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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第4回/全4回)

リアクション

 敵の拠点は、林部隊が居た場所から一時間ほど歩いた場所にあった。
 「それでは、偵察に行って参りますですぅ」
 パワードスーツを着込んだ皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が林の前で敬礼する。
 「くれぐれも近付きすぎるなよ。パワードスーツをつけて図体が大きくなっている分、気配は隠しにくいぞ。敵の人数だけ確認して来れば、それでいいからな」
 「了解ですぅ」
 林の言葉にうなずくと、伽羅はパートナーのゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)、英霊皇甫 嵩(こうほ・すう)、英霊劉 協(りゅう・きょう)を連れて、木立ちの中に入って行った。
 「本当ですぅ、やっぱりあっちこっち引っかかってガサガサするですぅ」
 歩き出してすぐ、伽羅は眉をひそめた。稼動音は心配していたほどではないと思われたが、小回りが利かないし、普段なら引っかからない場所にある小枝や藪を引っ掛けたり、倒木を踏み砕いたりしてしまい、光学迷彩を使っても気配が殺し切れない。
 「せっかく見つけたので使ってみたかったのですが……」
 「義姉者、お静かに」
 光学迷彩で姿を消し、伽羅の隣を進むタンが注意するが、その直後に自分も倒木を踏んで派手な音を立ててしまった。周囲から、鳥が飛び立つ音まで加わって、伽羅とタンは手を取り合って身を竦ませる。
 「き、気付かれなかったであろうな?」
 「……今のところ、殺気は感じないでござりまするが」
 周囲を見回して嵩が言う。伽羅とタンは安堵の息を吐いた。
 「ここから先は、私が見て来ましょう」
 一人身軽な協が、木の幹に身を隠しながらひょいひょいと進んで行く。
 「気をつけるのですよぅ?」
 他の二人のパートナーに比べてまだまだ未熟な協を心配して、伽羅はそっと声をかける。
 「やれやれ、劉協殿が落伍せぬよう気を配って行くつもりが、逆の立場になってしまいましたな」
 嵩も心配そうだ。
 しかし、しばらく待つと、協は無事に戻って来た。
 「だいたいの様子は掴んで来ました。教官の元へ戻りましょう」
 自信たっぷりな様子に、伽羅はほっと胸を撫で下ろし、パートナーたちを率いて皆の元へ戻って行った。

 協の偵察によって、拠点は以前は湿地だった場所が乾いて草地になった、周囲を樹木に囲まれたちょうど200メートルトラックほどの面積の空き地であることがわかった。弾薬らしい箱やその他の物資が幾つかの山に分けて木々の間に積んであり、黒服の人間が二十人ほど、駐機中の高速飛空艇二機の整備を行っている。他に見張りが十名ほどだろうか、銃を携えて周囲を警戒していたと言う。幾つか大型テントが張ってあり、その中にも、もしかすると交代要員が居るかも知れないと言うことだ。
 「とりあえず、トラップの解除とかに行って来ようと思うんだけどさぁ」
 拠点が木々の間に見える場所まで進むと、波羅蜜多実業高等学校に転校した南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が林に言った。転校したことで教導団に居た頃とは異なる扱いを受けるのではないかと心配していた光一郎だが、林はこの状況なら使えるものはすべて使うべきと判断したようで、特に厳しく監視されるようなことも今のところはない。
 「おう。念のため、正面だけじゃなくぐるりと一周チェックして来てくれ。地面だけじゃなく、木の間もだ」
 林はうなずく。
 「あたしも行って来ようか? すぐそこまでサンタのトナカイで来たし」
 パワードスーツに身を包んだ波羅蜜多実業高等学校の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が言う。パラ実への教導団の圧力を弱めるために恩を売っておきたいし、教導団が本校を失って流浪の民になったらとんでもないことをやらかしそうだ、と勘繰っている魅世瑠としては、是非とも役に立つところを見せたいのだが、
 「いや、あれにその格好で乗るのは、偵察としては目立ちすぎだろう。普通に戦闘に参加してくれ。飛び道具があれば、上空を押さえる役に回ってもらえるんだが……」
 と林に言われてしまい、しぶしぶと引き下がる。
 「教官、あたしも行きます」
 そう申し出たのは、どこから手に入れたのか、鏖殺寺院の制服を着た夏野 夢見(なつの・ゆめみ)だ。
 「チェックが終わったら見張りの気を引きますから、それにあわせて突入してください」
 「あの、チェック終わったら、突入までちょっと時間をもらえませんか?」
 薔薇の学舎のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が手を挙げた。
 「僕たちは、あそこに積んである弾薬を狙おうと思うんです。高速飛空艇をここで破壊できなくても、弾薬がなくなれば拠点としての意義がなくなりますよね?」
 「どうしますか、教官」
 夢見は林を見た。林はうなずく。
 「じゃあ、チェックが終わったら10分待つから。時計あわせて?」
 夢見は腕時計をクライスに示した。クライスはブラックコートのポケットから懐中時計を取り出した。時計の針をあわせると、まず光一郎とパートナーのドラゴニュートオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)、そして夢見が偵察と罠の除去に出た。木立ちの切れる場所から少し距離を取り、大回りに、歩哨に気付かれないように空き地の周囲を一周する。その間に、林は無線でヒポグリフ隊と連絡を取った。
 「罠はないみたいだ」
 「我々がこちらへ向かうことを予想していなかったのかも知れねえな」
 何事もなく戻って来た光一郎とオットーが報告する。
 「じゃ、行ってきます」
 クライスは、パートナーのヴァルキリーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)と英霊ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)を連れ、弾薬の側まで移動する。一方、夢見は歩哨の様子に注意しながら腕時計をチェックしていたが、
 「時間です。状況開始します」
 きっかり10分待って、夢見は身を隠していた茂みから立ち上がった。顔を隠すようにうつむいて、小走りに歩哨に近付くと、何事かと銃を構えかけた相手に向かって、いきなり『吸精幻夜』を使った。
 「う……」
 歩哨がふらふらと地面に膝をつく。夢見は不自然に見えないよう、介抱しているふりを装う。
 「おいっ、どうした?」
 それに気付いた別の歩哨が駆け寄って来た。
 「今だ!」
 クライスがローレンスとジィーンに向かって叫ぶ。
 「承知!」
 ローレンスは盾を掲げ、ジィーンを後ろにかばいつつ、積んである弾薬に向かって突進した。さすがに気付いた歩哨が銃を撃って来るのを盾で防ぐその後ろから、ジィーンが弾薬の箱めがけてブージを投げつける。そして、箱が壊れて弾薬が露出したところへ、クライスが爆炎波を使って炎の矢を射込む。爆発音と共に火柱が上がった。