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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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第8章 存在意義(VS邪剣)
「うわっ、遅かったっぽい!?」
 闇の壁を抜けた悠司は、眼前の光景に空を仰いだ。
「話聞いて、ヤバいなと思ってたんだよな」
「私もそれは考えていたけど……」
 朱里もまた、軽く唇を噛む。
 魔剣たちは、かつての主を守れなかった自責の念から「大切な人を守れる強い力」を求めるようになっていた。
 それ故、闇龍の力に冒された邪剣に影響されるのでは、と。
 そして、邪剣が義彦を狙うだろう事も。
「後悔は後にしよう。今は邪剣を止める……義彦の為にも」
 アインは言って、義彦……否、邪剣を鋭く見据えた。
「くっ……強いッ!?」
 義彦の身体を手に入れた邪剣は、それまでと動きが違っていた。
 やや短めの居合刀……強化光条兵器を霜月は強く強く握った。
 強い、だが、破壊しなければ。
 早く早く早く早く早く、破壊しなければ。
 今度は本当に失うかもしれない、その恐怖に突き動かされ。
「お前を倒すっ!」
 遮二無二、突っ込む。
 けれど、今の邪剣はそんなに甘い相手ではなかった。
「そんな攻撃じゃあボクを捉える事はできないよ?」
「しまっ……?!」
 トン、考えなしの突進は軽やかに避けられ。
 耳元でした、楽しげな声。
 避けようのない距離に、身を固くする霜月。
「……とうっ!」
その視界が不意に、ブレた。
「……え?」
 急速に離れる『義彦』。
 というか自分が蹴り飛ばされたのだと気付いたのは、左わき腹に走った痛みからだった。
「何で勝手な事、してるのよ!」
「そうです! これはあなただけの問題ではないであります!」
「突っ走った挙句のコレでは、任せておけぬのぅ」
 クコとアイリスと『深海祭祀書』に口々に叱責され、霜月は目の覚める思いだった。
 絆を失う事に怯え、冷静さを失っていた。
 一人では気付かなかったそれを、みんなが教えてくれた。
「そうでしたね。確かに一人では何も、出来なかった……」
「そうよ。でもね、みんなならきっと何とか出来るわ」
 そっと重ねてきたクコの手を、霜月は握り返し。
「分かりました。みんなで、破壊しましょう……邪剣を」
 みんなの顔を見まわし、告げた。

「おねえちゃん、気をつけてくださいなんですよ?」
「大丈夫、私でしたら自分でヒールが使えますし、何よりも女王陛下のご加護を賜っていますから」
 トライブとクルードや朔、義彦の身体を乗っ取った邪剣とカガチや霜月や翔達。
 激しい攻防の続く戦場で、エヴァとなぎこは解放された少年を手当していた。
「ケガはどうですか?」
「出血は止めました。邪剣に憑かれていた影響がどれくらいあるかは分かりませんが」
「暴れるなど危険がなければ、治療スペースに運びましょう」
 玲やレオポルディナと共に、意識のないままの身体を移動させる。
「援護します」
 彼方や環菜会長に戦況を伝えつつ、輝樹がサポートに入る。
「この少年から聞かねばならない事もあるでしょうし」
「とはいえ、この少年を許せぬと思う人はいるでしょうね」
 まだあどけない表情を見下ろし、玲はポツリともらした。
 鏖殺寺院関係者とはいえ、少年がどういう人間なのか分からぬ以上、救いたいと玲は思うけれど。
「でも、今はこの子はただのケガ人ですもの……手出しはさせません」
「うんきっとカガチだってそう言うもん」
 言い切るエヴァとなぎこには迷いなく。
 玲とレオポルディナもまた互いに顔を見合わせ、頷くのであった。


「誰が相手でも、負けないって言ったろ!」
 衰えるどころかここにきて技の冴えを見せる葛葉翔。
 その攻撃をかわしながら、邪剣はふと小首を傾げた。
「キミ達って本当、分からないや。どうして敵を助けるの?」
「ま、アンデッドと食材以外はなるべく斬らないってのが俺のポリシーでね」
 翔の動きに合わせ、死角からアクロバティックな動きで仕掛けながら、カガチは笑む。
 エヴァやなぎこから邪剣の関心を奪うべく。
「何で壊さないんだろ、何で壊さなかったんだろ。その方が簡単なのに」
 眼差しはどこか遠い。
 解けなかった問題をふと、思い出したように。
「壊すのは簡単なんだ。人もモノも目に見えるものも見えないものも……ボクはその為に生れたんだから」
 剣を合わせ、弾き、繰り出し、受け止め、払い。
 休みなく繰り返しながら、邪剣は呟く。
 簡単な筈のそれを、壊して終わらせる事を、先延ばしするように。
 例えば、それは。
「邪剣……あなたが絆を裂こうとするのは『本当は絆が怖いから』なんじゃないの?」
「……何?」
 朱里の指摘に、邪剣が動きを止めた・
「絆の力はすごい力を持っている……それを知っているんじゃないの? 或いは、あなたは……」
 そのどこか憐れむような労わるような眼差し。
「そうよ。あんた、あたし達と戦うの楽しいって言ってた。本当は一人で……ずっと一人で寂しかったんじゃないの?」
 そして、ジュジュが言った瞬間。
「違う、ボクは……ボクは、違う!?」
 激昂した邪剣が、黒い刀身を振り上げた。
 アインが朱里を庇い、ジュジュもまた身構え。
 だが。
「……ッ!?」
 邪剣の動きが、止まった。
 聞こえる、歌声に。

♪僕は歌い続けよう
胸に抱く温もりを
愛しい日々で織り上げた
この歌は僕の宝物♪

「皆に聞こえるように幸せの歌を歌います」
 それはリュースの、選択。

♪輝く愛しい日々
それは夢や幻じゃない
手を伸ばして、そして確かめて
その先に確かな温もりがあるから♪

「リュース兄様は剣ではなく心で戦うと歌で示しています。私も一緒に戦わなくては、リュース兄様の妹とは言えません」
 側に控えるシーナは、伸ばされた手にそっとアリスキッスを贈った。
 怖くない、と言ったら嘘になるけれど。
 自分だけ、逃げるわけにはいかなかった。
「リュース兄様が幸せの歌を歌い続けることで、皆が守られるなら、私も心で戦いますっ」

「やめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
悲鳴じみた叫びと共に放たれる、エネルギー。
 押しつぶさんと向かってくるそれに、リュースの視線が一瞬、惑った。
 何せ傍らにはシーナがいる。
「わしらに何があっても心を乱さず幸せの歌を歌い続けるんじゃ。わしらを思うなら、無駄にするでないぞ!」
 だがその時、リオンの力強い声が、その背中が、迷いを吹き飛ばした。
 
♪この愛しい日々を
僕は歌い続けよう
この想いは誰にも譲れない
僕の永遠だから♪

「戦いでは、確かに俺は役に立つことは出来ませんが……戦いましょう、俺も」
 邪剣よりの攻撃からリュースとシーナを庇ったのは、リオンと……アレスだった。
 アレス自身には戦う力はない……ただ、庇うだけだ。
「いや……或いは守られているのは俺なのかもしれません」
 リュース達の歌声がアレスの身体と心を、守ってくれたとアレスは感じた。
 証拠に、邪剣の攻撃を受けても喪失感がない。

♪僕は想い歌い続けるよ
遙か遠くに続く明日の先まで
心は離れることなくいつも傍に♪

「絆を砕く力がある……けれど、邪剣、あなたは知らない」
 歌声に包まれながらの真っすぐなアレスの眼差しに、邪剣が怯んだ。
「この身、この心、全て砕かれても、俺は二人を守りたい」
戦う術を持たぬ、アレスに。
「俺の世界に光を与えてくれたのは、リュースであり、健康な肉体を失い、孤独だった今までを理解してくれたのは、シーナだったのですから」

♪愛しき日々は
僕らを導くと信じてる
この歌に込められた想いは
永遠だから♪

「オレは、オレを変えてくれた……皆が好きです。その場所を守る力がほしい。でも、ただ求めては、今までと変わらない。だから、敢えて心で戦うのです」
 思いを込めて願いを込めて、リュースは歌を歌い続ける。
「邪剣が、影龍が人の負を糧とするならば、幸せを思い起こさせる歌は精神的に好まぬ筈ですから」

♪僕は歌い続けよう
この愛しい日々を♪