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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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第10章 邪剣破壊(VS邪剣)
『負の力なんかに負けないで。お願い、心を宿して』
 繰り返し繰り返し、繰り返される願い。
 封印剣。
 分かたれた自分と同じモノ。
 同じだったモノ。
 そして、正反対となってしまったモノ。
 封印剣は自分を壊そうとしなかった。
 ただ願って祈り続けた。
 いつか自分が……そう、封印剣やかつての自分のように『心』を持つ事を。


『あなたは剣……戦う為に存在しているのですよ』
 存在する意味、生まれた理由。
 それを教えてくれたのは、ある日突然現れた男だった。
『全てを破壊する為に』
 赤い血を、懐かしい香りを手にした、男。
『時が来たら迎えを……いえ、道具を寄こします。そうしたら、それを使い、あなたの存在意義を十分に発揮するといい』
 その誘惑はあまりに魅力的だった。
 自分が渇望していたものを、男はもたらしてくれた。
『蒼空学園という舞台で、思い切り破壊しなさい……そうして影龍を復活させて下さい』
 それは「約束」。
 それは「絆」。
 初めて自分が持った、他者との関わり。
 すがって、寄りかかって、ここまで来た。

 だけど多分どこかで、ボクは自分の本当の願いを知っていたんだ。


「蒼空学園は、ここは……環菜会長にとって、かけがえのない場所なんだ」
 だから、守る。
 陽太は邪剣がメチャクチャに放つ衝撃波に、突っ込んで行った。
「御神楽環菜効果恐るべし、ですわ」
 陽太のパートナーであるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、そんな陽太をサポートしつつ胸中でもらした。
 陽太は元来、臆病者である。
その臆病者がリスクを無視して……というよりも、リスクを受け入れたうえで目的の為に無茶をする姿勢。
その面白い変化……いや、成長を、非常に愉快に感じた。
「もしそれでわたくし達の絆がなくなったとしても、この気分だけでお釣りが来ますわ」
 上機嫌な態度とは裏腹に、エリシアのサポートは的確だ。
 とはいえ、全てを消し去る事は出来ない。
 痛みを感じる気がするのは……繋がっている証か。
「ですが、影野陽太がその進みを止めぬ限り、わたくしもまた屈指はしませんわ」
 ですから怯まず、真っすぐ行きなさい……エリシアは陽太の背に誇らしげに眼を細めた。
 何かが欠落していく。
 例えば、情熱。
 例えば、願い。
 例えば、志。
 陽太を突き動かす、原動力。
「くそっ、負けるもん、か!」
 それでも、陽太は駆けた。
 例えば全て心から抜け落ちてもそれでも、消しきれないモノが胸に燃えているから。
「負けない、俺は……」
葛葉翔もまた立ち向かう。
憎しみじゃない、怒りじゃない、ただ強く……この先に進む為に。
「遙遠!?」
「瑠璃……もう少しだけ、待っていて下さい!」
 遙遠はパートナーとの絆を取り戻す為に。
「もうやめなよ! もうこれ以上……」
 そしてジュジュは、悲しみを止める為に。
「全部、全部……壊れちゃえ!?」
 黒い刀身に集まる、黒い光。
 膨れ上がる、エネルギー。
「ありゃ、ヤバいか」
 見てとったトライブはさっさと撤収に入り。
 クルードもまたトライブから邪剣へと意識を戻し。
「……させない……これ以上は……」
 それは向かってくる者達へと解き放たれ……。
「貴公とて元は闇龍に立ち向かった魔剣だろうが! 闇に堕ちて、誇りまで何処かに落としたか、ナマクラ!」
 瞬間、光が邪剣の動きを止めた。
 駆けつけた巽が掲げた光……宝珠の放つ光。
 いや……邪剣の動きを止めたのは、投げかけられた巽の言葉だっただろう。
 それは魂の奥深くを、揺さぶり掘り起こした。
 その、一瞬の隙。
「悪い、シャドウエッジ……ゲームオーバーだ」
「……ごめんね」
 ショウの合図に従い、ガッシュのスナイパーライフルが火を噴いた。
 そして、そうして。
 陽太の翔のカガチの攻撃が、思いを乗せた重い攻撃が、黒き刀身を弾き飛ばし……粉砕した。


「ボクは……戦う為に生れたんだ……壊す事が存在意義……だからそんな風に……ボクを否定……しないで」
 義彦の手から離れた邪剣は、うわ言のように言葉を紡いだ。
 取った幼い少女の姿、細かなヒビを入れながら。
「ま、お前は良くやったよ、シャドウエッジ……みんな随分と手こずらされたようだしな」
 ショウの言葉に邪剣は薄く目を開いた。
「シャド……何?」
「あ〜、お前の呼び名っていうか、テキトーにつけた」
「そう……ボクの、名前」
 呟く顔……キアとどこか似た幼い顔に瞬間、嬉しそうな光が浮かんだ。
 それをジュジュは知っていた。
「夜魅と同じ、だよ」
 大いなる災いと呼ばれていた少女。
 孤独と寂しさで泣いていた少女。
 ジュジュ達と出会って、心を手に入れた少女。
 邪剣も同じだった。
 少し道が違っていれば、キアの代わりにジュジュ達と一緒にいたかもしれない。
 もし影使いより先にジュジュ達と出会っていたら、夜魅のように共に在れたかもしれない。
 そう思うと自然、涙が零れた。
「……何、それ」
 邪剣は不思議そうに見る。
「ボクは敵で……」
「……うん」
「ボクは邪剣で……」
「……うん」
 零れおちる温かな雫。
 願い。
 ただ一つ乞うたもの。
 戦って戦って戦って。
 憎しみでいい、恐怖でいい、怨嗟でいい。
 だけど誰か……どうかボクを覚えていてくれますように。
 ボクがいた事を、ボクという存在を、憶えていてくれますように。
 その願いは叶ったのだろうか?
「泣かないでよ……ジュジュ」
 ただそれだけを困ったように呟き。
 邪剣は粉々に砕け散った。