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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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第5章 それぞれの明日へ

 こうして、生徒たちはどうにかルドラを倒し、本校を守り切ることができた。
 「この戦いが終わったら、どうしてもやりたかったことがあるんです」
 復旧作業の合間を縫って、水渡 雫(みなと・しずく)は林偉の元を訪れた。
 「あの、《工場》では生意気なことを言って、済みませんでした!」
 林の顔を見るなり、雫は深く頭を下げた。
 「は? ……ああ、他校生の扱いについて食ってかかって来たあれか」
 林はすぐには思い浮かばなかったようで、しばらく考えてから手を打った。
 「別に、謝るようなことじゃないだろう。生徒と教師なんて、そんなもんだ」
 そんなことを気にしていたのか、と林はひらひらと手を振る。雫はほっとした表情で、もう一度頭を下げる。
 「そう言えば、深山さんはどうなったんですか? 教導団に居られなくなるかも知れないと聞きましたが」
 林と一緒に作業をしていた酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、林に尋ねた。
 「日本は、深山に対する奨学金を打ち切ると通告してきた。勝手に動くなら金は出せないってことだな。だが、明花が指をくわえて見てるとは思えん。入学して二年、やっと使い物になってきたって矢先、しかも戦いが終わって、これから忙しくなるところだからな」
 林は肩を竦めて答える。
 「……生徒を大切に思って、とかじゃないんですか……」
 陽一は困惑の表情を浮かべた。
 「あの女がそんなことを考えるタマかよ」
 林は吐き捨てるように言う。
 「……林教官って、楊教官といい雰囲気なのかなーと思ってたんだけど、そうでもないんでしょうか……?」
 それを見ていた雫は、ことりと首を傾げて呟いた。
 「いわゆる『腐れ縁』だという話だよ」
 ローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)が囁いた。
 「太乙教官と燭龍主計大尉と四人で学生時代の同期で、楊教官がああいう人だから、他の三人が色々と振り回されて大変な思いをしたと聞いたな」
 「そうそう。教導団が出来てまだ間もない頃で、遺跡から出てきた得体の知れないアイテムの実験台にされたとか、パラミタ産の材料から作った怪しげな薬を盛られたとか、作業の人手が足らないとこき使われたりとか……」
 ディー・ミナト(でぃー・みなと)がうなずく。雫は『うわー……』と言いたげに顔を歪めた。
 「まあ、それでもああしてつきあっているんだから、何だかんだ言って『嫌い』ではないのだろうけどね。……で、何で水渡雫はそんなことが気になるのかな?」
 ローランドに顔を覗き込まれて、雫は慌てて手を振った。
 「べっ、別に林教官に個人的に興味を持っているわけではなくて、女子の間で噂になっていたから……」
 「ふぅん? まあ、そういうことにしておこうか」
 「ほ、本当ですってば!」
 意味ありげに微笑するローランドの肩を、雫はぽかぽかと叩いた。
 「おーい、遊んでないで作業しろよ?」
 そんな二人に、林が釘を刺す。
 「は、はいっ」
 雫は慌てて、作業を手伝い始めた。


 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)と、パートナーのドラゴニュートドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)は、タシガンでレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が教導団に不利益をもたらす行動を取っている証拠となる写真と録音と称するものを、妲己の元へ持って行った。
 「……これは確かに、『天魔衆とルーヴェンドルフさんが接触した証拠』ではありますが、天魔衆が全体として親鏖殺寺院であるという話は、聞いたことがありませんね」
 岩造が持って来たものを確認した妲己は首を傾げた。
 「ですが、もしも学校外で独断専行で動いていたのであれば、教導団に対する不利益となる可能性はあります。これは査問委員会で預かって、のちほど事実関係を調査しましょう」
 しかし、後日の調査の結果、結局、岩造が撮って来た写真や録音はそれだけでは『白騎士のメンバーが反教導団的な活動をしていた』証拠としては不十分なものだということが判明し、写真のと録音の存在そのものが妲己の胸の内にしまわれることで、この件は終わることになった。


 そして、奨学金を打ち切られた楓が、日本に戻る日が来た。金鋭峰の保護下に置かれることになったネージュも、一緒に空京に向かう。
 「地上へ戻っても、ネージュとのパートナーの絆が切れるわけじゃないですけど……でも、絶対にまたここに戻って来ます。教導団にはやり残したことが沢山あるし、この学校が好きですから」
 見送りに来た明花や太乙、月実、そして技術科の仲間たちに向かって、楓は晴れ晴れとした顔で宣言した。
 「カーラは、まだしばらく封印が必要なのね?」
 明花がネージュに尋ねる。
 「はい。パラミタから鏖殺寺院の影響が消えて、植えつけられてしまった殺人姫の宿命が浄化されるまでは、封印しておいた方がいいと思います」
 ネージュはうなずく。
 「ルドラは……多分、地上の鏖殺寺院に見出されて殺人姫のパートナーとして育てられたんでしょう。怖い人でしたけど……とても不幸な人、だったと思います。いつかちゃんと、平和な世界で、浄化されたカーラと再会できるといいんですけど」
 「きっと、大丈夫だよ」
 うつむいてしまったネージュの手を、楓はぎゅっと握った。
 「楓さん、いい顔してるわ」
 少し離れた所で、パートナーのリズリットの背中に隠れて月実は呟いた。
 「ほら、行って握手くらいして来なさいよ。今だったら抱きつくくらいしたって、誰も何とも思わないわよ」
 「う……」
 リズリットが背中を押す。唸りながら、月実はおずおずと楓の元へ行こうとした。だが、それより早く、明花が一枚の紙を楓に差し出した。
 「深山。これは私からの餞別よ」
 楓は差し出された紙を手に取り、しげしげと眺めた。
 そこには、『シャンバラ教導団技術科助手募集・若干名』の文字があった。
 「人型機械をはじめとした、《工場》から発見されたものの本格的な調査解析のために、人手が必要なの。薄給の上にここに住み込むことになるけれど、そのかわり食と住については保証されるわ。こき使われる覚悟があるなら、応募しなさい」
 「《工場》から発見された物についての知識がまったくない人よりも、採用の確率はかなり高いと思いますよ」
 太乙が微笑む。
 「さ、さっさと地上に行って、手続きを済ませていらっしゃい。仕事は沢山あるんだから」
 明花の言葉に、楓は、黙ってただ深く頭を下げた。
 「そろそろ行くぞ」
 二人を空京に送ることになったら林が軍用車両の運転席から楓に声をかける。楓とネージュは、後部座席に乗り込んだ。
 空京大学に転校するため一緒に空京へ向かうイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、本校に向かって深々と頭を下げる。
 「じゃあ、行って来ます!」
 楓とネージュは、見送る人たちに向かって、大きく手を振った。

担当マスターより

▼担当マスター

瑞島郁

▼マスターコメント

 ……ということで、「栄光は誰のために」完結です。
 なるべくクリアな状態で終わらせたかったので、後に引きそうな問題については、後日談等、ダブルアクション気味のところも出来るだけ拾ってみました。そのためと、私事ですが5月の上旬にちょっと怪我をしまして、その治療等に時間を取られたこともあり、リアクション作成に遅れが出ましたことをお詫びいたします。

 誰がルドラにとどめを刺すかについては、最後の最後まで悩みました。結局、ルドラが鏖殺寺院と言えども人間であること、また、技術科研究棟の中や付近で戦うアクションが少なかったことから、最終的には明花が、ということにしました。とは言え、PCたちが力をあわせたことによる勝利だということは言うまでもありません。

 「栄光は誰のために」は今回で終了で、私が担当して直接の続編をやる予定は今のところありません。ただ、NPCを今後他のシナリオに登場させることはあるかも知れません。また、他のマスターが設定やこのシナリオの結果を引き継いで、新たな展開のシナリオを発表する可能性もあります。
 新規に開始するシナリオについては、この後1本イベントシナリオを担当させて頂く予定がありますが、その後は未定です。
 全8回に渡る長丁場におつきあい頂きまして、まことにありがとうございました。また次のシナリオに参加して頂ければ幸いです。