・カラー(ほわいと・からー)が駆け込んできた。
「あのっ、私はホワイト・カラーと言いますっ。エルとはパートナーでギルガメシュ様にも良くしていただいていて……っ」
 孫権は息を呑んでホワイトを見つめた。
「私も連れてってください、必ずお役に立ちますから!」
「──わかった。レロシャンとネノノが作戦を成功させたら一気に突っ込むぞ。そういうわけだからミツエ、俺は金剛に行くぜ」
「全員しっかり連れ戻してくるのよ!」
 人質になっているので突入後の問題もあるが、弱気にならないためにも悪いことは口に出さないでおいた。
 しかし。
「孫権、和希のことだが、俺達はもう覚悟はできている。皆を助け出すのに邪魔だと思ったら躊躇わず切り捨ててくれてかまわない」
「孫権、和希が駄々をこねたらぶん殴ってでも連れて帰るのよ。死んだら砕音先生が悲しむってね」
 孫権がガイウスに言い返す前にミツエが強く言った。
 ここで砕音の名を出すのは卑怯だが、ミツエは気にしなかった。
「この分校はどうするつもりなのかとか、痛いところを突くのよ」
「……」
 もう少し言い方があるだろう、と孫権は思ったがミツエにやわらかい言い方を求めても無駄なので黙っていることにした。
 それから孫権とホワイトは配下を率いて突入の時を待った。