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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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「救護品はどの程度必要になるのかはまだわかりませんけれど、ガーゼやちり紙は大量に用意しておいた方がよさそうですね」
「後は毛布が足りないみたいだね。隙間を塞ぐのに使ってるみたいだから」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、先遣隊からの電話での報告を元に、引き続き必要な物資のリストアップを行っていた。
 今回は消耗品のリストアップも行っておく。現段階でどの程度減っているのかが、今後の必要量の目安となるだろう。
「先遣隊から一度ソフィアさんに資料の受け取りに来てほしいと要請が出ておるようじゃ」
 ナナ達の元に、エレンの補佐をしているフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が近づく。
「あまり負担をかけると、次の転送が遅れてしまうやもしれんからの。そう大量には運べんじゃろうが、何か先に送っておいた方が良いものがあるようじゃったら、まとめておいてくれ」
「わかりました。食料を優先に、清潔なタオルや衣服も持っていってもらえたらと思います」
 ナナは早速、先に転送用する物資を選び始める。
「わらわからは、小型発電機と、高性能の指向性発信器もヴァイシャリー家に依頼しておいた。軍が持ってきてくれるようじゃ」
「それは助かるね」
 ズィーベンはリストの中から電池類の数を少しだけ減らす。
「スキルの代替となるような物品も必要ですよね。氷術と炎術で水を作っているようですし」
 光精の指輪など、精神力も燃料も使わない貴重なアイテムも出来るだけ用意しようと、ナナはリストに書き記していく。
「あとは、百合園の人に寄せ書きでもしてもらう? 向こうは緊迫した状況が続いてるだろうし、ちょっとした心の安らぎも必要だと思うんだけど」
 そうズィーベンが言うと、ナナは微笑んで頷いた。
「皆喜ぶと思います」
「それじゃ、会議室の入り口に色紙……を買いに行く時間はもったいないから、ノートを置いておこう!」
 ズィーベンはノートを一冊手に取ると、寄せ書き用と表紙に書いて、会議室の入り口に説明書きと共に、置いておくのだった。
「荷物は、私が1人で持てる分くらいでお願いします。木材も少し持っていきましょうか。帰りは、帰還を望まれる方がいましたら、連れて戻ると思います」
 ソフィア・フリークスもナナに近づいて、意見を出していく。
「資料を色々調べてるんだけどさ」
 本部内でソフィアのサポートをしているアトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)が、分厚い歴史書を手にソフィアに問いかけていく。
「離宮のことも、殆ど乗ってないし。どうも情報が錯綜してるみたいなんだよ。たぶん古代王国が滅んだとき、女王が姿を隠した後で誰かが情報操作をしたんだろうってエレンが言ってたんだけど」
「はい……」
「まず女王がどんな人物だったのか、何をしてきたかの功績とかでなく個人としてどんな人だったか、思い出して話してくれないかな。日常ではどんな人だったの?」
「女王、ですか……」
 ソフィアは考えを巡らせるが、首を横に振った。
「直ぐには思い出せません……。それから、女王に使えていた騎士は騎士の橋に刻まれている数十人だけではなく、人数はかなりいたと思います。私も多分側仕えというほど近くにいたわけではありませんし、日常のことまでは当時も知らなかったかもしれません」
 神妙な口調でソフィアはアトラにそう答えた。
「男性用の登山用リュックですけれど、背負えますか?」
 ナナが用意したリュックサックを抱えて、ソフィアの背に近づいた。
 ソフィアが手を通して、背負ってみる。
「大丈夫です。荷物を詰め終わり、連絡が来次第向いますね」
 ……その数十分後、神楽崎優子からアレナ・ミセファヌスに連絡が入り、ソフィアは荷物を持って離宮に向ったのだった。

○    ○    ○    ○


 ソフィアが地上を離れていたのは、僅か数時間だった。
 本隊より先に行きたいと同行を申し出たものもいたが、既に先遣隊としては十分すぎる人数が離宮に向っているため、行きは一人で向かい、帰りは、百合園生を中心とした数人の契約者を連れて戻った。
 常に闇の中という過酷な環境に耐えられなくなった者と、体調を崩した者のうち、特に重症な者だけだ。
 他にも、気分が優れない者も出ていた為、近いうちにまた迎えにいく必要がありそうだった。
「ソフィアさんテレポートお疲れ様でしたー☆ 色々労わりグッズを準備してあるよー!」
 戻ったソフィアの元に、真っ先に駆けつけたのは、真菜華だった。
 百合園女学院の応接室にソフィアを導いて、真菜華は柔らかなスリッパに、柔らかなクッション、温かなお茶に、甘いお菓子を薦めていく。
 護衛についている白百合団員達は出入り口の前に立っている。
「お茶ですよー、って言ってもマナカ緑茶しか入れられないからこれ緑茶なんだけど、わかる? ニホンで作ってるお茶なのー。湯飲みはどれでも好きなの使ってね」
 何も入っていないことを示すために、真菜華は空の湯飲みを沢山乗せた盆をソフィアに差し出した。
「はい。この学院で何度かいただきましたから」
 その中から、シンプルな絵柄の湯飲みをソフィアは手にとり、その中に真菜華は急須で緑茶を入れていく。
「美味しい」
 と言って、息をつくソフィアは――何だか、疲れているようで。
 真菜華としては複雑な思いだった。
 疑うとか、探るとかは、あまり深いことを考えない真菜華には出来なかった。
 ソフィアの世話をすることを認めてもらうにあたり、真菜華はいくつかラズィーヤに条件を出されている。
 ソフィアに怪しんでいることを言わないこと。それからラズィーヤの名前を出さないこと。あくまで、神楽崎優子の指示で、世話を任されたとしておくこと。
 何故言ったらダメなのかという説明を、ラズィーヤは真菜華にしなかった。
 真菜華はどうしてもソフィアの世話係がしたかったので、その指示に従って、今は何も聞いてはいない。地図のことも、マリザに会ったことも言ってはいない。
「えへへー、お茶請けは大福ですよ。マナカも一緒に食べていい?」
 言って、真菜華は皿の上に乗せた大福を一つ、ソフィアに渡して、隣に腰掛けた。
「戴きます」
 ソフィアは大福を手にとって食べ始める。
 上品な食べ方だが、貴族の女性という感じではない。
「美味しい〜。あたりだね、この大福」
 真菜華は食べ方など気にせず、かぷっと大福を食べていく。
「口の周り、白くなってますよ」
 少しだけソフィアが笑みを浮かべる。
「ソフィアくん、戻ったんだね」
 もう1人、応接室に少女が姿を現す。
 エレンの口ぞえで、白百合団の仮団員、研修生としてソフィアについている桐生 円(きりゅう・まどか)だ。
 まだ白百合団員としての資格は無い。
「今日の分のレポート全然まとまらなくて」
 円はソフィアの向かいに腰掛ける。
「どうぞ〜」
 真菜華が円にも茶を淹れる。
「どうも。離宮の皆もお茶飲めてるのかな?」
 円の言葉に、ソフィアが頷く。
「今のところ、飲料は不足していないようでした」
「そっかそれは良かったね。ソフィアくんは離宮見て、なんか古代王国の事でおもいだしたことあるー?」
「暗くて何も見えませんでした。明るくなってから見たのなら、何か思い出せるかもしれませんが」
 言葉にちょっとひっかかりを感じたが、円は何も言わずに雑談を続けていく。
「ね、ソフィアくんは今回の件が終わったら、将来この時代でどうして行きたいの?」
「どうして?」
「ほら、どっちにしてもさ、この後生きていくためには仕事とか探さなきゃいけないわけじゃない、今やりたいお仕事とか無いのかなーとおもって、やっぱりまた騎士とか?」
「ああ、そうですね……」
 ソフィアは湯飲みを置いて、少し考え込む。
「騎士……ええ。仕えるべき主の下で、私はまた働くのだと思います」
「仕えるべき主って?」
「この時代ではまた見つけていませんけれど」
「そっか」
 円は茶菓子に手を伸ばして、口に運びながら次の問いを考える。
「円さんは?」
「ん?」
「将来どうされるんですか? あなたは将来の夢は『お嫁さん』などとは言わなそうですよね」
 ごく軽く笑いあった後、少し考えて円はこう言った。
「わかんないなぁ、自分の居場所ってのもわかんないし」
「ここじゃないんですか?」
 ソフィアの問いに、円は茶菓子を食べながら頷く。
「うん、なんか浮いてるような気がするんだ」
「確かに」
「はっきり言うね」
 そしてまた、2人は微笑し合うのだった。
「もう少し休んだら、本部の方に戻りませんと……」
 隣でお菓子を食べながら、真菜華はぐるぐると考え込む。
 もしこの人が本当に敵だとしたら。
 他の騎士に聞けば判明してしまうような隠し事をして、単身突っ込んでくるメリットってなんだろう、と。
(こっちを信用しきれないから言わないだけ? それとも言えない事情があるから黙ってる?)
 疲れを滲ませるソフィアの顔からは何も読み取れない。
 直接聞いてみたくて、真菜華はうずうずしていた。